圧倒的な差
ジェットの前に、立ちはだかったデビル……を下がらせ、何と魔王・ベリアル8世が登場した。
姿は少女に白い肌と悪魔のような角が生えたソレだが、その戦闘力は圧倒的なものだというのが分かる。しかし、引き下がる訳にはいかない。
ここで引き下がってしまえば、それだけで負けてしまう気がするから……
「俺から行くぞォオオオッ!!!」
ジョーが助走をつけて走り、全力でタックルした。とてつもないパワーが、真正面からベリアル8世を押す。ガリガリと大地を削って、どんどん押していく……が、彼女は嗤っていた。
「おしくらか……餓鬼じゃのう……」
「ンだとォッッ!!?」
「そぉれ、余からも押してやろう……!」
そう言って力を込めると、ビタァッとタックルが止まった。
「……ッッッッッ!!!?」
「な、なん……だと……!?」
「馬鹿力のジョーの全力のぶちかましを、止めただと……!!?」
「くふふふ……」
ジョーの腕には青筋が立っており、筋肉も盛り上がって金属のような力こぶが出来てはいる。しかし、その力は少女の腕力に止められていた。
「ぐ……!!!」
「そいっ。」
馬鹿力が弾かれ、突き飛ばされてしまう。そのせいで、ジョーのボディがガラ空きになった。
「し、しまッ」
次の瞬間、その腹筋を膝蹴りが打ち抜いた。ジョーは遥か後方にある壁にまでぶっ飛んで、叩きつけられた。
「っぐはぁああっ……!!!」
たった一発。少女の細い足の膝蹴りで、ジョーはダウンしてしまった。息切れも激しく、体力をゴッソリ持っていかれたようだ。
「な……なんつー奴だ……!!」
「……奴との立ち回りを見るに、力勝負は無理だ。小細工を弄するぞッ!!」
「くっふっふっふ……来い若造……」
少女は手招きし、棒立ちになる。
「……では。」
ローレンスが高速移動を繰り返し、接近した。常人ならば、目では追えないスピードの接近ではあるが……相手は魔王だ。
「とろいのう……そこじゃ。」
そう言って足を突き出すと、ローレンスの足がそこに引っかかった。
「ッ!!!?」
すっ転んで、ゴロゴロと転がりながらぶっ飛んでいく。それを見ながら、笑っていた。
「きゃっきゃっきゃ!すごいのう、ゴロゴロ転がりよる!」
「何処見てんだ!?」
ジェットが背後から、剣を振り下ろす。渾身の一撃のつもりだったが、指一本で止められてしまった。
「ぐ……!!?」
「嫉妬せんでも、余は皆を見ているぞ……」
「だぁあああっ!!」
剣を振って、斬撃を連打する。一発一発に本気を込めた剣技にも関わらず、全て指で止められてしまっていた。
「ほれほれ、どうした?」
「くそ……!!」
「はぁあああああーーーっ!!!」
ローレンスが、参加してきた。手刀を振りかぶって、渾身の一撃を少女に放つ。しかしそれも、呆気なく受け止められてしまった。
「ぐ……くぅう……!!」
「ほぉ、面白い魔法を使うなお主は……」
「ふんっ!!」
手刀に魔力が宿り、斬撃属性が放たれる。しかし、少女は無傷であった。
「く……!!?」
かすり傷一つ……無いだと……!!?
