ふたりめの四魔姫
森にて、エルフの残党を倒したジェット。
妨害が無くなったことで、快適に森を抜けた。
「……」
森を抜け、草原に出た。
向こうほど熱くはなく、楽。
緩やか風が旅人を迎える、穏やかな草原だ。
「んーっ……」
風を浴びながら、背筋を伸ばす。
そして、進んだ。
敵の気配もなく、安全そうな道のりだ。
すぐ近くに、村が見えた。
きっと、アレがブファイ村だろう。
そうと決まれば、行くしかない。
「よーっし!」
ジェットは、そこへ向かった……
「……あら?」
村は、異様な雰囲気が漂っており、嫌なほど静かだった。
民家の戸は締め切られ、周りには争いの跡もある。
「なんだ……?」
何の変哲もない、普通の村だと思っていた。
しかし、これじゃ静かすぎる。
何かあるに違いない……
少年は困惑しながらも、歩いた。
そこそこ長い通路を歩いてる最中も、人の気配がない。
風の音と、それに煽られ地面を擦る落ち葉の音だけが鳴っていた……
「……」
広場に差し掛かろうとした時……何かを感じ、街路樹の陰に隠れた。
僅かに顔を出し、様子を伺う。
「な、なんだこりゃあ……!?」
そこには、やはり異様な光景が展開されていた。
目隠しをした黒髪ロングの女が立っており、その周囲には旅人、戦士、普通の男……の、死体が転がっていた。
どれも、素手で叩きのめされたらしい。
女は、おそらくデーモンの最上位種であると見た。
デーモンの最上位種は、デビル。
文献によると、人間とほとんど同じ見た目だとか。
「……さて、残るのは貴方達だけね。」
「ひ、ひっ……!」
「く……!」
残されてるのは、二人の戦士。剣士と武道家だ。
しかし、女の気迫に負けて後ずさっている。
「背を向けた瞬間、殺すわ。せいぜい、抵抗する事ね。」
「く、くそぉおっ!!」
剣士が剣を構え、女に斬りかかる。
しかし、奴はその剣を指で挟み、止めた。
「うっ!?」
「おそい。」
次の瞬間、女の姿が消える。
それと同時に、剣士の首筋から血が、壊れた蛇口のように噴き出した。
「……!!」
見えなかった。
初撃の瞬間における、あるか無しかの初期動作。
どんな攻撃をしていたのかすら、目視出来なかった……!
ジェットは、覗き見ながら唾を飲む。
「な、何なんだあいつ……!?」
「アキャオッ!!」
武道家が、踵落としを女に放つ。
しかし、それは避けられ、ただ地面を粉砕しただけだった。
「ほぁあああっ!!」
「……」
武道家の攻撃の乱打が、左腕だけで全てガードされてしまう。
「あ、当たらない……!!?」
「もらいね。」
女は腕を振り、武道家の足を引っ掻いた。
引っ掻きの威力は半端ではなく、なんと足の骨と筋肉を削いでしまった。
「ーーーっ!!?」
足から血を噴きながら、悶絶して転がり回る。
女は、目隠し越しにそれを見て笑っていた。
「君は、最後の一人だったわね……足の指先から、少しずつ……バラバラにしてあげようかしら。」
歩み寄りながら、口角を吊らせて笑う。
その笑いは邪悪な意思で満ち溢れ、明らかにヤバいオーラを纏っていた……
それにあてられ、武道家は怯えてしまう。
「誰か……誰か、助けてくれぇぇえっ!!」
「ちっ!!」
ジェットは街路樹から飛び出し、剣をぶん投げた。
投げられた剣は猛回転しながら、直線状に女の方へと向かう。
「……!」
それを弾き返し、こちらに向いた。
「おっと!」
剣をキャッチし、構え直す。
「何者?」
「俺はジェット。ただの勇者だ。」
「ジェット……そう、貴方があのハルピュイアの。」
「げ。」
四魔姫の一人、ハルピュイア……
風魔法を使いこなす、ハーピー族最強の戦士。
そんな奴の名前が出てきて、少しゾクリときた。
悪寒が、嫌な予感を煽る。
そして、その嫌な予感はすぐに的中した……
「私は、ゴルゴーン……四魔姫のゴルゴーンよ。待っていたわ、勇者ジェット。」
「マジか……!ま、待ってたのか……!」
ゴルゴーンと名乗る女は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
それに合わせ、ジェットは後退りをした。
勇者なんかになるんじゃなかったと、今更ながらに思う。
「ハルピュイアが煩いから、君を倒しに来たのよ……文句なら魔王様でも私でもなく、ハルピュイアに言う事ね……」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待てよゴルゴーンさん。俺、今さっき森で一悶着あって結構消耗してるんだぜ?少しぐらい休ませてくれてもいいんじゃないかな。」
