遊園地にて
ローレンスを仲間にし、馬車に揺られるジェット。
その馬車は、なんとか無事にシクスパークへ着いたのだった。
「着いたぞ。」
「ああ。」
二人は料金を払い、馬車を降りる。
背伸びをして、目の前を見た。
「うわぁー……」
「ふむ……」
大きな観覧車に、派手なジェットコースター。
楽しそうな声が響き渡り、賑やかな音楽も鳴っている。
そんな遊園地なのに、戦いの気配はビリビリと感じる。
「外からは闘技場は見えないか。」
「中に入るぞ。」
ローレンスが先に行って、ジェットもそれに続く。
「お前、チケットは持っているのか?」
「平気だ。」
ピラッと、チケットの紙を見せてくる。
向こうも入園チケットを持っているようで、少し安心した。
これで一人だけしか入れません、なんてアホな事があったら大変だ。
「……っはーっ……ここじゃねぇけど、遊園地なんて、アカデミーの卒業遠足で行ったっきりだなー……」
「ああ、我もだ……」
その時、二人の間で何かが走った。
顔を見合わせ、止まる。
「……そのアカデミー、どこのだ?」
「ローゼ王国第一魔法学校だが……」
時間が、止まった。
ローゼ王国第一魔法学校……
そこはジェットの母校であり、それと同時にローレンスの母校でもあった……
「あれっ!?お前ってあの学校出身だったの!?」
「いや、お前こそっ!あの学校の出身だったとは……!」
「てめぇ、何で俺の事知らねぇんだ!死ぬほど勉強して卒業試験一位取ったってのに!」
ジェットはそう言い、ローレンスの胸ぐらを掴んで揺さぶった。
「す、すまないっ!結果発表日は色々とゴタゴタしていたのだ!だから、誰が何位なのか我は把握していない!」
揺さぶられながら、必死に説明する。
その手は掴んでいる手をタップし、今にもギブアップと言いそうなほどだ。
「そ、そっか……まぁ、俺もあの後色々ゴタゴタしたし……」
ジェットはそう言い、手を離した。
「それにしても、お前程の実力者が居れば多少なりとも話題にはなると思うんだが……」
「家庭が複雑で、あまり目立ちたくないものでな……平穏に暮らしたつもりだ……」
「ああ、そうか……」
母校が同じだった二人は、懐かしさのようなものを語りながら歩き出す。
そして受付を通り、入園した……
園内……
「……」
流石は、この星で一番の遊園地。
広大な土地に、所狭しとアトラクションがひしめき合っている。
「ふむ……卒遠で行った時より見事ではあるな……しかし、我らは遊んでいる暇ではない。」
「ああ、その通りだな。」
ジェットの手には既に、ケバブやらホットドッグやらクレープやらがたくさんあった。
「貴様ッ!既に遊園地気分かっ!!」
「わ、わりぃわりぃ……ほら、金にも余裕あるし、折角こういう所来たんだから……」
ケバブを渡し、ホットドッグを齧る。
「む、むぅう……うむ、仕方がない、買ってしまったものは処理せねば。」
ローレンスもケバブを齧りながら、歩いた。
そこら辺で取った地図を開き、二人で見る。
「情報が集まる所っつったら酒場だけど、ここって酒場あんのか?」
「闘技場の近くに大きいのがある。行くしかあるまい。」
眼鏡でも整えるように仮面を整え、先の道を見る。
ジェットは、ローレンスの仮面を見ていた。
「……見えんのかよそれ。」
「特殊な素材で出来ている。問題ない。」
他愛ない会話を交わして二人は歩き、闘技場に向かう。
「……所で、聞きそびれてたんだけど、お前の友人って何者だ?」
ふと思い、聞いてみた。
向こうは、仮面越しにでも分かるほど真剣な顔をしている。
「ああ……名前は、ジョー。我らと同じアカデミー出身の人間だ。」
「ジョー……!?あの、格闘大会で優勝した!?」
「む、知っていたか……」
あのアカデミー出身の人間ならば、知らない奴は居ないと思う。
ジョーという人間……かつてローゼ王国主催の格闘大会で成績を納めた、めっちゃ強い男だ。
俺が拳闘術を覚えたのも、彼に憧れたのがきっかけである。
「大会、毎年見てたぜ……一昨年の大会の時は決勝でボコボコにされて、すげぇ悔しがってたのが印象的で……その次の年では、何とか勝って、すげぇ喜んでた……年々、強くなってる印象的があったな……今年は出なかったみたいだから見てねぇけど……」
「……」
