第7話 場所、交代する?
第7話 場所、交代する?
家に戻り、食材を冷蔵庫にしまっていく。
「みしろ、『ビワ』冷やしとけよ」
「なんで?」
「冷えていた方が美味いだろ?」
「そうなの?」
「ああ、普通はそうするけど」
彼女は何度も俺の顔をうかがうように見ながら、冷やすために冷蔵庫へビワを収めた。
そして、彼女はその手を離す前に、目を細めてもう一度俺の顔を見た。
「盗らないよ!」
結局、夕食の間も、みしろは冷蔵庫から片時も目を離さなかった。
食事を終えると、彼女は真っ先に冷蔵庫の扉を開け、冷えたビワの袋を取り出した。
そして、六個入っている中の二個を取り出すと、ちょこんと俺の前に置いた。
「なんだ? みしろ……俺にくれるのか?」
「光司、今度は無くさないで食べてね」
「あ、ああ……気をつけるよ」
——いつも俺から盗って食うのはお前だろ!
心の中で叫びつつも、彼女なりの優しさに少しだけ温かい気分になりながら、俺は冷えたビワを味わった。
「さあ……飯も食べたし、そろそろ帰るだろ? 何かあったら、すぐ来いよ」
「うん、わかったわ」
そう言って、みしろは客室に入って行こうとする。
「違う! 待て、待て、今日は自分の家で寝るって言ったよな?」
「そうよ?」
「なんで、不思議そうな顔してるんだよ……」
「光司の言っていることが、分からないから」
「気が合うな。俺もまったく同じことを思ってるんだ……」
「そう、よかったね」
これまで無表情だった彼女が、ふっと目を細めて柔らかく微笑んだ。
俺と会ってから初めて見せる柔らかい笑顔だった。
「そんな可愛い笑顔に騙されないぞ! お前、今日もここで寝るつもりか?」
「ここで寝るのは光司?」
「いや、俺は向こうの部屋で寝るんだよ」
「じゃあ、場所を交代する?」
「しないよ! ……じゃあ、風呂はどうするんだ? 昨日は色々あって入れなかったよな」
「お風呂ないの? 川に行く?」
「あるよ!」
「どこにあるの?」
「こっちだ……」
どこまでも噛み合わない会話に、冗談でからかわれているような脱力感を覚えつつ、俺は彼女を風呂場へ連れて行った。
「ほら、ちゃんとあるだろ」
「じゃあ、入るわ」
「本当に入るのか? 着替えはどうするんだ?」
「あるわ、光司はあるの?」
「あるに決まってるだろ」
「そう、じゃあお風呂にしましょ」
みしろは、着ていたマウンテンパーカーのジッパーを下ろし始めた。
「待て、まだお湯も張ってないだろ? それにタオルもないだろ」
慌てて止めに入り、仕方なく浴槽にお湯を溜めて着替えのタオルを用意することになった。
この素性の分からない少女を、今日もこの家に泊めることになるのだと、俺は諦めのため息をついた。
居間に戻り、お湯張りが済むのを待つ。
机を挟んだ正面に座る彼女に、改めて疑問を投げかけた。
「みしろ……君は本当は何者なんだ。ただの家出少女じゃないよな?」
「違うわ、この辺に住んでるのよ」
「誰と?」
「ひとりよ?」
「俺は明日から仕事だぞ?」
「光司が帰るまで待ってるわ」
「新手の押しかけ女房か?」
「光司の女房?」
「すまん、言い方が悪かった……」
短い沈黙が流れた後、浴室から、お湯張りの完了を知らせる電子音が響いた。
「みしろ、用意できたぞ」
「じゃあ、入りましょ」
みしろはすっと立ち上がり浴室へ向かう廊下の前で振り返り、俺を見た。
「光司は入らないの?」
「入るよ……後でな」
「そう……後で来るの?」
「行かねーよ!」




