破滅のメッセージ
「な……!?」
「なんだと……!?」
「誰だ、コイツぁ……!」
三人は、スマホを覗きながら驚愕する。王様も携帯を開き、眉間に皺を寄せていた。
この映像が流れているのは、携帯だけではなかった。テレビ、宣伝用スクリーン、パソコン、果てはカーナビや動画サイトにまで表示されていたのだった。世界中を襲っていた魔物達も必死で抵抗する人間達も、動きを止める。
「やぁ、地球の人間ども。御機嫌よう。私は全ての魔族の王にして、総ての魔族の母、リリムだ。諸君らの健闘を讃え、直々に暗黒星から地球へとやってきた。」
彼女はそう言いながら、拍手をした。その拍手の最後を、強く叩いて締める。
「私がこの地に送った、三人の『ベリアル』……見事に、打ち砕いてくれたな。彼女達は王族の中でも優秀で、強く、愛らしい者達だった。しかし、今こうして貴様ら人間の力の前に倒れ伏したというわけだ。」
そう言いながら、ゆっくりと目を閉じる。その目の周りや額に青筋が浮かんだかと思えば、カッと目を見開いた。その瞳は殺意で赤黒くなっており、とてつもない怒りが伺えた。
「私は、我が子を滅ぼした貴様ら人類を許すつもりは無い。我が星の力の全てをもって、この地球上の人類を滅ぼそう。残ったこの星は我が子の墓として残しておくから、安心して死にたまえ。」
そう言い終わり、どこかを見ながら指パッチンする。そうして、こちらに視線を戻した。
「この全人類全滅作戦、貴様らの星からも協力者を仰いでいる。」
そう言うと、映像が切り替わった。そこには、あの三人……亜門龍奈、イブキ、水龍院カナコ──その人達が、映っていた。何れも病んだ目でこちらに手を振っている。その視線のそれぞれが、俺とローレンスとジョーに向いているような錯覚を受けた。いや、事実、意識しているのだろう。
何を言うでも無く、画面の中央に龍奈が置かれる。彼女はそれに応じるように、ニコッと笑った。状況とは不釣り合いの笑顔が、観る者の悪寒を誘う。
「私は、好きな人を傷つけられた。その人は一途な想いを抱えていたにも関わらず、非道な者達に裏切られ、今も失意の底で苦しんでる……そう、人間なんて、私とその人しか必要無いのよ。そうすれば彼は二度と傷つくことも無く、私だけを見てくれる……そうでしょう?」
病んだ目のまま、彼女が言う。
「……正気かよ、アイツ。」
それを聞いて、まずジェットの背筋がゾクリとした。自分は氷使いの筈なのに、背筋に発生した氷に、体が嫌悪に震えた。
映像の中では、イブキの顔が映っていた。
「そうね、私も似たような理由よ。私も好きな人がいるの。だから、私だけがその人を傷つけていい。私だけが、その人を愛していい……ならば、それ以外の人間は不要ね。」
ローレンスの背筋が、ゾクリとする。鉄の剣で背中に切れ込みを入れられるような感触に震え、唾を飲み込んだ。
「貴女はっ……いや、貴様はッ……」
ローレンスがそう言ってる間に、映像は水龍院の顔に切り替わった。
「見ていますか、ジョー?あの時の屈辱的な敗北から、私は強くなりましたわ……そう、私こそが最強の筈……誰も居なくなった星のど真ん中で、殴り合いましょう。貴方は、私に殺されるべきなのですから。」
ジョーは、思わず握ってる携帯に握力を込めそうになってしまう。しかし、この携帯の中に入ってるものを考えると、それが理性に働いて何とか踏みとどまった。
映像は、再びリリムのものになった。
「今回の人類絶滅計画は、私も参戦しようと思っている。そこで、私は彼女らに頼んであるものを作った。」
そう言いながら、指パッチンする。すると龍奈が穴の空いた箱を持ち、早足で彼女の横に立った。
「これには、君達の街や村……滅ぼすべき場所の名前が紙に書かれたものが入ってる。私は今日から一枚ずつこれを引いて、そこに私が直々に赴いてやろう。そして、その国を一個ずつ滅ぼそう……くはははっ!生き残る所は、最低何日生き残るのだろうなぁ!それまで恐怖に怯え、苦痛に足掻くがいい。まぁ、そんな事をしている暇があればの話ではあるが……」