「……ローレンス?」
ローレンスは、難しそうな顔をしていた。
何か、大きなゴタゴタがあったようだ……
「試験の結果発表日……奴は忽然と姿を消したのだ。その時に、見つけた紙……」
ピラッと、紙を見せてくる。
その紙には達筆な文字で、「ぶん殴ってくる」とだけ書かれていた。
「……なんだこりゃ?」
「分からん……ただ確かなのは、奴にも探している人間が居るという事だ……」
「……」
そんな会話をしながら、遊園地を歩いていった。
闘技場に近づけば近づく程に、闘いの気配が濃くなっていく。
「……見えてきたぞ。」
「ああ……」
この遊園地の最大の目玉、闘技場……
それは、この遊園地でも群を抜いて大きな施設だった。
熱狂的な歓声と闘いの熱気が溢れ、燃え上がるように熱い雰囲気が漂っていた。
思わず、手に汗を握ってしまう。
「我らが用があるのは、向こうだ。」
ローレンスが指した先……大きな酒場があった。
あそこなら、いろいろな情報が集うに違いない……
「行くぞ。」
「ああ。」
二人は、酒場へと入っていった……
酒場……
闘技場の戦士達で賑わい、楽しそうな雰囲気だった。
バーの席に二人で座り、マスターの方へ向く。
「……未成年かい。」
「……すまない。」
「オレンジジュースとかない?」
「オイ。」
悪びれもせずにメニューを覗くジェットに、ツッコもうとするローレンス。
しかし、マスターはクスリと笑った。
「いや、いいんだ。酒さえ飲まなきゃ。オレンジジュースだな。そっちの仮面の兄さんは?」
「……ホットココアを頼めるか?」
「あいよ。」
どう見ても、子供の飲み物を頼む二人。
こんな雰囲気の酒場だから、おちょくりにくる男が居るだろうなと思えば、そんな事は無かった。
むしろ、皆が皆の内で盛り上がっている。
酒場としては、理想の盛り上がり方なのではないだろうか。
「民度が高いのだな。」
「……まぁ、アレを見ればねぇ……」
「アレだと?」
「例の問題児三姉妹?」
ジェットに頷きながら、ココアとオレンジジュースを出すマスター。
「ああ……メッサリナ三姉妹か……ここ最近、やたらウチと闘技場に来てる女戦士だったねぇ……毎回毎回、酒とつまみを根こそぎ持って行って、気分で客の男を裸に剥いてサンドバッグにして……っていうのがあってねぇ。ここの男達はデカい顔出来ないの。」
「むぅ、暴君だな……」
「こっわ……名前とか知らないのかねマスター。」
「長女はスキッラ、次女はカナン、三女はマナって事だな……どいつがどいつなのかは、一目見りゃ分かるさ……」
ジェットとローレンスは飲み物を飲み、マスターに聞き込みを続けようとする。
しかし、後ろから気になる声が聞こえてきた。
「おい……そろそろなんじゃねぇのか?」
「うわっ、確かに……!出るぞ。」
「怪しまれたらどうするんだよ!動かない方が安全だ!」
賑やかだった酒場もざわめき、物々しい雰囲気に包まれた。
ザワザワ話すフロアに、外の遊園地の賑やかな音楽だけが微かに響く。
「おいおい、何かやばい雰囲気なんじゃないの?」
「来るのか、マスター?」
「ああ……丁度この時間だねぇ……」
その時だった。
酒場のドアが、乱暴に開け放たれた。
「ぬぁあーんっ、疲れたもぉーんっ!」
「今日も、楽勝だったわ〜……」
「あんな程度でお金稼げるなんてね〜!」
でかい斧を持った身長の高い女と、
双剣を腰に携えた中くらいの女と、
篭手をこしらえた武道家タイプの低身長な女が、
この酒場に入ってきた。
ざわついていた酒場も、完全に沈黙に陥る。
「よこせっ!えいっ!」
低身長の女がテーブルから酒を取って、ラッパ飲みする。
「っはぁ〜っ!おいしい〜!」
「マナ、私にも寄越しなさい。」
「はーい!」
中くらいの女も、酒を飲む。
「姉さん、これを。」
「サンキュー!」
「……」
「……」
他の客の酒を強奪し、姉妹で飲み回してる……
予想以上にキツかった。
その行動の異常さから、暴君っぷりが目立つ。
三姉妹は、バーに向かってきた。
「マスター、酒は用意出来てるのか!?」
「用意してなきゃ、ぶっ殺すぞ〜!」
「きゃははははっ!お姉様ったら〜!」
三姉妹のうちの長女……スキッラが、ジェットの隣に座ってきた。
「お、見ない顔だなぁ。しかも若い男の子!」
