アクトロ荒野の激闘
リース街で、魔物盗賊団を壊滅させたジェット。
次に向かうのは、北上した所にある名も無き村だそうだ。
「……」
荒野を北上していたら、無人の検問所みたいな所があった。
おそらく、周辺の魔物のせいで機能しなくなったのだろう。
看板には、『ここより先はアクトロ荒野』と書かれていた。
「……」
無人の検問所を、辺りを見回しながら進む。
窓ガラスは破られており、壁の所々が抉られている。
施設の床には砂をかぶった人骨が散乱しており、壁には黒ずんだ血の痕があった。
おそらく、っつーか、確実に魔物にやられたに違いない。
「……!?」
ジェットは二度見して、施設の中に入った。
よく見ると、人骨の中に寄り添う変な骨があったのだ。
いや、変な骨と言っても耳の骨が妙に尖っただけの骨だ。
「……エルフ耳って奴か。」
エルフ……
人間と似たような姿をしているものの、その性格は獰猛と言ってもいい。
勝手にこの星の森に住み着いて、森の守護者と名乗って人間に矢とか魔法とか放ってくる傍迷惑な魔物だ。
そんな奴が、人間と寄り添っている……?
「……」
何かありそうだ。
ジェットはそう思いながら、検問所を抜ける。
そして、北へと向かった……
「……」
アクトロ荒野。
ウーツ荒野よりは緑が多く、荒野というよりは平原という感じだった。
まぁ、平原と荒野の間ぐらいだろう。
すぐ遠くに、村みたいなのが見えた。
あそこが、例の名も無き村のようだ。
「今回は、すんなり見つかったなぁ。」
早速、そこに向かう事にした。
今回は雑魚モンスターも来ない上に、大した邪魔も無い……かと思っていた。
「……っ!!?」
いきなり地響きが響いて、地面から大きなサソリが出てきた。
その全長は、5、6mぐらいだ。
「いや、でけぇよ!!モン〇ンかよ!!」
「シャアアアッ!!」
大サソリは有無も言わさず、ジェットに襲いかかってきた。
「やるしかねぇっ!!」
ジェットは剣を抜いて、大サソリに向く。
すぐに、大サソリは回転しながらジェットに突進してきた。
「ぬわぁあっ!?」
咄嗟に避けて、構え直す。
大サソリの体当たりは目標を逃れて、そこらの岩へと激突する。
なんと、その岩が粉砕した。
「ウッソだろ……!!」
「シャアアッ!!」
サソリはハサミを振り回しながら、猛攻してきた。
「ちっ!!だぁああぁっ!!」
剣でハサミの猛攻を受け流しながら、攻防する。
「ふんっ!だぁあっ!オラオラオラっ!!だらぁあっ!!」
「……」
不意に大サソリの尻尾が、揺らめく。
そして、猛スピードでジェットに迫った。
「あっぶねぇっ!!?」
ジェットは、間一髪でそれを避けた。
尻尾は大地を穿ち、尻尾から漏れ出た液体が土を溶かしていた。
「即死な上に毒付きか……!!」
ハサミがでかいから、毒は無いかと思っていた。
あと、あの攻防の際にあいつの体に何発か斬撃が入ったものの、全部あの外骨格に弾かれた。
こんなん、反則すぎる。
強い上にクソ硬いんじゃ、話にもならん。
だが、やるしかない。
「ちっ……!!」
ジェットは腕を振りかぶり、大サソリを見据える。
大サソリは正面から、猛突進していた。
「くらえぇっ!!」
猛突進する大サソリに、強力な冷気の塊を放った。
「シャアアアアア!!?」
大サソリは仰け反って仰向けになり、バタバタと悶絶する。
「き、キモ……!」
いや、効いてる。
こんな環境で育ってきた奴だ、冷気なんて初めてなのだろう。
「おらぁあっ!!」
試しに、サソリに一発斬撃してみる。
その斬撃は通って、そこから血が噴き出した。
「うわぁ……」
いや、斬撃が通った。
どうやらこいつは冷気を浴びすぎると外骨格に、見えないぐらいちっちゃい穴を開けて、外から熱を吸収するらしい。
体をバタバタさせてるのは、熱を生み出して体に循環させているからだろう。
とにかく、外骨格が脆くなった今がチャンス……!!
