シクスパークへ……
ふたりめの四魔姫、ゴルゴーンを何とか退けたジェット。
揺るがせる事には成功したものの、圧倒的な実力の差に殺されそうになってしまった。
「あ〜あ〜、まだまだだなぁ、俺も……」
あらためて、村の様子を見てみる。
そこには、命を落とした男達を追悼する人々が居た。
村は悲しげな雰囲気に包まれ、そこらからすすり泣く声が聞こえる。
「……」
いつか、こんな光景が無くなるように……勇者である俺が何とかしなければ。
そのためには強くなる必要もあるし、何より仲間を集める必要がある。
次に向かうは、シクスパーク……遊園地の中の闘技場だ。
そこで力強い戦士を、仲間に出来たらいいな。
「……なぁ、あんた。」
「?」
ジェットに話しかけてきたのは、あの足を削がれた武道家だった。
杖を使いながら、何とか歩いている。
「あんた、とんでもなく強いみたいだな……あの四魔姫の一柱に太刀打ちしちまうなんて……」
「ハッ、負けてちゃ意味ねぇーっての。何の用だ?」
一刻も早く休みたいがために、素っ気ない態度を取ってしまう。
「……宿屋なら、案内出来る。」
こちらの態度を読み取り、武道家は気を遣う。
それを見て、あんな態度をとってしまった自分を少し恥ずかしく思った。
「あ、ああ……ありがとう。」
「案内ついでに、話を聞いてほしいんだが……」
「ああ……」
足の悪い武道家に合わせ、ゆっくりと歩き始めた。
「この先にある遊園地の事は、知ってるな?」
「ああ、シクスパークの事か。そこに向かおうとして、ここで休もうとしたらこんな事になって……」
「うむ……かくいう俺も、向かおうとしたが……ご覧の通りだ。武道家の命である足がこんなザマで……」
ふと、武道家の足を見てみる。
包帯が巻き付けられており、血が滲んでいた。
「薬草は塗ったか?」
「もちろん。」
「……」
ジェットは、鼻を鳴らす。
薬草の匂いはするから、回復はするだろうけども、これでは戦えないだろう……
「それで、お前はシクスパークで何をしようとしてたんだ?闘技場で優勝したかったのか?」
その問は、首を横に振られて返答された。
でも、その表情は微妙なものだった。
「あ、いや、それもあるのだが……近頃あの闘技場に、迷惑な女戦士の三姉妹が現れて……」
「魔物か?」
「いや、人間なのだが……」
「ふぁっ。」
少し驚いて、変な声が出てしまう。
こんな魔物とドンパチするのに集中してるのに、人間サイドにも問題が起きてるとか。
正直、勘弁して欲しい。
「……例えば?」
「その、負けた戦士の金を巻き上げたり、喧嘩ふっかけては一方的にサンドバッグにしたり……散々な暴れようのようだ。」
「ヤンキーかよ。」
……この世界の社会は、男女平等を掲げている。
しかしそれを持ち上げているのは、他ではない女性の方だった。
強い女性が男女平等を盾にしているせいで、女尊男卑の風潮が生まれつつあるが……
「そんな極端な奴は初めてだぜ……地元でも少しはマシな……いや、変わらねぇか。」
「いや、そこらのチンピラとは違って実力を持っているから余計に厄介なのだ。」
「どの程度の強さだ?」
「毎回、闘技場の1位、2位、3位をかっさらっていく……って言えば、伝わるかな。」
「……」
シクスパークは、世界中のあらゆる戦士が集まるところだ。
それこそ、達人とか豪傑とか、俺より強い戦士がわんさか居るであろう。
そのランキング上位三位を、独占するほどの強さ……
「へ、へぇ〜……」
チンピラに実力が伴うと、厄介だ。
これはこれで、早く何とかせねば……
「俺も、その三姉妹を成敗しようとは思ったが……まさか、こんな所で崩れることになるとは……」
「あ〜、だいたい分かった。こういうのも、多分勇者の使命だから何とかしてみせる。」
「う、うむ……ありがとう。」
話し終えた時、丁度宿屋があった。
「おお、宿屋だ。」
ようやく、休める。
エルフを倒しながらの森越えに、四魔姫との死闘。
宿屋を目の前にして、その疲れが思い出したようにのしかかってきた。
「あ〜……やべぇ、ダルい……」
