最悪だ
ヴォシム王女を救いに、サーバマウンテンにやってきたジェット達。役立たずのアラン達を横目に、ジェットは飛来してきたドラゴンと戦う。
何とか勝利するものの……姫はもう居ないだの、巨大なエネルギー波が飛んでくるだの、驚きの連続だった。
「……以上が、サーバマウンテンで起きた事です。」
ジェットは前回の話を、細かに王に報告した。ドラゴンの事……王女の事……そして、アラン一行の事も。
「ふむぅ、そうか……アラン一行とやらの事はワシには知った事ではないが……」
「あ、知った事ではない……」
王の意外な言葉に困惑しながらも、ジェットは聞き続ける。
「そうか、ワシの娘はとうに……それは、不味いことになったのう……」
「ええ……娘さんの一大事です。一刻も早く、我らが向かわねば。」
「うむ……」
王は、難しそうな顔をした。髭を撫でながら、眉間にシワを寄せて考え込む。
「あの娘は、神の寵愛を受けている……姫としても立派だが、魔術師としてもそこらの魔法使いとは一線を画す実力じゃ……しかし戦いを好まぬ故に、ずっと平和な暮らしをさせておった……それ故、あの娘に戦う力はない。もし、魔物に娘の力を利用されてしまうと、それは本当に不味いことになってしまう。」
「神の寵愛か……」
ローレンスが、そう言って仮面を眼鏡のようにクイッと整える。
「ローレンス、知ってるのか?」
「ああ……王族に生まれ、王としての資格を持つ者は神の寵愛を受けるという話がある。例を出すなれば、我が国のローゼ王……そして、リース街に居る盗賊王という男も神の寵愛を受けているという話だ……」
「へェ〜……」
ジェットとジョーは、頷く。知識は無いが、理解力だけはあるらしい。
「そんなん、アカデミーじゃ教えてくれなかったからなぁ……」
「俺なんか、座学の授業は保健体育以外全部寝てたぜ。」
自慢げに言うジョーを、ジェットが引き気味にみる。そんな視線を受けながらも、ヘラヘラ笑っていた。
「お前なぁ……まぁいいや、それで神の寵愛を受けたらどうなるんだ?」
ジェットが振ると、ローレンスは頷いて説明を続けた。
「ああ……寵愛を受けた者は、まず魔力の器が他の人間より大きく違う。そして、魔力の質まで変わってくる。」
「質までか?」
「ああ……寵愛を受けた者の魔法は、対人では無くなる。対物、対都市、対軍……果ては、対星にまで至るという。」
「対星って……」
「星一つ消せるかも知れねぇッてか。」
「ああ……まぁ、そのような魔法は範囲を絞って威力を集中させるケースで放たれるらしいが……もし、それを敵に利用されるとするならば……どうなる事やら。」
「……」
三人の頭の上に、ドラゴンを消し飛ばしたあのエネルギー波が思い出される。この冒険で見てきた、最大火力の魔法だが……ようは、これの何倍もの威力の魔法が出来上がってしまうかもしれないという訳だ。
想像して戦慄する中、ジョーが頭を掻いた。
「……へッ、ゾッとしねェ。」
そんなんやられたら、マジで勝ち目が無くなってしまう。もう何か色々なものを後回しにしてもいいから、早く姫を助けねば。
「御三方。」
三人が話し合う前で、ヴォシム王は頭を下げていた。深々と、白髪混じりのつむじを向けてお辞儀をしているのだ。
「……王女は、ワシのかけがえのない唯一の娘じゃ……救いたいのは山々じゃが、ワシに戦う力はない……勇者よ、頼むっ!!」
「あ、いいっすよ。」
ジェットのアッサリとした承認に、王は嬉しそうな顔で頭を上げる。
「本当かね!?」
「困ってる人間に応えるのが、勇者の役目です。」
「恩に着るッ!!」
王はまた頭を下げ、ジェットに感謝を伝えた。
……一介の旅人に、王がここまで期待しているのだ。これは、勇者として応えねばならない。
「ようし……姫を救った暁には、 お主ら三人に、我が国の女性を一人!嫁に与えよう!」
「ごめん、気持ちは有難いけど、俺女付き合い苦手だからムリ。」
「我も、まだ婿という歳ではない。」
「俺もパス。」
三人の即答に、王はずっこけた。無理もない、こんな好条件の褒美をこんなアッサリ蹴られるとは思わなかったのだ。
「な、なんと!君たち、若いのに……恋愛欲的なものがないのか!?」
「恋愛は……まぁ、アカデミー時代色々あったし……」
「我も、まぁプライベートな所でちょくちょく……」
「そもそも、興味が無ェ。」
「むむぅ……では、別の褒美を……」
「王様。」
ジェットは、王の両肩を掴む。そして、真剣な顔をした。
「そんな褒美用意しなくても、俺は姫様助けますから。今貴方がやるべき事は王としての政であって、こんな餓鬼三人の褒美を考える事じゃない。考えるのは、全てが終わった後にしましょう。」
「お、おう……」
