拳で語りし者
シクスパークの闘技場にて……
遂に、ジョーも本気を出してきた。
戦いは佳境に突入し、場外ルールも無くなり……
最終決戦の火蓋が、切って落とされた……
「いくぞジェットぉおおおおッッッ!!!」
「おぉおおおおおおッッッ!!!」
二人は駆け寄り、拳を振りかぶる。
ジョーの拳がコンマ一秒速く、ジェットの顔面に叩きつけられた。
「ッッッ!!」
思いっきりぶっ飛び、バリアも突き破って観客席に激突する。
これまでに無い威力の拳に、震えてしまった。
「い、いってぇ……!!」
「しゃおらぁあああっ!!!」
既に奴は跳び上がっており、こちらに向かっている。
その拳をまた顔面に放ち、闘技場の外にまでぶっ飛ばした。
「ああっ!?両選手、闘技場の外へ出てしまいましたっ!!戦いの様子を、モニターしますっ!」
闘技場の真ん中に、モニターが出てくる。
どの角度から見ても見れる、特殊な画面が二人の戦いをモニタリングした。
「っくそっ!!」
何とかガードしたが腕がビリビリし、僅かにダメージも受けていた。
あの馬鹿力の前では、防御など通用しないのだろうか……
「……いやっ!」
そんな筈は無い。必ずどこかにスキがあるはずだ……
「どこを見ているッッッ!!」
「うるせぇっ!!」
背後に回り込んできたジョーの脇腹に、肘打ちをかます。
ヒットし、攻撃を止める程度には揺るがせた。
「おぅうっ!?」
「ちぇいっ!!」
渾身の力を込め、顎を蹴り上げる。
ジョーは大きくぶっ飛ぶが、体勢を整えて笑った。
「おぉおおおおっ!!」
「へっ……!!」
二人はぶつかり合い、拳と防御の応酬を超スピードで繰り返す。
それも、シクスパークの通路を駆け回りながら。
「オラオラオラオラオラオラオラぁあああッッッ!!!」
「うぉおおおおおおおあああああああああッッッ!!!」
「きゃーっ!」
「なんだ、喧嘩かーっ!?」
「いや、そんな次元じゃないっ!」
「ひえぇーっ!?」
地面やら何やらを破壊しながらも、二人の戦いは続いた。
「はぁあっ!!」
ジェットがスキを見て、顎へのアッパーカットを放つ。
しかし、拳が当たった瞬間に拳より早いスピードで後転される。
「だっらぁあっ!!!」
反撃のサマーソルトキックが炸裂し、思いっきり蹴り飛ばされてしまった。
「ぐっ……!!」
月面宙返りで体勢を整え、着地する。
着地した所は、まさかのジェットコースターのレールだった。
「ウッソだろ……!!」
「ハハハハハッ!!」
ジョーはジェットコースターに立ち乗りしながら、出てきた。
「うわぁっ!迷惑迷惑!!」
「難しい漢字二個も並べんじゃねぇッッッ!!」
拳がジェットの腹に炸裂し、ジェットコースターも進んでいく。
「くそっ!!これがてめぇのやり方か!!」
「戦いをしてんだ……やり方もクソもあるかっ!!」
攻防しながらも、両者とも足に力を込めて踏ん張る。
ジェットコースターのGで振り落とされるのを、踏ん張り耐えてるのだ。
そして、攻防しながらも一回転コースに差し掛かった時だった。
「しゃあっ!!」
「うわっ!?」
ジョーの足払いが決まり、体が半回転しながら宙に浮かぶ。
「落ちろぉっ!!」
腹が蹴り据えられてぶっ飛んで、またレールに叩きつけられた。
「っででで……!!ぎゃあああああっ!!」
ジェットコースターが一回転して、こちらに迫ってきた。
なんとか跳び避け、事なきを得た……
「ふんっ!」
「え。」
足が掴まれてぶん回され、思いっきり投げられた。
「うわぁあああああっ!!!」
地面に墜落し、色々なものを破壊しながらゴロゴロ転がる。
「だぁああああっ!!」
上空から、踵落としが迫る。
それは避けるが、凄まじい威力であった。
まるで、隕石が落ちてきたかのような威力で、周りにクレーターが刻まれる。
「くそっ!!」
そこに手を向け、フリーズバーストを放つ。
しかし、同じ魔力量のエネルギーで相殺された。
「なにっ!?」
「……俺が、魔法を使うハメになるとはな。」
ジョーは、イラついた顔で手をグーパーさせる。
「……そうこなくっちゃ。」
「フンッ!!」
ジョーの拳が飛んでくるが、見切って掴む。
「なにっ!?」
魔力という魔力、力という力を全て込めた拳のつもりだった。
なのに、あっさりと受け止められた……!?
