勇者としての在り方
「僕は……お前の勇者としての在り方を認めない。どうあっても、お前の在り方を認める事は出来ない。」
アランの正義が、なりふり構わずジェット達に牙を剥いた。
「ジェット……!我らに、このような愚かしい事をしている時間はない!一刻も早く……」
「構えとけローレンス!もうアイツらは、俺らの敵だ!」
「ここは治外法権……死ぬまでヤレるぜ。」
既に臨戦態勢を取ったアラン一行を前に構える、ジェット一行。正義のぶつかり合いが、火蓋を切った……
二組はぶつかり合い、攻防を開始した。
「覚悟ッッ!!」
アランの剣が、ジェットに振り下ろされる。それを受け止め、鍔迫り合いに発展した。
「っぐ……!!?」
「おぉおお……!!」
鍔迫り合いで瞬く間に力押しされ、突き飛ばされてしまう。その瞬間、胸に斬撃が入り、流血した。
「……っ!」
「てやぁあっ!」
アランは勢いよく踏み込み、突きでの一閃を放ってくる。それを脇腹に掠らせながら避けて、構え直した。
「……っなるほど、勇者なだけある……主張が違ってなきゃ、いい同業者になれたのによ。」
「ああ、同感だね。」
既にアランは背後におり、そう声をかける。
「!?」
この俺が、高速移動で背後を取られた……!?
「火炎斬!」
アランの剣が炎上し、その剣で切りかかる。何とか振り向きざまにそれを受け止め、踏ん張った。
「ぐ……!!」
「せいっ!」
「うッ!?」
膝を蹴られ、体勢を崩してしまう。崩れた体勢目掛けて、兜割りが放たれた。
「くっ!」
それを受け止め、足払いする。それは命中し、アランはすっ転んだ。
「なにっ!?」
「っく!」
後転し、構える。アランも起き上がり、突進してきた。
「おっらぁあああっ!!」
「うぉおおおっ!!」
剣と剣が派手な金属音を立てながらぶつかり合い、火花を散らす。
「くっそ!」
「っぐぅ!」
剣技での実力は、ほぼ同じと見てもいいらしい。しかし、ジェットにとっては困った事が起きていた。
自分のペースに持ち込めない。攻撃が激しすぎて、仕掛ける暇がない。
「どうした!?ドラゴンを倒したあの力を見せてみろっ!」
「簡単に言ってくれちゃってぇ……!」
攻防が続き、二人の一撃が激突する。その衝撃で体がぶっ飛び、距離を離す事になった。
「はぁあッッ!」
アランは既に兜割りしようと、剣を振りかぶって跳び上がっていた。
「うそっ!?」
「くらえっ!」
その兜割りをバク転で避けて、向かい直す。しかし、既に薙ぎ払いが目の前に迫っていた。
「ちっ!」
髪を掠らせながらしゃがんで避け、踏み込んで懐に入り込む。それと同時に、剣を腰に構えた。
「シュッ!」
腰を引いて、渾身の居合切りを放つ。けたたましい金属音と共に、アランはぶっ飛んだ。
「く……!」
アランは無傷だが、剣を持つ手がビリビリと痺れる。その剣の刃からは、僅かに煙が出ていた。
……ッ防御やがった!あの完璧に決まった反撃の居合切りをッッ!!
「つぇえいッッ!!」
「!!」
驚きで硬直してしまったジェットの脇腹に、突きの一閃が入った。血が「ブシューッ」と噴き出し、激痛と猛熱が出現する。
「っぐぅううッッ!!」
そうだよ。刃物で斬られると、痛いんじゃなくて熱いんだよ……こんな風にッ!!
「っ……!」
アランは、ジェットの方を見る。彼にとっても、予想外の事が起きたのだ。
確かに鳩尾を狙って突いたはず……なのに、出血したのは脇腹……!?まさか、刃が当たった瞬間に、咄嗟に回避したというのかッ!?
「この……!」
「ちょ、ちょ、タンマタンマ!今止血中!」
片手で剣を持ち、もう片手で脇腹を押さえて傷を凍らせようとしている。そんな状態にも関わらず、アランはこちらに斬りかかってきた。
剣を剣で受け止め、また鍔迫り合いになった。純粋な筋力ならこちらが上らしいので、何とか押し合いは出来るが……
「アシェルっ!!」
「ええ!」
アランが声をかけると、ジェットの背後にアシェルが来た。杖に魔力を込め、何か凄い魔法を出そうとしている。
「フレアボールっ!!」
そこそこ高威力の炎の玉が、ジェットの背中に向かって飛んでいった。このままだと、アレに当たってしまう……!
