光の勇者
キャメロットから発射された、神力のエネルギー波。それは、ジェットに直撃した。しかしそれは、攻撃するためのエネルギーではなかった。寧ろ、優しくて柔らかくて、暖かいエネルギーだった。
「……レシア……王女様……」
あの二人が、そしてジョーとローレンスも、俺に託している。そうだ。俺は負けられねぇんだ。俺は、勝たなきゃならねぇ。
「……!!」
次の瞬間、凄まじいスピードで全身の傷が塞がり、ダメージも魔力も全回復した。そして、神力が全身に流れ込んでくる。焼き切れそうな魔力の回路も、神力によって補強される。
「あぁ……」
いい気持ちだ。体に力が、漲ってくる。全部、とめどなく。
次の瞬間、彼が持っていた勇者の証が熱を放った。ローゼの王様から貰った、派手なバッジが。
「んな……!!!?」
証が聖なる光を放ち、彼を包む。そして、強大な光を放ちながらジェット諸共飛び上がった。
「……!!?」
ベリアル8世はようやく異変に気付いたようで、その光を見た。
「馬鹿な……!!?この気は、まさか……!!!」
光が、そこらに拡散する。それは砕け散り、霧散した。
「……」
閃光が剥がれ、その姿を現す。そこには聖なる鎧と燃えるような黄金の気に身を包んだ、金色の瞳をした光の勇者が浮かんでいた……
「や、やった……!!届いた……!!」
ヴォシム王女は、光の勇者の光を見て笑った。
「ひ、ひえぇ……一時はどうなるかと思ってたけど、これで一安心って所か?」
モルドレッドも、双眼鏡を覗きながら言う。
「……まだ、油断は出来ないわ。いいとこ、ようやく同じステージに立てたって見るのが妥当な所よ……でも、ジェットなら平気。」
三人の中の唯一の人外、レシアが目を凝らしながらそう言った……
「……あ、肩のコレって邪魔にならねぇんだな。」
ジェットは鎧のショルダーパーツを叩きながら、肩を回す。次に首をゴキゴキ鳴らし、手をグーパーさせた。
「……何が起きた?」
「知るか。」
「そうか、ならばもう一度滅ぼすだけじゃな。」
ベリアル8世はそう言って片手に暗黒のエネルギーを込め、それをぶん投げた。ジェットはそれを弾き飛ばすと同時に彼女に接近し、腹にパンチした。
「ッガハァアッッ!!!?」
吐血し、よろめいて二歩ばかり下がる。腹を押さえて悶絶しながら、ジェットの方を見た。
「ッッッ……き……さま……!!!」
「オラァッ!!」
彼は容赦なく、そのこめかみに足刀を入る。見事な蹴りが彼女のこめかみを打ち抜き、ぶっ飛ばした。
「ーーーッッッ!!!」
ぶっ飛び、壁に叩きつけられる。急いで立ち上がり、ジェットを見直した。
「……ぐ……く……!!」
馬鹿な……たったの二撃で、妾にこのようなダメージを……!!
「さっきはよくもボコボコと殴ってくれたな。」
「いい気になるなよ、童……!!今の攻撃で、妾は手加減を捨てる事を決意したぞ……!!」
「なら、とっととかかってこいや。」
「ふっふっふ……」
次の瞬間、ベリアル8世の気が凄まじく膨れ上がり、暗黒の神力が噴き上げた。
「はぁああああああーーーッッッ!!!」
咆哮と同時に、気の膨張が爆発のような衝撃を巻き起こす。それで、魔王の間の壁は全て消し飛んだ。
次第に衝撃は収まり、気が彼女に収束する。
「はぁ……」
吐息して、笑いながらジェットに向いた。その身は暗黒の神力を漲らせており、とてつもないパワーアップを果たした事が分かる。
「どうじゃ、童?これが今の妾の本気じゃ……くっくっくっく……」
「ああ……ここからが、本当の勝負って奴か。」
魔王は構え、勇者はそのまま直立不動。二人の気が、この空間を揺らした。
「……ゆくぞ──」
「おそい。」
魔王の方が動こうとした瞬間、既に勇者の方が背後に着地した。
「ッッッ!!!?」
次の瞬間、胸と右肩と左の腿に鋭打されるような衝撃が走った。何れもとてつもない威力で、揺らいでしまう。
「く……!!?」
「こいよ。俺が受けた痛みを何倍にもしてお前に返してやる。」
そう言う彼を睨み、歯軋りをする。圧倒されないよう、「今のは、油断した自分の落ち度だ」と胸に刻み、拳を握った。
「調子に乗るなよ、小僧ォオオッ!!」
そう言いながら突進し、拳を振るう。ジェットはそれを避け、剣は握らずにファイティングポーズをとった。
「はぁああああっ!!」
