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白狐の恋~聞こえない足音~  作者: 空白朔名


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第23話 見てきただけ

 第23話 見てきただけ



「鉄橋まで行こう!」


「そうね、あの狭い足場はあいつらには不利よ」


 踏切まで二人で走り、川に架かる単線の線路の鉄橋を渡る。

 足下を流れる川は橋脚に当たり川下で渦を巻いていた。

 先ほど、俺たちが罠で川に落とした黒い怪物は、その渦に呑まれたり、下流の『蛇窯』に引き込まれたりして姿を消していた。


 鉄橋の中ほどまで進み、振り返ると、五体の怪物が後ろから迫っていた。

 そのうち一体が立ち上がって二足で進もうとした瞬間、足を踏み外した。

 黒い影が、鉄橋の下へ落ちていく。

 残った怪物たちは、自分が足を置く場所を何度も探るように伸ばし、ゆっくりと距離を詰めてくる。

 

「そうか……落ち葉もないこの鉄橋の上じゃ、あいつらは早く動けないんだ」


「一体ずつ川に落としましょう」


 みしろは足音を立てず近づき、バールを使い音を立てた。

 怪物の意識が彼女へ向いた隙に、俺が足を砕くとバランスを崩した怪物は、次々と川へ落ちていった。


「よし、今ので最後だ!」


 荒い息を吐きながら立ち尽くす。

 鉄橋の上には俺とみしろだけが残った。

 ……だが、みしろは線路の先にあるトンネルの暗闇を睨みつけている。


「いいえ、まだよ……」


 トンネルの闇から姿を現したのは、異様な気配を纏った三体の影だった。

 両端の二体は牛のような大きな影。

 その二頭を従えるように、少し前を歩くもう一体。

 ひと回りもふた回りも小さいが、その風格は両脇の二頭とは明らかに違っていた。


 足音も立てず、その脚運びは一直線を描いている。

 太く長い尾を左右にゆっくりと振る。

 三角形の大きな立ち耳と尖った細長い鼻先。

 

「牛と……あれは……『美銀』(みぎん)か!?」


「ミシロよ!」


「えっ!? ミシロ? ミシロって読むのか?」


「沼に引きずり込まれた牛と、人間に殺されて沼に放り込まれた美銀よ!」


「なんで……みしろと同じ名前なんだ……?」


「あいつらは見えてるわ!」


 三体の足元に目を凝らすと、レール間の危険な隙間を避け、枕木だけを的確に踏みしめながらこちらへ向かってくる。

 間合いが詰まるにつれ、両端に従える黒い牛の影から、荒い息遣いまでもが湿った夜気の中に響き始めていた。

 

 

 俺たちは、その三体が近づくたび、無意識に足が後ろへ下がっていく。

 気づけば、俺たちは鉄橋の中央付近まで押し戻されていた。

 バールを構えたまま、俺はみしろを庇うように前へ出た。


「みしろ、お前だけなら逃げられるはずだ! もういい、行け!」


「何を言ってるの!?」


「俺の曽祖父が……この美銀を……殺してしまったんだ! これは俺の問題なんだ!!」


「違う! もし光司の曽祖父が美銀を殺していたなら、白蛇様が助けてはいなかったわ!」


「そんなの……ただの偶然だよ」


「白蛇様は、理由があるから残したのよ! だから光司の曽祖父もこの地を離れなかったのよ!」


「……みしろ、きみは何を知っているんだ」


「わたしは見てきただけよ……」


 その時、美銀がぐっと姿勢を低く構え、後ろ足に深く重心を落とした。

 鋭い眼光で俺たちを睨みつける。

 枕木に爪を食い込ませ、前足を突き出した。


 次の瞬間、矢のような勢いで美銀が襲いかかってきた。


 俺は反射的にバールを両手で強く握り締め、胸の前へ突き出して盾のように構えた。


 だが……。

 俺の視界を遮るように、小さな背中が割り込んできた。


「やめて!!」


 みしろだった。

 跳躍した美銀の黒い影が、容赦なく彼女へと迫る。


「逃げろ、みしろ!!」


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