「どけェエエエッ!!!」
でかい声がそこらに響く。ジョーだ。
拳を振りかぶりながら跳んで、猛スピードでこちらに向かってくる。
「がぁあああああッッッ!!!」
その拳を、少女の顔面へと振り下ろした。
「そいっ。」
しかし全力の一撃にも関わらず、額で受け止められてしまった。
「っぐ……!!」
「くすくすくす……何じゃ何じゃ、三人とも軽いのう。もう少し本気で来れぬのか?」
「うぉおおおおっ!!!」
「なめるなっ!!!」
「殺してやるぞォッ!!!」
三人は、猛スピードで少女に猛攻した。疾風迅雷の猛攻が一斉に襲い来るも、済まし顔で全てに対応され、誰の一発も当てられずじまいだった。
「だだだだだだ……!!!」
「はぁああああ……!!!」
「オラオラオラオラ……!!!」
「……じゃ、少し反撃するとしよう……」
次の瞬間、三人の腹が足で打突された。それも、ほぼ同時に。
「ぐぁあああっ!!」
「ごっはぁあ……!!」
「ぐぅうううッ!!」
ジェットとローレンスはぶっ飛んだが、ジョーは踏ん張る。
「ほう?」
「死ィイねェエエエッ!!!」
地面を蹴って、殴りかかる。しかしアッパーで合わされ、顎に直撃を許してしまった。衝撃が、顎から脳天へと突き抜ける。
「あぐぅう……!!」
「ほれほれ、どうした筋肉男?」
「こンのメスガキがッ!!」
また殴りかかる……かと思えば高速移動で背後に回り込んで、体をガッチリとホールドした。
「む……!?」
「やれーーーッッッ!!!」
「くらぇええッッ!!フリーズバーストォ!!」
「斬空刃!!」
氷の魔力が圧縮されたエネルギー波と、重い斬撃が空を切って跳んで行く。見事にそれは直撃して、衝撃が巻き起こった。もくもくと、土煙が舞い上がる。
「……どうだッッ!!?」
ジョーが二人の間に着地し、土煙の向こう側に目を凝らす。
「……ふぅ、何じゃその魔法は……?」
「!!!」
「バカな、直撃のはず……!!」
「ウッソだろ……!!」
少女は、無傷だった。全力の魔法にも関わらず、出血ひとつしていない。
「お主らの魔法は、ただホコリを巻き起こすだけか?それでは、ダメージにはならんぞ……?」
「……くそったれめ……!!」
しかし、作戦自体は間違っていなかった。馬鹿力のジョーが奴を押さえ込み、俺らが全力の魔法を叩き込む……それ自体は、間違ってはいないはずだ。
ジョーに拘束された時の、僅かな動揺……ジェットがそれを、見逃す筈もなかった。
「では、本物の魔法というのをお見せしよう……」
その手に、ブーンと魔力が纏われる。それをジェット達に向けて、薙ぎ払った。
「!!!」
「まずいっ!!」
「ちぃいっ!!」
次の瞬間、凄まじい大爆発が巻き起こった。この村の半分が、爆発に融けて消し飛ぶ。
「な、なんという魔力だ……!!」
「そこじゃ。」
ローレンスに、ピッと指を差す。そこに雷が一閃した。すると、電撃が腕に炸裂し、爆発した。
「ぐぬぅううッッッ!!?」
「ローレンスッ!!!」
「っハァアッ!!」
黒焦げになった腕を垂らして回転しながら、手刀を振る。その手刀から斬撃が飛び、少女の頬にカスった。
「……む。」
出血こそしなかったが、皮一枚を切っていた。
「……腕をやられながらも、そのような威力の斬撃を放てるとは……」
「腕を一つ持っていっただけで、勝った気になるのはよしてもらおうか。」
ローレンスはそう言いながらビンを取り出し、その中の水を飲む。すると傷が全回復し、腕も元通りになった。
「……なんと!」
「……」
驚く少女を横目に、ローレンスは二人を見る。
「……この通り、魔法をモロに受けたら即死だそうだ。」
「分かってる……!」
「当たらなきゃいいハナシだ!!」
さて、どうしたものか。
圧倒的な差に、なすすべもなく押され続けている。このまんまでは、確実にみんな殺されてしまうだろう。
しかし……やるべき事ならば、検討はついている。
「はぁああああーーーっ!!!」
「ジェット!?」
突如気を全開放し、突撃するジェット。それに二人は驚き、固まった。
剣を振りかぶり、少女に切りかかる。しかし刃が、素手で受け止められた。
「しゃあっ!」
「おっと!」
前蹴りを放つも、それも避けられる。ついでに伸びきった足の膝に、手刀を入れられた。
「っ!?」
「そぉいっ!」
体を廻し、腹に肘打ちを叩き込んできた。鋼鉄のような肘が腹筋を貫き、内臓を揺るがせる。「ゴパァッ」と吐血するが、歯を食いしばって踏ん張った。
「ほぉ……?まだ死なぬとは大した若造じゃ……」
「っ!!」
剣を持つ手に、力が入る。その力で、思い切り剣を投げ飛ばした。
「やけくそかの?」
難なくそれは躱された。剣も、そこら辺の壁にシコンッと刺さった。
決して、ヤケクソではない。一方的にダメージを受けてはいるが、ジェットの作戦に狂いはなかった。
ジェットの作戦……それは、作戦ナシという作戦だった。
作戦なんてない。まずはフツーに戦う!フツーに戦ってどうなるかを見てから、作戦を練る!それでいい!っつーか、それしかない!
