惨劇
正義をかなぐり捨てた、ジェット達。
正義を信じて闘う、アラン達。
二組は、今改めて激突する……
「いくぞぉおっ!!」
アランは剣を抜き、素手のジェットに向かう。剣が振り下ろされ、ジェットの肌に触れる……その瞬間、異変が起きた。
「!!?」
顎を打突され、後退してしまった。いや……
先に当てたのはこちらにも関わらず、当てられた!?
「……シュッ。」
ジェットの拳が、また顎を殴る。それも、さっきより速いスピードで。
「!?」
高速で顎を打ち抜かれ、脳震盪を起こして揺らぐ。
「ホラよ。」
顔面に肘を入れて、思いっきりぶっ飛ばした。アランの顔面から鼻血が噴き出し、滝のように流れ出す。
「ッ……!!?ガハァッ!?ぐっ……!!?」
「アランッ!!」
マナミが寄り、回復魔法を施す。出血が止まって、何とか立ち上がった。
「回復役は、面倒だな……俺が出よう。」
素顔のローレンスが出てきて、マナミに寄る。引き続き、マナミと闘うつもりらしい。
「マナミに手は出させ……」
「邪魔だぜてめぇ。」
金龍の顔面を、ジョーが掴んで持ち上げる。
「!!?」
「だッッ!!」
そのまんま、片手で背負い投げた。小さなクレーターが大地に刻まれ、金龍の体はバウンドして倒れ込む。
「がはぁあっ……!!?」
「……来いよ武道……本物の力って奴を教えてやる。カァアッ!!」
ジョーは全身に力を込める。その筋肉の膨張や魔力の波動で、上半身の胴着が吹っ飛んだ。
金龍は立ち上がり、そんなジョーに向く。額に青筋を立てて、浮かび上がる限りの怒りを拳に乗せた。
「剛ォオオオッ!!!」
重い拳が、ジョーのボディに釣瓶打ちされる。
「……!」
金龍の感じた手応え……
修行時代、石の柱をひたすら拳で叩くという修行をしていた。未熟ゆえに、硬い石の柱を叩く拳は数分で傷ついてしまう。
その硬い石の柱が……まず、鋼鉄にすり変わる。その鋼鉄に、道路工事作業で使うような重機のタイヤのゴムを被せたような……そんな手応えだった。
「ッッ……!!?」
「ヂャッッッ!!!」
ジョーの超スピードの足刀が、耳の辺りに当たって頭部を打ち抜いた。初期動作が全く見えない攻撃に対応出来ず、直撃を許してしまった。
「ッッッッ!!!?」
倒れ伏しながら、ダメージに悶えた。たった一発、たった一発だけ蹴られたのに、もう既に目や鼻から血が垂れている。視界がグラグラ揺れ、マトモに立てない。三半規管もやられてしまったらしい。
「ぁ……ぐっ……あが……!!!」
「オイオイ、どうした?反撃が来ねェな……愛する人を護る力ってのは、そんなモンなのかい?」
ジョーはニヤケながら、倒れ伏す金龍を見下す。
「金龍っ!!」
「フンッ。」
走り出したマナミのアキレス腱に、ローレンスの斬撃魔法が入った。
「ァッ!!?」
転んでしまい、地面に顔面から激突する。しかし、すぐにアキレス腱を回復魔法で直し、立ち上がった。
「おっと。」
すると、また斬撃がアキレス腱に入った。今度は、足首の関節の骨にまで入ってる。
「〜〜〜ッ!!!!」
激痛に悶絶するマナミに、ローレンスが飛びかかる。そして、足でその耳をハスった。
「あぎゃあああっ!!?」
「ぐ……ま、マナミ……!!」
「ヒャッハァ!!」
呻く金龍の前で、ジョーがマナミの顔面を蹴り上げた。
「あ、あが……!!」
鼻が潰れ、前歯も折れる。美麗だった顔が、大量の鼻血で汚れた。
「ジョー、この女は俺が相手をしていた筈だ……」
「まぁ見てろって。」
挑発するように、ジョーが金龍の方を向き直した。
「ホラよ金龍さん!とっとと護らねェと死んじまうぜこの女!」
