次の敵
「……よくぞ、ゴルゴーンを倒した。」
9世がそう言い、皆の注目を集めた。彼女はジョーとゴルゴーンが戦っている間、特に邪魔する事無く、寧ろ助けてくれたりしてくれていた。
「しかと見届けた……人間の可能性の殻を破った姿。やはり、人間は腐ってなどいない。」
「……お前、何しに来た?」
ジェットは当然の質問を、ぶん投げるように問いかけた。
そう、当然の質問だ。急に敵と共に来たと思ったら、自分達と対峙するわけでもなく、寧ろ自分達を助けたり一緒に解説してくれたりと、目的が見えない事ばかりして……
「……そうだな。敵の実力を探りに来た。と言ったところか。」
「実力だと……?」
「そうだ。そして、私はこの目でハッキリと見せてもらった……お前達の、確かな力を。」
「そうか……お眼鏡にはかなったか?」
「……」
9世は、難しそうな顔をした。眉間に皺を寄せ、真剣な面持ちが更に鋭くなる。
「言いづらいのだが……その程度では、お母様に勝つのは不可能だ。」
「……!」
ジョーが、苛立ちを込めた表情になる。全力で戦った評価が「この程度」では、苛つきたくもなるだろうが、ローレンスが静止した。
一方彼女は、言葉を続けていた。
「しかし、そこまで神力を使いこなせるならば、話は別……このまま戦い続ければ、お前らは光より速く膨張する宇宙が如くに強くなるであろう。」
「……」
「……キャメロットを墜としてくるがいい!それが成された時こそ、我が母との激突の時だ!」
魔王の娘であるはずの彼女は、勇者に道を指し示した。すると勇者達も笑い、応える。
「今、そうしようとしてた所だ!」
「あァ……アルトリウスだか何だかをぶっ飛ばしゃいいんだろ?」
「ああ……我らは止まらぬぞ。」
三人の返事を聞いてから、彼女はレシアの方へ向いた。
「サキュバスよ。」
「は、はひっ!?」
「名を何と申す?」
「れ、レシアですっ!」
その名を聞き、微笑みながら頷く。
「レシアよ……反逆のサキュバスよ。今この場で勇者を裏切ろうものなら、私は予定通りお前を始末するつもりでいた……」
優しげな微笑みの中で、さり気なく恐ろしい事を言う9世。その言葉に、レシアの背筋が凍った。
「ひえっ……」
「……その感情は、間違ったものではない。ゆめゆめ、忘れるな。」
そう言ってから、改めて四人に向かい合った。
「……我が名は、ベリア!現魔王ベリアル8世の娘にして……魔王を終わらせる者だ!!」
「……!それって、どういう……!?」
問おうとしたら、彼女はどこかへ飛び去ってしまった……
「……魔王を終わらせる者……か。」
ローレンスは、ふとそう呟く。
彼女が最後にした自己紹介……それは、魔王の名を棄てると同時に、魔王の廃絶を意味していた。向こうは向こうで複雑な事情がある……程度の言葉ではまとめきれないものがあった。何が起きているのだ、魔王軍……!
「……ガハァアッ!!」
ジョーは跪いてから四つん這いになり、吐血した。今になって、超パワーの反動が身体に来たらしい。
「ジョーッ!!」
「か、体が張り裂けそうだ……!」
苦しそうな表情で、ジェットに訴える。彼は頷いて、ジョーに肩を貸した。
「よ、よし!急いでレシアが言ってた荒廃した村に向かうぞ!」
「ええ!」
「ああ……!」
四人は、急いで村へと向かって行った……
村は少し戦闘の痕がある程度で、大して壊れてもいなかった。
四人はそこら辺の民家に入り、ジョーをベッドにぶん投げる。
「おいおい、怪我人には優しくしやがれ……」
「重いんだよお前!」
今日は大して戦ってもいないジェットが、一番に息切れしながら言う。ジョーの体重は90kg。それに肩を貸しながら歩く彼は、業務用冷蔵庫を運んでいるようなものだ。
「……それにしても、まさか9世様まで出てくるなんて……全く、なんて日なの……」
レシアは椅子に座って机にうなだれ、息を吐いた。ジェット達も椅子を引っ張り、座る。
「9世……もとい、ベリアはあまり表舞台に出ない魔物なんだっけか。」
「ええ。私も、今日初めて会ったわ……でも、魔王の娘って事は私達は敵のハズ……なんで、あんなに友好的なのかしら?」
「俺には分かんねぇな……」
ジェットは、ふとローレンスの方を向く。
ローレンスは観察眼が鋭い男だ。彼なら、何かを見出しているかもしれない。
「……我にも、分からぬ。ただ、とことんまで敵になるつもりは無いという事ぐらいしか読み取れなかった。少なくとも、あの場でウソはついていないように思えた。」
「あァ……」
「ひっ……」
ジェットは頷き、レシアはあの言葉を思い出してゾッとする。彼女、もしかしたら裏切るつもりじゃないんだろうか……
「そして、意味深な『魔王を終わらせる者』という言葉……」
「ああ……どうやら奴さん、母親に刃を向けるつもりらしいぜ。でも、何でだ……」
「やっぱり、色々と謎ねぇ……」
