決勝戦
「……」
遂に来た。
来てはいけない時が来てしまった。
シクスパークの闘技場……そこで、ジェットは決勝にまで勝ち上がったのだ。
決勝戦の相手は、勿論ジョーだった。
俺が武術を始めたきっかけ……ある意味、憧れとも言える存在だ。
はっきり言う、勝てる気がしない。
しかし、行かねばなるまい。
出てしまったのだから、出ざるを得ない。
「……」
ローレンスが、入場口前で壁に寄りかかっていた。
「ローレンス。」
「……奴は強いぞ。」
「分かってる。」
素っ気ない会話を交わし、入場しようと歩く。
「頑張れよ。」
背に言葉を投げ、ローレンスは観客席方面へ歩いていった。
「ああ……」
ジェットは入場し、闘技場に立つ。
既に、ジョーが腕を組んで立っていた。
「さぁ、遂に始まりました!!決勝戦ですっ!!白虎の方向、ジョー選手!!玄武の方向、ジェット選手!!さぁ、果たしてどんなバトルが繰り広げられるのかッッ!!?」
「……」
「……」
「始めぇええっ!!!」
開戦の銅鑼が鳴らされ、響く。
それと同時に、観客席にバリアが張られた。
二人は向き合ったまま、動かなかった。
「動かない……」
「ど、どうなってしまうんだ……」
「……」
観客がザワつき、ローレンスだけが静かに見ていた。
沈黙が続き……先に動いたのは、ジョーの方だった。
腕をクロスし、目を見開く。
「……はぁあッ!!」
そして、力を解放した。
凄まじい力の圧で衝撃が轟き、旋風が巻き起こる。
「なっ!!?」
「う、ウソ……!?」
「なんて……力……!!」
観客席のバリアが揺らぐほどの旋風が、ジョーの力を伝えてくる。
皆は確信した。こいつは、とんでもない化物だと……
「……」
ジェットは木刀を構え、目を鋭くする。
額から汗が滲み、頬に伝わる。
顎から零れ落ち、聞こえるか聞こえないか程の水音が鳴った……
「つぁあああーーーっ!!!」
ジェットは駆け、木刀で顔面に一撃した。
クリーンヒットするが、手応えがなかった。
「く……!?」
「……」
「うぉおおおおおっ!!」
剣技と武術が乱舞し、ジョーに無数の攻撃が叩き込まれる。
全て直撃するも、まるで効果がなかった。
何故だ……!?
「しゃおらぁっ!!」
顔面に両足蹴りしてからバク転し、距離を取る。
当然効果は無かったが、目的はそこにない。
「しゃあっ!!」
両手に氷の魔力を込めて、連射した。
「……フンッ!!」
ジョーの目が見開き、気合が放たれる。
それによって氷の魔弾は、消し飛ばされた。
「じゃあこいつはどうだっ!?」
ジェットは両手を突き出し、フリーズバーストを放つ。
しかしそれは、あっさりと弾き飛ばされた。
「な……!?」
「そんな程度か……!!」
ジョーは拳を握り込み、力を込める。
そして、その場で思いっきり正拳突きを放った。
「うわっ!?」
拳圧が飛び、ジェットに向かってくる。
それを避けて、構え直した。
「オラァアアッ!!」
ジョーは跳び上がり、殴りかかってくる。
「ちっ!」
バク転で拳を避けて、向き直す。
しかし、既にジョーは背後に居た。
「なにっ!?」
「おるらぁああっ!!!」
そして、ジェットを全力でぶん殴った。
パンチは直撃し、水平にぶっ飛ぶ。
「くそっ!!」
木刀を床に刺してブレーキし、何とか場外は免れた。
しかし、ジョーは殴りにかかってくる。
「オラオラオラオラオラァ!!」
「くそっ!!」
木刀での受けが、まるで無意味だった。
中距離戦の有利が全く活かせない程の、乱暴な拳でのラッシュ。
「ぐぐ……!!」
「ヒャッハァッ!!」
ジョーはスキを見て、ジェットの腹を蹴り据えた。
とてつもない威力の蹴りで、ぶっ飛んでしまう。
「ぐっうぅっ!!」
何とか着地し、ジョーの方を見る。
「拳が近接武器とは限らんぞッ!!」
奴は腰を落とし、その場でパンチを連打していた。
すると、拳の形をしたエネルギー弾がこちらに向かって飛んできた。
「ウソだろっ!?」
それを避け続けながら、なんとか接近する。
戦って、相手の動きを見なければ何も始まらない。
とにかく、普通の戦いに持ち込む事に専念する事にした。
「ハァアッ!」
ジョーも拳に力を込め、突撃する。
「だっ!!」
「ふんっ!」
木刀が、腕でガードされる。
反撃に、腹にパンチが入った。
