↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白狐の恋~聞こえない足音~  作者: 空白朔名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/24

第21話 手を取る理由

 第21話 手を取る理由



「光司、どこに行くの?」


「裏の亡くなられたおじさんの家だ」


  俺は手にしていた傘をその場に放り出し、降りしきる雨の中を夢中で走った。

 玄関のチャイムを鳴らしてしばらくすると、少しやつれた表情の奥さんが扉を開けてくれた。


「光司くん……昨日はお葬式に来てくれてありがとうね」


「いいえ。……お疲れのところ本当に申し訳ないんですが、どうしても借りたいものがあって……」

 

「どうしたの? 傘も差さないで、そんなにびしょ濡れになって」


「突然すみません……おじさんが使っていた『防獣ネット』ってどこかにありませんか!?」


「防獣ネット? それなら納屋にあると思うけれど……」

 

「納屋、探させてもらってもいいですか!?」


「ええ、使ってもらえるなら、あの人もきっと喜ぶわ。他にも必要なものがあったら何でも持って行っていいからね」


「ありがとうございます!」


 頭を深く下げて、母屋の脇にある大きな納屋へ駆け込む。

 農機具や肥料袋が所狭しと積まれた奥を探すと、太く頑丈に巻かれた大きな防獣ネットのロールを発見した。


「あった……! これなら長さも強度も十分だ!」


「それで、あの『ほだ場』の怪物みたいに身動きを取れなくするの?」


 突然背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、手に二本の傘を持ったみしろが、雨に濡れながら俺を追いかけてきていた。

 

「追ってきたのか?  ……ってか、『ほだ場』ってなんだ?」


「あの原木シイタケを栽培していた場所のことよ」

 

「みしろは何でもよく知ってるな……」


「昔からそう言うのよ」


 俺は重いネットを肩に担ぎ上げ、傍らに転がっていた太いロープも腕に巻きつけた。

 奥さんに手短にお礼を伝え、俺たちは雨の降る踏切へと急いだ。


 川の水位はさらに上昇し、激しい濁流と化していた。

 踏切を渡り、あの初日に俺とみしろが怪異に襲われた場所へと向かう。

 ガードレールの向こう側はすぐに急斜面の堤防になっており、下では濁った水がすさまじい勢いで流れ下っていた。

 山の斜面に立てかけてある、倒木にロープを結びガードレールの際に移動させる。

 その端を防獣ネットに結び、ネットを山の斜面へ広げていった。


「光司、それでどうするつもり?」


「あいつらを……あの『蛇釜』の底なし大渦に叩き落としてやるんだよ!」


  俺の頭上へそっと傘を差し出してくれるみしろの横顔を見つめる。

 もう、彼女が何者かなんて俺にはどうでもよかった。

 彼女一人に全てを背負い込ませ、命と引き換えに事態を収束させたとして……そんな終わり方で、俺が納得できるはずがない。


「みしろ……俺を信じて、手を貸してくれないか?」


「ええ、いいわよ。光司になら協力するわ」


 みしろは、微笑み強く頷いて、初めて出会った日のように手を差しだした。

 俺はその温かく華奢な手を、確かめるように握った。



 家に戻り、雨に濡れたみしろに、先に風呂に入るように促した。

 俺は濡れた髪をタオルで手早く拭い、そのまま首に掛けた状態で居間のテーブルの前に腰を下ろした。


 卓上に置かれた『曽祖父の手記』が目に入る。

 

 ——きっと、最後まで読まなければならない。今から起きることと向き合うために。

 

 胸の中でそう強く思い、昨日読んだ最後のページをめくり探した。


 『明日、トンネルの最後の破砕を行う。山が鳴動している――』

 

 ——ここだ、この先だ……。


 静かにページをめくる。


 『発破は成功したかのように見えた……』

 『しかし……今日トンネルに入った工夫は全員戻らなかった……大きな落盤事故だった』

 『助けに入った者が、穴の奥に玉石を巻いた白蛇が二匹、カマ首を持ち上げて待っていたと言う』

 『村の者は「その蛇は山の主や。 使いの白狐を殺してしもうたんや」と大騒ぎしている』


 『呪いを鎮めるため、峠に皆で稲荷神社を建てた。白蛇様の祠のすぐ近くに……』


 ——あの峠の稲荷神社は、この事故の直後に建てられたものだったのか……。

 

 ページをめくるが、それ以上は白紙のまま何も書かれていなかった。

 俺は曽祖父の手記を閉じ、深いため息をついた。


「もしかしたら……曽祖父の血筋の俺がここに帰って来たことで、あの化け物たちが這い出してきたのかもしれない……」


「光司、そうじゃないわ……」


 驚いて顔を上げると、いつの間にか風呂から上がったみしろが、部屋の前の廊下に立っていた。

 

「あなたも、見たでしょ? それぞれの神社の力が弱くなってるの。あなたのおばあさんが亡くなられて、あの稲荷神社も寂しくなったわ」


「そうか……。でも、安心しろ。昨日の葬式の時、隣のおばさんが言ってくれたんだ。近いうちに集落のみんなで、崩れた山の神社の祠も直してくれることになったよ」


「そう、それは良かったわ。おばさんに感謝しないとね」


「みしろが毎日お参りしていたから、おばさんも神社のことを口にできたんだ……全部みしろのおかげなんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。