「力を全開にしてんのは、お前だけじゃねぇえんだよ……!!俺だって、もう限界を何度も突破してんだ……!!今更後に退けるかァアアアッッッ!!!」
ジェットは拳を握り、腹にパンチした。
「おぐぅううっ!!?」
やった。
本気のジョーを相手に、明確なダメージリアクションを取らせる事が出来た。
「っぐ……!!」
反撃の裏拳が飛んでくるが、しゃがんで避ける……
「おらぁあっ!!」
「っ!!?」
足払いをかけられ、転がり飛んでしまう。
「だぁあっ!!」
そのまま蹴られ、ぶっ飛ばされた。
「くっ!」
ぶっ飛びながらも地面に手を付き、力を込める。
そして、何度もバク転して両手を合わせた。
「フリーズバーストッッ!!!」
手を突き出し、氷の魔力を放つ。
「しゃああっ!!」
それを弾き飛ばし、拳に炎を纏いながら突進してきた。
「なにっ!?」
ぶっ飛ばされ、コロシアムの壁に叩きつけられる。
「ごぁああっ!!」
腹に拳が叩き込まれ、壁を突き破った。
投げ出された先は、案の定闘技場だった。
「っぐ……!!」
「おぉっとぉ!?ジェット選手、ようやく戻ってきましたぁ!!それに続き、ジョー選手までっ!!」
「しゃああっ!!」
ジョーは接近し、拳を放ってくる。
しかしそれを避けて、腹にパンチした。
重いパンチが腹筋を突き抜け、内臓にダイレクトにダメージが入る。
「っぐ……クソがぁあッッ!!」
反撃に拳を振って、ジェットをぶっ飛ばした。
「ッハァッ……ハァッ……!!」
「ハァーッ……ハァーッ……!!」
二人は激しく息切れを起こし、完全にグロッキー状態だ。
しかし目には炎のようなものが宿っており、闘志はまだ消えていない。
そして何より、笑顔を浮かべていた。
「……もう、俺は小細工は使わねぇ。」
ジョーはそう言いながら構え直し、ジェットを見据える。
「ああ……俺もだ。」
ジェットも拳を握り、ギュウウッと力を込める。
そして、構えた。
「……」
「……」
防御は一切しない。
打ち込む事だけに、全力を注ぎ込む。
信念と情熱を込めた拳で、真正面からぶつかり合う。
そうだ……ここからが、本番だ……
「ーーーッッッ!!!」
二人の怒号が闘技場に響く。
拳と拳がすれ違い、互いの顔面を打った……
「ウワッ!?」
「きゃっ!?」
「っ!!?」
観客席に居た人間、実況、ローレンスまでもが驚愕した。
顔面を打つ拳骨の音が、鼓膜をつんざいたのだ。
「……なんという……!!」
もう、勝負じゃない。
こいつは……
「だぁあああああああああ!!!!」
「がぁあああああああああ!!!!」
両者一歩も退かずに、ノーガードで殴り合っていた。
防御の全てをかなぐり捨てて、力のままにぶん殴りあっている。
「……悪夢を見ているようだ。」
ローレンスが、ふとそう呟いた。
彼だからこそ、分かるのだ。
ジョーと殴り合う、という事がどういう事か。
「アレが……そうなのですね。」
「……!?」
ローレンスの横に、ダークエルフが立っていた。
「あなたは……い、いや……っ!」
いつの間にか、闘技場の観客席にはダークエルフの姿がチラホラ見られた。
その皆が、祈りを捧げている。
「……っ……」
そうか……ジョーよ。
貴様は……貴様という男は、いつもそうだった。
いつも誰かの為ではなく、自分のために動いていた。
だから根底にあるものはエゴだが……その結果は、いつも誰かの心を動かすものだったな。
やはり、ダークエルフを魔王の暴虐から救ったのは貴様だったのだな……
「……そして……貴様の目の前にいる男だって……」
「だぁああああーーッッッ!!!」
「ッッッ!!!」
体に拳が連打され、ジョーは揺らいだ。
大ダメージが一気に刻まれ、後ずさりを始める。
「っぐぅううううっ!!!」
しかし踏ん張り、渾身の拳を顔面に叩き込んだ。
「ーーー!!!!」
僅かにぶっ飛ぶが着地し、突撃する。
そして、また殴り合った。
「あぁああああーーーッッッ!!!」
その力に憧れて、武術を始めた。
必死になって近づこうと……力で尊いものを手にしようとくらいついた。
しかし、今……こうして、ここまで迫ったのだ。
憧れは、憧れのままで終わらせたくない。
「俺はお前を超えるっ!!」
拳が顔面を打ち抜き、仰け反らせた。
しかし、まだダウンは出来ず……
「たわけぇっ!!」
逆に殴り返され、揺らいでしまった。
すぐに歯を食いしばり、踏ん張る。
「おっらぁあああっ!!!」
拳に全力を込め、また顔面を叩いた。
「っがは……!!」
また、揺らいだ。
それも、先程のよりも長く……
ーーー勝機っ!!
