第24話:雨の王国
ホノカは冒険者達にギルド長の死を伝えて冒険者の武装解除に成功する。
今、彼らはホノカが結界をはった冒険者ギルドに閉じ込められていた。
(森)
ホノカは元自分の隠れ家があった場所に来ていた。
(「“索敵”」)
「ここら辺じゃないみたいだな…」
ホノカはモンスターの大群を探していた。森という手掛かりしか無い為、難航していた。
「アレを使ってみるか…」
(光影神法術 神の目 指定『ペンドラゴン王国のモンスター』)
この神法術はホノカがユーガを探すために新しく創り出したものだ。
効果はEPを消費する分、範囲を拡大して、範囲の光と影を目にしてあらゆる場所を探すことができる。
しかし、ホノカの膨大なEPを持っていたとしても国全体を探すのに5分の1のEPを消費するうえに、範囲の全てが膨大な視覚情報として頭に流れ込んでくる。
ホノカは初めてこの神法術を使ったとき、大陸全体を探そうとしてEP消費と脳への負担が多すぎて気絶して1週間近く目を覚まさなかった。
しかし何とかホノカは一年に渡って…光の大陸の21カ国中19カ国でユーガを探した。
ズキ
「くっ」
(「王都にいない…?なら…」)
モンスターが集合しているところが王都付近にはない為ホノカは更に範囲を広げる。
ホノカの顔色はどんどん悪くなっていく。
「これか!…」
ホノカはそれらしきモンスターの集合体を感知する。
「解除!はぁ…はぁ…」
ホノカは汗がびっしょりで息がきれている。
「あそこはブロン公爵領の近くだったな…」
ホノカはモンスターの隠されている場所を突き止めた。
「空間神法術 高等転移『ブロン公爵領』」
ホノカはブロン公爵領に向かった。
(学園)
ホノカがブロン公爵領に向かった丁度その頃の学園では、ポーラが砲弾を受け止めた衝撃で学園の大地が崩落してしまっていた。
ポーラはウル四郎により安全に降りる事ができた。
他の落ちてしまった四人はウル四郎が風魔法により落下速度を軽減させ、雑ではるが怪我する事になく着地する事に成功。
「何故、地面が崩れたんだ…?」
ヴィクトルは起き上がり崩落した原因を知りたがった。
「しかも何だ?この空間?」
学園の地下は人工的な空洞が存在していた。
ウル四郎とポーラと更にコン次郎が四人近づいて来た。
「地面が崩落したのは此処の空洞があった事とそこの小娘が土魔法を使った事により更に地面が薄くなり、砲弾の衝撃波に耐えらなかったからだろう」
コン次郎が崩落の原因を分析していた。
「君はいつかからいたんだい?」
ヴィナタがコン次郎の存在に気になり質問をする。
「爆音がしたから、この馬鹿が暴れ回っていると思ってな…」
コン次郎はウル四郎の事を尻尾で叩く。
ウル四郎は先程、コン次郎に怒られしょげている。
「そこの小僧と小娘より先に来ていたんだが、ポーラ様ならあれぐらい大丈夫だと思ったが、まさか地面が崩落するとは…」
コン次郎はやれやれと首を振る。
「大砲も落ちて壊れているみたいだ…上も暫く大丈夫だろう…だが…」
コン次郎は上を見上げて高さをみる。
「この地下のシステムの一つだと見られる結界がはられてしまった…」
「君達で何とか壊せないのかい?」
「いや無理だな…壊す威力を出せたとして結界の外側、地面が更に崩落する可能性がある…
ポーラ様とマスターの学友であるお前達を守るエネルギーが残るかどうかも怪しい。」
「成る程…」
オーレンはコン次郎に質問してみたが脱出の望みが薄かった為、悩んでしまう。
「この奥に行って出口を探した方がいいんじゃないか?」
ヴィクトルは雰囲気が暗くなっていたので、とりあえず案をだす。
「そうだな…マスターがいつお戻りになるのかわからないし我々で脱出を試みた方が合理的だ」
「そうだね。全部ホノカ君に任せきりなのも悪いからね」
ヴィナタも賛成し立ち上がる。
「ヴィオラ嬢立てるかい?」
「え、えぇ…」
オーレンはヴィオラに手を貸して立たせる。
