「昇格XR試験」
空間管理者に昇格する前の神坂と、
ついでに試験を描写してみよう。
一個目と二個目の ◇◇ の間は読み飛ばしちゃってください
第1広域空間群・第2空間・“準”空間管理者・神坂
さて、いよいよ、空間管理者試験だ。
拡張脳……BMI(脳マシンインターフェース)と融合した、ポストヒューマン魔術師、
すなわち法術師として、仮想空間で試験を行う。
最後に教科書代わりの資料データを拡張脳で展開。
◇◇
第7章 ワームホール開闢理論
7.1 概念的背景
我々が通常認識している3次元空間は、より高次元の空間に内在する局所的な「膜」として理解できる。
この膜は高次元的には曲がり、揺蕩い(たゆたい)、ときに他の領域と交差する。
例示モデル
3次元空間:紙に相当する2次元的物体
高次元空間:紙を置くための3次元空間
高次元ベクトルの付与:紙の折り曲げ
交差点:空間的に離れた座標の距離がゼロになる領域
この交差領域に短絡経路を制御的に生成する行為を 「ワームホール開闢」 と呼ぶ。
7.2 次元的確率と座標一致
11次元空間において、観測可能な3次元座標系の選択肢は
11C3=165通り
存在する。
膜(3次元空間)が高次元中を揺蕩う場合、座標一致は複数の軸組み合わせで発生し得る。
いずれかの3軸において、2点が同一座標を取る瞬間を観測できれば、その2点間でワームホールの開闢が可能となる。
7.3 ワームホールの寿命
開闢後、該当座標は膜の運動により急速に乖離する。
寿命 t は以下の要素に依存する。
ワームホール構造(アインシュタイン=ローゼン橋)の引張耐性
空間膜の局所的拡張速度
これらにより、長寿命のワームホールは高度な制御を要する。
7.4 魔力と高次元干渉
魔力は高次元に拡散する性質を持つ。
干渉次元数 n に対して、使用可能魔力量は
M∝M0⋅n^(−1/2)
で減少する。
《次元開闢》とは、この拡散を低次元側に制限する術式の解除状態を指す。
解除時はより高次元にアクセスできるが、魔力消費は急増する。
7.5 引張強度モデル
ワームホール構造のモデルは、物質としての天然ゴム(ポリイソプレン)を参照する。
性質値(加硫後)
引張強さ15〜25 MPa
伸び率500〜800 %
ポリイソプレン1 kgに必要な生成エネルギーは、結合エネルギーの計算より約 74 MJ と見積もられる。
魔力変換により実効コストは低下する。
7.6 エネルギー算定式
高次元に拡張した引張強度を考慮すると、ワームホール生成エネルギーは次式で表される。
E=m⋅(Eb⋅150⋅t^2)^9
E:必要エネルギー [J]
m:生成質量 [kg]
Eb:引張強度比(天然ゴムを1.0とする)
t:寿命 [s]
生成構造の半径 r は、3次元球の表面積式を用い
r= √(m/4π)
で近似する。
7.7 実用的応用
短寿命のワームホールを用いれば、質量転送や瞬間移動が可能となる。
本技術は空間管理者級の魔術師のみが安定運用可能であり、
日常的運用には膨大な魔力量と精密な高次元制御能力を要する。
◇◇
データを閉じる。
相変わらずわかりづら。
空間管理者の空間操作を見学して体で感じる方が分かりやすいな。
「いよいよですねえ」
あっ。xectだ。空間管理の現場で何回かあって知り合った。
相変わらず見事な超空間転移で。
空間の歪みすら見えない。
「そこまで褒めなくてもー」
照れてる。可愛げのある総帥だな。
と思っていると急に真剣な雰囲気をまとう。
「さて、あなたの昇格、楽しみにしています。」
「ああ。」
「久しぶりの空間管理者への昇格試験ということで、
あなたには注目が集まっています」
「あー。なんか気配を感じるのはそれか。」
「なんなら、試験の配信も視聴者数、250人を突破。
胞構造中から人気ですよ」
「こっわ」
「まあまあ。むしろ生暖かい目ですから気を抜いて」
「生暖かいのか」
「生暖かいですね」
……。そっかあ。
「そろそろですね、幸運を」
──定刻だ。
◇◇
ホログラフが眼前に表示される。
《個体:神坂樹の拡張脳に干渉》
《空間管理者昇格XR試験を開始します》
意識が仮想空間に飛ばされる。
《課題抽選中……》
《第1試験:合図より10^-4秒以内に径10光年以上の空間開闢を行使せよ》
早速空間開闢かよ。まあ、何度も見たし練習した。いける。
空間開闢とは?
