人間盗賊団の勝利
ジェットは、魔物盗賊団のボスであるセレストを打ち倒した。
その頃、二つの戦いも決着を迎えようとしていた……
庭園……
「……」
サルバはナイフをしまって、オークから背を向ける。
「な、なに……!!?」
「ムダだ。これ以上やっても……もう、決着は着いちまったようだぜ。あっちも、こっちもな。」
「何を訳の分からないことを……!!」
背を向けて立ち去ろうとするサルバを追いかけ、攻撃しようとするオーク。
その手を振り上げた瞬間だった。
「!!!」
胸にかなり深い斬撃が走って、血が噴き出した。
「ーーーッッッ!!!?」
「ヒュッ!!」
サルバはナイフを出しながら振り返り、オークの首筋を斬った。
そこからも血が噴き出して、オークは白眼を剥いて倒れた……
「……ふぅっ!」
サルバはナイフの血を払い、しまった。
そして、外へと出た……
リース街……
「はぁーっ……はぁーっ……!!!」
息切れを起こしているのは、ハルピュイアの方だった。
「……」
盗賊王は、息切れ一つ起こさずに構えていた。
「な、何で当たらない……!!?」
「我が境地は彼岸の彼方、汝とは遠く及ばず……これ以上は、無益と知れい。」
「くそっ!!くらぇえっ!!トルネード!!」
ハルピュイアは体を回転させて、大きな竜巻を巻き起こした。
竜巻は盗賊王に直撃し、無数の斬撃がその体に叩き込まれる。
しかし、盗賊王は動じていなかった。
「死ッッッ!!!」
そう言った瞬間に、竜巻は弾け飛んでゼロへと消えた……
盗賊王の体には、傷はおろか出血一つ無かった。
「そ……そんな……!!?」
「立ち去るが良い……既に決着は着いている。」
「な、なに……!!?」
ハルピュイアが、そう言った時だった。
そこに、ボロボロのメスゴブリンが飛び込んできた。
「申し上げます、ハルピュイア様!セレスト様が、敗けました!」
「な、なんだと……!!?あのセレストが!?誰にだ!!」
「はい……あの、勇者ジェットです……!!」
「〜〜〜!!!!」
ハルピュイアはひどく取り乱し、頭を掻きむしる。
「クソッ!!勇者めっ!!劣等種である人間の、よりによって少年ごときに……私達が、遅れを取るというのか……!!」
「ハルピュイア様……!!」
「……来たか。」
盗賊王は何かに気付き、街の奥へと目を向ける。
周りのモンスターや盗賊も、そこに目を向けた。
「カカカッ……おいおい、まだ真っ最中じゃねぇか。」
「ボスは倒したんだけどなぁ……やっぱ一筋縄じゃいかねぇか。」
サルバとジェットが、肩を並べて入ってきたのだった。
「……ジェット……!!」
ハルピュイアは、目を充血させて青筋を立たせながら、ジェットを見た。
「げっ!!四魔姫のハルピュイアまで!!」
「貴様ほど、私に屈辱を与えた人間はいない……この屈辱を晴らすには、貴様を殺す他手立てはない!貴様ら、奴を殺せーーーっ!!」
「ぉおおおおっ!!!」
ハルピュイアの指示で、そこらの魔物の敵意が、ジェット一人に向いた。
「はぁあっ!?ちょっ!マジかよ!?えっ!?」
「やるぞ、少年……!!」
ジェットとサルバは構えて、臨戦態勢をとる。
「……命を寄越せい。」
盗賊王はそう呟きながら、鎌の石突で地面をコンッと叩いた。
すると、次の瞬間……
「!!!!?」
ジェットに敵意を向けていた魔物が、一斉に白眼を剥いて、バタバタと倒れ始めた。
「な……な……!!?」
ハルピュイアは、一応生きているらしい。
「……」
ジェットは、倒れた魔物の首筋を触る。
「……息の根が止まってやがる……」
こいつだけじゃない。
ハルピュイアを除く全ての魔物の息の根が、止まっていた。
「……さて、どうする鳥女?」
