絶望的な力
ベリアル8世の体が閃光に包まれ、その光が黒く変色し、闇になる。暗黒の光の中で、魔王は更なるパワーアップを遂げようとしていた。
「な……!!?」
黒い光が溢れ、その光が砕け散った。そして、変異した彼女の姿が現れたのだった。
「……ふぅ。」
少女さながらの雰囲気は、艶のある大人の雰囲気になる。筋力も増え、より戦闘に適した形態をとっていた。何より、ジェットより小さかったはずのその体が、2m近くの身長になり、彼を見下ろしていた。
「久しぶりじゃな……この姿を取るのも……これが、妾の本当の姿じゃ……」
そう言いながら、ゴキゴキと首を鳴らす。そして、手をグーパーさせながらジェットを見た。
「……ふんっ!!」
そして、素振りする。それだけで、とてつもない衝撃が彼に振りかかった。
「ぬぉおっ!!?」
それで吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。そして、床に尻をついた。
「いっでで……!!す、素振りで……コレかよ……!!」
「剣を取るがいい、勇者よ。ここからが、本当の勝負じゃぞ……」
ベリアル8世は構え、ジェットに向かう。
「……」
彼は、手元に剣が転がってる事に気が付いた。それを取って立ち上がり、構えた。
もう後悔はしねぇ。ここを乗り切れば、全てが終わるんだ。
「……」
「くっふっふっふ……健気じゃのう、勇者よ?しかし、その強がりがいつまで続くか……」
「あァ、先に言っておく。多分そんな続かねぇ……ッッ!!!」
床を蹴り、突撃する。そして、剣を振るって猛攻した。
「はぁあああっ!!あだだだだだだっ!!だぁだだだだだッッ!!!」
無数の斬撃を放つも、未だに手応えは無し。何が起きてるかは分かる。
「ふっ。」
なんと、彼女は指一本でジェットの剣技を弾いていた。細く繊細なハズの指が、勇者の剣技を次々に弾き飛ばす。
「クソが……!!」
暫くしてからそう言い、彼はスウェイバックで離れる。そして、剣を構え直した。
「はぁあああッッ!!!」
走り出し、高速移動で消える。そして彼女の背後に回り込み、剣を振り下ろした。
「ふむ。」
しかしそれはまたしても、指で止められてしまった。しかも彼女は、こちらに見向きもしていない。
「くっ!!だぁあっ!!」
剣を片手持ちし、薙ぎ払う。それは標的をすり抜けてしまった。
「うわぁっ!?」
力だけが残留し、すっ転びそうになる。しかし足を踏ん張って、振り返った。
「くふふっ。面白い奴じゃのう。」
そこで、彼女は笑っていた。一度避けてから、またそこに戻ったらしい。
「っくそっ!!」
クスクス笑い続ける彼女に向け、剣を持ってない方の手に全力で魔力を込め、氷塊を飛ばした。
「ふん。」
彼女はそれを、デコピンで粉砕した。渾身の魔力を込めたはずの一撃が、アッサリと粉砕されてしまった。
「なっ……!!?」
「くっふっふっふ……」
ベリアル8世は、その指をメトロノームのように振りながら、ジェットを嘲笑した。
「ほれほれ、本気でかかってこんか。まだまだこんなものではあるまい。」
「ああ……!!はぁああああッッ!!!」
ジェットは解放できる限りの神力を、解放する。それが爆発し、とてつもない気が噴き上げた。
「……ほう。」
溢れ出る気の嵐が、魔王の黒髪を靡かせる。次第にそれは落ち着き、嵐は止んだ。
ジェットは深呼吸し、ゆっくりと目を開く。次の瞬間、気の旋風がそこらに吹き荒んだ。
「……いくぞっ!!」
そして床を蹴って、魔王に猛攻した。
「お。」
接近戦で、とてつもないスピードで攻防する。しかしジェットの攻撃は当たらず、彼女の攻撃だけが一方的に彼を叩きのめしていた。
「ほれ。」
彼女は一瞬のスキを見て、無造作な平手打ちを放つ。
「ぐぁあっ!!」
ジェットはそれをモロにくらい、ぶっ飛んでしまった。
「ほいっ。」
彼がぶっ飛んだ先に現れ、その腹に蹴りを落とす。
「うわっ!?」
床に墜落し、バウンドする。またしてもその背後に彼女が現れ、今度は蹴り上げを放ってきた。
「ぎゃああっ!!」
蹴り上げられ、天井に叩きつけられる。その横に彼女が現れた。
「ちょいな!」
手刀でジェットの脇腹を打ち、ぶっ飛ばした。彼は壁に叩きつけられ、床に墜落する。
「ぐはぁああ……!!!」
吐血しながら、立ち上がる。そして剣を構え、目の前を見ようとした次の瞬間だった。
「ふんっ!!」
