魔王・ベリアル8世
勇者は、走っていた。ベリア達が待ってた所と魔王の間の間の渡り廊下が、思ったより長かった。
「……ッ!」
背後から、凄まじい波動を感じる。それと同時に、扉が目の前に見えてきた。
「ッよしッ!!」
その扉を蹴り破り、豪快に登場する。その目の前には、確かに魔王……ベリアル8世が、玉座に座っていた。
「よく来たな、勇し──」
「おらぁああっ!!!」
ジェットはいきなり、ベリアル8世の顔面へパンチを入れた。その威力で生じた衝撃が玉座が粉砕し、彼女を思いっきりぶっ飛ばした。
「っがはぁあっ!!?」
初対面の時とは、桁違いの戦闘力を宿したジェットのパンチ。それは確かに彼女の顔面へ入り、有効なダメージを与えていた。
「せぇいっ!!」
更に、その腹を膝蹴りで打ち抜く。少女の小さな腹が、彼の膝によりめり込み、その背が盛り上がる。
「ごふっ!?ま、待っ──」
ベリアル8世は吐血しながら、ジェットを押さえようとする。彼はその手を避け、足を振るう。
「でででででいっ!!」
渾身の蹴りを胸へ連打した。彼女の肋骨が軋み、吐血する。
「がはっ……!!」
「あだだだだだだ!!!」
容赦なくダメ押しに、顔面に拳を連打した。神速で飛ぶ彼の拳に、彼女はなす術なくくらい続け、鼻血を噴いた。
「〜〜〜ッッ!!!」
ベリアル8世はそんなジェットに手を向け、魔力を解放する。すると彼の体が吹っ飛び、無理矢理ながらに距離を離された。
「はぁっ……はぁっ……!いきなりフルボッコしにかかる勇者がいるかっ!!少しは落ち着け!!」
「ちっ……!じゃあ、落ち着いてやる。」
ジェットはそう言い、拳を握ったまま固まった。ベリアル8世も鼻血を拭いながら、立ち上がった。
「……そこまでして、余を倒したい理由は何じゃ?」
「人間の自由の為だ……」
「自由じゃと……?ハッ。」
真面目な顔して答えたジェットを、彼女は嘲笑した。
「余達がここに来る前……人間は、愚かしいほどに自由じゃった。無益な戦い、流れる同族の血……それを知っておいて、何も反省せぬ人間共……品性の欠片も無いお主ら人間は、滅ぶべきなのじゃ。特にお主のような人間なら、分かっていよう?人類に救う価値なんて無い……と。」
「ああ、その通りだな。心当たりあるから、よくわかってる……けど、それは人間の問題だ。部外者が一方的に決めることじゃない。」
「余には、憐憫など出来ぬ……これは余達魔物から人間へ贈る、優しさなのじゃぞ?滅んだ方が、身のためじゃと……」
「余計なお世話だ……じゃあ、納得しねぇならもう一個理由を言ってやる。」
彼はそう言って拳を握り込み、そこに神力を込めた。
「俺は、自分の価値観押し付けて正義面してる奴が大嫌いなだけだァアアアーーーッッッ!!!」
床を踏み抜き、突撃する。その拳で、殴り掛かる。それは掌で止められてしまうが、とてつもない衝撃が巻き起こった。
「ぐっ……ぬ……!!?」
ベリアル8世は額に青筋を浮かべながら腕に全力を込め、歯をギリギリと食いしばる。ジェットは彼女の懐へ一歩踏み出し、拳で腹を打ち抜いた。
「ぐぶっ……!!」
「だーーーッッ!!!」
そのまま、力任せに顔面に拳を叩き込む。破滅的な威力の拳が見事にベリアル8世の顔面を打ち抜いた。彼女は水平一直線に吹っ飛び、壁に激突した。壁は粉砕し、彼女は瓦礫に埋もれた。
「はぁあああーっ!!!」
しかし、直ぐに瓦礫を吹っ飛ばして立ち上がった。その鼻から垂れた血を、舌舐めずりで舐めとる。
「なるほど……ならば、戦うしかあるまい。くふふふ……今ここに、勇者と魔王が激突する……と言ったところじゃの。」
「ああ……」
ジェットは、ベリアル8世のタフさに困惑していた。
どういう事だ……あれだけやられても尚、余裕を持ってやがる。どうやら、今までのが戯れ程度のものだったらしいな。だが、それはこっちも同じ。いいウォーミングアップになった。
「はぁあっ!!」
ベリアル8世は床を踏み、ジェットの眼前に飛んできた。
「っ!?」
はやいっ!!?
