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白狐の恋~聞こえない足音~  作者: 空白朔名


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第3話 帰る場所

 第3話 帰る場所



「助けてもらったことは感謝してるよ……それで、どこまで付いてくるんだよ?」


 みしろとは自動販売機の前で別れたと思っていた。

 家の門の扉を閉めようと、振り返った時に彼女がそこにいたことに驚いた。


「光司はここで寝るの?」


「ああ、そうだよ。今日からここに住むんだ」


 俺と門の隙間から、中を覗き込んだみしろが指さした。


「じゃあ……わたしは、あそこで寝るわ」


 彼女の指さす先は、庭に面した縁側の方だった。


「いや、ここきみの家じゃないだろ? この辺に住んでいるんだろ、家に帰れよ」


「じゃあ、そこでもいいわ」


 今度は玄関のある方を指さした。


「なんだよ、家出中なのか? 仲直りして家に入れてもらえ。じゃあな……」


 

 引越し早々、どこの誰ともわからない女の子を家に連れ込む罪悪感もあり、俺はそう言って門を閉めた。

 変な噂になっても困る。

 門を閉め、鍵を落とした。

 その直後に、背後から荷物を地面に降ろすような音がした。

 振り返ると……すでに玄関の前にみしろが立っていた。


「お……お前、いつの間に!」


「閉めたから、飛び越えたのよ」


 彼女は、門の横の塀を指さし、そのまま玄関の軒下に座りこんだ。


「そこに居られたら、俺が家に入れないんだけど……」


「ああ、中に入るのね」


 みしろは立ち上がり、数歩下がる。

 玄関の鍵を開け、戸を引き中に入ると、彼女もごく自然な動作で後ろから入ってきた。

 

「わかったよ、助けてもらったお礼にお茶ぐらい出すから……飲んだらちゃんと帰れよ」


 彼女は頷くでもなく、否定するでもなく、小さく声を漏らし、家の中へ上がった。


「ここ、光司の家じゃないよね? 別の人の匂いがする」


「そうだよ……俺の父親の実家だ、この前まで祖母が住んでいたんだ」


「あの、おばあちゃん? どこに行ったの?」


「ばあちゃんを、知ってるのか? ……この前亡くなったんだ」


「おじいさんは?」


「じいちゃんも知っているのか? 十年ほど前に亡くなったよ」


「小さい時から、知ってるわ……よく来ていたから」


「よく来ていた? みしろが子どもの頃に、ここに来ていたのか?」


「違うわよ」


 やはりどこか噛み合わない会話だった。

 彼女を居間に残し、台所の冷蔵庫から冷えた麦茶を引っ張り出す。

 俺がコップを取ろうと振り向くと、いつの間にかついてきた彼女が後ろに立ち、テーブルの上をじっと見つめていた。

 テーブルの上には、母が用意してくれていた夕食。

 数個のおにぎりと筑前煮だった。

 

「腹へってるなら、食べていいぞ?」

 

 小鍋の味噌汁を温め直し、箸を用意する。

 冷蔵庫には刺身とサラダ、食後のデザート用にリンゴが剥いてあった。

 俺はそれらをテーブルに並べた。


「全部食べていいの?」


「全部じゃない、俺と半分ずつだ」



 食事中、もう一度彼女にあの黒い塊のことを聞き直した。


「あれは、なんだったんだ?」


 美味しそうにおにぎりを頬張るみしろは、しばらく俺の質問を無視するように食べ続けていたが、一区切りついたところで話し始めた。


「そこの山の木よ」


 彼女は先ほどの川沿いの山とは反対の裏山がある方を指さした。


「あの裏の稲荷神社がある山のか?」


「あの下の稲荷神社は後から建てられたの」


「後から?」


 みしろはマグロの刺身を箸でつまみあげ、醤油もつけずに口に入れた。


「山の上にあった神社は、お城と一緒になくなったわ」


「昔そこに城があったのか? 詳しいな……いや、そうじゃなくて。そこの木がなんで動くんだよ」


「神聖な山の木を切って、沼に沈めたからよ」


「誰が?」


「昔の人」


「沈めたら動くのかよ?」


「動いていたわね」


 あまりにも当然のように言われ、俺は彼女の言葉を信用するのを諦めた。

 俺は、腕を組み目を閉じた。

 そして、自分なりに無理矢理な仮説を立てて考え直した。


 ——山から滑り落ちた倒木が、道路に落ちた勢いで弾んで立ち上がったように見えただけだ……よし、完璧だ。

 

 無理があったが、そう自分に言い聞かせて、あの奇怪な出来事に終止符を打った。

 目を開けると、俺の分だったはずのリンゴはきれいになくなっていた。


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