「カカ、あれだけ部下をぶつけてくれたんだ。卑怯とは言うまいね……」
ジェットとサルバは、ハルピュイアに詰めていた。
「ーーーッッッ!!!」
追い詰められたハルピュイアは、暴風を巻き起こした。
「っ!!」
「ぐっ!?」
二人は吹っ飛びそうになるが、何とか踏ん張る。
暴風が去った後には、既にハルピュイアの姿はなかった……
「……逃げられたか。」
「惜しい惜しい!カカカッ!」
「ふむ……四魔姫は取り逃したものの、見事に我々の勝利だな。」
盗賊王がそう言うと、辺りの盗賊達は舞い上がった。
「やったーっ!」
「俺達のパワーが勝ったーっ!」
この街に、勝利のムードが立ち込める。
戦っていた人間も盗賊も、思い思いに歓喜の言葉を上げた。
「……さて。」
盗賊王は鎌をしまって、二人に声をかけた。
「此度の戦い、二方の協力で勝利を収める事が出来た。感謝する。」
「ははは、どーも。」
「はっ、有り難きお言葉。」
ジェットとサルバは、頭を下げる。
「頭を上げい、勇者よ。話の通り、報酬を与えよう。来るがいい。」
「ああ……」
「お供します。」
盗賊王は振り返り、自宅に向かう。
二人は、それについていった……
盗賊王の家……
「ご苦労だった。此度の感謝、してもし切れぬ程である。」
「滅相もねぇ。勇者として当然の事をしただけだ。」
ジェットはそう言いながら、薬草を傷口につけていた。
「いってぇ!!しみるっ!!」
「ここで治療すんなよ……」
「構わぬ……さて、報酬をやろう。」
盗賊王はそう言うと、立派な道具袋をジェットに渡した。
「おお、なんだこりゃ。」
「その袋は、特殊な魔法がかけられている。試しに、その剣を入れてみるが良い。」
「いやいやいや、無理無理無理。この袋、腰にかけられるサイズで、せいぜい剣先がイイとこ……」
ジェットは半笑いでそう言いながら、袋に剣を入れてみる。
すると、剣はスルッとその袋の中に入ってしまった。
「ぬわっ!?」
びっくりして、剣を手放してしまう。
その剣はジェットの手から離れ、何処かへ落ちてしまった……
「ちょっ、ちょっ!?おまっ!?えぇっ!?」
「案ずるな。取り出したいものを思いながら手を入れれば、取り出せる。」
ジェットは、とりあえず盗賊王の言われた通りにしてみる。
すると、手に剣の感覚が当たった。
それを掴んで、剣を取り出してみせた。
「……四次元のポケット的な何か?」
「うむ。」
「……」
「クスクス……」
呆然とするジェットを、門番の女盗賊やサルバがクスクスと笑いながら見ていた。
とにかく、四次元便利ポケットを貰った。
あのズタボロの道具袋から、一気に二階級特進した。
「サンキュー盗賊王!これで、冒険も楽になるぜ!」
「うむ……そして、次に目指すべき場所を言おう。」
盗賊王はそう言って咳をついて、ジェットに向き直した。
「次に目指すべき場所は、ここより更に北上したシクスパークである。」
「シクスパーク……?」
「そこは遊園地であり、闘技場でもある。この星に住む人間達の娯楽の場所である。年間入場券を渡しておく。」
そう言われて渡されたのが、コロシアムっぽい建物と観覧車が描かれた長方形の紙だった。
「ローゼから連絡があった時に、取り寄せてきた。使うがいい。」
「俺なんかのためにわざわざ……これで遊べって訳じゃねぇだろ?」
盗賊王は、頷いた。
「そこは、この世界の強者が集まる場所である。修行にも、仲間集めにも最適であろう。」
「仲間集めか……」
そうだよな、勇者っつったら勇者パーティだよな。
当然、俺だって馬鹿じゃねぇ。一人であの魔王軍に勝てるなんて、微塵も思っちゃいねぇ。
どこかで、仲間を捕まえる必要があるが……
「サルバ、俺の旅に付き合えるか?」