接近戦の攻防が、始まる。彼女の重く鋭い拳のラッシュにも関わらず、ジェットはその全てを見切っていた。
「でぁあっ!!」
そして更には隙を見て、顔面へ裏拳した。
「ぐっ!?」
「よっ!!」
続けざまに放った後ろ回し蹴り──は、跳んで避けられた。
「ぬかったな……!!」
ベリアル8世はジェットの背後に着地し、そのままパンチを放ってくる。しかし、彼の肘打ちが先にその腹を打ち抜き、彼女を止めた。
「うぐっ……!!」
「だぁあーっ!!!」
そのまま腰を捻り、振り向きざまの勢いで顔面をぶん殴った。
「ぐぁあああああッッ!!!」
鼻血を噴き、床に足を擦らせながら後退する。ダウンはせずに床に踏ん張った。
「ちぃいっ!!これでもッ……」
ジェットに指を向け、その指先に、炎と氷と雷と光と闇を宿す。
「くらぇえっ!!」
その全てが爆発し、巨大なエネルギー波となって彼に撃ち出された。
「……」
ジェットはそれに手を向け、その手に光を込める。
「はっ!!」
それで彼に辿り着く前にエネルギー波が止まり、小さく圧縮された。
「は……!!?」
「くらいなァ!!」
それを、光を纏った方の手でぶん殴る。すると、それは彼女に向かって一直線にぶっ飛んだ。
「ちぃいっ!!」
それを頬に掠らせながらも、避ける。そして、ジェットに突撃した。
「だぁああああ……!!」
そのまま、あのとてつもないスピードでの攻防が始まる。
「ぐ……ぐぬぅうう……!!」
しかしベリアル8世は手数で押し負けており、防戦一方になっていた。腕をカーテンのようにして、身を屈めている。
「おらぁっ!!」
その防御の僅かな合間を、蹴りがすり抜け、彼女を打ち抜いた。
「ごはぁっ!?」
「だぁあっ!」
更に顎にアッパーし、その体を僅かに打ち上げた。
「チェストォオッ!!」
打ち上がったその体の中心に、渾身の拳を叩き込んだ。
「ぎゃあああーっ!!!」
彼女はぶっ飛ばされる。それを追いかけ、ジェットが跳んだ。
「だらぁあっ!!」
踵落としして、床に叩き落とした。しかし床は悲鳴を上げ、遂に崩落した。彼女はそのまま、下のフロアにまで吹っ飛んでしまう。
「いくぞぉおっ!!」
ジェットがそこに飛び込み、追い打ちをかける。
「ぐぅうううっ!!!」
二人はぶつかり合い、とてつもないエネルギーが辺りに波動した。辺りのものがそれに飲まれ、消し飛ぶ。
飛び交う、拳と拳。溢れるエネルギーは、天を衝く。そして、魔王城の所々が爆発した。
「おいおいおいおい!!どうなってやがる!!」
魔王城が崩落しそうな所を、ジョーは踏ん張っていた。今この時も、衝撃とエネルギーで揺れが続いてる。
「崩れるぞ、外に飛ぶぞ!!」
「そうは言ってもなぁあッッ!!」
落ちてきたり飛んだりする瓦礫を、拳で砕く。しかしそれが、彼らの脱出を邪魔した。
「全く、世話の焼ける……若い男なのだろう!!歯を食いしばるがいい!!」
ベリアがダッシュしてきて、二人を抱えた。
「えっ。」
「はっ。」
そのまま、何重にもなった瓦礫を突き破る。飛んでくる瓦礫も無視して、遂に魔王城の外へ飛び出した。
「ーーーッッッ!!!」
「あ、貴女という者は……!!」
脱出するや否や、二人はベリアから抜け出す。頭から血を流しながら、悶えた。
「な、情けない人間め……私を倒したのだから、しゃきっとするがいい……」
彼女はそう言いながら、頭から血を流し、足を震わせる。そして、周囲を見回した。
「……む。二人とも。」
「あァ!?」
「何だ?」
彼女が指す先は、キャメロットだった。二人は事情を知ってるので、すぐに察した。
「あァ、一旦向こうに行こうか。」
「そうだな……今、我らがこの戦いに入り込む余地は無い。」
「何だ、あそこは安全なのか?ならば、行こう。」
三人は、キャメロットに飛んだ……
「親分!!」
まずモルドレッドが、ジョーを迎える。
「戻ったぜ、モルドレッド。」
「怪我だらけじゃないか……!」
血まみれになった彼の周囲を囲むようなフットワークで、ジロジロ見続けた。彼は、何だか突っ込むのも馬鹿らしくなってきたのか、ジト目で彼女の姿を追っていた。
「王女様、ご無事で?」
ローレンスは、ヴォシム王女に声をかける。
「貴方は、勇者様の仲間の……」
「名乗る程の者ではありません。無事なら良かった。」
「ちょっと、私の事忘れてない?」
レシアが、声をかけてくる。しかし、応えたのは別の者だった。