「~〜〜ッッッ!!」
金龍は立ち上がり、ジョーに突っかかる。
「このクズがァアアアッッッ!!!」
そうして放たれた、渾身の正拳突き……は、アッサリと躱された。
「……ッッ!!?」
「トロい拳だな……」
「なんだとッッ!!でぁああああッッ!!!」
激昴した金龍は、猛烈なラッシュを仕掛けてくる。それを避けず、全て直撃する……が。
「ッッッ……!!?」
「痒いぜ……ちゃんと力込めてるのか?」
ジョーは、全く平気そうな表情でニヤついていた。そのニヤケ顔に、遂に怒りが最高潮に達する。
「〜〜〜ッッ!!」
金龍は、人中を一本拳で穿ちにかかる。しかし、それは避けられ、接近を許してしまう……
「オラァッ!!」
カウンターのローキックが、金龍の両足を打つ。鈍い音が響き、両足のスネが開放性骨折し、血が噴き出した。
「ーーーッッッ!!!?」
両足が使い物にならなくなり、あえなくダウンした。足からはドクドクと血が流れ、血溜まりになる。
「き、金龍っ!!」
「あぐぅうっ……う、ぐぅううっ……!!」
回復魔法を施そうとするマナミの手……その手に斬撃が入り、切り落とされた。
「あぎゃああああーーーっ!!!」
女とは思えない程の、けたたましい絶叫。喉が潰れそうな声を出しながら、手からは血を噴き出している。
その状況を前に、アランとアシェルの動きにキレが出てくる。
「よくも、よくも大切な仲間をあんな姿に……!!」
「許さない……同じ姿になって、反省しなさいっ!!」
苛烈な猛攻にも関わらず、ジェットは未だに傷一つついてなかった。二対一にも関わらず、かすり傷ひとつ許していない。
「俺だって、お前らを絶対に許さない。」
「なんだと……!?」
「自分たちの正義を一方的に押し付けて、俺らを潰そうとするテメェらを絶対に許さないッつってんだ!!」
ジェットの足が消えて、アランの左手とアシェルの腹が爪先で打突された。
「ぐぁあっ!!」
「がはぁああっ!!」
アランは左手が砕け、指がひしゃげる。アシェルはぶっ飛び、腹を押さえながら吐血した。
「ぁ……あ……!!」
「どうだ?今まで骨折なんかした事あるか?」
「こ、こ……のッ!!」
アランは剣を右手で持ち直し、斬り掛かる。しかしジェットの容赦ないハイキックが、アランの左手を蹴り上げた。
「あぁあーーーっ!!!?」
攻撃どころではない激痛に、剣を放り出して左手を押さえ、悶絶する。ジェットはその様子を、「やれやれ」と見ていた。
「おいおい、何て声出してやがる……喧嘩で相手の弱点狙うのは、基本中の基本だろうがよ。」
「ぐッッ……うぅッッ……!!」
「アランッ!!」
アシェルが、駆け寄ろうとする。しかし、その前にローレンスが立った。
「どきなさいっ!!」
杖を回して魔力を解放し、炎を噴射する。が、既にローレンスは消えていた。
「な!?」
高速移動で炎を避け、アシェルの右側面に回り込んだのだ。手刀を構え、魔力を纏わせる。
「その乳、目障りだなぁ……」
「……ッッ!!?」
次の瞬間、アシェルの大きな乳房が切断された。脂肪の塊が宙を舞い、べちゃりと地面に落ちた。
「あ……ぁあ……む、む……ね……!!」
「フンッ!」
ローレンスの手が、アシェルの胸筋に差し込まれる。その手を一気に下に押し下げた。
「!!!!」
肋骨が折れる鈍い音が、何度も鳴った。その手は鳩尾辺りで止まり、抜かれる。既に肋骨がボロボロで、内臓の数カ所を傷つけていた。
「オッラァア!!」
ジョーが、アシェルの鳩尾を思いっきりぶん殴った。折られた肋骨が内臓に叩き込まれる。
激痛とショックのあまり、彼女は白眼を剥いて「ガハァッ」と大量に吐血し、膝から崩れた。
