道中にて
ヴォシム王国で休んだ事で、ジェット一行は先へ進む。
目的地は、ノーヴェムという小さな村。そこに向かって歩き始めた……
「それにしても、暗黒星って何なのかね。」
ジェットが、ふとそんな事を言った。
暗黒星……魔物はそこから来たとされている星だが、詳細の一切が全て不明なのだ。文献とか言い伝えとかによると、地球のすぐ近くにあるだの、遠い所にあるだの、移動するだの、伝わっている事がバラバラで何が何だか分からない。
「暗黒星か……」
「ハッ、そもそもあるかどうかすら分から無ェんだろ。気にしなくていいんじゃねぇか?」
「いや……」
ローレンスが、何か知っていさげな雰囲気を出す。そのまま、続けた。
「我の父親が、昔は王宮の暗殺者でな。ある日、空に黒い星が浮かんでいるのを確認したらしい。その日から、魔物がこの星に巣食い始めたというのだが……」
「でも、やっぱり証言が増えただけで核心にはなっていないよな。寝ぼけてたんじゃねぇの?」
「我の父は嘘は言わん。臆病で内気で、嘘など付けない人間だったからな。」
「そっか……」
二人が話している間に、ジョーが何かの気配を察知したようだ。目を鋭くして、額に青筋を浮かばせ、歯を食いしばりながら口角を上げた。
「なんなら、こいつらに聞いてみるか?」
「うむ……」
「また、魔物か……いや、気配が変だ……!!」
ジェットが察した瞬間、その魔物が飛び出してきた。
「シャアァッ!!」
人型で、鎧を着たドラゴンが現れた。重そうな剣と盾を装備しており、それを軽々と扱える筋肉も備えている。
それが何体も登場し、ジェット達を取り囲んだ。
「ドラゴンソルジャーか。」
ローレンスが冷静にそう言い、構える。
「おいおい、敵もマジになってきたって所か……?」
「関係ない、全て捻り潰してやらァああッッ!!」
ジョーが地面を踏み、走り出す。しかしその前にサキュバスが降りてきて、ジョーを蹴り飛ばした。
「おッ!?」
ジョーはモロにくらってしまい、後退する。しかしダウンはせずに、地面に踏ん張って構え直した。
「うふふ……これだけの中級モンスターの群れならば、貴方達も勝ち目は無いかもね……」
「……中級モンスター?」
ジェットを取り囲んでいるのは、ドラゴンソルジャーだけではない。オーク、デーモン、サキュバスなどの中級モンスターが並んでいた。
これには、流石のジェット達もびっくりはする……が、それだけだった。
「少しは手応えのありそうな連中が出てきたという訳だな。」
「おっしゃ!やろうか!」
「……腹に食らった一発、軽いものだとは思わねェ事だな……!!」
三人は魔力を全開放し、敵陣に突撃した。敵もそれを迎え撃つように、集団で襲いかかる。
「おらぁあああっ!!」
ジェットの剣技が次々に敵を切り伏せ、無双状態になる。近寄ってきた敵に斬撃し、背後から迫る敵には蹴りを入れ、横から迫ってきたならば裏拳を叩き込み、と数の不利が全く問題にならないようだ。
「はぁあっ!」
「おお、マジか。」
四方から、エネルギー波が迫る。しかしジェットは避け続けながらも敵を切り伏せ続けた。
「シャアァッ!!」
目の前から、ドラゴンソルジャーが剣を振り下ろしてくる。しかしそれを避け、合わせざまに抜き胴で真っ二つにした。
その勢いで、もう一体のドラゴンソルジャーにも切りかかる。しかし直前で盾を構えられ、剣を止められてしまった。
「シャッ!!」
「っ!」
そのドラゴンソルジャーの剣が、ジェットの頬にカスる。肌が切られ、血がツーッと垂れた。
「く……!」
「ジェット!!」