嫌らしく笑いながら、彼女は言う。
なんと言う鬼畜──これが、ベリアルの産みの親。子が子なら、親も親と言った所か。そして、紛れもない人類の敵。奴をこのまま生かしておくわけには行かない。
三人は非道の人類悪を目に見据え、携帯を握ってない方の手で固く拳を握った。
「ヘッ、上等だ……降りてきたが最後、完膚なきまでにぶちのめしてやる。」
「ああ、我もその腹積もりだ。」
「オイオイ、三人とも同じ意見になるなんて、珍しい事もあンなァ……」
画面の前で、三人は話し合う。それは露知らずに、画面の中の大魔王は箱の穴に手を突っ込み、ゴソゴソと取る紙を選んでいた。
「どーれーにーしーよーうーかーな……」
悪魔の選択が成される。この間にも、この星の人間達は心臓をすり減らされる気分だろう。そうして悪魔は、一枚の紙をとった。
「これだっ!ふむ……人間の字も書いてくれるのは、考えたものよな。」
取った紙を見て、ふむふむと頷く。そして、こちらに見せつけた。
「───」
ジェットの顔が引き攣る。皆にとっても予想外のものだが、彼にとっても大きく予想外だった。
その紙には「リース街」と書かれており、その下によく分からない文字の羅列がある。おそらくは、暗黒星の言語であると伺えるが、そんなのはさして重要ではない。
「リース街……!!」
義賊の街、リース街。冒険出たての頃に寄り、盗賊王さんやサルバと出会い、別れた所。デーモンやメスゴブリンを何体もぶっ倒して、そのボスのセレストという奴を鼻から上潰してぶっ殺した覚えもある。あの冒険の中でも、特に思い出に残った場所だ。
「ふははははっ!決まりだな!それでは、私はリース街を滅ぼしに行く。今のうちに逃げてもいいが、死ぬ時が伸びるだけだと思え。それでは、行こうか!」
その言葉を最後に、携帯の画面は元に戻った。という事は、他の映像メディアも元のものに戻ったという事か。
「っく!!」
ローゼ王が、歯軋りをする。そうか、リース街には盗賊王さんも居る。
盗賊王さんは平気だとしても、ジェットにはどうしても焦らなければならない理由があった。理由が胸から発生し、喉を突き抜けていく。
そうだ、このままだと──
「サルバが危ねぇッッ!!!」
サルバ──あの冒険を通して、出来た友人。セレストの時に一緒に戦った、戦友とも言える存在。
決してその実力を疑っている訳では無いし、事実アイツはそこらの人間より強い。しかし、あの女──アイツの実力がどの程度なのか予想出来ない程俺は馬鹿じゃねぇ。少なくとも、あの死闘を繰り広げたベリアル8世より上だ。
サルバは、おそらく神力の心得など無い。そんな奴がアイツに襲われるなんて、死んだも同然だ。
色々考え込むジェットの横で、ローレンスがローゼ王へ向いた。
「王様……気になる事が。」
「何だ?」
「我々が倒した『ベリアル』は、一体……娘を含め、二体です。ならば、三体目のベリアルというのは、何かご存知でしょうか?」
その質問を投げられた王は、白髪の頭を抱えてバリバリと掻きながら、大きな溜息を吐いた。どうやら、頭の痛い質問だったようだ。
「それは、来たるべき時に話そう。しかし今は、そういう暇もあるまい……」
「……ええ。」
今は、世界の各地で魔物達が人間を襲っている。そして何より、リース街にそのボスが降り立ってくる。
非常に不味い──が、逆にチャンス。そのタイミングであのふざけた奴を倒してしまえばそれでお終いだ。
「くそっ!!俺は行ってくる!!」
いてもたってもいられなくなったジェットは、王の間を飛び出した。扉を蹴破り、もう見えなくなってしまう。
「我も行く!」
「せめて着替えてェんだが、そんな暇もねェか。」
二人は急いで、ジェットの後を追う。去り際に、ローレンスが振り返る。
「失礼します。」