「む……!?」
ここで、マナミと攻防していたローレンスが気付く。
「よそ見をしている暇!?」
「邪魔だっ!!」
蹴りかかってくるマナミを突き飛ばし、走る。
「ジェットッ!!」
「おお、ローレンスっ!」
間に入り、フレアボールを弾き飛ばす。そして、アシェルの所へ突進する……が、その目の前に棍が突き刺さった。
「にっ!?」
踏みとどまり、硬直してしまう。その硬直が、命取りになった。
「はいやっ!」
マナミがやってきて、ローレンスの顔面に飛び蹴りした。直撃して倒れるものの、後転して立ち上がって構え直す。
アシェルとマナミは、並んで武器を構えていた。
「二対一ね……」
「ロー君……そっちは男の子で私達は女の子なんだから、卑怯とは言わないわよね?」
「……っ!」
二人はローレンスに迫り、猛攻してきた。どうやら二人とも武道の基礎はあるらしく、素手でもそこそこ戦えそうな様子だった。
猛攻を必死に防御しながら、ローレンスは何とか説得してみようとする。
「ぐ……女人の貴女がたなら分かるはずですっ!我らがこのような事をしているのが、どれほど愚かな事か!どれほど無駄な事か!どれほど野蛮な事か!」
「それは、君だって同じよっ!!」
アシェルの杖が、ローレンスの腹を叩く。ダメージがモロに入り、吐血してしまった。
「魔物とは言え、命を大事にしない勇者なんて関心はできないわ。僧侶としてね。」
マナミは棍を槍のように構え、高速で突いてくる。体の節々を鋭打され、揺らいだ。
「くらいなさいっ!ファイアシューター!」
揺らいだローレンスに、容赦なく魔法が襲いかかる。小さな火の玉が、無数に飛んでくる魔法だ。
何とかそれを次々に弾き飛ばすが、どんどんと後退していく。
「はいっ!」
「!」
火の玉の嵐の中から、マナミが強襲してきた。跳び上がって、美しい健脚でこめかみに回し蹴りを叩き込む。
「っぐぁ……!」
鼓膜を劈くような回し蹴りに、ローレンスは揺らぐ。耳を押さえ、何とか持ち直した。
「っぐ……それほどに、あの男の正義は尊いものだと……!?我らを踏みにじってまで、通したい正義だと言うのか!?」
「当然っ!!」
「私達は、アランの仲間だからっ!!」
二人の一撃を、腕で受け止める。そうして、押し合いになった。
「っぐ……!!」
ジェットとローレンスが苦戦する中……ジョーは、金龍と戦っていた。
「ガァアアッ!!」
「ふんっ!」
力任せの拳と、武の奔流を宿した拳がぶつかり合う。衝撃が相殺されるが、ジョーの腕に衝撃が駆け巡る。
「ぐ……!?」
「しゃあっ!」
足刀が、揺らいだジョーのこめかみに炸裂する。
「ウグ……!!」
よろめくが、何とか踏ん張って持ちこたえる。踏ん張った足を思いっきり振り上げて、ハイキックを放った。
「甘い。」
ハイキックを避けて、ジョーの金的を蹴ろうとする。
「アホウ。」
その瞬間に、金龍の顔面に踵落としを放った。
「!」
金龍は足を引っ込めて、咄嗟にスウェイバックした。目標を逃れた踵落としが、地面を粉砕した。
「チッ……」
「……ッ……」
ハイキックは率先……本命は、踵落としか。喧嘩に生かしておくには惜しい。
「何故その力を、護る事に使わん……!?」
「俺に護るものなど無い!!」
「自らにとって尊きものを、何故見出そうとせん!?」
「ヘッ……じゃあ、問おうか!貴様の尊きものとは、なんだ!?」
「……フ。」
金龍は笑い、マナミの方を見る。彼女もこちらを見て、ニコッと笑った。
「……私には、愛するものが居る。」
「……それだけか!?」
「それだけ……だがッッ!!」
金龍は高速移動で消え、一瞬でジョーの眼前に接近した。
「せいっ!!」
「っ!!?」
正拳突きが胸に直撃し、思いっきりぶっ飛ばした。5、6mはぶっ飛んだのだろうか。そこでようやく倒れ込んだ。
ジョーは起き上がりながら、口から垂れた血を拭う。
「ぐぬぅ……!!」
「どうだ?ジョー殿……これが、武というものだ。護るための技術……護るために闘う技術だ。」
「それがどうしたァ!!?」
拳を握り、ダッシュして全力で金龍に殴り掛かる。しかしそれも避けられ、拳を突き出し体が一番に伸びた瞬間、項に手刀を入れられた。
「あぐぅうっ!?」
ダウン寸前で踏みとどまり、血眼で金龍を見直す。そして、猛獣のように襲いかかりパンチとキックを連打した。しかし、そのことごとくが受け流され、止められ、弾き返され……と、対応されてしまう。
「君が振るうような不当な暴力に立ち向かう為に編み出された武道というものを掲げている以上……そして、護るべき者がいる以上、私は君を見過ごすことはできない!」
「ほざけェエエエッ!!!」
腕に全力を込めた薙ぎ払いが避けられ、水月に正拳突きが叩き込まれた。
「ごっはぁあ……!!?」
「フンッ」
それに続き放たれた拳が、ジョーの顎の先端を打ち抜いた。脳震盪を起こし、膝から崩れ始める。
「せいっ!!」
顔面にハイキックが入り、目覚めさせられた。鼻血が勢いよく噴き出し、アーチを描く。
「っぐ……!!」
「気絶などという生半可なやり方をするつもりは無い。徹底的に、叩き直させてもらうぞ……」
押され気味に、一方的に叩きのめされるジョー。その顔が苦悶の表情に染まり、焦り気味に汗を垂らす。
敗ける……!?この俺が、武術を相手に……!!