「ポーラ様どうぞ」
ウル四郎がポーラを背中に乗せる。
「ありがとう!…じゃあ出発!!」
ポーラが初めての洞窟探検に夢を膨らませ出発する。
(30分後)
「だいぶ歩きましたね」
「だな、あと…なんか城みたい内装になってきたよな?」
ヴィナタが少し疲れてきて声を出し始め、ヴィクトルは余裕があるため周り様子を見渡す。
その頃、ポーラとヴィオラは女子トークをしていた。
「貴方彼の妹さんなのね?」
「うん!お姉ちゃんもお兄ちゃんのお友達?」
「え、いいえ…彼は唯のクラスメイト」
「そうなんだ。じゃあお兄ちゃんのお友達になってあげてね!」
ポーラは無邪気にヴィオラに微笑みかけ、子供らしいお願いをする。
「なれたらいいのだけど…彼には嫌われてると思うの…」
「そうなの?」
「えぇ…彼に助け…いいえ迷惑をかけてしまったの…更に貴方の邪魔しちゃったし…」
ヴィオラはこの前の事をしっかりと覚えて気にしていた。再び自分の目の前で人が傷つくことに反応し、ポーラを救おうとしたが結局ポーラの邪魔をしてしまったと落ち込んでいた。
「でもお姉ちゃん、私のこと助けようとしてくれたでしょ?」
「えぇ…」
ヴィオラはポーラの笑顔の質問に苦笑いで答える。
「なら大丈夫!お姉ちゃんいい人だもん!ポーラの事助けてくれたもん!」
ポーラは可愛いらしい笑顔でヴィオラを見つめて励ます。
「ありがとう…」
ヴィオラはポーラの優しさに涙目の鼻声になってしまう。
「ウル四郎ちゃん下ろして」
「はい」
ウル四郎は伏せてポーラを下ろす。
「手繋ごう!」
「え?…うん…」
ポーラはヴィオラに手を繋ぐ事を望み、ヴィオラはそれ了承する。
「お兄ちゃんがね、悲しい時は手を繋ぐと嬉しさで涙が収まるんだって!」
兄の受け売りでヴィオラを励ます。
「ありがとう…」
ヴィオラはポーラの優しさに耐えきれず泣いてしまう。
「ヴィオラ嬢!」
そこでオーレンがヴィオラの名前を叫ぶ。
「これを見てくれ!」
オーレンは何かを見つけて慌てている。
「これは…初代国王の紋章…」
その初代国王の紋章は王家の紋章と少し異なる。
王家の紋章はドラゴンの目の前に剣があるが、初代国王の紋章は剣ではなく習字の筆が描かれている。
この事を知っているのは王家とその関わりが深い者だけである。
「どうしてこんなところ…?」
「失礼」
コン次郎が二人の間に割って入る。
(“鑑定”)
「ふむ、これは壁ではなく扉のようだ…」
「ど、どこが?」
オーレンが困惑するのもの無理はない。まだ進む道があり、扉のように開きそうな切れ目のようなものもない。
「それは私にもわからん…」
「ここが…」
オーレンは紋章にふれる…
ピカ
紋章が光出し、床に魔法陣が出現した後に巨大な扉が召喚された。
「な、これは…?」
オーレンは召喚された扉に驚く。
「光神法術 トリックゲート」
「知っているのかい?!」
「いや…“鑑定”したときにそう書いてあったのだ」
「そ、そうか…」
オーレンは再び扉を見上げる。
「入ってみるか?」
「え?」
ヴィクトルが入る様に提案するが数人が不安な顔になる。
「そうしよう…」
しかしオーレンはそれに賛成した。
「殿下!おやめください!」
ヴィオラがそれを止めようとする。
「ごめん…どうしても行ってみたいんだ…いや…行かなきゃいけない気がするんだ。」
「そんな…」
「初代国王が残したかもしれない…何がこの先にあるかもしれないんだ…」
オーレンは懇願する様にヴィオラを見つめる。
「わかりました…」
ヴィオラは折れてしまう。
「我々もついていく」
コン次郎も同行を希望する。
「勿論、君たちがいた方が心強いよ」
「助かる」
コン次郎はオーレンにしっかりと会釈をする。
「じゃあ行こうか…」
「あぁ!」「わかりました」「はい…」
「はーい!」
5人と2体は扉の中に入っていく。
そうすると扉を消えて無くなった。
(???)