「森で一悶着……ああ、エルフの残党の事ね……アレもハルピュイアに文句を言って……お陰で、私の仕事も増えたんだから……でも、君の事は知らない。大人しく殺されなさい。」
ゴルゴーンは、既に戦闘態勢に入っていた。
目隠しをしたまんま、戦うらしい。
「君と私の実力差は、圧倒的……折角の勇者との戦い、一方的だと面白くないわ。だから、この目隠しは外さない。」
「そうかよ……!」
格上との戦い方は、分かっている。
目潰しになりそうなものが効かないのは少し痛いが……それでも、やれるだけの事はするしかない。
「さぁーて、やるしかないか……!はぁあっ!!」
ジェットは、魔力を解放した。
エネルギーが波動し、旋風が吹きすさぶ。
「だぁああっ!!」
地面を蹴り、剣で斬りかかる。
「ふんっ!」
ゴルゴーンは、エネルギーを纏った手で剣を受け止めていた。
「ちっ!」
それを確認し、すかさず蹴りを放つ。
身体を反らされ、蹴りは外れた。
「うっ!?」
ジェットの懐に、ゴルゴーンが潜り込んでくる。
「はっ!」
渾身の掌底が、腹に叩き込まれた。
衝撃が体内に駆け巡り、背中へと貫通する。
「!!!」
ぶっ飛び、壁に叩きつけられる。
その時の衝撃でも、内臓が揺さぶられた。
「ぐっは……!」
吐血し、ダウン寸前の所で踏ん張る。
「しゃっ!」
間髪入れずに、引っ掻き攻撃がこちらへ飛んでくる。
「やべっ……!」
それを寸前で避けて、壁を見る。
壁には深い爪痕が入り、崩壊した……
「惜しかったわね……」
可視化出来るほどの魔力が腕で練られ、手の方で爪のような形になっている。
魔力の爪が刃と化して、あの破壊力が生み出されるのだ。
「やばいなありゃ……!」
「ふん……」
ゴルゴーンは、エネルギー弾を連射してきた。
すかさず、剣でそれを弾き飛ばしながら走る。
「逃がさないわ。」
ゴルゴーンが、目の前に回り込んできた。
もう既に、腕を振りかぶっている。
「っ!?」
咄嗟に剣で防御し、一撃をガードした。
靴を地面に擦らせながら後退するが、踏ん張った。
「くそっ……!」
今度は、飛び蹴りが飛んできた。
何とか避けて、構える。
ゴルゴーンは着地し、地面を蹴ってこちらに向かってくる。
「はぁあっ!」
今度は真正面から、猛攻してきた。
「くっ!?」
ジェットは、必死に防御する。
超スピードで、激しい攻防が繰り広げられた。
「……!」
ジェットは、ある事に気付いた。
見切れる。
以前ハルピュイアと戦った時、あいつの攻撃は見切れず、ほとんど幸運だけで凌いでいた。
今戦っているのは、そいつと同格であるゴルゴーン。
手加減されているとはいえ、そんな奴の攻撃を見切っているのだ。
「ふんっ!」
ゴルゴーンの一撃が、ジェットの剣を弾き飛ばす。
剣は、壁にスコンッと刺さってしまった。
「呆気なかったわね……!」
「……」
一撃が、目の前に迫る。
その瞬間、ジェットの世界はスローになった。
「……ふっ。」
一撃を避け、懐に踏み込む。
拳を握って、振りかぶった
「油断したな……!」
ゴルゴーンのスキだらけの腹に、パンチを叩き込んだ。
拳から刺した衝撃で腹筋を突き破り、内臓に響かせる。
「……っ!!?」
奴は固まり、こちらに顔を向けた。
驚愕の表情が、目隠し越しにでも伝わってきた。
「な……な……!!?」
「だぁあっ!!」
もう一方の腕に力を込め、思いっきり顔面をぶん殴った。
「ぶっ!?」
見事に直撃し、ぶっ飛ばす事に成功した。
しかし、途中から体勢を整えて着地する。
「はぁあっ!!」
次の瞬間、奴が超スピードで迫って膝蹴りを叩き込んできた。
それは直撃してしまい、腹に膝が叩き込まれた状態で壁にまで押し付けられた。
腹から、ミシミシと鈍い音が鳴る。
「っぐ……らぁっ!!」
頭突きで反撃し、剣を取る。
「っ!」
頭突きされたゴルゴーンは、顔を押さえて後ずさる。
すぐさまジェットの方を見て、あのエネルギーの爪で斬りかかった。
「がぁあっ!!」
剣に全力を注ぎ込み、爪を受け止める。
「なにっ!?」
「だぁっ!!」
そのまま、腹に真っ直ぐに蹴りを叩き込んだ。
重い蹴りが、ゴルゴーンの腹筋を圧迫する。
「ごはぁっ!」
「おらぁあっ!!」
足に力を込め、蹴り飛ばした。
「ーーっ!!」
「はぁっ……はぁっ……!!」
イケる。イケるぞ。
このまんま油断せずに居たら、どうにかなるはずだ。
もしかしたら、倒せるかも分からない……!
