突撃、研究所!
ゴルゴーンを倒し、村で一息つき終わったジェット達。彼らは今、研究所の前に立ったのだった……
「ここか……」
研究所を見上げる。そこそこ大きめの施設で、白色を基調とした清潔感のありそうな雰囲気が印象的だ。しかし中で行われているのは、非道の人体実験。
「さぁて、やるか……」
「あ、おい。」
病み上がりで元気なジョーが先に、研究所の門を飛び越えた。そこに着地した瞬間、監視カメラが一斉に彼へ向いた。カメラ達が彼を捉えた瞬間、レッドランプが回って警報音がけたたましく鳴り響いた。
「よし、俺らも行こうか。」
「ああ。」
「ええ。」
ジェット達三人も遅れて乗り込み、研究所に突撃したのだった。
……作戦は、単純明快。正面から殴り込んで丸ごと叩き伏せる。以上だ。
「ガァアーーーッッッ!!!」
「シャアァアッ!!!」
「グォオオオーッ!!!」
大中小様々な改造モンスターが四人に迫り来る。それらは、難なくちぎっては投げの繰り返しであっという間に蹴散らされてしまった。
「ヒャーーーハハハハハ!!」
腕を振って敵を蹴散らしていたジョーが、体を広げて大笑いする。その眼光を鋭いものに変え、その場で両腕を広げながら敵陣に突進した。
「ッッッ!!!?」
敵の群れは瞬く間に押され、次々と彼に轢き飛ばされていった。暴走電車のようなタックルをくらった敵達は、バラバラになりながら吹っ飛んでいく。
彼はというと、その勢いのまま研究所のガラス張りのドアを突き破り、派手に侵入した。ガラスがふりかかったハズの彼の体には、出血はなかった。
「な、なんだっ!?」
「敵襲ッ!!」
そこに居合わせた研究員らしき魔物が、懐から魔導銃を取り出してジョーに向ける。しかし、彼の背後から飛び出す影が二つあった。
「しゃあっ!!」
「せいっ!!」
ジェットとローレンスが、魔物二体の首を切り飛ばした。それを確認し、ジョーが不敵に笑う。その彼の背後から、殺り損ねた魔物が迫ってくる。
「グォオオオーーーっ!!!」
両手の丸鋸に、どう見てもパワータイプの体型……ブッチャーだ。奴が両腕の丸鋸を猛回転させながら、ジョーにタックルしてきたのだ。
「ふん。」
「ッッッ!!?」
彼はそのタックルを腕一本で止めて見せた。それに動揺したブッチャーは、硬直してしまう。
「くらえ……いやッ!!」
ジョーはソイツを殴ろうとしてから踏みとどまり、飛び退く。するとブッチャーの周囲の地面を突き破り、忌まわしき触手が出現した。美しい事が神への尊崇とするならば、冒涜とも言える醜悪な触手でその体を巻き付け、思い切り捻り潰した。不快な滑りの元となる悍ましい粘液が、哀れな改造魔物から吹き出た血と混ざりながら、ゆっくりと滴る。使命を終えたソレは地面へと引っ込み、レシアの所へと収束した。
「レシア。」
ジョーは、彼女の方へ向く。そこに飛び込んできた彼女の姿は驚愕すべきものとなっていた。
「よく避けたわね。」
彼女の身体は恐るべき変異を遂げており、肉塊と化した腕から冒涜的な触手を顕現させていた。醜悪としか言い様のないその腕を前に、彼の喉は生唾を飲み込む音を鳴らす。
「ゾッとしねェ。」
「うふふふ……」
二人は並び、ジェット達と少し遅れて研究所に攻め込んだ。
「オラオラオラオラァ!!」
「しつこい連中だ……!!」
目に付いた敵を、次々に潰していく。そんな事をしている内に、敵の数も少なくなっていた。
「っひぃいっ!!れ、レシアッ!!」
腕を触手で無惨に捻り潰された研究員の一体が、触手の主に恐々しながら掌を向ける。それが抵抗の一歩では無いことは、火を見るより明確であった。
「ん〜?」
「な、なぜ裏切った!?」
「裏切る……?うふふ、魔物の世界は弱肉強食……ならば、強い方へつくのが常じゃない?」