「ク……!!」
ジョーだけではない、ジェットとローレンスも押され、ダメージを負ってしまう。
「ぐ……!」
「はぁっ……はぁっ……!」
悔しさをバネにでもして、強くなりやがったのか……はたまた、自分の正義を信じて戦うから強いのか……どちらにしろ、勇者としての格は上だと認めざるを得ない。
「ぐはぁあっ!」
「ぐぬぅうっ!」
ジョーとローレンスはぶっ飛ばされ、ジェットの左右に倒れ込んだ。ローレンスはぶっ飛んだ勢いで、仮面が外れてしまう。
「ッッく……!!」
「あ〜あ〜……ジェット、どうする?」
「どうするも、へったくれも無い……」
今目の前に居る勇者達は、自分達より勇者としての格が上……それは、認めなければならない事実のようだ。
「……分かった。もう降参だ。俺達は、敗けました。」
ジェットは剣を地面に投げ捨て、手を上げた。それを見て、アラン達も意外そうな表情をする。
「……分かってくれたのか?」
「ああ……よーく分かった……勇者として、お前が上なのはもう痛い程分かった……」
アランも、アランの仲間も、ほっと胸を撫で下ろした……
「そうか……もう、魔物達の必要以上の虐殺は、しないんだな……?」
「……」
ジェットは、左手を差し出した。どうやら、握手をするつもりらしい。
「……!」
アランは剣をしまい、ジェットと握手をした。嬉しそうに手を握り、力強く握手する。
分かってくれた……!
そう喜び、ぎゅっと手を握って振る。ジェットも、笑顔を浮かべてアランの方を見た……
「悪いね……俺、左利きだからさ。」
「ううん、気にしないよ!」
アランも笑顔を返し、握手を続ける。これで、双方は和解できたのだ……
「……左手の握手の意味を教えてやろうか?」
「え?どんな意味があるんだい?」
ジェットはいきなり手に握力を込め、アランを拘束した。
「!!?」
「こういう事だよ。」
次の瞬間、そのこめかみに足刀が炸裂した。不意打ちの足刀をモロにくらい、白目を剥きかける。
「あがッッ……!!?」
揺らぐアランに、その仲間たちが絶句する。
「え……!!?」
「~~~!!!」
「な、なんて卑怯な……!!」
勇者として……いや、戦士として最低の事をしたジェット。そんな彼を横目にローレンスは、素顔のまま冷静にアシェルとマナミに向く。
「左手の握手の意味は、『決裂』や『挑戦』……主に、侮辱の意味として使われるものだ。覚えておくんだな。」
「ぐっ……!!」
「これが……男がする戦いなの……!!?」
「いや、戦士がする戦いか!!?外道どもっ!!」
ジェットは、悪びれもせずに頷いた。それに続き、ジョーも、ローレンスも頷く。
「もう、俺らは戦士のつもりは無ェよ……」
「ああ……もう、こいつは勇者の戦いなんかじゃない。」
「戦いとは言え、貴様らが仕掛けた喧嘩だ……何をされようと、文句は無いな?」
ジョー、ジェット、ローレンスと並んで、本気を出した。
「この……何処までも腐っていたか……!!だけど、お前らのような人間には絶対に負けない!」
「貴殿らの言う通り、これは既に戦いではない!誅罰だ!!」
「絶対に、負けられないんだから……!」
「ええ……!」
アラン、金龍、アシェル、マナミと、そちらも力を全開放してジェット達に向く。
そして……惨劇が起こった。