その返り血を顔に受け、ジョーは鳩尾から拳を引き抜く。すると、彼女も倒れた。
「まずは一人……ッて所か。」
「アシェールッッッ!!!」
「よそ見してる場合かよテメェ。」
ジェットはポケットに手を突っ込んだまま、アランに歩み寄った。惨劇に目も向けずに悠々とする彼を、アランは許せなかった。
「アシェルは、僕の恋人だ……!!絶対に、絶対にゆるさ」
ここで、蹴りで顎を打った。アランの口内から、「ザクッ」という音が鳴る。
「ーーーッッッ!!!」
「あーあ、舌噛み切ってやんの……」
血をダラダラ垂らす舌を出しながら、悶絶している。もう、こうなったら勝負どころではない。
「ぐ……ぅうっ……!!」
「あ、アラン殿……!!」
「アラ……ン……!!」
血塗れになり、ボロボロになった状態の三人を、ジェット達が見下ろした。
「来いよ三人。」
「三対三……条件は対等のハズだ。」
「ダメージ負ってるのはお互いさまだ。文句言うんじゃねェぞ。」
「う……っぐ……!!こ、このぉおお……っ!!」
恋人を傷つけられた怒り……仲間を傷つけられた怒り……ジェット達の外道っぷりの怒り。それらの怒りが魔力に変わり、アランの剣が炎上する。その剣で渾身の力を込めて、斬りかかった。魔力が爆発し、濃い爆煙が辺りに立ち込める……
「……!」
「……」
ジェットの剣が、アランの一撃を止めていた。あっけなく、アッサリと。
「そ、そん……」
「はっ!!」
剣を振り、右手首に斬撃を入れる。それで右手は切り落とされ、遂にアランは丸腰になってしまった。
「ぁ……!!?」
両手が使い物にならなくなり、後退するアラン……その前で、ジェットは剣を投げ捨てた。
「なぁ勇者さん……命のやり取りってのは、正義感だけで乗り越えられるほど甘くねぇんだよ。」
ガラ空きになったボディに、ドスドスドスッとパンチを叩き込む。拳が当たる度に骨が折れて、肋骨は全壊した。
「ましてや、正々堂々の戦いなんて有り得ねぇ。」
両手で手刀を作り、手首の辺りで顎を打った。両顎の関節が粉砕し、顎が外される。
「息の合った、魅せる戦いも存在しねぇ。」
足を振って、両の膝に蹴りを叩き込む。膝の皿を砕いて、跪かせた。
「技術を巧みに使った、上手い戦いなんてもっての他だ。」
そう言って、拳から人差し指と小指を立てる。その手で、目を潰した。
「こういう身も蓋もない攻撃とか……」
「ーーーッッッ!!!」
目から指を引き抜き、今度は拳にする。その拳に全力を込めて、顔面をぶん殴った。
顔面の骨が拳の形に凹み、骨の破片が脳を傷付ける。
アランは完全にダウンし、起き上がる事はなかった……
「……こういう派手な攻撃とかが飛び交う、凄惨な戦いなんだよ。」
そう言いながら剣を拾い、鞘へ納めた。
「ぁ……あ……あ……!!」
それを見ていたマナミは、腕を必死に動かしてジェット達から逃げようとする。既に恐怖で怯え切っており、涙を流しながら失禁していた。
「やはりな……貴様らは偉そうに俺達に正義を押し付ける割には、自分からは何も差し出してはいない……反吐が出るッ。」
ローレンスが青筋を立てながら、マナミの方に歩み寄る。しかし、その両足は金龍に掴まれた。
「ぐ……っぐぅ……!!マ……ナミ……!!今のうちに……」
「シャアッッ!!」
ジョーは、ローレンスの足を掴む両腕に踵落としした。腕の骨は折れて、折れた骨が皮膚を突き破って飛び散る血と共に露出する。開放性骨折だ。
「ーーー!!!」
両腕も使い物にならなくなり、ローレンスの足を離してしまう。
「俺達に喧嘩を売ったこと……後悔するのだな!」
