破壊されたノーヴェム
「ふぅ、ようやく着いた。」
ジェット一行は、ノーヴェムという村に到着した。しかし……
「……オイ、ジェット。どういう事だこりゃあ……」
「……」
「どうした?」
ジョーとローレンスが見つめる先の光景……それは、凄惨なものだった。
破壊された建物の残骸が立ち並び、まだ肉の残った人骨や腐乱した肉片がそこらに散らばっている。まるで、硝子の嵐に襲われたような惨状が展開されていた。
「……うッわぁ……」
そんな光景を前に、ジェットは絶句する。しかし、ローレンスは冷静であった。
「……今のご時世だ。このような村の一つや二つ、あってもおかしくはない。」
「……」
デュラハーンとアデリアによって半壊した、チイ村……ゴルゴーンによって住民の大半が惨殺された、ブファイ村……それらは、全て「ジェットが来たから」何とか全壊を免れたのだ。
しかし、この村だけは救えなかったようだ。あまりにも、来るのが遅すぎた……
「……あ〜あ、勇者ってのは遅れて登場するモンだとは言われたけど……これじゃ遅すぎるな……」
「気を落とすなジェット……こうなったのも、お前のせいでもない。」
ローレンスは、アンニュイな表情をするジェットにそう言う。慰めの言葉……とは言えないが、それっぽい言葉を貰い、とりあえず頷いておいた。
一方ジョーはというと、死体に魔力を放って燃やしていた。
「フンッ!!」
「何してんだお前。」
「焼けた肉の匂いは好きだが、腐った肉の匂いはキライなんでな……」
「……後で、残った骨を埋めておこう。」
ローレンスがそう言った所で、三人は村の中央に来た。そこで、一息つく。
まだ座れそうなベンチがあったので、そこに座った。
「……じゃ、次に向かうのはここからすぐ西にあるディエチ港?だったっけ。」
「合っている。そこで、どうにかして西の大陸に連れて行ってくれる船を取りたいのだが……」
悩む二人を前に、ジョーがポンと手を叩く。そして、提案をした。
「そこらの漁師脅して、船だけ貰えばいいんじゃねェか?」
「それでは漁師に迷惑だ。」
ローレンスの冷静なツッコミが刺さり、秒で案は却下となった。
「じゃあ、どうすんの?西の大陸行けなきゃ、話にならねぇじゃん。」
「う〜む……ディエチに着いてから、考えるとしよう。」
「さて、今日はここらで休憩すンだよな……」
三人は魔物の群れとの戦いに加えてアラン一行とのバトルもあり、そこそこ疲れていた。休憩するために、宿屋らしきものを探してみる……
「……それにしても、酷いものだ。」
破壊に次ぐ破壊……建物の殆どは破壊されており、もう何が何だか分からない状態だった。
戦闘の痕もあるが……どうやら、戦闘と呼べるものは起こらなかったらしい。
「アハハハハっ!アラン一行はこんな連中と共存するつもりだったのか!」
「言うなジョー。彼らは彼らなりに正義を信じたのだ。」
「あ〜……でも、笑っちゃうぜオイ。先にこの光景を見せていたら、あんなアホらしい戦いしなくて済んだかも知れねぇのによォ。」
「……だな。」
ローレンスは少し思う所があったのか、正直な感想を口にしようとは思わなかった。そんな彼とは対照的に、言いたいことを言いまくるジョー。
「まぁ、先に仕掛けてきたのは向こうだからな。悪く思うなって話で……」
過ぎたことはもう気にしない、ジェット。
それぞれ駄弁りながら、村を歩いてみる……すると、半壊気味ではあるが宿屋が見つかった。
「おお、あったぜ。」
「うむ……お邪魔する。」
ローレンスが先に、宿屋に入った。
すると、どうだろうか。まず最初に僅かな黴の匂いと血の腐った匂いが鼻についた。どうやらここでも、誰か死んでいるらしい。
「異常はない……入れ。」
「ああ……」
「くっせぇ……とても寝れる所じゃねぇぞコレ……」
ジョーが文句を言いながら、ずかずかと先に進む。
階段を上がって廊下に出て、適当な部屋を開けてみた。
「……ア〜〜〜……」
大量の死体……この宿屋に避難してきただろう人間が沢山死んでおり、中にはもう完全に人骨になってしまった奴もある。それを見て唸り、扉をそっと閉じた。
「……?」
ジェットの耳が、ピクッと反応する。
僅かに物音がして、そして掠れた声も聞こえた……生存者がいるというのか!?