唐突にジェットはサルバに聞いたが、サルバは首を横に振った。
「無理だ。俺は部下とかも食わせていかなきゃならねぇし、何よりこの盗賊団の一角でもある。俺が抜けた隙に魔物が強襲とかしてきたら、部下達が危ない。」
「そっか……残念だな。」
「悪いなぁ、少年。俺も、ついて行きてぇのは山々なんだ。」
「いいんだよ、お前はお前の使命を果たせ。あと、いい加減その呼び方やめてくれ。」
とにかく、サルバはここでの役割を果たさねばならない以上、ここを離れるわけにはいかない。
「……それで盗賊王さん、道中に休憩スペースは?」
「道中には、二つの村がある。一つはアクトロ荒野にある名も無き小さな村で、二つ目はブファイ村だ。どちらも魔法が発展した珍しい村である。」
「なるほど、最低二回は宿を取れると。」
「うむ……ただ、前者は少し問題があってな。」
「前者……名も無き小さな村って奴か?何があるんだ?」
「……それは、行ってみれば分かる。あと、そこに寄るのなら出来るだけ駄菓子を買っておくといい。」
「だ、駄菓子ぃ……?」
眉をひそめるジェットの肩を、サルバが叩いた。
「子供が好きそうな、チョコレートやグミがいいぜ。後で一緒に行ってやる。」
「今はハロウィンの季節でもねぇぞ。」
「こんな世界、常にハロウィンみてぇなモンだろ。」
とにかく、これからの方針が分かった気がする。
最終的に目指すは、シクスパーク。
そこで仲間を集めて、魔王の本丸へと向かう。
その旅の途中で、二つの村に寄ることになるだろう。
まず向かうのは名も無き小さな村……なんだかワケありそうな村だ。
ここより北上した、アクトロ荒野という所にぽつんと建っているらしい。
「じゃ、お菓子でも買いに行きますか。」
「ああ。」
ジェットとサルバは立ち上がり、盗賊王に顔を向ける。
「……世話になりました。ありがとうございます。」
ジェットはそう言って、盗賊王に会釈した。
「うむ。行くが良い、勇者よ。」
盗賊王も、ジェットに頭を下げた。
「……失礼しますっ!」
サルバは盗賊王に頭を下げて、退室する。
ジェットもサルバに続いて、盗賊王の家から出た……
「……ふふ。我らも若かりし頃を思い出す……ふふふ。」
一人になった盗賊王はそう言いながら、嬉しそうに笑っていた……
「おーい、こっちも持ってけ。」
「こ、こんなに必要なのかぁ?」
サルバの言われるがままに、道具袋に菓子を詰めまくるジェット。
「どんなに詰めても、ソレなら困んねぇだろ。ほら、持ってけ持ってけ!ついでに旅の非常食としてとっとけ!」
「あ、ありがてぇけど、旅の非常食なら干し肉とか欲しいな……」
そう言いながらも、どんどんと袋に菓子を詰める。
しかし、いくら詰めても袋がいっぱいになる事はなかった。
「……」
なるほど、本当に便利だな。
入れても入れても満タンにならない袋で、しかも取り出したいものを取り出したい分だけ取り出せる……
さすがは、盗賊王の秘宝といった所だ。
「よぉし、こんぐらいでいいだろ。」
「ああ……ありがとう。」
お菓子をたくさん詰めて、ついでに傷薬とかもたくさんくれた。
これで、しばらくは困らない。
「じゃあ、とりあえずはこれでお別れだな……」
「ああ……一緒に戦ってくれて、ありがとう。」
ジェットとサルバは、握手した。
「またな、ジェット!今度会う時は、世界を救った後だ!」
「ああ、それならすぐに再会できるな!」
言葉を交わし、互いに背中を向けて歩いた。
サルバはリース街に戻り、ジェットは次の目的地へと向かう。
「……よしっ!」
一緒に戦ってくれた、サルバや盗賊団。
彼らに万感の感謝を込めて、ジェットは次の目的地へと向かうのだった……