空間を“開く”術式だ。これは空間管理者の専売特許みたいなものでな。
イメージとしては――
一枚の紙(=三次元空間)に、
上下方向(=高次元軸)から別の紙を貼り付けるようなものだ。
この“上から貼られた紙”が、開闢空間。
二つの紙はテープのような不可視の結界、
すなわち空間開闢術式で接続されている。
……集中しよう。
思考加速。100倍に主観時間を伸長。
しばらく待つ。
30秒(3000秒)ほど待った後、空間全体に響くような電子音が響く。
次元開闢。……座標交差領域を捕捉。
プランクエネルギー場生成。空間開闢っと。
しかし、山を外した。約50分、無駄に待ったぜ。
《第2試験:空間内に提示される仮想脳構造の想起思考を10^-2秒以内に看破せよ》
問題文から読心術(1型)を準備。
生体再構成。網膜の感度を上げる。
これで、思考に伴い現れる電場。それによって揺れる空気を観測する。
1.2秒後にきた。
突如半透明の脳を思わせるホログラフが眼前に浮かぶ。
ここから10^-2秒以内に終わらせる。
読心!とはいっても凝視するだけだけど。
……?なかなか見えないな?
──真空層か!魔力から窒素を変換生成。
仮想脳に吹き付ける。
真空層を窒素が埋めていく。
よし!思考が見えてきた。
《第3試験:合図より10^2秒以内に提示される仮想脳構造の知識情報・強調された情報を看破せよ》
次は知識情報か。
読心術2型。透過魔力注入。
脳組織による魔力透過の偏差が見えてきた。
解析レベル最大。対象のニューラルネットワークをすべて看破。解析。
やがて、疑似記憶の奥に数列が見えてくる。
視覚情報型の記憶。教科書をめくっている情景が見える。
さらに嗅覚領域との強固なリンク。これは——給食の匂いか。
授業中に学んだ記憶を、匂いと結びつけて固定している。
回答、フィボナッチ数列。
ついでに言うと第23項以降の計算ミスってる。
……。青春してたなあ、仮想脳くん。疑似記憶でラブコメ読んでる気分だった。
いや、看破への集中を乱すのが目的だろうけど。
《第4試験:仮想攻撃を凌げ》
直後、極超音速ミサイルとプラズマ砲を探知。
殺意高くね?気分はまだラブコメ読者だぞ。
思考加速。魔力の弾(ARH)。ミサイルを迎撃。
防御層……ベクトル操作による自動防御領域で防御してもよかったが、
とりあえず、認識はしているとアピールしておく。
次にプラズマがこちらに飛んでくる。
こっちは防御層が効かん。
アルミ箔をばらまきつつ、自身の体にベクトル操作。
つっ……。急軌道ゆえにGで血流が動くのを感じる。
何とかかわし切った。
《休憩時間を設けます》
急に戦闘だったからな。まだ心拍数が上がってる。
息を落ち着かせる。……仮想空間で息を落ち着かせるってなんだ?
とか思っていたら落ち着いてきた。
まあ、肉体の疲労は干渉できるしな。問題は精神だよ!
《第5試験:仮想戦闘……対戦相手を募集中》
《立候補がありました》
《第5試験:仮想戦闘 制限時間300秒 対戦相手:第3広域空間群管理者 黒瀬遥人》
ああ、初めまして。よろしくお願いします。
……いや、は?
いやいやいや、普通「模擬戦AI」とかじゃない?
それか、一個格上の空間管理者!
よりによって二個上の広域空間管理者とか、なんで立候補してるんだよ!
さすがにハンデつけてくれるよね?
《補足:相手の能力は10%に制限》
ああ、そう……。
逆に言うと9割削ってもまだ化け物ってことじゃん。
少なくとも試験として認められるくらいには。
……。つーか、合格基準は?