「ジェット、どうした?」
「物音がした。この部屋だ。」
「よく聞こえたな……オラァ!!誰か生きてンのかァ!?」
扉を開けた一室……そこには、死屍累々の中心に女性が一人、背を向けて壁に寄りかかりながらも立っていた。それも、かなり汚れた格好で。
「……生存者か!」
「……」
女性は、ゆっくりとこちらに向く。口元は腐乱した肉片で塗れており、目に光はない。僅かに呻き声をあげながら、三人をその目に捉えた。掠れた声を喉から引き出し、口を開けた……
「……もう、行った?」
「魔物なら、居ない……生存者だな?今すぐヴォシムに連絡を……」
ローレンスがそう言いながら歩き出した、次の瞬間……女性はいきなり頭をガンッと壁にぶつけた。相当な力でぶつけたようで、血が噴き出している。
「ッッ!!?」
「……」
もう一発ぶつけると、今度は鈍い音が響いて頭が裂け、そこから脳の破片がぶちまけられた。そして倒れ、息の根が止まった……
「……オイオイ……」
「な、何があったというのだ……」
「こりゃあ傑作だぜ……おおかた、何かめちゃくちゃショックな事があったのか……はたまた、もうイカれちまったのか……」
ローレンスは、女性の死体の近くに寄る。脳がぶちまけられた死体……その側には、下半身を齧られた赤子の死体が腐っていた。
ジョーが彼の隣に来て、それを見る。
「……モンスターが、赤子を……?」
「違う、この女性が食ったのだ……噛み跡からして、死んでから食っている。」
「……」
ヒュ〜と口笛を吹いて、驚く表情を見せるジョー。冷静に部屋を見回すローレンス……
「おーい。二人、ちょっと。」
「む?」
「ンだよ。」
「さっき、ローレンスは『魔物は行った』って言ったじゃん?」
「うむ……それがどうした……?」
「それ……どうやら、ウソみてぇだぜ。」
「なにっ!?」
三人は、そこらの窓から外を見てみた。
外では、戦闘タイプでゴリゴリの中級モンスター達が派手な上級モンスターを囲んでそこら辺を見回っていた。
「……私達が制圧した所に、ネズミが紛れ込んだって話じゃない。探して捕らえなさい。」
「ハッ!!」
武装したデーモンが、そこら中の建物に入ってきた。当然、この建物にもだ。
「どうする?」
「な〜んか、やる気になれねェな……」
「ふん……」
構える三人の前に、デーモン達が現れた。
「居たぞーーーッッッ!!!」
ジャキジャキッと、ショットガンやらマシンガンやらを向けられる。数十もの確実な殺意を向けられるが、三人は動じなかった。
ジェットが、ヘラヘラしながら歩き寄った。
「おいおい、ちょっとここを通りかかっただけの一般ピーポーに、そんなモン向けるわけ?」
「ハッ、人間など皆殺しだ!死ねぇえっ!!」
一体がそう言って、放ったショットガン。その弾はジェットも後ろの二人もすり抜けた。
「なにっ!?」
三人は、消えていた。姿形も煙のように消えた人間達に、デーモンは動揺する。
「な、なに……!?」
「どこに行った……!?」
ざわつく、デーモン小隊……その真上で、三つの魔力が爆発した。
「ッッ!!?」
「上っ!?」
「せーーーのッッッ!!!」
三人の掛け声が響いたその瞬間……宿屋が大爆発した。
「!!!?」
外にいた上級モンスターは驚き、そちらに向く。凄まじい衝撃に加え、熱波と寒波と斬撃が拡散した。
「くっ!?」
「いたっ!?」
「熱いっ!」
「冷た……」
魔力の波動に、揺らぐデーモン達……その前に、三人の影が現れた。当然、ジェット達だ。
「な……お、お前は……!!」
「この村はお前が襲ったんだな……?」
ジェットは、上級モンスターを見る。
あ〜、特徴からしてデーモンの上位種……デビルだな。ゴルゴーンよりゃ強くないのは分かるけど……
「勇者ジェット……まだ生きていたのか!?」
「ゴルゴーンに殺されたかと思ってたか?残念、この通りピンピンしてますよ。」
「……なるほど……しかし。」
デビルは大きな胸を揺らし、ニヤリと笑う。そして、指パッチンした。すると、デーモン二体がジェットの左右に高速移動してきてショットガンを向けてきた。
「それならば、私達がここで始末するのみだ……」
「散弾銃で、この俺がどうにかなるとでも?」