と考えていたら、大サソリは起き上がってしまった。
「フンッ!!!」
大サソリの冷気が弾け飛んで、もとの状態に戻った。
「……」
サソリが、フンッって言ったよ……
とにかく、攻略法は分かった。
「行くぜ……!!」
ジェットは、剣を構えた。
「シャーーーッ!!!」
不意に、大サソリは大きく咆哮した。
甲殻から炭酸のように泡が出て、変形しているようだ。
「な……!!?」
「ギィイイーッ!!!」
大サソリは、回転しながら突っ込んできた,
「くっ!?」
攻撃を頬にカスらせ、大サソリの方に向き直す。
「ギギ……ギギギ……!!」
「うっそ……」
大サソリは、重量感のあるハサミと全身の逆立った逆鱗のような外骨格がある、攻撃的な姿に変異していた。
鳴き声も、低く重圧的なものになっていた。
「ちょ、ちょ、攻撃モードって奴か!?」
「ギギギギギィッ!!!」
大サソリは、ハサミを地面に振り下ろす。
それだけで、大地が粉砕してしまった。
「う、うぉお……!!」
パワーも、格段に上がっているようだ。
「だが、退けねぇっ!!」
ジェットは剣を構えて、大サソリに向かった。
「ギィイッ!!ギギギギッ!!」
「ッッッ!!!」
大サソリの一撃を、剣でガードする。
あまりの威力に衝撃を殺しきれず、全身がビリビリした。
「ちっ!」
ジェットは手を向けて、氷魔法を放つ。
しかし大サソリはそれをハサミで弾き飛ばし、ジェットに一撃しに向かった。
「うわぁあっ!?」
重く、強烈な一撃を何とか避ける。
……どうやら、パワー重視の変身のせいでスピードは落ちているようだ。
「いくぞっ!!」
ジェットは剣を構え、正面から突進する。
大サソリは迷いなく、ハサミを薙ぎ払った。
しかし、ジェットの姿は既に残像だった……
「こっちだ!!」
「!!!」
ジェットは、大サソリの背中に思いっきり氷魔法を放った。
これは効いたらしく、うずくまって悶絶しているようだ。
「だぁあっ!!」
凍った背中に、思いっきり斬撃を放つ。
「ギ……!!!」
「だぁああっ!!」
さらに渾身の力を込めて、大サソリを蹴り飛ばした。
「ギギギギッ!!!」
大サソリはハサミを地面に擦らせながら体制を整え、そのハサミを思いっきり振り上げた。
「ヒュッ!!」
ハサミから尖った甲殻が飛んでくるが、ジェットはそれを避けた。
「ギッ!!」
もう一方のハサミを振り下ろし、甲殻をジェットの足元に放つ。
「よっ!」
ジェットは飛び避けて、大サソリの方を見る。
既に大サソリは、眼前に迫っていた。
「んな……!!?」
「ギィイイイッ!!!」
ハサミがジェットに振り下ろされ、ジェットは思いっきりぶっ飛んで、地面に叩き落とされた。
「ふっ!」
何とか、ガードする事は出来た。
「ギギィイイッ!!!」
しかし、上空からハサミが迫り来る。
ジェットはバク転して、攻撃から逃れた。
「ギ……!!」
大サソリのハサミが、大地にグッサリと突き刺さっていた。
何とか抜こうとしているが、なかなか抜けないようだ。
「くらえ……え、と、フリーズバースト!!」
ジェットは、強力な氷魔法を放った。
それは直撃し、大サソリも真正面からくらった。
「ギギギギッギギッ!!」
「よぉしっ!!」
ジェットは、大サソリにとてつもない速さの斬撃を無数に叩き込んだ。
「オラオラオラオラっ!!動けねぇんならこっちのもんだ!!」
「ーッ!!!」
大サソリは、ようやくハサミを地面から抜き、ジェットに振り下ろした。
「ふんっ!!」
巨大なハサミの一撃を受け止め、笑うジェット。
しかし、その笑顔は数秒で消えた。
「フンッ!!!」
「おっふ!」