扉の中は真っ白ではあるがペンドラゴン王国の王宮の内装に酷似していた。
「此処は一体…?」
ブオン。
急に巨大な映像が流れ始める。
『やあ!』
「グルルル」
急な事にウル四郎が臨戦体勢に入ってしまう。
「よせ!これはただの映像だ!」
コン次郎が興奮したウル四郎を止める。
「この方は…?」
オーレンは一人だけ映像に近づく。
映像には黒髪の青年が映っていた。
『録画できてるかな?出来てる?OK
ゴホン、どうも我々の子孫達よ。
俺の名は大筆龍斗…ペンドラゴン王国の初代国王だ』
「え?!この方が…」
オーレンは初代国王の顔を知らなかった。ゲオルグもガルルグも存在は知っているが、顔は知らないし、大筆龍斗なんて知らない。
『此処に来たって事は王国の危機何だろうな…』
「どうして知ってるんだ?!初代国王って預言者なのか!?」
ヴィクトルは自身達の危機的状況を言い当てた映像の初代国王に驚き狼狽える。
「落ち着け!小僧。恐らく此処は本来王族の避難場所か何かだったのだろう…しかしどこかの世代で此処の情報が潰えたのだろう」
コン次郎が興奮して冷静な判断ができていないヴィクトルを落ち着かせる。
「そ、そっか…」
『でも俺たち5人の子孫ならその危機的な状況も乗り越えらる筈だ。』
「俺たち…5人?」
オーレンはその言葉が気になった。
『俺のペンドラゴン、マシュリーのフジムラサキ、ホワイトのムーン、ガーイドのオニギリ、ヴィリアーのリバーシュ…
俺ら5人が立ち上げた国だ!』
「立ち上げた…?」「は?!」「え?」
此処にいる全員のご先祖の名前が龍斗の口から語られた。
『この家名なんだけど殆ど俺が考えたんだぜ?ヴィリアーはダサいから嫌だとか吐かしてたけど…』
龍斗は画面外の仲間を睨む。
『まぁ、子孫が此処に来れるって事は仲はまだいいんだろ?
いつかは…絆、繋がりではなく…腕っ節の実力や財力のみを信じる世代が来るかも知れない…そんな時は危険じゃなくても此処に来て欲しい…俺たちの絆と努力の結晶を見に来てほしい…』
「ご先祖様…」
オーレンは龍斗が危惧していた事を自身の父がやっている事に憤りを感じる俯いてしまう。
『なぁ、俺の子孫よ…』
オーレンは顔を上げて龍斗の方を見る。
『実はな…俺はな、この世界の人間じゃないんだ…』
「え…?」
龍斗から放たれた言葉はオーレンは驚いたが理解出来なかった。
『その所為か…魔力が殆ど無いんだ…』
「え!?」
オーレンは更に驚いた。
オーレンは龍斗の事は知らなかったが初代国王は剣王になり、他にも様々な武器を扱う事が出来た英雄だという事は知っていたからだ。
『でも…仲間の協力もあって、人並みに闘うことが出来たんだ…
だからな…王族だからといって怠惰になるな。ちゃんと努力と勉強をして頭も身体も強くなれ。
王族だからといって傲慢になるな。お前に出来ない事は山程ある。いつか痛い目を見るぞ?
最後に…他のみんなより優秀で無くなても気にするな。俺だって仲間がいなきゃまともに戦えなかったんだ!