「ふふふ、馬鹿め……我ら魔物が使う銃器、ただの銃器だと思うか?ソレには魔力回路が組み込まれて、使用者が込める魔力量によって威力が変わるのだよ。当然、貴様らの知る散弾銃の威力など遥かに超える……まぁ、一発試してみるがいい。その一発であの世行きだがな……」
「ああ……」
次の瞬間、ジェットの両腕が消えた。それと同時に、デーモン達のショットガンが横から打突され、急すぎる衝撃にデーモン達の手を離れて回転する。銃口が二体の頭を捉えた所で、回転は止まった。
「!!」
「ぇ……!?」
次の瞬間、引き金が引かれて二体の頭がミンチになりながら吹き飛んだ。
「……おぉう、本当だ。確かに、一発であの世行きだな。」
ジェットがショットガンをクルクル回しながら、ぬけぬけと言う。
「……貴様ッッ!!」
「殺れぇええっ!!!」
デーモン達が銃を構えた瞬間、その指が次々に切断された。
「あっ!?」
指が切り落とされ、銃を取り落としてしまうデーモン達……その頭が、拳で粉砕された。
「なぁあっ!?」
「ヒャハ!!」
「せりゃああっ!!」
ジョーとローレンスが、次々とデーモン達をかき回すように倒していた。二人によって瞬く間にデーモン達は壊滅し、とうとうデビル一体だけになってしまった。
それを見ながら、ジェットはデビルに向く。
「……さ、どうする?」
「ぐぬぬ……」
デビルが、わなわなしていると……不意に、上空から気配を感じた。両者ともそれを感じ、そこに目をやると……少女が居た。
「なんだ……!?」
白い肌に悪魔のような角が生えてる少女だった。ジェットは何が何だか分からずに見ているが、取り乱しているのはジェットだけではなかった。
「ま……魔王様っ!!」
「ハァ!?」
デビルの言葉に、ジェットが驚愕した。いや、ジェットだけではなくジョーとローレンスも驚いていた。
「なんだと……!?」
「アレが魔王……?まだ、年端もいかぬ少女じゃないか!」
ローレンスの言葉に反応し、そっちに優しい笑みを向ける。そしてジェットの方に向き直し、降り立ってきた。そうして、正面に立った。
「くふふふ……少女か……まだ、そんな見た目に見えるかのう。くすくすっ……」
「……!」
相手の戦闘力を判断する、勘……それは、時として戦いの技術以上に大事なものとなる。ジェットのソレは、もはや神懸り的な境地に達している。
その彼の勘が……本能が、全細胞が、叫んだ。『こいつ、ヤバいッッッ!!!』と。
「ま、魔王様……なにゆえ、ここに……!?」
「なぁに、最近そこらでイキがる若造の噂を耳にしてのう……ちょいと、お灸をすえてやろうかと思ってな。」
「……マジかよ。」
ジェットの背筋に、悪寒が駆け巡る。勇者になってから、何度目の『勇者になんかならなきゃよかった』だろうか……?
「……ヒャッハッハッハッハッハ!!好都合じゃねェか!!」
ジョーがジェットの隣に来て、言いながら大笑いする。
「テメェを倒せば、この冒険もとっとと終わるって事だな……上等だ、やってやろうじゃねェか……!!!」
「ほほう……?余を前に、そこまで言える人間は初めてじゃ……」
ジョーは、早速本気でやるらしい。
いや、当然だ……本気でやらなきゃ、確実に死ぬ。一瞬でも気を抜いたら、それこそゲームオーバーだ。
「……やれるだけの抵抗はしよう。」
ローレンスもジェットの隣に来て、仮面を外した。その仮面を、そこらに引っ掛けておく。
三人は本気で戦う態勢をとって、魔王に向いた……
「アイギルよ、この場は外してほしいのう。」
「はっ!」
アイギルと呼ばれたデビルは、転送魔法を使って姿を消した。
……あいつ、アイギルって名前だったのか。
そう思っていると、魔王は首をゴキゴキ鳴らし、構えた。
「余の名は、ベリアル8世……この星の魔物の頂点に君臨する、魔王ぞ……名乗れい。」
「ジェットだ。」
「ローレンスだ。」
「テメェに名乗る名なんぞ無ェ。」
「あ、こいつはジョーです。」
態度の悪いジョーを、ジェットが指す。ベリアル8世は頷いて、微笑みながら歩み寄った……
「ジェットよ、ローレンスよ、ジョーよ……余が、徹底的に教え込んでやろう。どう足掻いても、人間は魔王に勝てはしないと……」
唐突に現れた、魔物の王。三人は、戦闘を余儀なくされた。
まともにぶつかり合えば、敗北は必須……さぁ、どうなるか。