大サソリが力むと共に、ジェットは距離をとる。
また、形態変化するらしい。
「スゥーッ……」
ハサミが小さくなり、今度は尻尾が発達した姿になっていた。
甲殻も最低限のものになって、身軽そうに跳躍していた。
鳴き声も、高くなって穏やかなものになっている。
「……スピードフォルムか。」
「フッ!!」
大サソリは消えて、ジェットの背中にタックルした。
「!!?」
あの一瞬で、背後に回られたらしい。
この巨体で、このスピード……ヤバすぎる。
「だが、スピードなら負けちゃいねぇ!」
ジェットは構え直し、大サソリを目で追った。
「フゥッ!!」
ジェットに、無数の攻撃が迫る。
「うぉおおっ!!」
猛スピードの攻防が繰り広げられ、どんどんと加速する。
「フゥウッ!!」
「っ!!?」
あの攻防より、更に速いスピードで尻尾が迫ってきた。
何とか見切り、避けてみせた。
「フゥウウウッ!!」
大サソリの猛攻が、尻尾の突きのみになる。
「結局こうなんのかよ……!!」
ジェットは避けながら剣をしまい、拳を構える。
すると、回避に磨きがかかった。
「だっ!!」
氷を纏った拳で、尻尾をぶん殴った。
「フッ!?」
大サソリは怯んで、揺らいでしまう。
ジェットはそれを、見逃さずに拳を握った。
「せりゃああっ!!」
正拳突きを放って、思いっきりぶっ飛ばした。
「ーーーっ!!!」
大サソリは身を翻して着地し、ジェットに向く。
「来ぉいっ!!」
「フゥーッ!!」
大サソリは消えて、ジェットに猛攻した。
しかしジェットは、全ての攻撃を見切る。
「しゃおらぁっ!!」
更にすれ違い際に、攻撃を連打した。
「フゥウウ……!!」
「だぁああーーーっ!!!」
後ろ回し蹴りを放ち、蹴り飛ばす。
「フゥッ!!」
大サソリはジェットに向かい、尻尾を振り下ろした。
「だぁあっ!!」
ジェットは尻尾を掴んで、思いっきり背負い投げした。
「フーッ!!?」
「おっらぁっ!!」
跳び上がり、大サソリの腹に両膝を落とす。
「グブッ……!!」
「よっ!」
大サソリから降りて、尻尾を掴んだ。
「せぃやぁあーっ!!」
そして、思いっきりぶん投げた。
大サソリはぶん投げられ、岩へと激突した。
「フーッ!!フーーーッ!!」
岩に叩きつけられた事で悶絶し、仰向けになってバタバタしている。
「よぉし、来い!!」
「フーッ!!!」
ジェットの声で、大サソリは起き上がる。
ジェットも構え直し、大サソリを見据えた……
「フー……」
が、大サソリは地面に潜ってしまった。
「え、おい?」
完全に地中に潜ってしまい、その後は出て来ることはなかった……
「……」
自分が不利になった途端に、逃げやがったか。
変な奴……いや、賢いとも言えるのか?
「あの大サソリを倒しましたか。」
「っ!?」
不意に、ジェットの背後から声をかけられた。
ジェットは剣を構えて、そっちに向かう。
声の主は、エルフだった。
それも、ただのエルフじゃない。
小麦色の褐色肌、雪のように白い髪……
それに、高い魔力も感じる……
「ダークエルフか……何の用?」
「剣をお下げ下さい、勇者様。私達は、人間と敵対する意志はありません……」
「……そう言われちゃ、しょうがねぇ。」
ジェットは剣をしまって、ダークエルフに向いた。
「ぜひ、こちらへ……大丈夫です、私たちを無意味に脅かすような存在は、全てあの大サソリのハサミの錆になっていますから……」
「じゃあ、この周辺に獰猛な魔物っていったら、あいつぐらいか?」
「いいえ……」
「……」
事情は、複雑な様子だ。
ともあれ、ジェットはダークエルフについていった……




