↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・昭和ブンドド娘~二学期編~  作者: まつたきりか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/9

ヨーグルトとフルーツゼリー(2)

 給食の片づけが終わると、二十分間の昼休みに入る。机の配置は元に戻っている。

 二学期のはじめに決まった私の席は、窓際の一番後(うしろ)だった。


 席替えは最初のくじ引きによって決まった初期位置から、目が悪いとか前の人が邪魔などの理由で黒板が見えない場合に本人が訴えて、同じ列の前の方の席の人と交代する、という制度だった。

 担任の村上先生は年配の女性教諭で、厳格かつ公正な人だ。隣の席の男子が嫌いだから、といったような自分勝手な理由でのチェンジは認められなかった。


 くじ引きの段階で、私は最前列を引いていた。


 窓側の最前列は、黒板の横にある担任の仕事机に最も近く、教卓からも目が届きやすい位置で、授業中に指名される頻度も高い。

 別に村上先生に対して、やましいことがあるわけでもない。けれど、何かとプレッシャーを感じる席ではあった。


 しかしそこで、同じ列の最後尾にいた近視眼の氏家さんが、黒板の文字が読めないと訴えた。

 視力二・〇の私は彼女と穏便に席を交換する次第となり、最終的に今の席に落ち着くことになったのだった。


 列が後(うしろ)のほうなら、窓際の席はいいものだ。


 四階建ての校舎の最上階ともなると、涼しい風が入ってくるのがいい。

 校庭では、男子たちがドッジボール用のゴム球を使って「源平(ゲンペイ)」を遊んでいる。コートは設定せずに校庭全面を使ってやっているので、ほとんど鬼ごっこだ。その中には将人もまじっていて、孝美は参加していないが校庭まで見に行っている。


 貴重な遊び時間である昼休みに、教室に残っているのは十人にも満たない。

 私は残暑のなか跳んだりはねたりするのも嫌だったので、持ってきた文庫本を自分の机で読んでいた。


 物語に没入していたところで、ふと視線を感じた。

 顔を上げると、千葉さんが黙ってこっちを見ていた。前の席の椅子に後ろ向きに跨って、私の顔を見てニヤニヤしている。そこは彼女の本来の席ではなく、同じ班の栗山くんの席のはずだった。


「……何?」


 私は不審に思って、つっけんどんにそう言った。

 千葉さんは「あ、気にしないで」と言ったが、気になって読書に戻れない。


「何か用?」

「ううん、ただ本山ちゃんを観察してるだけ」

「私は昆虫か何かかな?」

「あはは、観察日記? 何虫(むし)だよ!」

「本の虫」

「なにそれ、ドッチラケだよ!――ねえ、何の本読んでんの?」


 訊かれた私は、答える代わりに無言で本を立て、背表紙を見せた。

 ウケを狙ったわけじゃないにせよ、ドッチラケとまで言われたら少しムカつく。


「『星へ行く船』……? 恋愛小説?」


 彼女がそう訊いたのは、装丁がコバルト文庫だったからだろう。


「そんな感じではあるけど、どちらかといえばSFかな」

「へえ。そんなの読むんだ」

「いや、兄貴の彼女から借りてんの。おすすめされて」


 私には高校生の二人の兄がいて、長兄の崇一郎には現在交際中のお相手がいる。

 夏休み中、町内会の盆踊りの時に、彼女――赤間さんは、兄に呼ばれて来ていた。私も顔見せ程度だったが紹介され、ちょっとだけ話をした。

 メガネをかけた、おとなしく真面目そうな人で、ドラ息子を絵に描いたような崇一郎とはどうにも不釣り合いに思えたけど、蓼食う虫も好きずきというところだろうか。


 この本はその時に、赤間さんから渡されたものだった。


 彼女は、読書が趣味なのだという。

 以前、兄に恋愛について相談したことがあって、その話が赤間さんに伝わっていたらしく、参考までにと渡された何冊かのコバルト文庫の小説の中に新井素子の『星へ行く船』が含まれていた。

 宇宙旅行中に事件に巻き込まれる男女ペアが主人公で、冒険活劇的なところも推理小説的なところもあって、なかなか面白い。いまのところ、他のラブコメラブコメした作品よりも肌に合う読み味だった。


「千葉さんは」


 本を入手した経緯や本の内容については、別に彼女に説明する義理もないので、私は逆に訊き返した。


「校庭いかないの?」

「源平? やんないよ。ボール当たって痣(あざ)ができたらやだし」

「いや、孝美と一緒にって意味でさ。将人(まさと)はあっち行ってるよ?」


 私がそう言うと、一瞬何を言われたのか考えるような表情になって、すぐに「ああ」と思い当たったようで、困ったような苦笑いを見せた。


「たかみーが行ってるなら、私は邪魔しないよ」


 またかよ。ってか、本人いないとこだと「たかみー」呼びなのかよ。


「……氏家さんも前に似たようなこと言ってたけど、おたくら将人のファンクラブなのか孝美のファンクラブなのかわかんないよね」

「うーん、高尾くんのファンには違いないんだけどね――たかみーの場合ってさ、ほら、違うじゃん。ファンとかそういうのとさ。ねえ?」


 千葉さんは腕を組んで、訳知り顔で胸をそらせた。


「なっつーも昔はたかみーをライバル視してたけど、バレンタイン事件のあとはすっかり応援に回ってさ――って、あれ?」


 千葉さんは話の途中で言葉を止めた。そして急に栗山くんの椅子から立ち上がり、窓に寄って外を見た。

 なにやら校庭の方で騒ぎが起きているようだ。


「何かあったみたい」

「何かって、何よ?」


 私も文庫本を閉じて机の中に仕舞い、彼女の横に立って同じ方向に目をやった。


「誰か倒れてる……!」


 千葉さんはやや上ずった声でそうつぶやいた。


 見ると、校庭の校舎側の一角に人だかりができていて、口々に何か騒いでいる。

 その中心にいるのは、いましがた話題に出た将人と孝美。


 そして――


 牧野麗子が、気を失って倒れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。