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177「ダンジョン20階層~」

一晩キャンプをしたけど、幸いにもグレムリンは襲って来なかった。

多分あのまま、どこかに逃げて行ったんだろう。


「剣も魔法も効かない相手じゃ、殆どの冒険者はこれより進めなかったでしょうね」


「何となくバランスが悪いっぽいパーティーだけど、そんな事無かったわね」


「もしかして、私達が一番潜れてるのかな」


「今日の目標として、30階層まで行きたいですね」


気は抜けないけど、ダンジョンを恐いとタリエル姫は感じなくなって来た。

むしろ一緒にいるメンバーの心強さに助けられ、仲間意識も強くなった。


ダンジョンが深くなるにつれ、鍾乳石や石筍が目立つようになる。

鍾乳石や石筍は成長するのに物凄く永い時間が掛かる物だ。

ならば、このダンジョンも悠久の時間を経てきた物かも知れない。


途中に水の貯まっている所があるが、この水を水筒に補給するのは危険がある。

水にはスライムが潜んでいるから、飲用にはならないと言われているのだ。

知らずにスライムのいる水を飲むと、内臓から食い破られて命に関わるから。


ラザリの持つ松明の灯がダンジョン内で唯一の灯になる。

もし松明の火が消えるような事があれば、先には有毒ガスが充満している可能性が強い。

そんな暗がりの中で魔獣と出くわすのだから、冒険者の探索は命懸けになる。

時には、足元の穴に落ちて救助が難しいという局面も有るかもしれない。




やがて前方に小さな灯が燈っているのが目に付いた。


「人がいるのかしら?」


松明を燈し、壁の窪みで休んでいる冒険者のグループが見えてきた。

グレムリンから隠れて逃げ切り、ここまで来れたようだ。


「お! ウザインじゃねえか、良く生き残れたな」


パーティーリーダーのヨゼロスという男が声を掛けてきた。

別のパーティーの者で親しくは無いが、顔見知りの男らしい。

戦士ヨゼロスのメンバーは、戦士パド・戦士ヨゼント・

魔術師ウペック・治療師ソルラ・格闘士セアドンで構成されている。


戦士系が四人。

魔法支援と魔法治療が揃っている、バランスの良い組み合わせだ。


「それにしてもウザイン、お前のパーティーは何だ?」


「ウザイン、此処はどこぞの遠足には危険な場所だぜ」


ウザイン以外、女子供ばかりのパーティー構成で笑いが漏れる。

経験の有りそうな頼りになる男はいないし、唯一の男はシーフで戦闘に向いていない。


「ヨゼロス、口を慎んでくれや、この方達は強いんだから」


「ウザインに比べりゃ、誰だって強いだろうが」


「なら、そっちの強いのと手合わせをしてみちゃどうだ」


「何勝手に面倒な事を決めてるの……」


面倒だからタリエル姫はビエルを指名した。


「ビエル、あんた退屈してない?」


「え? ビエルがやって良いんですか?」


ヨゼロス達は呆れ顔だ。

武器を持たない、小さな少女が相手をすると言うのだから。


「しょうがねえなぁ、ソルラ、遊んでやれ」


治療師のソルラ女史が相手をしてくれる事になった。


瞬殺で勝負が付く。

両者が立ち位置を変えたと思った瞬間、ソルラ女史は膝を突いて蹲ってしまった。

暗がりのせいもあって、ビエルが何をしたのか判らない。

不信感が湧くが、相手は少女だ。

いや、どう見ても少女のはずだ。


「じゃあ、次はセアドンだ」


「気が進まねえなぁ……」


格闘士セアドンがビエルの相手をする事に。

しかし、セアドンも秒殺で勝負が付いてしまった。

組み合った次の瞬間に腕を捻られ、投げ飛ばされた。


「おいおい、どうした二人とも、子供に負けるようなお前らじゃないだろうに」


「何だったら、武器ありで来ても良いですよ」


「なんだと! 後悔しても知らねーぞ?」


ビエルに挑発されたと思った、戦士パドと戦士ヨゼントは剣を抜く。

しかし、傷をつける事も出来ずに敗れ去る。

二人の剣が通用する事もないビエルに、当たりはするが剣が通らない。

二人は脇腹に拳を叩き込まれ、膝を突き戦闘不能になる。


「最後は俺だ」


戦士ヨゼロスの剣も、攻撃は悉く弾かれ、拳一つで勝負は付いた。

少女に見える相手は只者じゃない事に、戦慄を覚えるのだった。


「何なんだ、こいつは、ドワーフの戦士とも思えないが」


ずんぐりして小柄でも力のあるドワーフは戦士になる事も多い。

小柄なビエルはそうなのか?と考えたがドワーフらしい特徴は無い。


「解ったろ、この方達はみな強いんだよ、先のグレムリンも退けて来たし」


「グレムリンを退けただと?!」


「信じられん、あいつは剣も魔法も効かないんだぞ」