「あだだだだだだっ!!」
「ふふん……遅いのう。」
パンチを、正中線(人体の中心)に連打する……が、そのことごとくが弾かれてしまう。
思った通りだ……人の形をしている以上、急所は正中線に集中していると見ていい。ならば……
「だっ!」
「おっと!」
顔面へのパンチを放つが、腕をクロスしてガードされてしまう。これも、狙い通りだった。
「フンッ!!」
「おっと……!?」
ガードを上げさせてからの、腹へのフック……が、ギリギリの所で受け止められてしまった。
「ふせろっ!!」
「!!」
背後から、ローレンスの声がする。言われた通りに、伏せてみた。
「なに……!?」
「せいやぁああっ!!!」
渾身の廻し蹴りが炸裂し、思いっきり蹴り飛ばした。しかし、手応えがあるとは言い難かった。
少女は地面に踏ん張りながら後退りして、腕を薙いで土埃を払う。その腕には、僅かに煙が立っていた。どうやら、ローレンスの廻し蹴りを腕でガードしていたらしい。
「人間が余に、腕を出させるとは……!!」
「余所見をするなァアアッ!!!」
「!!!」
背後から、ジョーが少女に殴りかかった。拳は目標を逃すものの、僅かに頬にカスった。
「しぃいっ!」
反撃の掌底で、逆にぶっ飛ばされてしまった。壁に激突し、内臓が圧迫される。
「っぐはぁあ……!」
「死ね……!」
掌から、高密度の炎の玉が放たれる。いくらジョーでも、アレをくらったらひとたまりも無さそうだ……!
「ジョーっ!!」
ローレンスが間に入って、炎の玉に斬撃を放つ。相殺は出来なかったものの、飛ぶスピードは抑えられたようだ。
「応ッ!!」
ジョーは走って跳び、彼の肩を踏み台に飛び上がる。友を飛ばした彼も、炎球を避けながら走り出した。
「滅びろォオッ!!!」
「はぁあああッ!!!」
少女に向かって強烈な一撃の拳が、上下から迫る。その拳を、難なく受け止めてしまった。
二人にとっては想定内だったようで、気にせずそのまま猛攻した。超スピードで攻防が繰り広げられ、ノーヴェムを駆け回る。
「うぉおおおおお……!!」
「はぁあああああ……!!」
二人は猛攻を続けながらも、ジェットに目をやる。ジェットもそれに頷き、剣を拾った。
「……いくぞ……!!」
息を吸って、静かに剣に気を込める。
もう、作戦もクソもない。二人が時間を稼いでいる内にフルパワーを込めて、奴を思いっきりぶった斬る。
「はぁあああ……!!!!」
ジェットの気が剣へ伝わって練り上がり、充実していく。その気も大きくなるにつれ、剣へと圧縮されていった。
「ちょいちょいっ。」
魔王は足を振るい、二人の腹に前蹴りする。
「!!」
「ふっ!!」
ジョーは直撃してぶっ飛ぶも、ローレンスが躱す。
「はぁああっ!!」
「よっ!」
少女の拳が、無数に放たれる。ローレンスはその拳の二つを見切って、腕に抱きつきた。
「っ!?」
「ふんっ……!」
そのまま腕をひしぎ固めするが、関節が極まる寸前に止められてしまう。
「小賢しいっ!!」
片腕の純粋な腕力で、背負投げされてしまった。勢いよく投げられ、地面をバウンドする。
「っぐは……!!」
「それっ!」
そのローレンスに向けて足を振るい、ジェットの方に蹴っ飛ばした。
「うわっ!?」
「くぅうっ!!」
空中で何とか体勢を整え、足を地面に踏ん張ってブレーキする。無事に、止まった。
「死に損ないが……!」
少女が、こちらに走ってくる……が、その背後にジョーが現れ、羽交い締めでガッチリとホールドした。
「っ!?は、離せぃっ!」
肘打ちが腹に叩き込まれ、吐血する。至近距離での肘打ちはとてつもない威力で、思わず揺らいでしまうほどだ。しかし、決して離すことはなかった。
「無駄だ……俺が本気で筋肉を固めてる限り、意地でも離すつもりは無ェよ。」
「う……っぐ……!!」
ジョーが作ってくれた、二度目のチャンス。今こそ、この渾身の威力を込めた斬撃を奴にブチ込むチャンスではあるが……
「いいのか、ジョー!?てめぇごとぶった斬るぞ!?」
「構わん!!やれェエエーーーッッッ!!!」
「く……!?」
少女は、ジェットを見て驚愕する。
彼の腕の筋肉は既に力める限界を超え、太い血管が浮かび、力こぶもまるで、悠久の時を生きた岩のようになっていた。剣には、可視化出来るほどの魔力、エネルギー、気が纏われていて、これ以上無く輝いている。
あんなものを、マトモに叩き込まれたら……!!
