第6話 失われる結界
第6話 失われる結界
俺たちが横を通り過ぎる時、レッカー車で引き揚げられた軽トラックが河原から上がってきたところだった。
粉々に割れたフロントガラス、外れたバンパー、潰れたドアは大きく曲がり、運転席のスペースを無惨に圧迫していた。
みしろは、河原側のその惨状を見ようともせず、ただじっと山の斜面を見上げていた。
俺も彼女の視線につられて、山側を見る。
「みしろ……あれって、もしかして……」
「そうね」
倒れた下草、押しのけられて折れた細い木々。そして大きな足跡のように、土が所々削り取られて崩れていた。
アスファルトの上には、黒い木片がガラスの破片と一緒に散らばっている。
「昼間だぞ! あいつら昼間でも動けるのか!?」
「今までずっと眠っていたから」
「なんで今になって起き出して動き始めたんだ……あいつらを出さないために、神社を建てたんじゃないのか!?」
「建てるだけじゃダメなのよ……」
「……行ってみよう!」
俺はそのまま、一番近くの川沿いの東の神社に向かった。
車を十台ほど停められる駐車場もあり、大きな神社だった。
石の鳥居があり、そこをくぐると神楽舞台が見えた。
神楽舞台の向こうに、石段があり、その上に拝殿と本殿が並んでいた。
「ここは古くからある神社よ、川の蛇釜の大蛇を治めるために二百年ほど前に建てられたの」
「ああ、堤防ができるまではこの辺り、洪水が多かったらしいからな……」
「それに、ここから四キロほど北にある神社と兄弟神で、その間を結ぶ道は誰も邪魔してはいけないと言われていたわ」
俺はスマホの地図で確認した。
「線路や道路も、横切ってるじゃないか」
「道路は山を横切らず、トンネルで下を抜けているわ。でも、線路は違う」
「線路は?」
「ちょうどあの踏切があるところね」
「本当だ、一直線になっているな……」
「次も行ってみる?」
「ああ、次は南東のお稲荷さんだ。あそこは昔、ばあちゃんと行ったことがある」
西にある稲荷神社は、俺が幼い頃に祖父や祖母とよく訪れた場所だった。
山を切り開くように通る道路。並走する線路は、途中から暗いトンネルへと吸い込まれていく。
真っ直ぐ伸びる道路の峠の上に、山へと続く石段があり、その先に稲荷神社はひっそりと佇んでいた。
少し色褪せた朱色の鳥居をくぐると、奥の小さな祠に二体の狐の像が向かい合って祀られている。
「ほら、やっぱり狐が祀ってあるだろ?」
「似てないわ」
「……気にするところ、そこなのか? それに……ほら、蛇の像なんて、どこにもないぞ?」
「だから、この山の主が『白蛇様』なの、ここは鉄道を通した時に建てられたのよ」
「わかったよ。じゃあ、次が最後だな……」
最後に、集落の北にある神社へ向かった。
かなり奥まった場所にあり、何度もスマホの地図アプリで現在地を確認しながら車を走らせる。
少し離れた広い場所に車を停め、民家の間の狭い路地を抜け、山に向かって伸びる階段を上った。
緑の濃い山のすぐ脇に、その神社を見つけることができた。
雑草が伸び放題になった境内には、小さな摂社の祠がいくつも並んでいた。
そしてその奥の急な山肌に沿って、古い石段が上方へ続いていた。
みしろは境内を見回すと迷いのない足取りで、その石段を登り始める。
「その先に、何かあるのか?」
「こっちが本殿よ」
「なんで知ってるんだ?」
「見ていたから」
だが、崩れかけた石段は途中で土砂に覆われ、完全に道を塞がれていた。
「これ以上は行けないな……」
「そうね、本殿は山が崩れて埋まってしまったのね」
「下にあるのは本殿じゃないのか?」
「あれは拝殿よ」
結局、俺たちは何か明確な『元凶』を見つけられたわけではなかった。
ただ……手入れが十分に行き届かなくなっている、現実の悲しい現状が見えてきただけだった。
「どこかが、なくなったりしている訳じゃないんだな……」
「そうね、それぞれが少しずつ力を失っているんだわ」
「抑えることは、もうできないのか……」