彼女の大きな掌がジェットの顔面を掴み、壁に叩きつけた。
「!!?」
「はぁあっ!!」
そのまま、力任せに床にぶん投げた。
「ぐぁあ……!!」
床に小さなクレーターが刻まれ、彼の体はバウンドする。浮かび上がってる最中のその体を、思い切り蹴り飛ばした。
「ぐぁああーっ!!!」
ジェットはぶっ飛ぶも、体勢を整えて着地する。そして、魔力の回路の容量限界を超えた神力を全身に駆け巡らせた。
「ずぁああッッ!!!」
接近し、思いっきり剣を振り下ろす。
「ヤケクソかのう?」
彼女はそれを避け、腕を振りかぶる。そして、強烈なパンチを彼の腹に叩き込んだ。
「っぐぶ……!!だぁあっ!!」
反撃に蹴りを放つも、受け止められてしまう。その足を掴まれ、思いっきりぶん投げられた。
「ぐぅううっ!!」
「いい蹴りじゃったが、そんな程度では妾は倒せんぞ?」
彼に追いつき、顔面をぶん殴った。
「ぐぁあっ!?」
背中に膝蹴りをかました。
「がはぁっ!」
腹に拳を打ち下ろした。
「ごぶっ……!!」
その打ち下ろしで、ジェットはついに床に叩き伏せられてしまった。吐血しながら悶絶し、なす術なく倒れる。
「ほーれっ!」
その彼の胸を、思いっきり踏みつけた。そして、力を込める。
「ッッッ……ぎゃあああああ……!!!!」
肋骨が軋み、内臓が圧迫される。血が、食道を逆流し続ける。
彼女はそんな彼の苦しむ姿を見て、恍惚の表情を浮かべていた。悲鳴を聞く度に、ゾクゾクと背筋を震わせる。
「はぁあ……いいぞ、もっと聞かせるのじゃ……!!」
「こンの……!!!」
彼は、足を思いっきり殴りつける。しかしその足は鉄の如しで、更に踏みつける力が加わった。
「ぐぁあああああッッ!!!?」
「情けないのう……ほぉれ、ほぉれ……!」
グリグリと踏みにじり、顔面を蹴り飛ばした。それで彼はぶっ飛び、床に投げ出される。
「がっ……がはっ……!!く、くそったれ……!!」
「ふふん……!」
彼女は一歩踏み出すと同時にその姿を消し、次の瞬間にはジェットの眼前に居た。
「は、速ッ──」
刹那、彼の腹に魔王の拳が埋まった。暗黒の力を込めたソレは彼の腹筋を突き破り、背中を盛り上げさせた。
「ーーーッッッ!!!!」
ジェットは白目を剥きながら吐血し、ぶっ飛んだ。天井近くまで一直線にぶっ飛び、壁に叩きつけられ、床へ墜落してしまう。その衝撃で、砂煙が立った。
その砂煙が晴れると、彼は消えていた。
「……ほう?」
魔王は、後ろを振り返る。そこには、剣を杖にして肩で息をするジェットが居た。
「ハァッ……ハァッ……!!!」
「高速移動で背後に回ったはいいものの、反撃されない方法が無いと確信したか……」
「うん……正解。」
笑いながら、応える。そして、剣を両手持ちして全力を注ぎ込んだ。
「がぁあああああッッ……!!!!」
「ッッ……その技……!!」
確か、ノーヴェムの時に片腕を消し飛ばしたあの技だ。
「言っとくが……わざと食らって「なんちゃって」って言いながら再生しても、俺は驚かねぇからな。」
「……ふむ?」
「お前の出来ること出来ねぇ事はよく分かった。今から、本気で戦うぜ……!!」
全ての気が、魔力が、神力が、剣に集約する。そして床を蹴って瞬速で接近し、剣を振り下ろした。
「ふふ。」
彼女はそれを片手で受け止めた。爆発は起こらず、剣に溜めていた力という力全てが霧散する。
「だぁあっ!!」
ジェットは剣から手を離し、顔面に正拳突きした。
「軽いな。」
顔に拳を受けながら、彼女は笑った。
「あだだだだっ!!どりゃあっ!!」
顔面に何度も蹴りを入れ、渾身の力で蹴り抜く。
「っくくく、戯れじゃな。」
その足を掴み、思いっきり床に叩きつけた。
「ぐっはぁあ……!!」
「どうした、妾の動きは全て見切ったのではなかったのか?」
ベリアル8世はそう言いながら、顔を近づけてくる。
「ッッ!!」
その顔面に頭突きしてから起き上がり、さらにこめかみに蹴りを入れ、離れた。
「っ……あながち、嘘ではないということか。」
「はぁああああーーーッッッ!!!!」
ジェットは全力を解放し、突進する。その眼前まで迫り、猛烈な剣技と拳のラッシュを放った。
「ふふっ。」
ベリアル8世もそれに応戦する。やがて戦いは超スピードの攻防になり、激しさを増した。
「あだだだだだだ……!!!」
「ほれほれ、腰が入っとらんぞ?」
二人の攻防の余波で、壁や床の一部が、爆発するように吹き飛ぶ。エネルギーのぶつかり合いがスパークを巻き起こし、爆発した。