ローレンスはマナミの足を掴んで、上空に投げ飛ばす。
「きゃああああ……!!!」
落ちてきた所で、拳を突き上げた。その拳に斬撃属性が纏われて、歯医者で聞くようなあのドリル音が鳴る……
「……斬空血裂拳。」
ドリルのようにマナミの背中を突貫し、腹から拳が抜けた。血や肉片がスプリンクラーのように飛び散り、ローレンスはそれを一身に浴びる。
「ふん。」
拳を引き抜いて、蹴り上げる。遥か後方に蹴飛ばされ、ドシャッと倒れ込んだ。
「ま、マナミーーー」
「喧しい、叫ぶな!!」
ジョーは金龍の後頭部を踏んで、顔面を地面に叩きつけた。体はビクンビクンと痙攣してから、ガクッと崩れる。顔から血が滲んで、血溜まりが出来た……
アランは上半身を破壊され、失明。
アシェルは胸を切り落とされ、折れた肋骨が内臓に叩き込まれる。
金龍は四肢が開放性骨折して、頭を踏み抜かれる。
マナミはアキレス腱を切られ、腹を貫かれた。
これだけやっても、死んでる人間は誰一人居ない。放っておけば当然死にはするが、およそ人体が絶命を免れるギリギリで破壊し尽くしたのだ。
立っていたのは、ジェット達だった。
「……アラン一行、倒れたな。」
「ああ……」
ローレンスは仮面を拾って、着ける。
勝利の後の余韻……という気分ではなく、ジェットとローレンスの二人は難しそうな表情をしていた……
「……我らが成したことは、正しかったのか?」
「向こうから仕掛けてきた喧嘩だけどな……」
ここで、ジョーがジェットの方を見て笑った。
「俺達が正しいか正しくねェかはどうでもいい……確かな事は、喧嘩を売られたので返り討ちにしましたって事だけだ。」
「そうだな……」
「そもそも、正義に絶対的な答えは無い……押し付けること自体が間違いなのだ。」
ローレンスがそう言い、眼鏡のように仮面を整える。その表情は、どこか憂いを秘めていた。
「正義を信じて戦う事は、立派な事だとは思う……しかし、戦いは戦いだ。ある程度の覚悟をする事が必然になる。」
「覚悟……?」
「踏みにじられる覚悟……倒される覚悟……傷つけられる覚悟……押し付ける意気はあった癖に、潰される覚悟が無かった……ジェットよ、今までのお前は戦いの最中にどんな怪我をした?」
いきなり問われて、ジェットはしばらく考える……そして、思いついた順に言ってみた。
「……斧でぶった切られたり、何回も爆発したり、槍で肩貫かれたり、腹に穴開いたり……学園時代の喧嘩とか掘り返すとキリないから、こんぐらいかなぁ。」
「そんな怪我を負った時、お前は逃げたか?」
「いや、逃げねぇよ。戦いで怪我する事なんか当たり前なんだから。勝てない戦いじゃない時は、必死で戦ったよ。」
「……要するに、そういう事だ。相手に正義を押し付けるというのに、自分だけは無事で居ようとする……敗けて当然だ。覚悟無き正義など、何の意味も持たぬ。」
「まァ……」
ジョーが頭を掻きながら、また笑った。こんなムードだというのに、こいつだけはなんだか楽しそうだった。
「ジェットの戦いがどういう事だったか知らねェけどよ。今回のコイツらは相手が悪かったって事でいいんじゃねェか?ヒャハハハハハ!」
「ああ、うん。もうそれでいいや。」
「……全く。」
話を終えて、三人は改めて進行方向を向いた。ノーヴェム村が、遠くに見える。
「なんか足止めくらったけど、ひとまずは解決した!よっしゃ、行くぞ!」
「ああ……急ぐぞ。」
「だりィ〜〜……」
ジェット、ローレンス、ジョー……三人は、正義について思い思いの感情を抱く。
そして、改めて旅を再開したのだった……