だから、大切な仲間を見つけない』
「ご先祖様…」
オーレンは目頭が熱くなり、服の袖で顔を擦る。
「はい!」
オーレンは元気をだし、気持ちいい返事をする。
『そうだ!危機的な状況だったな!これを託す!』
床から剣、杖、小手、剣と盾、短剣が出現する。
『俺たちが使っていた物だ!使い終わったら此処に戻しておくように!』
プツン
映像が消え、四人は武器の前に立つ。
「これはフジムラサキ家…」
「これがご先祖様の…」
「凄い…“鑑定”できない…」
各々、自身の家紋が刻まれた武器を手に取り心を昂らせる。
ヴィナタは小手を取りポーラに渡す。
「ポーラちゃん…これは君のだよ」
「そうか…その子の母親は…」
ヴィクトルはヴィナタがポーラに小手を渡した理由に気づく。
「私の?」
「あぁ、君のお母様の一族の装備なんだよ?」
「んー…私、お兄ちゃんが作ってくれたこれがいい!」
ポーラは自身の装備の小手を皆んなに自慢するかの様に見せる。
「そうだね…じゃあこれは此処に置いていこう」
「うん!」
「じゃあ行こうか」
オーレンは憑き物が落ちた様な清々しい顔で皆んなに掛け声をする。
(ブロン公爵領の森)
「ちっ、まだ頭が痛てぇ…」
ホノカは神法術の後遺症で頭痛に悩まされていた。
「こいつらか…」
ホノカは木の上からモンスターを見上げている。
「ヨハンが召喚したモンスターに酷似しているな…」
眼前のモンスターの大群は以前、トライーガ家の執事だったヨハンが召喚したハイビーストと呼ばれたモンスターに酷似していた。
「奥のは違うみたいだな…」
奥に20体程別の影が見える。
ホノカはそれに近づいてしまった。
「アンデットか…数は17か…」
ホノカはこれらに手をかざす。
「まずはコイツらを先に片付け…」
一体のアンデットがホノカに気づき上を見上る。
「は…」
ホノカの呼吸が止まる。
そのアンデットは剣を携え髪はオレンジと黒、首に縫われた様な痕…
「ち…」ゴク
ホノカはやっとの思いで唾を呑み込む。
「ち…父上…」
そこにいたアンデットはホノカ達の父、クーガ・トライーガだった。
「父上…」
ホノカはクーガのアンデットに近づく…
ホノカはクーガが死んだと思う様にしていた。しかし脳裏では希望があり、何処で囚われているんじゃなか…洗脳されて操られているんじゃないか…。こんな希望でも捨てきれずいた…
しかし…今…その希望も完全に打ち砕かれた…
「ん?」
アンデットを操っているヘーオンがホノカに気づいた。
「此処に来たって事は婆がゲロったって事か…S級冒険者『黒刀』だよな…?」
黒髪と刀で有名だったので、今のオレンジと黒のホノカは直ぐに『黒刀』だとは認識できない。
「まぁいい!どうだ、おれの英雄コレクションは!全員生前の装備に着飾ってるんだぜ!
まぁお前みたな平民にはわからないか!?無知な平民に俺のコレクションを紹介してやろう!」
ヘーオンは自慢のアンデットの紹介を始めた。
「まずはコイツ!先先代の宮廷魔術師長ライラ・フジムラサキ!土と雷の魔導師でありながら水や風も得意とした逸材だ!
次はコイツ!元S級冒険者で唯一平民の『剣聖』スピータ!
続いてA級冒険者、二代目斧姫ラン!初代も欲しかったが、残念にゃぎゃら…?」
ヘーオンは喋りながら輪切りになっていた。
これでアンデットはヘーオンの支配下から解放された。
「父上…」
ホノカはクーガのアンデットに近づく。
ガン
クーガのアンデットは術師の支配下から解放されたが、アンデットには変わり無い…生者を認識すれば攻撃する。
ホノカは防御力のおかげで身体は傷つく事はない…
「お久しぶりです」
ガス
「ポーラとお…僕は元気にしています…」ゴク
ガス、ガン
「でもユーガは、今迷子になっていて…」
ガン、ガン、ガン
「でも必ず探して…兄妹全員で仲良くします…」
ヴォッ…
クーガのアンデットは炎を武器に纏い、そのままホノカへと切りかかる。
(“奥義・徹甲斬”)
「父上…愛してます…」(“抜刀”)
ズバン!!!
ホノカは一瞬で聖属性を纏った刀がクーガのアンデットを斬り裂き、クーガのアンデットは崩れ落ちていく。
「あ…り…が…と…ホ…ノ…カ…」
ポツ…ポツポツ…ザァアアアア
急にどしゃぶりの雨が降り出す。ホノカはその雲を見上げる…
その顔は雨で濡れていた…
そして雨音で何も聞こえない…
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