そう言って会釈してから、また走ったのだった。
ローレンスとジョーの脚力で、ジェットに追いつくのは造作もない事。大通りを真っ直ぐに駆けるジェットに、二人が横につく。
「ジェットよ、何を急いでいる?」
ローレンスがふと、そんな事を聞いた。
「リリムをぶっ飛ばしたいのもそうなんだが、あそこには俺の友人が居るんだ……見過ごすわけにはいかねぇっ!!」
ジェットは、真剣な顔でそう言う。それと同時に、思った。
サルバと知り合った時に、この二人は居なかったんだっけ。なら、俺がここまで急いでるのも不自然に見えるか……
「オイ、ジェット。俺らに合わせる必要は無いぞ。」
考えていたら、ジョーが声をかけてきた。そう、彼の言う通り、ジェットは急ぎつつも彼らのペースに合わせようとしていた。
「いいのか、ジョー?」
「構わねェ。追い付いてやる。」
力強い即答に、ジェットは「分かった。」と頷く。そして彼は力を解放し、大通りを切るように飛んでいった。
「行くぞ。」
「フン。」
二人も力を解放し、彼の後を追って飛んでいったのだった……
破滅のメッセージを受け取ったリース街……は、とっくに魔物達を殲滅していた。
その街角の出来事だった。
「ぐはぁっ!!」
腕を斬られ、羽をもがれ、胸の欠けた淫魔が壁に叩きつけられた。それは重量に従い、壁を擦りながら尻もちをつく。
彼女は、眼前の人間の余りの残虐性と戦闘力に驚愕していた。そして確信する、「私では勝てない」と。ならば、せめて逃げる為の時間稼ぎを。
「も、もうすぐリリム様が来る……!そうなれば、お前達なん──」
彼女の願いは、一本の刃線によって断たれた。線はその両膝を横に走る。その線に沿って足は豆腐のように綺麗に切り落とされ、遅れて血が噴き出した。
「ーーーッッッ!!!」
もがれた羽根、斬り落とされた足、これで、彼女の逃げる術は全て無くした。後は、決めるのみ。
「ま、待って、い、命だけ、はっ!」
男を見ながら、必死に腕を動かして横に這いずる。男はその頭を掴んでこちらに引き寄せ、その顎にナイフを刺し込んだ。彼女の口から、上を向いた刃が突き出てくる。
「あぁあがぁああっ!!!」
絶叫。
口から感じる異質な感触。それが気にならない程の凄まじい痛み。彼女がそれを味わっているのにも関わらず、男はナイフを抜く。
間髪入れずにその傷跡に指を入れ、皮膚を握り込んだ。
「え、待っ──」
次の瞬間、彼女の顔面の皮が、鞣し革の作り始めのように剥がされた。剥がされた皮膚は、目と鼻と口の位置に開いた穴でかろうじて顔面とわかる外見をしている。
「あーーーーっっ!!あーーーーーッッ!!!!」
二度目の絶叫。
「ちょいなァッッ!!!」
男は初めて、声を上げてナイフを振るった。次の瞬間、淫魔の首筋がぶった切れ、大量の血が噴き出す。血の噴水を終えたソレは、仰向けに倒れた。
その死体の剥き出しの胸……ただの脂肪の塊を、男は踏み潰す。
「これで静かに眠れるかい?虎の威を借る雑魚ほど、俺の嫌いなモンは無くてよォ。ちょっと意地悪しちまったのは謝っとくぜ、おねーサン。」
男はそう言って、その頭部を蹴り飛ばした。蹴られた頭部は千切れ、サッカーボールのように飛んで壁に激突する。それと同時に粉砕した。
それを見ていた男の部下が、何気ない顔でその横に来た。
「やりすぎだぞ、サルバ。」
「ああ、悪い悪い。」
そう、男はサルバだった。あの放送を見てから昂り、このような凶行に走っていたのだ。部下は彼の手を取る。
「では、魔物の殲滅が終わったのなら逃げようぜ。盗賊王様からの命令だ。」
「ばぁーか……」
彼はその手を払い、部下を蹴り飛ばした。
「!!?何を──」
次の瞬間、部下の立っていた場所に落雷が一閃した。
「はっ!?」
「逃げれるモンなら、とっくに逃げてるっつーの……」
彼がそう言いながら、背後の上を振り返る。その視線の先には、あの銀髪の悪魔──そう、リリムが立っていた。




