表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Just place of Love  作者: 諏訪貴信


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/33

二人の監視者

雨は降っていなかった。

だが街は、いつも濡れて見えた。


高架下に並ぶ監視ドローンの赤いランプが、アスファルトを舐めるように照らしている。人々は俯き、歩幅まで均一だった。立ち止まる者はいない。立ち止まれば、“視線”が集まるからだ。


この都市には二人の監視者がいた。


一人は国家。

もう一人は、市民だった。


誰もが端末を持ち、誰もが他人を記録していた。

迷惑行為、危険思想、不適切発言。通報は善意として点数化され、通報数の多い者ほど社会信用値が上がる。人々は正義のためではなく、生き残るために互いを監視した。


青年・真壁ユウは、中央監視局の記録編集室で働いていた。


彼の仕事は、“修正”だった。


街頭カメラ、家庭端末、脳波ログ。都市中から集まる映像の中から「国家に不都合な瞬間」を切り取る。泣き叫ぶ母親。拘束される老人。射殺される少年。


それらを、存在しなかったことにする。


「君は優秀だな」


上司は無機質な声で言った。


「感情が薄い」


ユウは返事をしなかった。

感情を持つことは、この社会ではノイズだった。


その夜、帰宅途中の地下通路で、彼は妙な女を見た。


女は監視カメラを見上げて笑っていた。


普通ではない。


誰もカメラを見ない。

見られていることを意識しないふりをする。それが都市の礼儀だった。


「ねえ」


女はユウに言った。


「あなた、どっちに監視されてる?」


「……何の話だ」


「国家? それとも他人?」


ユウは足を止めた。


女は続ける。


「本当に怖いのは国家じゃない。隣の人間よ。みんな、自分が監視者になった瞬間だけ安心するの」


その言葉は、妙に耳に残った。


ディストピア作品では、権力だけでなく“相互監視”が社会を支配する構造として描かれることが多い。ジョージ・オーウェル『1984年』のような監視社会の系譜は、現代SNS的な「互いに監視し合う空気」にも接続されている。


翌日、ユウは編集前の未処理映像を見ていた。


そこで、昨日の女が映っていた。


地下通路。

監視カメラに向かって笑う女。


次の瞬間。


映像の中の女が、画面越しにユウを見た。


まっすぐに。


まるで、こちら側を認識しているように。


そして彼女は口を動かした。


『あなたも監視されている』


ユウは息を止めた。


再生を止めても、女の目だけが脳裏に残った。


部屋の照明が、一瞬だけ明滅する。


その瞬間。


黒く沈んだモニターに、自分の背後が映った。


誰かが立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