皆信じられないという顔だ。

実際、全員がビエルに敗れた事からして、信じられないのだから。

それでも少女のビエルに敗れた事実だけが、痛みと共に残るのだった。


「もし皆さんが帰るなら、ウザインさんを連れてって欲しいんだけど」


「なっ、そんなぁ、姐さん達、俺も先が見たいんだよ」


「いや、俺達もダンジョンの先が見たい」


「オレ達も一緒に連れてってくれ、何でもするから」


「ワシからもお願いしますじゃ、この通り」


この階層の先にはデュラハンのフロアマスターがいるらしい。

タリエル姫達は好きに先を進めて良いから、

ヨゼロスのパーティーは、後を着いて行かせてくれと懇願された。


「しょうがないなぁ、山分けは分けてあげないよ」


「それでもと言うなら、ご勝手に」


タリエル姫達一行は先に進む事にした。

出て来る魔獣は片っ端から倒して行くから、後ろから襲われる危険性が殆ど無い。

前衛(チズシア・ノイミラ姫・ラザリ)、中衛(タリエル姫)、後衛(ビエル)、ポーターが続く。

形だけでもヨゼロスのパーティーは、殿(しんがり)を務める事に。




人数の増えた一行は、やがて30階層まで降りて来た。

デュラハンは隠れる場所の無い通路を、徘徊していたから探すまでも無い。

30階層フロアボスのデュラハンは、昔の探索騎士がアンデッド化した者のようだ。

大分朽ちてはいるが、身に着けている物から察しが付く。


金属製の鎧を身に着け、造りの良さそうな剣を持っている。

もう一つの手には、盾の代わりに半白骨化した自分の頭を抱えている。

狭いダンジョンの中だから、流石に馬に跨ってはいないが。


「今度はアンデッドか」


「聖属性魔法が無いとキツイですね」


アンデッドにも、剣は有効な武器にならない。

手足を切断出来たとしも、死なない上に、それらが襲い掛かって来る。

そんなアンデッドが、金属製の鎧を着てれば、尚更一撃を入れ難い。

生前が探索騎士なら、それなりに武芸も身につけているだろうし。


「強敵ですね」


「私達には聖属性魔法を使える者はいません」


「それは私達も同じです」


「手詰まりなのか」


普通の冒険者なら逃げるのが得策だろう。

しかし、デュラハンにも見つかっているなら、

逃げても追いかけられるだけだ、追い詰められたらそれまでになる。


「ノイミラ、チズシア、ラザリはデュラハンの動きを封じて」


タリエル姫は呼吸法を始めた。

体内に気を集め、凝縮するつもりだろう。


武芸を身につけた、素早い動きのデュラハンでも、

三人の戦士に同時に剣の間合いの内に入られたら、手足や体の自由を奪われる。

身動きが出来なくなったデュラハンに、タリエル姫は両手の掌を打ち込んだ。


「破っーーーー」


ズシン!


タリエル姫の攻撃は単なる打撃じゃない、

両の掌から撃ち出す気は、デュラハンの残留思念を吹き飛ばす。

気功拳とも言えるような打撃は、デュラハンをただの骸に戻す。



「貴方達も聖属性の魔法、持って無いって言ってたわよね?」


ソルラ女史が目を丸くして聞いて来た。


「はい、これは聖属性の攻撃ではありません」


アンデッドは大概、闇属性に堕ちた魔物だ。

通常闇属性には、反対の属性を持つ聖属性か光系魔法で浄化するのが普通の考え方になる。


「聖属性の攻撃以外で、アンデッドを倒す奴を始めて見た」


ヨゼロスのパーティーの全員と、ポーターの少年少女たちも驚嘆する。


「お姉さん達って、本当に凄いや」


「私達にも、お姉さんの魔法教えて、教えて、お願い」


リビガ少年達ポーターは感心しまくりだ。


「簡単には習得出来ないかもね」


「ザウィハーに行ったら教えてくれるかも」


「さあ、それはどうでしょう、キスナエレアも忙しいし」



「ザウィハーって、あんた、そこは魔族の国の都じゃないか」


「タリエル様もチズシアも魔族ですよ」


「「「えええーーー」」」


驚く一同。

人族の中には、今でも魔族を恐がる者がいる。

ましてや魔王ともなれば、恐怖の象徴だ。

それを考えると、タリエル姫はクドクドと説明する気にはなれない。





今回の探索は、ここで一端打ち切りキャンプに入る事にした。

しかし、キャンプに入れる窪みはここにも無さそうだ。

今回もタリエル姫が空間を創るが、人数が増えた分、今までより大きな空間が必要になる。


「毎回、良くこんなに都合の良い窪みを見つけられるな」


ウザインもリビガ少年達も不思議に思うだけだった。

タリエル姫が穴を掘っていないなら、見つける以外に有り得ないだろうと誰もが思う。

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