「だぁああっ!!」
間髪入れずに、もう一回顔面を殴る。
手応えがこれまでの比ではなく、確実にジョーの体力を削っているのが感じられた。
「っぐはぁあ……!!」
血を吐き、攻撃の手が止まる。
視界がグラグラ揺れ、足がふらついた。
今だと言わんばかりに、ジェットが突進した。
「あだだだだだだだーーーっ!!!」
体に拳を連打しながらも、力を溜める。
打ち込むたびに強く、鋭く研ぎ澄まされていく。
「ぐ……ぐ……ぬぅ……!!?」
ジョーの背中に、壁がつく。
壁の冷たさを感じ、ハッと硬直した。
お、押され……ま、負……!!
「おらぁああああああああっ!!!!」
渾身の拳が、顔面を打ち抜いた。
この試合で、一番の威力のパンチだったと思う。
それはジョーの脳を揺らし、鼻血を噴き出させ……
「ぁ……ぐ……!!」
遂にはダウンさせ、ガクッと倒れた……
「……ッハァーッ……ハァーッ……!!」
ジェットは魔力を収め、立つ。
倒れ伏すジョーを、ハッキリと見た。
「……っくくくく……ははははは……!!も、もう……動けん……はははははは……俺の負けか……!!」
ジョーは笑いながら、敗北を宣言した。
その瞬間、観客席が盛り上がった。
「なんと……なんとなんとなんとなんとォオオッ!!この決勝戦、ハチャメチャなことがありました!!空中戦は起こるわ、天にまで届くような火柱が立つわ、闘技場が壊れるわ……しかしッッッ!!そんな中でもこの戦いを制し優勝に輝いたのは、ジェット選手でしたァアッッッ!!!皆様、拍手喝采を!!!」
ジェットは、呆然と立ち尽くす。
その肩を、ジョーが掴んでいた。
「折角、この俺に勝ったんだ……少しは誇りな。」
「……ああ。」
ジョーがジェットの腕を持ち上げ、勝ち名乗りを上げさせる。
二人を包む喝采は、長く続いた……
これにて、闘技も終わった。
ジェットもジョーもローレンスも、あとついでに準決勝でジョーと戦ってた奴も賞金を受け取った。
みんな賞金を受け取った事で、しばらくは金に困らないだろう。
観客達も思い思いの感想を語りながらも帰路へついた。
その足取りはなんとも軽やかで……なんとも満足そうにしていた……
「準決勝、おめでとうございます。」
ダークエルフの一人が、ジョーにそう言ってきた。
「……」
その後ろを見ると、沢山のダークエルフが控えていた。
「あ、どうも。」
「……」
ジェットとローレンスも、一応会釈しておく。
ダークエルフも会釈を返し、ジョーに向き直した。
「ここに居るダークエルフ一同……貴方様を応援しておりました。準決勝という結果、誇るべきものだと思っております。」
「……フン。」
ジョーは背を向け、さっさと歩いていった。
ダークエルフ達は、その背に祈りを捧げる。
「……貴方様の旅に、幸福があらんことを。」
「……」
「……へへっ!」
二人はジョーの横に並び、ジェットが肩を叩く。
「そうか……村長の言う鬼みたいな奴って、お前の事だったんだな……」
ジョーは溜息をついて、頭を抱えながら背後を見る。
まだ、祈られていた。
「……やりてぇように暴れてたら、いつの間にか崇拝されていただけだ。」
「でも、応えなきゃならねぇぞ?救っちまった以上、お前に期待を持っている。」
「面倒だ。」
他愛のない会話を交わしながら、三人はシクスパークを出ていく。
その背にはジェット達の戦いに感銘を受けた者、ジョーを崇めるダークエルフ達が応援を送っていた……