とりあえず、報告とかその他もろもろは済んだ。時刻はもう夕方。とにかく今は休みたい。何か色々ありすぎて、とてつもなく疲れた。
「おお、お主達にはこの国一番の宿をとってある。そこで、ゆっくりと休むが良い。」
王はそう言いながら、グーサインを向けていた。
「マジかッ!?」
「有難うございます。」
「ありがてぇ!」
三人は王からその宿の場所を聞いて、王の間から出る。そして、宿へ向かった……
時刻はもう夜の8時。戦士達はもう消耗しきっていた。
宿でチェックインして、部屋に向かう。
部屋には既に、豪華な料理が並んでいた。よく揚げられた唐揚げ、彩のある野菜サラダ、オムライス、脂が輝いてる麻婆豆腐……などなど。
腹が空いていて、しばらくまともなものを食べていない三人は、すぐに席に座って手を合わせた。
「いただきます。」
口を揃えてそう言ってから、料理にがっつく。久しぶりのマトモな料理に、舌鼓を打った。
「う、うんめぇ〜……!」
「イケる……」
「ああ……うめェな。」
ガツガツと料理を喰らいながら、三人は話し合った。話題は、他愛のない雑談だ。
「それにしても、なにゆえジェットはこのような旅に?」
アカデミーの卒業試験を一位で切り抜けた、実力の持ち主。それが危険を冒してまでこの旅をする理由が、ローレンスには気になってしょうがなかった。
「そうだな〜、自由に生きたかったから?」
「自由に……?」
「ああ。あのまま職についてもつまんねぇな〜って。どうせなら、世界滅びるの阻止したいよねって。」
「随分と軽い理由だな……それで、てめぇが魔王を倒せるって確信はあるのか?」
ジョーの問に、ジェットは首を振る。唐揚げを頬張りながら、答えた。
「ない。ただ、俺ならイケるんじゃねぇかって思って行った。そんだけ。」
「安直だな……」
「いや、天真爛漫っつーか……」
「ただのバカなのか?」
「ひどい言われようだな……そんなローレンスは、何で旅なんか?」
ジョーは、水龍院とやらをぶっ飛ばしに旅立った。ローレンスも、ジョーを追いかけるためだけに旅立った訳では無いと思うのだ。
「そうだそうだ、てめぇは俺の為に将来を投げ出す奴じゃねェ。何が目的だ?」
「我は、自分の力を試したい……それと同時に、世界というものを識りたいのだ。勉強と戦闘に励んでいる間は、嫌な事を忘れられるからな。」
「あ、分かる気がするわ。魔物とか、嫌いな奴の顔合わせてぶった斬ると気持ちいいもんな。」
その言葉に、ローレンスは引いてジョーが笑った。
「……」
「ヒャハハハハ!それなら共感出来るのは、俺だな!ハハハハハハ!!」
「ジョーに共感されてもなぁ……」
「アァ!?」
「なんだガ○ジ!」
ジェットの胸ぐらを掴み、揺さぶる。ジェットも微振動しながら、ジョーの胸ぐらを掴んだ。両者の腕を、ローレンスが押さえる。
「喧嘩っ早いのは貴様の悪い癖だと、何度も言った筈だ。」
「チッ……」
「それにジェットよ……ただでさえ規制が厳しくなってるこういう場で、あまりガ○ジという言葉を使うな。この小説が何か面倒な奴に目をつけられたらどうする。」
「メタい話すんなっ!」
「何の話をしてンだテメェらは。」
訳の分からない話をする三人。話と共に食は進んでいき、完食と同時に腹一杯になった。
「ごちそうさま。」
三人がそう言ってしばらくすると、給仕のお姉さんがやってきて食器を片付けた。手際よく片付いていき、あっという間に食器が無くなった。
一仕事終えてから、こちらに向いて話し始めた。
「所でお客様。お客様は皆、18歳で間違いありませんよね?」
突然の年齢確認……当たっているので、尚更困惑する。三人は、とりあえず「うん」と頷いておいた。
すると、お姉さんはニッコリと優しい笑みを浮かべた。
「そんな若さで、このような旅を……さぞかし疲れもあるし、溜まるものも溜まるでしょう。」
「ああ、まぁ……」
「うむ、確かに疲れてはいる。」
「ストレスもそこそこ溜まってンな。」
お姉さんは三人の少年を前に、クスクス笑う。やがてその笑みが、淫靡なものになった。
「この宿の地下には娼婦館があるのですが、最近若い子が来なくて……どうです?寄っていきませんか?」
「えぇ……」
「我は、そういうのは……」
「年齢確認した未成年に、娼婦を勧めるなッ。」
ジェットの困惑とローレンスの拒否とジョーのツッコミを受け、お姉さんはがっくりとした。
特にジョーの的確なツッコミには、ジェットとローレンスも一瞬だけ顔を見合わせたぐらいだ。
「そ、そうですか……では、旅の疲れを癒すのに大浴場はどうですか?」
「ああ、それならいい。」
「あァ、久しぶりのマトモな風呂になるな。」
「……」
ジェットとジョーは乗り気だったが、ローレンスだけは無関心に茶を飲んでいた。