「今は体を休めるべきだな……シクスパークへは、次の日に馬車が出る。それに乗ればいいだろう。」
「ああ、ありがとう親切に……」
そう言いながら、そそくさと宿屋へ入った。
いつも通りチェックインし、部屋で情報とやる事をまとめる。
「……」
シクスパークには、強いやつが沢山いる。仲間集めにいいだろう。
しかし、問題児が三人いる。何とかしなければ。
闘技場……に出ることは、多分無いとは思う。参加する理由が見当たらない。
あ、いや、流れで出ることにはなると思う。何か色々言われて、出ざるを得ない状況になりそう。
「……修行、するべきかぁ。」
いろいろ考え、ダルい体に鞭を打ちながら修行する事にした。
とっとと武器をとって、素振りをする。
「……」
さぁ、次はどんな奴が待っているのかな。
世界中の強いヤツが現れる以上、ぶつかり合いは避けられないはず。
俺も、あいつに太刀打ち出来たからって浮かれている訳にも行かない。
「ふんっ!」
素振りの圧が、辺りをビリビリと震わせる。
次の日のことを考えると、何だか力が込もってしまう。
その修行は夜遅くまで行われた……
翌日……
先の襲撃以外には、この村で問題は起こっていないようだ。
問題が起こっていないんなら勇者の仕事は無い。
必要な物資を買って、とっとと次の目的地に向かう事にした。
武道家に言われた通り、シクスパークへは馬車が出ていた。
早速乗り込み、移動を開始する。
金はかかるが、歩かずに済むのでかなり楽だ。
「……」
朝方だからか、はたまたシクスパークの問題児のせいなのか、乗客は俺一人にしか見えなかった。
こんなガキ一人の為に、馬車を走らせてる奴も大変だ。
「……はぁ〜あ、暇だなぁ。誰か、喋る相手でも居たらいいんだけどなぁ。」
仲間がいるということの最高のメリットは、これだろう。
喋る相手が居れば、多少の暇も紛らわせるというのに。
そんな相手が居ないから、こういう場ではすぐ暇になってしまう。
「ならば、話し相手になってやろうか。」
「ふぁっ!?」
いつの間にか、男が隣に座っていた。
エルフとの戦いで出会った、仮面を着けた忍者風の戦士だった。
「お前はっ……!」
「まだ名乗っていなかったな……我が名はローレンスだ。」
「何時からここに?」
「はじめから。」
「全然気付かなかった……」
「気配を消したからな。」
二人を乗せた馬車は、進んでいく。
僅かな揺れと、変わる景色が、落ち着く雰囲気を作っていた。
「……お前も、シクスパークへ?」
そう切り出したのは、ジェットの方だった。
ローレンスも、それに頷く。
「ああ。お前もか。」
「まぁ、仲間探しの一環で……」
「仲間探しか……勇者であれ、一人で魔王の成敗は無理と判断したか。」
「悪いかよ。」
「いや、賢明な判断だ。寧ろ正しい……」
そう言いながら、ローレンスは視線をこちらに向けてきた。
「そうだ。我の人探しに協力出来ないか?」
「急だなオイ。」
「ただでとは言わない……お前の魔王を倒す旅、ついて行ってやろう。」
「マジかっ!」
「……それに、困っている者を助けるのは、勇者の使命ではないのか?」
仲間になる宣言に、勇者としてのなんたるかを言われ……
そこまで言われたら、協力せざるを得ない。
とりあえず頷いて、手を差し出した。
「分かった、協力するぜ。」
「ありがとう……宜しく頼む。」
二人は、握手を交わした。
これで、仲間が一人出来た。
「それで、お前の探している人ってのは……?確か、友人だったよな?」
「ああ……名前は……」
ローレンスが、そこまで言った時だった。
急に馬車が、ブレーキをかけた。
「?」
「何かあったのか?」
なんだか、外に嫌な気配がする。
この場が、物々しい雰囲気に包まれた。
二人は、外を見る……
「……!」
魔物が、馬車を囲んでいた。
「ふっふっふ……」
「金目のものも無さそうだが……ま、いっか。」
デーモンだ。
そこそこ戦闘力のありそうな、武装したデーモンが馬車を止めたのだ。
「手を上げて、金目のモン出して、全裸になりな!」
既に数体ばかり馬車に乗り込まれており、運転手にも銃を向けている。