「おぐぅうっ!?」
よろけていると、頬に拳が入ってぶっ飛ばされる。
「っくそっ!?」
ダウン寸前で踏ん張り、床を蹴って突撃する。
木刀を振りかぶり、切りかかった……
「フン。」
しかし、それは掴まれて止められてしまう。
「なにっ!?」
「……」
そのまま、握り折られてしまった。
「うわっ……!!」
「折角戦ってんだ……そんな木の棒なんかじゃなくて、拳でかかってきな。」
「……」
ジェットは折れた木刀を場外に投げ捨て、素手になる。
そして構え、魔力を解放した。
「はぁーっ……!!」
「こいよ。」
ジェットは突進し、拳を振りかぶる。
ジョーも体を捻って拳を握り、おおきく振りかぶった。
「だぁあああっ!!」
「がぁあああああっ!!」
二人の一撃がぶつかり合い、衝撃が発生する。
拳が押し合い、バチバチとエネルギーが散る。
「はぁああああああ……!!!」
「おぉおおおおおお……!!!」
押しあっていたエネルギーが爆発し、辺りに爆煙が舞う。
二人は、消えていた。
「なっ!!?消えたァッ!!?両選手、どこ行ったのだァッ!!?」
実況がそう言い、観客も闘技場を見回す。
しかし、二人の姿は無かった。
当惑する闘技場の中で、ローレンスだけが二人を見ていた。
上空だ。
「はぁああああああっ!!」
「オラァアアアアアッッ!!!」
空中で、ドカドカとぶつかり合っているのだ。
二人のぶつかり合いが衝撃を巻き起こし、雲を吹っ飛ばしている。
「はははははっ!!やるじゃねぇかっ!!」
「お前こそ……!!」
笑うジョーの顔に、少しばかり憂いが混じった。
「あの時から、俺は戦うのが億劫になっていた……俺の拳は、ただ鬱憤を晴らすだけの道具に成り下がっていたんだ……」
「……」
激しく攻防しながらも、ジョーの話を聞き入る。
その攻撃が、弾かれる度に強くなるのを感じた。
「だが……」
表情から憂いが消え失せ、歯を見せた笑顔に変わった。
「お前に出会えて、ようやく思い出せた!!」
「!!」
超スピードで拳が飛んでくるが、それを受け止める。
しかし奴は、既にもう一方の拳を振りかぶっていた。
「強くなるために心身を鍛え、更なる強者に挑む事の愉しさが!!」
「っ……!!」
その拳も受け止め、二人は押し合う。
「おらぁあっ!!」
ジョーがジェットの腹に蹴りを入れ、ぶっ飛ばした。
「くっ!?」
「ハイヤァッ!!」
既に背後に回り込まれており、背中に蹴りが入る。
「うわぁあっ!?」
「こっちだノロマ!!」
また回り込まれ、今度はスレッジハンマーで叩き下ろされた。
猛スピードで、闘技場の床に落ちていく。
「おらぁあっ!!」
ジョーはこちらを追いながら、拳を構えていた。
「このっ……!!」
ジェットは体勢を整え体を捻り、猛回転した。
ブーンッと体が浮かび、ジョーに向かって飛んでいく。
「なにっ!?」
「おらぁあっ!!」
その勢いで、顎にアッパーした。
「ッッ!!?」
今度は縦に回転し、勢いよくスレッジハンマーした。
「ぬぐぅっ!!」
「おっしゃああーっ!!」
ジョーに追いつき、攻撃を仕掛ける。
しかし攻撃には対応され、そのまま攻防する。
「あだだだだだだ……!!」
「うぉおおおおお……!!」
凄まじい拳の打ち合いが始まり、エネルギーがスパークする。
辺りにもエネルギーが飛び散り、爆発が巻き起こった。
「っぐ……!!」
熱い。
ジョーの拳が、燃えるように熱い。
魔法だ……それも、超高レベルの炎魔法。
故意に使っている訳ではない。無意識の賜物という奴だろう。
「だだだだだ……!!」
「うぉおおお……!!」
そうして攻防していると、二人は闘技場に墜落した。
衝撃で、濃い砂煙が舞う。
「おおっ!!?あの二人が、空中から落ちてきたぞぉっ!!?どうなったんだぁっ!!?」
「……」
砂煙の中で、拳と拳がぶつかり合う音が聞こえる。
「つぁああーっ!!!」
「がぁああーっ!!!」
クロスカウンターが決まり、エネルギーが旋風する。
その旋風で、砂煙が吹き飛んだ。
「ぐ……ぐぐぐ……!!」
「ぬぐぅう……ぐ……!!」
ジョーが離れ、拳を薙ぎ払う。
しかしジェットが腕でガードし、ボディブローを決めた。
「っがはっ!?」
血を吐きながら後退するが、踏ん張る。
そして、ジェットの頭に頭突きした。
直撃し、額が裂けて出血する。