視界が一瞬で転換。
目の前の平原に黒瀬が立っていた。腕を組み、口元だけ笑っている。
空間の重さが違う。ベクトル場がゆらりと揺れ、光の進み方すら歪んでいる。
「本気出すなって言われてるけど……試験だし、手加減は期待するな」
直後、半径数キロの地面が“4つ目の方向に”沈む感覚。黒瀬が半径を可変させる局所重力井戸を形成してきた。
沈降の中心座標は……。黒瀬か。
局所法則改ざん。聞いたことはあったが。
とっくに平原は崩壊してる。あーあ。
爽やかな風景だったのに。
こっちは即座にワームホールで脱出。だが出口側にも降着円盤由来の光刃が待っていた。
……なるほど、出口読みか。
じゃあ出口自体を複数生成して乱数化、移動先は瞬時に切り替える。
ミリ秒単位の読み合い。
こちらは思考加速と読心術で黒瀬の意図を一瞬先に盗み、彼はベクトル場操作で物理ごと読みを潰す。
やがて、競り合いに負け、事象の地平面の内側に落ち込んでしまう。
残り時間、あと45秒。
周りも、目の前も真っ暗。
でも——
最後までやる。
次元開闢。高次元干渉権限入手。
ワームホールを開闢。ダミーも多数作っておく。
高次元方向に落ちる重力井戸に対して横道を掘ってやる。
ミリ秒単位でフェイント。ぎりぎりまで、引き付けて。
……五体満足で転移すると思ってるだろ。
ワームホールの入口を多数、俺の体の至近座標に開闢。
体が分解される。ただし自滅じゃない。
多数のワームホールによって、断裂した俺の体の断片が転移する。
……さすが広域空間管理者。警戒を解かずに体組織の断片を攻撃してきた。
ほとんどの出口にマイクロブラックホールを形成してきた。
体組織群が次々と、重力井戸に潰される。
が、一つでもグループが残れば……!
眼球すら断裂して、視界が暗転する。
脳が断裂して、意識が……。
……
……
……
仮想空間内で目が覚める。
自意識も連続している。
自動法術スクリプトが発動。体組織群のDNAと魔力で生体再構成が発動したのだ。
……凌いだ!
《試験終了。合格》
◇◇
拡張脳で見れる、試験配信コメント。
「あの。久しぶりの昇格試験とはいえ、準空間管理者ですよね?」
「途中からミリ秒単位の戦闘になってて草」
「黒瀬も本気出してね?10%制限でとはいえ」
「大人げないねえ」
「まあ、挑戦者側も子供感ないけど」
「最後なにした?」
「自滅してなかった?」
「読心データ見たか?“ただし自滅じゃない。”とか言ってたぞ。
……は?」
「覚悟ガン決まってる」
「ふふ、これが期待の新人ってやつですね」
「おつ。神坂とついでに視聴者諸兄も」
「ついでかよ」
◇◇
全身が震える。
これ、実戦なら確実にやられてたな……。
「とはいっても、攻撃を認識することができれば合格だったと思うがな。
……対処できるかはともかく。
準空間管理者風情に凌がれるのは予想外だった」
黒瀬が笑いながら背中を叩いてくる。
「ともかく。久しぶりの昇進試験に関われて光栄だ」
そうですか。
「しかし、ひどいですね。神坂の直轄上位の空間管理者、
確か、セク=レヴァナさんですね……も視聴すればよかったものを」
後ろからxectの声だ。頬を膨らませている。
まあ、確かに気になるが……。
「仕方ない。照れくさいんだろ、これから顔を合わせるのも増えるだろうし。
な、新米空間管理者さん?」
新米かー。
さて、まだまだこれからだな。
ただの通過儀礼じゃない。この試験を超えたことで、
自分はもう“準”じゃいられない。黒瀬に並ぶまで、ここから始まる。
▶登場人物
所属:第1広域空間群
神坂・第1広域空間群管理者
(現時点では準空間管理者
以下能力も未習得)
得意魔術:物質変換
開発:転移時の空間歪曲波による読心術
権能:上位レイヤーの物質召喚
性格:ノリは軽い。合理主義者。半ば自滅な戦法すらためらわない。
所属:第3広域空間群
黒瀬・第3広域空間群管理者
得意魔術:防御層の投射(攻勢防壁)
開発:対防御層・乱数ベクトル弾頭弾
権能:局所法則改ざん・シュバルツシルト径の局所改ざん
性格:豪快で大人げない