「ローレンス、行かねぇのか?」
「ん、あぁ……いや、すまない。大浴場だったな。行こう。」
「……ケッ。」
「それじゃあ、大浴場の説明をするわね……」
大浴場……本来なら、男湯女湯が分かれるものだが、この時間になると男湯で混浴の時間だそうだ。
三人は場所だけ聞いて、しばらく部屋でゴロゴロする。そして気分になった10時頃、大浴場に向かった……
「おおおーっ!」
「ヒャハハハ!こりゃあいい!」
「ふむ……」
三人が、喜ぶ理由……混浴だから、という理由ではない。単に、普通この時間に客は入らないようで、実質貸切状態だったからだ。
体を洗い、シャワーを浴びて、湯船に浸かる。暖かいような熱いような湯が体の髄まで暖めてくれて、気持ちがいい。
「そんじゃあ、明日になったらノーヴェムって村に向かえばいいのか。」
「うむ。ここしばらくは特に大きな事は起きないから、気楽な旅になるだろう。」
「ハッ、本番は西の大陸に着いてからってか……」
明日の確認をしながら、話していると……
「……あっ!」
「うわっ……」
アランとアシェルが、入ってきた。タオルでロクに前も隠さずに。
「げっ。」
「……」
「フン。」
三人は絶句するが、入浴を続行する。アラン達も、入浴してきた。
「ど、どうも。」
「……」
ジェットはアランに会釈するも、無言で軽く会釈されただけだった。
ジョーがそれを見て、ニヤニヤする。そして、話を元に戻した。
「……まぁ、この大陸の喰い残しみてェな連中をいくら屠った所で根幹から叩かなきゃ意味が無ェ。西に行かねぇ限りは、俺達の旅はスタートすらしねぇ。」
「ん、そうだな……西の大陸には、どんだけ強い奴が待ってるのか……」
「どちらにせよ、我らがやらねばならんのだ。相手が強かろうが、それを超える強さを身につければいい……」
「……君達、西の大陸に行くのか。」
アランが、急に話に入ってきた。三人は、頷く。
「当たり前だ。」
「当然。」
「どうかしたか?」
「……魔物との共存は、目指さないのか?」
この後に及んでそんな事を言うアランを前に、ジェットとローレンスは黙ってしまった。しかし、ジョーが口を開く。
「……テメェは、自分に襲いかかってくる害虫と共存出来るのか?」
「魔物は、害虫なんかじゃない……」
「共存を望んだ魔物の一種族が居るんだが……ソイツら、どうなったか知ってるか?」
「そんな種族が居るのか……どうなったんだ?」
「魔王サマの手によってその種族を魔物全体で袋叩き。今やその魔物の個体数は、50にも満たねぇ程に絶滅寸前に追いやられたんだとよ。」
「……!」
アランは目を見開き、絶句した。唾を飲む音が、少し鳴る。
「分かるかい?相手は自分と主張が違うだけの種族を絶滅させようとしちまう連中だ……こんなんと、どう共存しろッつーんだよ!ヒャーッハッハッハッハッハ!!」
「ーーーっ!!」
アランは立ち上がり、ジョーに迫ろうとする。しかし、それより早く接近されて顔面を掴まれ、持ち上げられた。
「!!?」
「あ、アラ……っ!?」
アシェルの目の前には、ジョーのモノが垂れている。アランのする時のより大きいそれを前に、釘付けになってしまう。
「ロクな力持ってねぇハネッ返りが、独善を押し付けてんじゃねェぞ……!!」
「あ……ぁ、が……!!」
ミキミキと力が込められ、頭蓋骨が軋む。両手でジョーの腕を叩くも、その腕はまるで鋼鉄にゴムを被せたような感触で、自分の抵抗など全く効いていないという事が嫌でも実感出来た。
ここで、ジェットとローレンスが笑いを堪えながらジョーに声をかけた。
「……ア〜〜〜、ジョー?あの、お前らしいっちゃお前らしい行動だなーって思ってずっと見てるけど。」
「……視線を下に向けてみろ。」
「……アァ?」
「……」
言われた通り、視線を下に向けると……アシェルが、興味津々に自分のモノを見ているではないか。おそらくは接近の際に、腰に巻いていたタオルも吹っ飛んだのであろう。
「ーーーっ!!!」
ジョーはアランを片手で湯船に背負い投げてから、アシェルの顔面にビンタした。この間、約2秒。
「!!?」
「ぶっ!!?」
何が起きたか分からないまんま、二人はKOされてしまった。
ジョーは顔を赤らめながら、湯船からタオルを取って絞り、大浴場から逃げるように出た。
「最悪だッッッ!!」
「あっはっはっはっは!やりたい放題かよっ!」
「やれやれ……」
ジェットは大笑いし、ローレンスは呆れながらジョーに続いた……
「……な、なんなんだアイツは……」
「乱暴な人……」
髪から湯を垂らしながら、アラン。頬を押さえながら、アシェル。
二人は去っていく三人の背を見送った後、二人の時間を過ごした……