「っづ……!!でりゃあっ!!」
血を飛び散らせながら体を捻って、腰を落とす。
そして、渾身の蹴りがジョーの脇腹に炸裂した。
「がはぁああ……!!」
「おらぁああーっ!!」
拳に氷の魔力を込めて、ジョーの頬に叩き込む。
見事に炸裂し、揺るがせることに成功した。
「っぐはぁあ……!!」
「これが……俺の全力だぁあああーーーっ!!!」
ジェットは拳に全てを込めて、ジョーの鳩尾を打ち抜いた。
その体は大きくぶっ飛び、放物線を描きながら落ちていく。
そして、場外寸前の所に倒れた。
「はぁ……はぁ……!!」
揺らいで防御もクソも無くなった時に、鳩尾への渾身のストレート。
体重のせいからかあまりぶっ飛ばなかったが、それでも大ダメージにはなった筈だ……
「……っくっくっくっく……っはははは……ゲホッゲホッ……!!」
ジョーは立ち上がりながら笑い、咳き込みながら吐血する。
その目が、ハッキリとジェットを捉えた。
「戦いの中で、よもやこの俺が追いつかれるとはな……」
「……どうしたら勝てるか考えてたら、いつの間にか成功していただけだ。」
「……」
フッと笑った後、目が鋭くなる。
構えを取って、全身を力ませた。
「ジェットよ……好敵手になったお前に万感の感謝を込めて、俺は今一度本気を出してみようと思う……」
「……」
さっきまでの戦いが、本気ではなかった……のは、察していた。
こいつは、ハッタリを言うような人間ではない。
「……行くぞ。」
「ああ。」
返事をした瞬間、とてつもなく重い拳がジェットの腹を打ち抜いた。
「ッッッ……!!!?」
「はぁあ……!!」
先程のパンチで、ジョーのシャツの袖が破けていた。
パンチの瞬間の筋肉の膨張で、破けたのだ。
「おらぁあっ!!」
もう一方の拳が、顔面を打ち抜く。
その衝撃で、また袖が破けた。
「っぐぅううっ!!?」
なんとか踏ん張り、向こうを向き直した。
奴は腕をクロスして、震えていた。
凄まじいエネルギーが練り上げられ、充実していく……
「っはぁああああっ!!!」
燃えるようなエネルギーが爆発し、天を衝く。
辺りに熱風が吹き荒び、衝撃が轟き、地響きが起こった。
「ぐ……!!?」
「はぁあああーーーっ!!!」
ジョーの咆哮で、溢れ出るエネルギーが吹き飛んだ。
先程のエネルギーで服が燃えカスになったのか、上半身裸になっていた。
ゴキゴキと首を鳴らしながら、実況の方へ向いた。
「……おい実況、てめぇは審判も兼ねてんのか?」
「は、はひっ!?え、ええ!」
実況は、こくこく頷く。
それを見て奴は、笑顔を浮かべた。
「……なら、もうこの試合に場外負けは要らねぇ。ルールから消しな。」
「ふぇっ!?し、しかし……」
実況がそう言いかけてる間に、拳を掲げる。
その腕にはこれ以上となく筋肉が込められていて、力こぶがまるで金属のようになっていた。
「チェリャアアァッッッ!!!!」
その拳を振り下ろし、地面をぶん殴る。
すると、場内が崩壊した。
「うぉおあああっ!?」
「ーーーっ!!?」
場内だけではなく、観客席にも地震が起きた。
「わーっ!?」
「なんだなんだなんだなんだ!?」
「う、ウソだろっ!?人間の拳が……」
「相変わらず、力だけでやりたい事をやる奴だな。」
ローレンスだけは、冷静に見ていた。
この中で一番長くジョーと付き合っているので、この程度ならば慣れているのだ。
「さァ、これでこの遊園地全てが闘技場だ。文句は言わせねぇぞ?」
「いででで……お、おい審判!?アリなのかこれは!?」
実況の方を見ると、おどおどしながら丸サインしていた。
このエゴに満ちたワガママが、まかり通ってしまったようだ。
「……はぁ……ま、ある意味で俺も有利になったからいいか。」
ジェットは服を破き捨て、伸脚した。
「勿論、俺も全力で行かせてもらうぜ。拳で。」
拳をガチンと合わせてから、構える。
ジョーも、ついに本気を出してきた。
そして何より、場外がなくなってしまった……
という事は、勝敗はどちらかが負けを認めないと成立しないという事だ。
決戦も決戦、これが最終決戦だ。
「いくぞジェットぉおおおおッッッ!!!」
「おぉおおおおおおッッッ!!!」
二人は駆け寄り、拳を振りかぶる。
こうして今、最終決戦の火蓋が切られたのだった……