「……」
ベリアル8世は、多少なりと焦っていた。ジェットの攻撃が次第に鋭くなり、自分の顔を掠め始めた。今は当たっても問題無いのだが、このままでは形勢逆転の可能性も少なからずある。
「……殺すには、惜しいのう。」
彼女はそう呟き、笑った。
「ずぁだだだだだだだっ!!」
鋭くなる、ジェットの攻撃。そして遂にその攻撃の一つの拳が彼女の顔面に迫った。
「ほいっ」
それを払い落とし、こめかみに足刀した。
「ぐぁあっ!!」
「戯れの時は終わりじゃ……!」
揺らいだジェットに、無数の拳を叩き込んだ。早く重く鋭い拳が、彼の全身を打ち続ける。
「ぐぁあああああっ!!!」
とてつもない猛攻に、なす術なく打ちのめされる。
「かぁあっ!!!」
渾身の一撃で、彼をぶっ飛ばす。
「うぐ……ぅ……!!!」
鼻血を噴きながら、ぶっ飛ぶ。そして、ドシャッと床に倒れてしまった。
「少々大人気ない気がせんでもないが……これで、幕引きとしようか。」
ベリアル8世は手を上に向け、そこに凄まじい暗黒のエネルギーボールを作った。
「ぐ……ぅ……!!ま、負けて……たまる……か……!!」
ジェットはそれを前に立ち上がり、手を合わせて神力を込める。
「滅びろ、人間……!!」
高密度に固まった暗黒のエネルギーが、投げられる。
「ブレイブッキャノンーーーッッッ!!!」
それに対し、渾身のブレイブキャノンをぶつけ、押し合った。とてつもないエネルギーとエネルギーがぶつかり合い、この星全体に余波が旋風する。
「ぐ……ぐぐぐぐぅうう……!!!」
「無駄じゃ無駄じゃ……ほぉれ……!」
彼女は、向けている手に力を込める。すると、暗黒のエネルギーは巨大に膨張し、ジェットの技をかき消した。
「んなっ!!?」
「終わりじゃな。」
それは、猛スピードでジェットに直撃した。
「ぐぁああああああああーーーッッッ!!!!」
彼を呑み込んだソレは、魔王城の外へ出ていく。そして、とてつもない威力で大爆発した。爆発は大陸の一部を飲み込み、この星を削る。その衝撃は、大陸全土に響き渡った……
「……!!」
キャメロットで見ていた、モルドレッド達。例の爆発を確認し、立ち上がった。
モルドレッドは何処から持ってきたのか、双眼鏡を手に取り、観測する。
「お、オイオイオイ……!!ウソだろ……!!!ん、ありゃ……」
爆発から、ボロボロになった人影が落ちるのが見える。モルドレッドの肉眼より、レシアの視力がそれの正体を捉えた。
「ジェット……ウソでしょ……!?」
ボロボロのジェットが、墜落していた。
「勇者様が……!!?」
レシアの声を聞いて、ヴォシム王女が顔を上げる。そして、今にも泣きそうな顔をした。
「そ、そんな……勇者様……!」
「親分が危ねぇッッ!!アタシはもう行く──」
そんな二人の前に、レシアが立った。そしてジェットの方を向き、目を鋭くした。
「……ジェットーーーッッッ!!!まさか、そんな程度で負けたとか言って、そのまま死ぬ気じゃないわよねーッ!!!?そんなの、絶対に許さないわよーッ!!!私、これでも君の事信じてるんだからねーッ!!!あの暴虐の魔王を踏み超えて、勇者としての使命を全うできるッて!!!」
喉が擦り切れそうな程に絶叫しながら、ジェットに言う。そこには、彼女の切実な願いと彼への信頼が詰まっていた。
「聞きなさーい!!!君は、強いッ!!信頼に値するッ!!!他の人が君をどんな風に思ってるかなんて知らないけど、少なくとも私は、君を信じる……だから……ッッ!勝て、ジェット!!!」
彼女は叫び終わり、息を切らしながら座った。
それを聞いていた、二人……王女の方が、手を合わせて祈った。
「……勇者様……私も、信じてる……この空中要塞へ空を飛んで、私を助けて下さった貴方を……!!だから……!!」
彼女の想いが、極まる。次の瞬間、その体からとてつもない神力が噴き上げた。
「……ンなっ!?」
「え……!!?」
「……勝って!!!」
ヴォシム王女はそう言い放ち、目をカッと見開いた。その目は碧色に染まっており、燃えるようなオーラが体にまとわりついている。
彼女に呼応するように、キャメロットの砲身に神力が装填された。それも、ここに残った神力の全てが。
「こ、これは……」
「お、王女サマ……!!?」
次の瞬間、その砲身から、とてつもないエネルギー波がジェットに発射されたのだった……