二人にも、銃が向けられていた。
「……」
「なんだ?その生意気な仮面は……!」
デーモンの一体が、ローレンスの胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「……」
「……」
ローレンスとジェットは顔を見合わせ、頷いた。
「先に仕掛けたのは、貴様らの方だ……後悔するな。」
「ああ!?」
ローレンスは銃の砲身を掴み、魔力を込める。
次の瞬間、銃がバラバラに切り裂かれた。
「!?」
「はっ!!」
腹に拳を叩きつけ、制止する。
「がは……!!?」
デーモンの腹から縦に斬撃が走り、その体が唐竹割りになった。
「なんだこいつっ!?」
「らぁあっ!!」
ジェットがもう一体のデーモンを袈裟斬りして、真っ二つにした。
絡んでくるデーモンを倒し、二人は運転手の方に目を向ける。
「動くなっ!動いたら、こいつを撃つぞっ!?」
「ひ、ひ……!」
デーモンが、運転手を人質にしていた。
「おい、どうするローレンス?」
「……動かなければ良い。」
そう言いながら、その場で指パッチンする。
次の瞬間、デーモンの体に無数の斬撃が駆け巡った。
「っぐはぁああっ!?」
怯んだ隙を見て、ローレンスは一瞬で懐に詰める。
「せいやぁあっ!!」
ワンインチパンチし、思いっきりぶっ飛ばした。
デーモンは馬車の壁を突き破り、外へ飛び出る。
「撃ーーー!!!」
その号令と共に、一斉に馬車が銃撃される。
無数に射撃された事で、馬車が蜂の巣になった。
「……アイスバリヤー。」
ジェットが、氷で壁を張っていたおかげで、運転手も二人も無事だった。
「俺が先に行こう。そこで運転手を頼む。」
ローレンスがアイスバリヤーを斬り、外へ飛び出る。
「……」
「撃……」
号令が響く寸前に、そいつの喉に斬撃が入った。
「っ!!?」
「でぁあっ!!」
そいつに高速で接近し、腹にパンチを入れる。
「せいやぁあっ!!」
「このっ!」
別のデーモンが数体、背後から銃撃してくる。
しかしローレンスは喉を斬ったデーモンを盾にし、銃弾を防いだ。
「な……」
「ふんっ!」
その蜂の巣になったデーモンを蹴り、数体に叩きつける。
「はっ!!」
そして、その場で手刀を薙ぎ払った。
次の瞬間、デーモン達の首が次々にハネられた。
「くそっ……!!」
デーモンの一体が、銃を捨てる。
そして、エネルギー波を放ってきた。
「ふんっ!」
そのエネルギー波を、手刀で弾き飛ばした。
「……なるほど、ようやく相手にしている者が何か分かったか……しかし、既に遅い。」
「なんだと……!!」
デーモンは、エネルギー弾を連射してくる。
それを次々に弾きながら、接近した。
「く……!!」
拳を握り、ローレンスに殴り掛かる。
「ふん。」
しかし、その拳を掴んで止める。
「せぇいっ!」
手刀を振り、その腕を切り落した。
「っきゃあああーーーっ!!?」
「はっ!!」
次に、横に手刀を振って制止する。
「……!!」
デーモンは身体中に斬撃が走り、細切れになった……
「たぁあっ!!」
ジェットも、寄り付くデーモンから運転手を守りながら戦っていた。
「アイススラッシュ!」
氷魔法の奔流を剣に込め、迫り来る敵達を切り伏せていた。
二人の活躍により、次々にデーモンを切り倒し……
遂に、全滅させることに成功した。
「……っふぅ……」
「全滅させたぞ……これで安心だ。」
「あ、ああ……ありがとう……」
あの乱戦の中でも、馬は無事だったようだ。
二人は、馬車の座席に戻る。
「……何で、デーモンが銃器なんか持ってるんだ?」
「おそらくだが……馬車を制圧、占拠するだけなら、魔法では破壊しすぎてしまう。銃器の方が丁度良いと踏んだのだろう……それに、普通の人間が銃など向けられたら恐怖で何もできなくなってしまう……」
「なるほど、じゃ今回は襲撃した馬車が悪かったってコトで……」
二人を乗せた馬車は再び走り出し、シクスパークへ向かった……
果たして、ローレンスの探し人は見つかるのか。
そして、シクスパークの問題になっている三姉妹とは……