駆けつけたのは、ローレンスだった。跳び上がり、空で廻し蹴りを放つ。すると足から斬撃が飛び、敵を盾もろとも両断した。敵陣は揺らぎ、二人を囲む輪を広げる。
ローレンスは着地し、ジェットのと背中を合わせた。
「油断するな。」
「分かってる!」
二人は走り出し、敵に向かう。
「せいやぁあっ!!」
ローレンスの寸勁が一体に炸裂し、爆発のような衝撃が響く。その衝撃で、敵陣の数十体が吹っ飛んだ。
「ッ!!?」
「きゃああっ!?」
「な、なんと……!!」
吹っ飛んんだ敵を前に、走り出す。その速さは尋常ではなく、宇宙を流れる流星のように超高速だった。その高速移動で大きな五芒星を描くように駆け抜け、魔力を解放する。
「はッッ!!」
次の瞬間、五芒星をなぞるように斬撃の嵐が巻き起こり、魔物の体に無数の斬撃が叩き込まれた。吹っ飛ばされたまんまバラバラになった敵が血を噴き上げ、鮮血と肉片が雨のように降り注いだ。
「おらぁああああっ!!」
ある男の魔力が爆発し、血の雨が蒸発して肉片も焼き焦げる。この熱い魔力の主はもちろん、ジョーだった。
魔力を全開放してその場でパンチを連打し、拳圧で敵を潰している。拳圧に当たった敵は頭が潰れて脳をぶちまけたり、内臓が潰されて顔の穴から血を噴き出したりしている。
「生きて帰れると思うなぁあァアアア!!!」
連打するだけ連打した後は突撃し、乱暴に拳と脚を振るう。狂瀾怒濤の超暴力が、魔物達を襲った。
その拳も足も、一振で最低3体は死傷し、多かった魔物もどんどん数を減らした。
「ぐぅうっ!!」
「な、なめるなっ!!」
「あの男を押さえ込めっ!!」
魔物達が、ジョーに狙いを定めて突進する。数十体が一丸になって、数の暴力で押し潰そうとするが……
「ナメてるのは……テメェらだぁああああっ!!!」
ジョーはなんと真正面から数十体を押し返した。
「グゥゥッ!!?」
「な、なんて力なの……!!」
「ひ……!!」
魔物の数体が、恐怖を感じ始めたのを感じる。ここだと言わんばかりに、拳を握りこんで足に力を込めた。
「ヒャハハハハハッ!!」
押してる最中にパンチとキックを乱打し、一体また一体と屠り去る。そのまま、あっという間に魔物の群れを殴り倒してしまった。
残りの魔物は少ない。ここでスパートをかけようと、ジェットが剣を掲げた。
「ホラホラホラっ!!これで終わりだ!!」
剣に冷気が纏われ、天にまで届く。その剣を腰に構え、腕に全力を込め、魔力を全開放した。
「フローズンセイバーッッ!!!」
その剣で敵を薙ぎ払うと、敵は両断されながら次々に凍っていった。薙いだ後は、例の如く無数の氷像が立ち並ぶ。
「……っふぅ。」
魔物の気配が消えた……これで、魔物の群れを片付けたのだろう。戦士達は息を吐いて、リラックスする。
「まさか、中級モンスターが束になってかかってくるとは……」
「ジェット、イイの貰っちまったみてぇだな。」
ジョーの言葉で、頬に血が垂れてるのに気付く。
「……だな。」
その血を親指で拭い、人差し指でグシグシと拭き潰す。
とりあえず敵の群れは倒せたから、先に進んだ……
道中、遠くに小さな村が見えた。
「おお、アレか?」
「うむ。ノーヴェム村だ。」
目的の村が見えて、足取りが軽くなる一行。そのまんま、愉快に村へ向かおうとした……その時だった。
「待て。」
背後から、誰かが声をかけてきた。聞き覚えのある声だ。
「あっ。」
振り返ると、そこに居たのはアラン一行だった。今回は、みんな揃っているらしい。
しかし……彼らの表情は決して愉快なものでは無かった。どう見ても、同業者との喜ばしい再会とは思えないような顔をしていた。