彼は咄嗟に、腕をクロスする。そこに蹴りが叩き込まれ、靴を擦らせながら大きく後退させられた。
「ちっ!」
「ほれほれ、行くぞ行くぞ!!」
既に彼女は目の前に迫っており、拳を連打してくる。ジェットはそのラッシュを捌き切り、頭を振りかぶる。
「ふっ!!」
そして、頭突きをした。直撃し、彼女の額から血滲む。
「ぐぁっ!」
「くらえ……!!」
腰に携えていた剣の持ち手を掴み、居合切りした。しかし刃は彼女をすり抜けた。
「そっちか!!」
ジェットは振り返り、剣を振るう。
「正解!」
直感は当たり、そこに彼女がいた。刃を腕でガードしながら。
「ちっ!」
ジェットは下がり、距離を離そうとする。しかし彼女の方が接近し、猛攻してきた。
超スピードで攻撃が飛び交い、攻防が始まった。人智を超えたスピードでの猛攻は、激しさを極める。
「だぁあっ!!」
「ふんっ!!」
拳と拳がぶつかり合い、衝撃が巻き起こる。両者は次に足を振るい、足刀をぶつけ合った。ベリアル8世はもう一方の足で蹴りを放ち、ジェットがそれを腕でガードする。そして、もう一方の拳を彼女の顔に放った。しかしそれは避けられ、こめかみに肘打ちを入れられた。
「がッ……!!」
ジェットは揺らぎながらも、反撃に顔面へ後ろ回し蹴りをかました。
「っぐ!?」
彼女は顔を押さえて、後退する。顔を押さえる手を退けた瞬間、既にジェットは眼前に迫っていた。
「だッ!!」
彼は拳を放ち、それを前にした彼女は眉間に力を込める。
「ふんっ!!」
その拳を、額で受け止めた。
「いっ……!!!」
彼女の石頭が、逆にジェットの拳を痺れさせた。彼は手をブンブン振り、痺れを飛ばそうとする。
「強いのう、勇者?」
「ああ、強くなったもんね。」
「しかし、意志がロクでも無ければ信念も無し。私欲だけで戦うお主が、余にかなう道理など無いぞ。」
「どうかなぁ……やってみなきゃ、分かんねぇ!!」
「分かるさ……」
ベリアル8世は指先に炎と氷と雷と光と闇の力を宿す。
「な……!?」
「死星五殺砲……!!」
その全てが一気に膨れ上がり、一つのエネルギー波として放たれた。強大なエネルギーが、一直線にジェットへ迫る。そこで彼は手を向け、神力と魔力を解放した。
「氷の防壁・七天展開!!」
彼の前に、盾のような氷の防壁が立つ。それを覆うように六つの氷の防壁が立ち、エネルギー波を止めた。しかし氷の防壁は次々に突き破られ、遂には最後の一枚になる。
「終わったな、勇者よ……!!」
ベリアル8世は勝利を確信し、邪悪な笑みを浮かべる。
「バーカ!!」
その彼女の背後に、ジェットが現れた。
「なにっ!?」
「だーっ!!」
彼女は振り返った瞬間に、彼の蹴り上げによって蹴っ飛ばされた。
「ぐぁあああっ!!!」
しかしすぐに大勢を整えて、着地した。口から垂れた血を拭い、ジェットを睨む。
「ロクな意志が無い?信念も無ェ?」
彼はそう言いながら床を踏み抜き、一瞬で彼女の懐に潜り込んだ。
「そんなもの無くても、強い奴は強いんだよ!!」
そして思いっきりアッパーし、打ち上げた。
「ぐぁあっ!!」
「強いとか弱いとか滅ぶべきとか、そんなものテメェが決めることじゃねぇっ!!」
飛び上がって打ち上げた先に回り込み、その顔面に足刀する。
「ぐはぁっ!?」
「ふんっ!」
蹴り飛ばされた所を更に追いかけ、彼女の上へ飛ぶ。渾身の神力を込めた拳をその腹に叩き込んだ。
「ッッッ!!!?」
腹にまるまると拳が埋まり、その背が盛り上がる。そのまま、超スピードで床に墜落した。
「テメェはただ、自分の考えが絶対正義だと勘違いしてるだけだ!!」
そこに降りながら両の拳に力を込め、彼女のボディに連打した。少女さながらの小さな体に、神力を込めた拳が無数に叩きつけられる。その度にとてつもない衝撃が起こり、この魔王の間を揺るがした。
「そんな奴に、俺達の生きる気持ちをぶっ潰されてたまるかァアアアッッッ!!!」
最後に渾身の拳を叩き込む。そこからとてつもない気が噴き出し、辺りのものを融かしながら大爆発した。
爆発が止み、爆煙が晴れる。勇者の拳に、なす術なく魔王は倒れ伏していた。
