神ですら知らない
東京と京都。
アリス陣営とドロシー陣営。
そして銀河の外から覗く無数の眼。
世界中の人々が固唾をのんで見守る中、
ただ一人。
笑っている男がいた。
場所は太平洋深海。
海底一万メートル。
どの国家の地図にも載らない施設。
コードネーム――
オブシディアン。
巨大なスクリーンには京都の戦場が映し出されている。
諏訪貴信。
アリス。
ドロシー。
未知文明。
全てが表示されていた。
その中央に座る老人。
白髪。
黒いスーツ。
年齢は八十を超えている。
しかし瞳だけは異様に若い。
名を、
リチャード・ポールドン
アメリカ史上最大の財閥。
軍事企業。
宇宙産業。
量子通信網。
その全ての裏に存在した男。
大統領ですら命令できない存在。
世界の一部では、
「最後の資本家」
と呼ばれていた。
彼はワインを傾ける。
「面白い。」
それだけだった。
秘書が震えながら言う。
「閣下。」
「アリス陣営とドロシー陣営が接触しました。」
リチャードは頷く。
「知っている。」
「銀河外生命体も出現しています。」
「知っている。」
「観測者文明も介入しています。」
「知っている。」
秘書は言葉を失った。
リチャードは静かに立ち上がる。
巨大スクリーンへ近づく。
そこには諏訪の姿。
能力名「新宿」。
老人は笑った。
「やっと完成したか。」
その一言で空気が凍った。
秘書は恐る恐る尋ねる。
「完成……ですか?」
リチャードは答える。
「人類。」
誰も理解できない。
彼は窓の向こうを見た。
深海の闇。
「観測者文明。」
「未知文明。」
「アリス。」
「ドロシー。」
「全員が勘違いしている。」
彼は静かに呟く。
「主人公は人類じゃない。」
「人類は装置だ。」
その瞬間。
施設全体の照明が赤く変わった。
警報が鳴る。
AIが叫ぶ。
「異常発生。」
「封印領域EX開放。」
秘書たちが凍り付く。
リチャードはため息をつく。
「少し早いな。」
施設最深部。
そこには巨大な扉が存在していた。
高さ三百メートル。
材質不明。
年代不明。
人類が発見したものではない。
月面遺跡より古い。
観測者文明より古い。
銀河より古い。
扉の表面には一つの文字が刻まれていた。
『EDEN』
その瞬間。
京都。
アリスが振り向く。
ドロシーも。
諏訪も。
全員が同じ方向を見る。
太平洋。
ドロシーの表情が初めて変わった。
「ありえない。」
アリスも青ざめる。
「まだ封印されていたはず。」
そして銀河外の無数の眼が。
初めて恐怖を示した。
深海の底で。
EDENの扉がゆっくり開く。
中から現れたのは、
光でも闇でもない。
生命ですらない。
ただ一つの声。
「リチャード。」
老人は微笑む。
「おはよう。」
そして世界は知る。
アリスでもない。
ドロシーでもない。
観測者でもない。
人類史最大の黒幕。
リチャード・ポールドンが、
今まで何を待っていたのかを。