二組は、この何も無い平野で向き合った。尋常ではない空気が漂い、不穏な雰囲気が流れる。何秒か、沈黙が続き……
「……何の用だ?」
切り出したのは、ジェットだった。これまでに無いほどに真剣な表情をしており、今から始まるであろう事を察しているかのようだった。
アランは少しばかり迷いを見せ、三秒ほど時間を置いてから口を開いた……
「心のどこかで、迷っていた……僕の正義は、正しいのか正しくないのか……」
「正義の正しい正しくねぇなんて、人によりけりだ……もちろん、魔物達にもな。」
そう返した後、隣のローレンスは静かに口を開いた。
「貴方は、貴方の信じる正義を進めばいい。」
たしなめるような穏やかな口調で、そう言う。
「……そうだな。」
アランは返事をしながら、なんと剣を抜いた。それと同時に、その仲間達も武器を抜いて臨戦態勢をとった。
「……なんの真似だ?」
ジェットがそう言うも、アランの眼光が光る。
「僕は、お前を許せない。」
「……何であれ、私の前で武を虐殺に使うなど許せぬ。」
「うん……絶対に、許せないわ……!」
「ごめんなさい……だけど、私もアランに賛成よ。」
金龍とアシェルとマナミも、敵意をバリバリ出している。
そうして一斉に向けられる敵意に、ジェット達は困惑した。こいつら、ちょっと今日はおかしいのか?などの疑問が浮かんでしまった。
「……どういうつもりだ?」
「お前の言う通り……正義の正しい正しくないなんて、人による。ならば……僕は、僕の正義に則る。」
そう言いながら、ジェットに剣を向けた。これ以上とない濃密な敵意が向けられて、ジェットは眉間に皺を寄せる。
「僕は……お前の勇者としての在り方を認めない。どうあっても、お前の在り方を認める事は出来ない。」
「出来なきゃ、どうすると?」
「お前の腐った性根を、僕が叩き直してやる……!」
「……やめろ。俺は人間相手に喧嘩するつもりは無い。」
「その通りだ。」
ローレンスが発言し、皆はそこに注目した。
「アラン殿……我らの敵は、人間ではない。貴方ほどの力の持ち主なら、分かるはずです。このような事、無意味だと……」
「黙れっ!!お前らは力で敵を黙らせたいだけだろう!!」
「っ……」
「ぐ……」
ジェットとローレンスは、押し黙ってしまう……
が、ジョーが「ブッ」と吹き出す。そこから「クスクス」と小さく笑いだし、最終的には「ヒャッハッハッハッハッハ!」という大笑いに変わった。
「……何がおかしいっ!?」
金龍が、ジョーに突っかかる。それにも関わらず、笑い続けた。次第にその笑いも、だんだん収まっていく。
「ア〜〜〜、確かにそうだな……一理あるぜ。確かに俺は力で敵を黙らせ生き延びてきた人間だ。否定のしようが無ェ。ンだったら……」
ジョーの筋肉が張り、額に青筋が浮かぶ。その目が殺意に染まり、湧き上がる気で髪もユラユラとなびいた。
「今度は、てめぇらを黙らせるだけだ……そうだろ?」
既に臨戦態勢をとったジョーは、二人にそう聞く。
ジェットはしばらく考え……歯を見せて笑った。
「確かに……今更否定しようがねぇ。」
そう言い、剣を抜いて構える。しかし、ローレンスがあまり乗り気ではなかった。
「ジェット……!我らに、このような愚かしい事をしている時間はない!一刻も早く……」
「構えとけローレンス!もうアイツらは、俺らの敵だ!」
「ここは治外法権……死ぬまでヤレるぜ。」
交渉は決裂。皮肉にも、勇者一行と戦うことになってしまった勇者一行。
二組の正義のぶつかり合いが、火蓋を切った……