「うぐっ……がふっ……!!き、貴様……!!」
ヨロヨロと震えながらも、立ち上がる。そして震えを止め、ジェットを睨んだ。
「図に乗るな……小僧ォオオッ!!」
「こいっ!!」
拳と拳が、ぶつかり合う。それで衝撃が発生し、押し合った。
「やっ!!」
ジェットはもう一方の手で、剣を振るう。
「ふんっ!」
ベリアル8世はそれを、ハエでも払うような手で弾き飛ばした。剣は持ち主の手から離れ、そこらに転がってしまう。
「なっ!?」
「はぁあっ!!」
彼女の拳が、ジェットの腹に埋まる。
「がはぁっ!?」
彼はそれに目を見開き、吐血した。
「愚かなり……劣等種族人間、愚かなり!!余の声を聞き入れず、野蛮に拳を振るう!!」
そう言いながら、ジェットに拳を連打した。
「ぐぬ……!!」
彼は一方的に殴られてしまうが、次第にその拳の連打に対応し始める。
「ふんっ!!」
「ぐぁあっ!!」
しかし、彼女の渾身の拳によってぶっ飛ばされてしまった。
「くそっ!!」
拳を握りながら体を回し、着地する。その視線の先では、彼女がこちらに指を向けていた。
「死ね……!!」
その指先から、超高速でビームを飛ばしてきた。しかしそれは、彼をすり抜ける。
「なにっ!?」
「だぁああっ!!」
ジェットは拳を構えたまま、突撃する。ベリアル8世は、その指先から先程のビームを連射した。
「あだだだだだだっ!!!」
しかし全て腕でガードされたり弾かれたりして、接近を許してしまう。
「く……!!」
「うぉおっ!!」
そのまま接近され、近接戦闘に移行した。格闘が高速で飛び交い、加速していく。
「ふんっ!はぁあっ!だぁあっ!」
「はぁあっ!せいっ!ぐぬぅうっ!!」
拳がぶつかる。蹴りがぶつかる。攻撃が、攻撃で相殺される。防御が、攻撃の威力を打ち消す。
「はぁあっ!!」
ベリアル8世の拳が、ジェットの腹に着弾した。
「ぐっ!がぁあっ!」
しかし彼は吐血しながらも、彼女の腹を膝蹴りで打ち抜いた。
「ぐぶっ!?このぉおっ!!」
彼女は反撃に、頭突きをかました。ごちんと二人の頭がぶつかり、ジェットの額が裂ける。
「シュッ!!」
彼は冷静に、神速の拳でその顎を打ち抜いた。
「!!!」
それに直撃し、意識を吹き飛ばされた。魔王は、膝をつく。
「どぁあっ!!」
しかしジェットは容赦せず、胸に蹴りを叩き込んだ。
「ぐはぁっ!?」
「あだだだっ!!!どりゃあっ!!」
間髪入れずに腹へ拳を連打し、顎を蹴り上げで打ち抜いた。
「ぐぁああっ!!」
彼女はぶっ飛び、宙へ浮かび上がる。ジェットはすぐにその目の前に跳び、彼女を蹴り飛ばした。
「ぬわぁあああっ!!」
彼女は墜落し、ゴロゴロと床を転がりながらぶっ飛ぶ。そして壁に激突し、その壁も崩落して彼女を瓦礫で覆った。
「……本日二度目の瓦礫布団だな。」
「ぐ……ぬ……!!?」
瓦礫を退かしながら、立ち上がる。
「ハァッ……ハァッ……!!く、くふふ……や、やるのう、勇者よ……!!その力、まさに人間の代表に相応しい……!!」
彼女の顔が切羽詰まった表情から、余裕の笑みにすり変わる。
「そりゃどうも……名誉なのか、不名誉なのか知らねぇけど。」
「その力、消しておくには惜しいのう。今からでも遅くはない、余の配下にならぬか?四魔姫の三柱が亡くなった今、強大な戦力が必要でのう。」
「当然、お断りだ。」
ジェットの答えに、ベリアル8世は「予想通り」と、ニヤリと笑った。
「そう言うと思った……ならば、お主は死ぬしか無い。」
「何を今更……今の戦況を見る限り、俺の勝ちは揺るがねぇと思うけどな。」
「本当にそうかのう?」
彼女はそう言いながら、気を溜める体勢をとった。
「では、見せてやろう……そして、後悔させてやろう。半端な力を持った己の愚かさをな……!!」
次の瞬間、彼女の気が凄まじく膨れ上がった。ただでさえ強大だった力が、膨張する宇宙のように膨れ上がっていく。
「……!?」
ジェットはその気に当てられ、吹っ飛ばされそうになる。踏ん張りながら、飛んでくる瓦礫を砕き避けた。
「はぁあああああーーーッッッ!!!」
魔王の体が、閃光に包まれる。そして、驚天動地の変身が行われた……