気さくに話しかけながら、ジェットが飲んでいるジュースに、目をつける。
そして、大笑いした。
「あははははははっ!こいつ、オレンジジュースなんか飲んでる〜っ!」
「ここは、お子様が来るところではないですよ〜っ!」
「あはははははっ!かーわいーっ!」
爆笑する三姉妹の前で、ジェットは下唇を噛みながら青筋を浮かべる。
「あいつら、調子乗ってない?どうするよローレンス、処す?処す?」
「落ち着け。挑発に乗るな。」
ローレンスのたしなめで、ジェットは落ち着く。
「お子様のジュースなんて飲まないで、お酒飲もうよ!若いんだろぅ?」
「マスター、酒を5つ。あの仮面さんのぶんもね。」
「若い男の子が二人も……どうする?もうホテル取っちゃう?」
静かな酒場で、ガヤガヤ話す三姉妹……
その前で、マスターが震えていた。
「お、お客様……未成年には、お酒が出せませんので……」
そう言った次の瞬間、スキッラは瓶をマスターの頭にぶん投げた。
「!!!!」
直撃し、頭から血を流しながらうずくまる。
「いいんだよジジイ!アタシらがイイっつってんだからさぁ!」
「てめぇっ……!!」
「貴様っ……!!」
二人が、立ち上がろうとした時だった。
三姉妹の向こうの席から、氷のカランカランという音が聞こえてきた。
黒いシャツを着た、ボサボサの髪の男が居た。
「マスター、コーラを頼めるか。」
「は、はひ……!!」
三姉妹、そいつに目をつけた。
「ねぇボク〜……コーラなんて飲んでるの〜?」
「また若い男の子だぁ……ねね、一緒にお酒飲もうよ。」
「若い内に飲まないと、後悔するぞ〜っ!」
「……」
マスターが、フラフラになりながら男のコップを取り、コーラを注ぐ。
そのコーラが男に出されようとした時……
スキッラの斧が、コップを粉砕する。ガラス片が散らばり、コーラが散乱して僅かに炭酸した。
「オイ……先に注文したのはアタシらじゃないのか!?アァ!?」
「舐めた態度取ってると、本当に……この酒場ごと、吹き飛ばすわよ……」
「あははははっ!砕け散った〜!」
「……」
男は立ち上がり、スキッラの前に立った。
「……アァ?」
何か文句でもあるのか……
その言葉が出る前に、頭が掴まれる。
腕には筋肉のラインが浮かび上がり、相当力んでいるように見える。
「おい……まさか、アタシに喧嘩売ってんじゃ……」
「……」
次の瞬間の事だった。
なんと、彼女の体が頭から縦に潰れた。
まるで缶ジュースの缶のように、垂直に押し潰されたのだ。
肉の潰れる音と背骨が砕ける音が同時再生され、グシャアッという音が鳴った。
「……へ?」
「な……!!?」
状況が飲み込めず、立ち尽くすマナとカナン。
「……」
男のその行為には、何の感情も無かった。
ただ、「コーラを飲むのに邪魔だったから潰した。」という意志のもとの行動に見えた……
「くっ!!!」
カナンが剣を抜いて、男に切りかかる。
男はすかさず裏拳を振り、カナンの顔面に当てた。
「!!!」
ぶっ飛んで、宙を舞う。
男はその髪を掴んで、思いっきりぶん投げた。
カナンはなすすべもなく壁に激突し、壁も崩落した……
「……」
いや、投げてはいなかった。
髪を掴んだまんま、遠心力で頭皮を剥がしたのだ。
「ち……ちょーし乗んなぁああっ!!」
マナが拳を構え、男に突っかかる。
しかし、両足の膝を蹴りで打ち抜かれた。
「!!?」
跪き、男の方を見る。
その顔面に踵落としが炸裂し、頭が叩き潰れた。
「……」
邪鬼を踏む仁王のようにマナを踏んでから、思いっきり蹴り飛ばす。
そして、カウンターの席に座った。
「……マスター、コーラを一つ。早くしろ。」
何事も無かったかのように、男はまたコーラを頼む。
一連の光景を見ていたジェットは、唾を飲んだ。
「おい、ローレンス……見たか……あれっ。」
ローレンスは、既に男の隣に居た。
ココアを飲み、男の顔を覗く。
「まさか、こんな早い段階で見つかるとはな……ジョーよ。」
「ローレンス……」
ローレンスを見た、その顔……
それは紛れもなく、あのジョーの顔だった。
ローレンスの探し人は、こんな所で見つかったのだった。
「は、はへぇ〜〜〜……す、すっげ〜〜〜……」
舌を巻きながら、ジェットはローレンスの隣に座ったのだった……




