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172「ドラゴン ビエル」

一行は魔族領を抜け、亜人種領を抜け、人族領を目指す。


①人族領で最初に行き付けるのは、踊りで有名なアヴォロス王国。

②魔道研究所のあるジロクアント王国。

③ダンジョンがあるサッシリナ公国。

④海辺で造船業の街ツラージル。

⑤海のあるハディゼキヌ領。


ここまでが同盟や友好を結んだ国や領がある。




馬車で同行する中、ノイミラ姫はビエルに違和感を感じていた。

人形サイズのコロポウネを抜かせば、一番小さい子がなぜか一緒にいる。

タリエル姫やノイミラ姫より小さい少女が、お目付け役として同行しているのだから。


「私の事は、お気遣い無くお願いします」


健気な感じでビエルは言う。


「ノイミラ姫様、彼女は人化しているドラゴンなのです」


「へ? ドラゴンだって?」


チズシアの言葉で驚くノイミラ姫。

よくよく観察すれば、瞳の瞳孔は人と違い縦割れになっている。

確かに爬虫類系の瞳だと判る。


年若いビエルは、人化すると12歳位の少女の姿になってしまう。

それでも、この一行の中では最大の戦力だろう。

例え数百人の賊軍団に襲われても、楽に斬り抜けられる様にと配慮されての事だ。

タリエル姫達で事足りる場合は、一切手出しはしない事になっている。


「……ドラゴン人なんて珍しいですね」


「皆さんの安全の保険なんですよ」


そうかも知れ無いけど、この子どれほど強いんだろう。


「一度手合わせしてもらっても良いかしら?」


「良いですけど、気を悪くならないで下さいね」


馬車を降りて、ノイミラ姫はビエルと手合わせをしてみる事にした。

双剣のノイミラ姫は、無敵とまでは言えないだろうけど、

武者修行で数人の冒険者を相手にして、引けを取った事が無い。

双剣を構えるノイミラ姫に対し、ビエルは龍鱗を纏って対峙する。


「破ァァァァー」


双剣で剣界を展開しつつ、ビエルに斬りかかるが、

龍鱗で全身鎧状態のビエルに剣は通らなかった。


バインンンンンン


二振りの剣の軌道は一刀より複雑だ。

ビエルは頭の上でクロスした腕で、振り下ろされた剣を弾いてのけた。


すかさず次の剣、先の剣戟の反動で振り戻した剣と、

次々に斬戟を繰り返すが、全て無駄に終る。

体のどの部分も刀傷一つ、打撃すらビエルには通用しなかった。


激しくも素早い攻撃のノイミラ姫だが、ビエルは

一瞬の躊躇の隙を突いて、剣の間合いの中に飛び込んで来る。

間合いに入られたら、リーチの長い剣は邪魔になるだけだった。


すかさず剣を手放し、手技で対応しようにも、

剣すら受け付けないビエルの龍鱗を、打ち抜けるパンチは無い。

背後に廻られ、抱きつかれてしまった。


「ドラゴンの重量を掛けますよ」


背中に背負うビエルの重さがどんどん増していき、

ノイミラ姫は押し潰されるしかない状態に追い込まれる。

正に子泣き爺状態。


「うぅぅ~、ギブ、ギブアップだ」


「はいです」


「認めたくないけど、納得するしかなさそうね、人化を解いたら、あんたどうなるの?」


ノイミラの要望で人化を解いた姿を見せてもらう事にした。

了承したビエルは服を脱ぎだした。


「ちょっと、なんで裸になるの」


「服を脱がないと裂けてしまうのです」


人化を解いたビエルはみるみる巨大化していく。

16m程の緑がかった巨大な黒いドラゴンが出現する。

皆が始めて見るビエルの真の姿だった。

大人のドラゴンはもっと大きいらしい。


「ヴァハムート神ともなると、400m位あるらしいですね」


「解ったよ、勝てない訳だ、認めるよ」


16m級のドラゴンがブレスまで吐くと、

周りの草木は炎に焼き払われるだろう想像がついてしまった。

軍隊総出でビエル一人に勝てるかどうか。

どちらにしても大被害になるのは確実だろう。


そんなビエルは、万が一の事態の保険でしかない。

山賊や魔獣退治は、あくまでもタリエル姫達に委ねられている。

それもニホバル王子の配慮だったりする。




やがて一行は夜を迎える。


ノイミラ姫がラザリと野営した時には、焚き火が消えないように、

互いに寝ずの番をして安全を見守ったっけ。

闇の中に蠢く野獣や魔獣に絶えず注意をしていた。

今回は人数も多いから、寝ずの番は楽になるに違いない。


タリエル姫は大き目の岩に近づいて、手に持つ杖でコンコンと叩いた。

岩は二つに開いて、馬車ごと入れる空間を見つけた様子。


馬車ごとは入れる空間?

そんな都合の良い物が存在するわけが無い。


「タリエル姫様、あんた何を……」


仙人まで後一歩のタリエル姫には異空間を創る事が出来るのだった。

流石にタリマのようにダンジョンを創るまでは行かないが。


「これからの野営は私が泊まる所を作りますので……」


「えええ、こんな魔法があるの?」


「魔法と言うより、仙術なのかも」


体内で煉った気を、体内で回す小周天行が進んで、

次の行は、体外で気を回す大周天行に移行する。

視点の先に凝縮した気を増大させると、空間が歪み、別の空間に派生する。

タリエル姫は、この空間で野営する事にしたのだった。


「タリマ様と同じ事が、タリエル様にも出来るんですね」


チズシアは感心をしている。

タリマは元から出来た事だろうけど、

タリエル姫達は修行の結果、そういう能力を手に入れたのだった。


「タリエル姫様、あんたも十分にチートじゃないの」


ノイミラ姫とラザリ・ビエルは顔を見合わせている。


「中は雑魚寝になるけど、良いよね」


「あ、ああ、十分だ」


どの道、野営は雑魚寝が基本だし、

そんな事を気にする者はいなかった。

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