「忘れてはいないぞ、レシアよ。」
よりにもよって、ベリアだった。
「ひぃっ!?9世様!?」
「ベリアで良い……よく自我を貫いたな、レシアよ。後は彼を信じるだけだ……」
ベリアがそう言い、皆が魔王城の方を見た。二人の激戦の余波で、あの山のような魔王城がどんどん崩壊していた。
「……黙って、見るぞ。」
ローレンスがそう言って、キャメロットは静寂に包まれた……
崩れる魔王城。光に解けて消し飛ぶ、様々なモノ。エネルギーの余波で吹き飛ぶ、色々なモノ。その凄まじいエネルギーの中心点で、二人はドカドカと拳をぶつけ合っていた。
「うぉおおっ!!」
「だぁあーーーッッ!!!」
ジェットの拳が、ベリアル8世の顔面を打った。拳圧の衝撃が発生し、魔王城を抉った。
「ぐふぅううっ……!!」
ぶっ飛ばされるも、そこらの壁に着地する。頬を押さえながら、ジェットの方を見た。
彼は崩れゆく床と瓦礫の上を走りながら、こちらに向かっていた。彼女はそれを確認してから、両の拳に暗黒の神力を溜めた。
「づぇあああッッ!!!」
その場で彼に向かってパンチを連打する。すると、拳の形をしたエネルギーが無数に飛んだ。
ジェットはそれを、避け、いなし、弾きと、問題無さげに凌ぎ続ける。そして、大きく飛び上がった。
「空中では身動きはとれまいっ!!」
ベリアル8世はそう言いながら、パンッと合掌する。すると、そこら辺の瓦礫やら何やらが、ジェットを押し潰しにかかった。
「超能力か……だけど、そんな小細工が効くかッ!!!」
彼はコマのように回転し、飛びかかる障害物の全てを粉砕した。
「くらえぇえッ!!」
そして、回転の勢いを拳に乗せながら神力を込め、彼女の胸目掛けてパンチした。一瞬、時が凍りつく。次の瞬間、凄まじい閃光が迸ったかと思えば大爆発し、彼女はぶっ飛ばされていた。
「ぐぁああああーーーッッッ!!!」
爆発は魔王城の3分の1を消し飛ばした。それで、城は音を立てて崩壊を早めた。
彼女は空中で留まっており、肩で息をしながらジェットを見ていた。
「ば、馬鹿な……ありえぬ……!!このような戦士が、この世に居るなど……!!」
「ああ、俺だって驚いてる。あれだけ苦戦してたお前を、圧倒できてるんだからよ……」
「ぐ……ぬ……!!こ、こうなれば……使う他あるまい……」
ベリアル8世は、口から垂れた血を拭う。その時に、ニヤリと笑った。
「妾のフルパワーを……!!この肉体が醜く変異しようと、負けるよりはマシじゃ……!!」
「なんだと……!?」
ジェットは、驚く……が、すぐに冷静の顔で表情を塗り潰した。
「まだ全力を隠してやがったのか……それで俺に勝てる自信があるなら、さっさと使えばいいじゃない。」
「後悔するなよ……!!はぁあッッ!!!」
彼女の気が膨れ上がり、とてつもない魔力と神力がまとわりつく。その周囲で、エネルギーがバチバチとスパークした。
「ふんぬぅうう……ッッッ!!!」
腕や足の筋肉が、程よくボンッと盛り上がる。腹筋のラインが濃くなり、それらはまるで鉄のような質感を帯びる。
「はぁああああッ……!!!」
角が大きく変異し、更に凶悪な形をとった。
「あぁああああーーーッッッ!!!!」
最後に気が爆発し、とてつもない衝撃が波動する。この場一帯を旋風する暗黒の神力は、あらゆるものを吹き飛ばした。彼女の服も吹き飛び、隠すべき場所も隠さないまま上裸になる。
「はぁーっ……はぁーっ……!!これが、妾の全力じゃ……!!」
とてつもない力が、ビリビリと伝わってくる。その力を前に、ジェットは汗を垂らして唾を飲んだ。
「っくくく……変異中に攻撃なり何なりすれば良かったものを、馬鹿め……」
そう言いながら笑う彼女に、彼は笑顔を向けた。
「いや、これでいい。お前の全力を待ってたんだよ。」
「……ほう?」
「お前がフルパワーになるのをわざわざ待ってやったのはな、最高のお前を叩きのめしたいって思ったからだ……取るに足らねぇ戦いなら、それこそさっきまでの攻防で決めていた。だけど……こいつは、世界の命運をかけた……そう──」
ジェットは手を天に向ける。すると、何処からともなくジェットの剣が飛んできた。彼はそれを掴み、構える。
「──最終決戦なんだからよ。」
「くっくっくっく……!!」
乾坤一擲──滅びゆく魔王城の中で、勇者と魔王の最終決戦が始まろうとしていた──