今からこの触手に処刑される研究員を哀れみ、嘲笑した。
「……くっ!」
研究員は掌を懐に突っ込み、銃を取り出してレシアに向けた。
「ば、馬鹿な……!あの人間の大人ですらない少年三人が、魔王様より強いというのか!?」
「それはまだあやふやな所だけど……いずれ、そうなるわ。」
「くそっ!!三下サキュバス風情が!!」
研究員は彼女に向けて発砲する。魔力が篭った銃弾は、一直線に彼女の顔面へ向かい、眉間を撃ち抜いた。彼女は仰け反りながら、血のアーチを描く。
「レシアッッ!!」
ジェットが敵を迎撃しながら、声をかける……が、すぐに余計な心配だと確信した。
「アハァ……」
「……な!!?」
ゆっくりと起き上がり、研究員を見る。その額の傷が塞がり、その隣の皮膚が盛り上がった。その部分が頬へ伝わり、触手腕をゆっくり進む。その触手の口が淫靡とも捉えられる音を立てながら口を開き、銃弾を射出した。
「あぁあっ!?」
研究員の手に直撃し、銃を取り落としてしまう。
「それに、もう私は三下なんかじゃないわ……その事を刻みながら、惨めに果てなさい。」
彼女の触手が研究員の全身に巻き付き、断末魔の暇さえ与えずに、その身体を無慈悲にも捻り潰した。何重にも巻きついた狂気じみた青色の触手の隙間から、痛々しい赤黒が流れ出ていた。
「オラァアアアッ!!!」
ジョーが拳に魔力を込めて、思いっきり振る。すると凄まじい拳圧と爆発が発生し、敵陣を消し飛ばした。
「ハッ!!」
ローレンスは手刀で敵を豆腐のように切り落としながら、敵陣をかき回す。彼の巻き起こす斬撃の嵐は、研究所内に血の雨を降らせていた。
「もう全部あいつらでいいんじゃないかな。」
ジェットはそう言いながらも、敵を剣技で迎撃している。しかし、目の前には白兵戦で戦うには多すぎる敵の群れ。それを前にして、息を吐く。
「しょうがねぇな……!付け焼き刃だけど、こいつを試すぜ!!」
彼がそう言うと、呼応するように剣が膨大な光を放った。光は冷気の魔力のものではなかった。それは魔力と言うには神々しく、強大な輝きを誇っていた。
「ブレイブッ……キャリバーンッ!!!」
ブレイブキャリバーンと呼ばれた剣が、突き出される。光は一線に敵陣へ伸び、敵の一体に当たる。すると、周囲の敵にも光が拡散し、その光を追うように絶大な威力の爆発が巻き起こった。
「ぬぉおおっ!?」
「なっ!?」
「すっげぇ……」
「これが、神力なのね……」
付け焼き刃で、敵陣が完全に消し飛ぶ威力。放った自分も、見ていた仲間も驚愕する程の威力。己の身体に宿った力が、とてつもないものだという事だと言うことを再認識させられた。
「……ふぅ。」
敵が、向かってこなくなった……という事は、制圧完了したらしい。四人は臨戦態勢を解いて、辺りを見回す。辺りは力任せに捻り潰された敵、切り刻まれた肉片、焼き焦げた燃えカスが散らばっていた。
「ちょっとやりすぎちまったかな……」
「ヒャハハハ、死屍累々ッてか。」
「……」
ローレンスが資料の一つを手に取り、その内容に目を通した。内容は、以下のものだった──
神力実験記録
12人の人間の孤児を使用。
No.1─死亡
No.2─死亡
No.3─死亡
No.4─死亡
No.5─適合寸前に右腕が肉塊に変異。再実験を検討
No.6─適合
No.7─適合するも、暴走。専用の装備を開発。
No.8─適合。本人希望で、専用の装備を開発。
No.9─適合
No.10─適合
No.11─適合。これまでで一番の成果。
No.12─適合。No.11の適合結果を大幅に超越。
詳細は各実験記録を参照。
「……」
「ローレンス、それは?」
一通り目を通し終わった時、丁度ジェットが声をかけた。
