現れた剣のひとり
東京と京都の戦いが激化する中。
誰も予想しなかった第三の存在が現れた。
戦場は京都市街。
東京の都市意志「東京」と、古都の意志「京都」が激突する。
その余波だけで空間が歪み、夜空に巨大な亀裂が走る。
誰も近づけない。
そのはずだった。
「やれやれ。」
一人の男が鴨川の河川敷に立っていた。
諏訪貴信。
能力者でも軍人でもない。
少なくとも、そう思われていた。
彼は戦場を見上げて呟く。
「うるさいな。」
その瞬間。
世界が静止した。
能力名――
「新宿」
発動。
景色が変わる。
京都だった場所が消える。
東京も消える。
代わりに現れたのは終わりのない巨大都市。
無限に続く高層ビル。
ネオン。
雑踏。
交差点。
地下街。
電車。
広告。
歓声。
悲鳴。
笑い声。
孤独。
希望。
絶望。
ありとあらゆる人間の感情が渦巻く迷宮。
それが「新宿」。
能力の本質は単純だった。
「あらゆる可能性を一つの都市として具現化する。」
未来も過去も。
成功も失敗も。
善も悪も。
全てが同時に存在する。
東京が分析する。
「危険度、不明。」
初めてだった。
京都も沈黙する。
千年の記憶を持つ都市ですら、その本質を掴めない。
諏訪は笑った。
「東京も京都も間違ってない。」
「でも正解でもない。」
すると無数のビルの窓が光る。
一億の灯り。
一億の人生。
その全てが諏訪の背後に現れる。
「人間はな。」
「綺麗なだけじゃない。」
「合理的なだけでもない。」
「めちゃくちゃなんだよ。」
その瞬間。
新宿の街が動き出した。
線路が龍のようにうねる。
高層ビルが歩き始める。
ネオンが星座となる。
無数の人影が空を埋め尽くす。
能力第二段階。
「歌舞伎町」
都市の欲望を解放する。
抑圧。
野心。
恋愛。
嫉妬。
夢。
諦め。
人間のあらゆる感情が力へ変換される。
東京の未来予測網が崩壊した。
人間は予測できない。
だから強い。
ユイが震える。
「未来が見えない……」
初めてだった。
未来演算が通用しない。
可能性が多すぎる。
京都の意志も問いかける。
「あなたは何者ですか。」
諏訪は少し考えた。
そして答える。
「ただの人間。」
第三段階。
「都庁」
発動。
空に巨大な塔が現れる。
都市そのものを見下ろす観測点。
そこから見えるのは一つの真実。
東京も。
京都も。
宇宙文明も。
全ては巨大な物語の登場人物に過ぎない。
そして諏訪は、宇宙から接近する未知文明へ視線を向けた。
「お前たちも迷ってるんだろ?」
その言葉に。
遥か彼方の艦隊が初めて反応した。
銀河を滅ぼした文明。
観測者すら恐れた種族。
彼らは一人の人間へ通信を送る。
その内容はたった一行。
「お前の能力名は間違っている。」
諏訪は眉を上げた。
「何?」
すると艦隊から返答が来る。
『新宿ではない。』
『その能力の真名は――人類。』
京都の夜空が静まり返った。
東京も。
京都も。
未知文明も。
初めて同じ相手を見ていた。
諏訪貴信。
能力者。
人類の可能性そのものを体現する存在を。