敵の敵は味方……そんな都合の良い事が、起こってくれれば良いのだが。しかし、今は目前の敵に注目するべきだろう。
「今度は、アルトリウスだな……あそこにはヴォシム王妃も囚われてんだ。」
ジェットがそう言い、ローレンスも思い出したような顔になる。
「ああ。今度こそ、お姫様を救出する勇者として戦えるな。」
彼が冗談交じりにそう言うと、レシアがクスリと笑った。
「ああ、そう言えば君達は勇者だったわね……一緒にいると、勇者らしからぬ言動ばかりで思わず忘れちゃうわ……」
「現実はファンタジーみてぇにいかないのさ。」
ジェットはそう言い、改めて話題を戻した。
「レシア、キャメロットの詳細は?」
「空を飛んでる。以上。」
即答だった。どうやらキャメロットという空中要塞、彼女ですらも詳細は分からないようだ。
「あ、そう……さんこうになりました。」
ジェットは、間の抜けた顔で返事していた。その横で、ローレンスが首を傾げる。
「ふむ、敵側の貴女ですら詳細が分からないと……なるほど、こちらはノーヒントで何とかキャメロットを墜とす必要があるとな。」
「力になれなくてゴメンね……でも、私もキャメロットには行ったことがないの。所詮は中級モンスターだったから、敷居の高い所には行けなくて……何とか、詳細が分かれば事前対策が出来るかもしれないのに……」
「……その為に、俺らが今向かってる研究所に行く必要があるんじゃねェか?」
ジョーは寝転がりながら、こっちに向かった。傷だらけで怠そうで、喋っているだけでも辛いだろうに。
「あっ、そっかぁ……」
彼の言う通り、今向かってる研究所に何かあるかもしれない。完全に潰す前に、色々とガサ入れさせてもらうとしよう。
研究所の詳細を知るレシアが、まず口を開いた。
「研究所の警備は大したことないわ。君達なら、一時間足らずで制圧できるんじゃないかな。」
「何故だ?そこそこ重要な研究所の筈だろ?」
「さぁ……?私も、勤務してる際は不思議に思っていたわ……」
「何かの罠かも知れぬ。警戒しておこう。」
こんな調子で、明日の作戦会議が続いたのだった……
魔王城にて、ベリアル8世はゴルゴーンの気の消失を感じ取りながら、誰かと通話していた。
「……ゴルゴーンまで、やられたか。」
「フン……神力を操れない彼女じゃ、勇者に勝つなど無理でしょう……そんな事、分かっていたのでは?」
機械的な声と肉声が半々の、女としての可憐さを残した声の主……アルトリウスだ。キャメロットから通信し、魔王と会話しているのだった。
「ふふふん、まぁ四魔姫に代わる者など沢山居る……焦る必要は、無い。」
「ええ……それに、私にはコレがありますから……」
アルトリウスはそう言いながら、映像を一転させる。そこには、ヴォシム王女が下着姿のまま色々なコードやら何やらに縛られている映像だった。
「ハァッ……ハァッ……!!あ、貴女達……!!こんな事をしておいて、ただで済むと思っているのですか!?」
王女はカメラを睨み、怒声をあげる。しかし彼女の口は、アルトリウスの手によって塞がれた。
「魔王様……神の寵愛を宿した、王族の人間です。この娘からエネルギーを吸い上げ、我が力にすれば……私は、貴方の剣として強くなれる。」
「うむうむ……楽しみにしているぞ。」
「ーーーッッ!!」
王女は首を振って手を振り払い、ギロッとアルトリウスを睨んだ。
「い、いつか勇者が私を助けにここに来ます……!そして、貴女達に罰を与えるでしょう!」
「フン。」
アルトリウスは彼女の言葉を聞き流し、その首を掴む。次の瞬間、彼女を巻き付けているコードに高圧電流が流れた。
「きゃああああああーーーッ!!!!」
「囚われの姫を助ける勇者など、所詮は夢物語……下らぬな。」
そう言いながら手を離すと、電流も止んだ。王女もガクッと倒れ、激しく息切れする。
「……いや、案外そうでも無いかも知れぬぞ?」
笑いながらそう言ったのは、魔王だった。
「……ジェットとやらの事ですか。」
「うむ……恐らく次は、お主を標的に動いている筈じゃ。くっふっふ……」
「ならば、その者を私達が打ち砕きましょう……」
アルトリウスがそう言うと、5人の鎧の騎士が姿を現した。
「……遂に、私達が動く時が来たか。」
「私達を捨てた人間への、復讐の好機……ですね。」
「復讐だぁ?下らねぇ……!まぁ、いつも通り暴れりゃいいんだろ!」
「あァ……我が聖槍をもって、邪悪な勇者を打ち砕くのみ……」
「我が母の脅威、見事に切り伏せましょう。それが我らに出来ること……」
鎧の騎士達は思い思いの言葉を言って、意気込む。みんなやる気満々の様子だ。
「くっふっふっふ……円卓の騎士か……これは、期待できそうじゃな。」
「その期待に、必ず応えましょう……」
アルトリウスはそう言って、通信を切った。
「……さぁてジェット達よ、お主らはあのキャメロットに、どこまで抵抗できるか……見ものじゃな。」
不敵な笑いが、魔王城に響いた……