「人体実験記録だ。どうやら、年端もいかぬ子供が使われていたらしいな。」
「……胸糞悪ィ。」
ジョーはそう言い捨て、資料から目を逸らした。
四人は、しばらく研究所を探索した……
「……ほほう。研究所が落とされましたか……」
アルトリウスは、自分の部下達と共にキャメロットから地上の様子を見ていた。
「あ〜あ〜全く、地上の改造魔物は使えねェなァ。すぐに殺られては虫けらみてぇにここで生まれて……」
「言うなモルドレッド。同じ改造でも、我らとは違うのだ……」
騎士の一人に、モルドレッドと呼ばれた騎士は、舌打ちしてからアルトリウスに向き直す。
そのモルドレッドを呼んだ騎士も一緒に、アルトリウスへ向いた。
「どうするのです、母上?このまま研究所をロンゴミニアドで……」
「いや、貴方達の何れかを勇者の迎撃に向かわせましょう。わざわざ、ロンゴミニアドを使う間でも無いでしょう。」
彼女はそう言い、騎士達を端から見ていく。
「ランスロット、ゴーヴァン、モルドレッド、パルジファル、トルストラム……さぁ、誰が行くのです?」
「私が行きましょう。」
名乗り出たのは、トルストラムと呼ばれた弓兵騎士だった。眉目秀麗の顔立ち、その雰囲気は何処か悲しげであった。
「悲しいかな……向こうも、人間同士の戦いになるとは思っても見ませんでしょう。何より悲しいのは、神力の扱いならば私が上な事……彼らはなす術なく、敗北の汚泥の味を知る事になりましょう。」
「そうか、期待しているぞ……」
アルトリウスはそう言い、トルストラムを見送る。彼がこの場から出ると、残った者達は地上の様子を見直した。
「ハッ、随分自信ありげだったなァ!オイ!」
「ええ、それにあのトルストラムの事です。心配は要らないでしょう。」
「人間の希望の象徴……是非、我が手で打ち砕け無かったのが残念だ。」
騎士達は思い思いの事を言い、観戦に徹する。アルトリウスだけは、静かに見ていた……
「……」
「……!!」
ジェットは、いきなり室内で天井を見上げた。それに反応し、ローレンス達も同じ方を向く。
「な、なんだ!?でけぇエネルギーが来る!!」
「馬鹿な、どんな化け物が……!!?」
「オイオイ……!!」
「あ、あんた達よく察知できるわね……私は、今察知できたわ……なんなの、この力……!!」
次の瞬間、天井を突き破って一人の男が降り立ってきた。たった一人、そこに居るだけなのに圧倒される。
「……御機嫌よう、皆様……」
男はゆっくりと立ち上がり、ジェット達を見た。彼らもまた、男を凝視する。
「……なんてこった……!!」
ジェットは、絶句した。人間の男が、圧倒的な力を出しながら立ちはだかってきたのだから。
「円卓の騎士が一人、トルストラム……母上の命令で、ここに参上しました。」
今になって、この研究所の警備が甘い理由が分かった。こうなるからだ……
「貴様一人か?」
ローレンスが一歩前に出て、トルストラムと対峙した。
「悲しいかな……我が力の前では、鬼畜すら泣いて許しを乞う事となるでしょうに……」
「フン、自分から鬼畜などと名乗った覚えなど無いがな……貴様のその雰囲気が気に食わん。故に我が相手しよう。」
「私も、貴方の仮面の下から見える憂いの雰囲気がたまらなく気に入らない……」
両者は向かい合い、その他皆は安全な所へと下がった。
「……ふむ?私を相手に一対一とは……騎士として、感心するばかりです。」
「フン、貴様を倒すのに我一人で充分だと判断したまでだがな。」
ローレンスは構え、その手に魔力を宿した。トルストラムも弓を取り出して、構える。
「……矢が見当たらないが?」
「ふふふ……」
ローレンスの言葉に対し、彼は不敵に嗤う。そうして二人は完全に臨戦態勢に入って、向かい合ったのだった……