「くぅううううッッッ!!!」
いきなり馬鹿力で暴れ出し、ジョーの拘束を解こうとする。いくら何でも、アレはまずいと判断したらしい。
「は、はやくしろっ!!こいつは、俺以上の馬鹿力なんだぞ……!!」
「……御免ッ!!!」
ジェットは、剣を振りかぶりながらも全力で走る。そして一瞬でその眼前にまで迫り、力を最大解放した……
「ぐ……ぬぅうッッ!!」
「うぉおっ!!?」
一撃が炸裂する寸前に、魔王は片腕だけ拘束から逃すことが出来た。しかし、既にジェットの攻撃はそこにまで来ていた……
「!!!!」
次の瞬間、大爆発が巻き起こった。冷気や衝撃が波動し、衝撃が大地を轟かせる。
衝撃に耐えきれず、ジェットがぶっ飛んできた。仰向けに倒れながら、ズササッと下がり、ガクッと倒れた。
「……ど、どうなったのだ!?」
ローレンスが、ジェットに注目する。しかし、その背後から意外な声がした。
「知るか……」
ジョーだ。あの爆発でジョーも吹き飛ばされて、今ここに着地してきたようだ。
「ジョー……!?貴様、生きていたのか!?」
「……俺が生きてるってコトは、奴も大した傷を負っちゃいない……ったく、運がいいんだか悪ぃんだか……」
もくもくと、爆煙が立ち込めている。その爆煙が吹き飛んで、その姿を現した。
「……ぐ……!!」
二の腕が消し飛んでおり、ブシューッと血を噴き出していた。その表情もダメージで歪んでおり、上腕を押さえながら跪いていた。
「は、ははは……ざ、ざまぁみろ……!」
「一矢報いたか……しかし、あの程度では……」
「もう、俺に奴を拘束できる力はねぇぞ。」
「……」
少女は三人に向き、苦悶の表情を「にぱっ」という笑顔で塗り潰した。
「余の腕を取ったことは、賞賛に値しよう……このような事、我が娘でも出来るかどうか……」
「既に跡取りが居るのかよ……」
「くふふふ……このまんま貴様ら三人を殺すのは簡単……じゃが、今はまだ真の力はお預けじゃ。」
「……んだと!?」
少女は不敵な笑みを浮かべ、その姿を消した。まるで煙のように、消え去ってしまった……
「な……!?」
姿は消えたものの、高らかな笑い声は響いていた。可愛らしいような、やかましいような笑い声が三人の頭の中に鳴り響いている。
「はっはっはっはっは!その力……まさに、人間の希望と呼ぶにふさわしいのう!ならば、その力が完成するまで、待ってやろうぞ!貴様らの自信に満ちたその力を全てねじ伏せ、人間共を絶望に叩き落としてくれるわ!はーっはっはっはっはっは!」
その声が消えて、魔王は去っていった……
三人は肩を落とし、ホッとする……が、すぐに今の自分に腹が立った。
「……安堵してんのかよ、俺はッ!!」
「っぐ……不覚ッ!!」
「〜〜〜!!!」
あのまま戦闘が続行されていたら、間違いなく今頃には死んでいる。だから、良かったといえば良かったのだが……戦闘の結果は、勝ちとは言い難い。負けて誇るものなど、何も無い。
複雑な感情のまま、三人は立ち尽くした……