「……」
蹴り飛ばされたゴルゴーンは、倒れたまんま空を見上げていた。
目隠しの下で目を閉じて、しばらく考える……
「……とっとと起き上がってこい。そんな程度じゃねぇ筈だ!!」
「……ええ。」
ゴルゴーンは、余裕で起き上がった。
ゴキゴキと首を鳴らし、ジェットの方に向き直す。
「油断していたわね……そう、ハルピュイアと初めて会った時とは、訳が違うのね。」
「まぁな……」
「なら、私も少し実力を見せるしか無いわ。」
「……!!」
ゴルゴーンの姿は、既に残像だった。
それを確認した瞬間、顎に肘打ちが叩き込まれた。
「!!?」
「はあっ!」
揺らいでいるところに、爪が振り下ろされる。
それを何とか避けて、大きくジャンプした。
「遅いわ。」
「なにっ!?」
ゴルゴーンは既に、背後に来ていた。
そして、ジェットにスレッジハンマーを叩き込んだ。
「ぐぁあああっ!!」
勢いよく墜落し、地面にクレーターが刻まれる。
しかし、何とか立ち上がって上を向いた。
「トロいわね……」
既に横から、肘打ちが飛んできている。
そちらの方を見ずに、何とか掌で受け止めた。
「なっ!?」
「スピードは変わっても、動きのクセは変わんねぇ。高速移動で死角に入んのが好きみたいだ……なっ!!」
ジェットは、剣でゴルゴーンを袈裟斬りした。
「くっ!!」
エネルギーの爪の、反撃が飛んでくる。
「だぁあっ!!」
剣に魔力を込め、その一撃を止めた。
二人の一撃がぶつかり合い、衝撃が響く。
「はぁああああああああああ……!!!」
「だぁあああだだだだだだだ……!!!」
激しい打ち合いがスタートし、どんどん加速した。
剣と爪が疾風のように飛び交い、火花が散る。
「あああああーーーっ!!!」
ゴルゴーンから、強烈な一撃が飛んでくる。
それをギリギリで避け、拳を握った。
「だらぁああっ!!」
拳が光り、凄まじいエネルギーを宿す。
その拳で、ゴルゴーンの腹をぶん殴った。
「っごはぁあああっ!」
ゴルゴーンはぶっ飛び、ゴロゴロと転がる。
ダウン寸前で体勢を整え、着地した。
「……へっ!」
「……なるほどね。確かに勇者の力は厄介ね。」
血を吐きながら、ゴルゴーンは目隠しを外した。
その瞳に、はっきりとジェットを見据える。
「ようやく、本気になってくれるのか?」
「……いいえ。」
次の瞬間のことだった。
「!!!」
ジェットの体が何かで打突され、ぶっ飛んだ。
「っぐぁあああああーーーっ!!?」
民家を突き破り、村の外に出てしまう。
そして、森の方にまで来てしまった。
「……終わりよ。」
ゴルゴーンはそこを見ながら、目を見開いた。
「!!!」
ジェットを中心に、大規模な爆発が巻き起こった。
衝撃が轟き、民家の窓ガラスが割れる。
あまりの爆発に、森の三分の一が消し飛んでしまった。
爆煙が舞い、きのこ雲が立つ……
「……終わったわね……勇者と言えど、所詮は人間……こうすれば、跡形もなく消し飛ぶはずよ……」
ゴルゴーンは目隠しを着け直し、歩く。
「もう、こんな村には用は無いわ……魔王様の元へ帰らないと。」
そう言い、ブファイ村から歩き去った……
暫くの静寂が、村を包む。
「そ……そんな……も、もう……もう、あの勇者は終わってしまったのか……」
ただ一人、足を削がれた武道家が立ち尽くす。
風が吹き、死屍累々の村を撫でた……
その時、村の方へ歩いてくる足音があった。
「……ふぅっ!今のはやばかったよなぁ!」
上半身裸で、黒焦げになったジェットだ。
なんと、ジェットは生きていたのだ。
「え……!?ええええええーっ!!?」
「そんなに驚く事かよ……」
「ど、どうやって……」
「爆発する瞬間、超スピードで逃げ出した……っはぁあ〜っ……そうか、まだ適わねぇか……くっそ〜……」
とりあえずは、ゴルゴーンを立ち去らせる事には成功した。
脅威の影も無くなり、人々は村の外へ出る。
そして、惨劇を前にして絶句した……
「……さて、宿屋宿屋。回復しないとマジで死ぬ。」
ジェットは一人、宿屋を探し始めたのだった……




