169「ノイミラ姫」
ニホバル王子とノイミラ姫の勉強は一段落した。
これでやっと終わりかと思った矢先、ロンオロス王とアビスナ王太后から、
ニホバル王子、ルリア姫、タリエル姫も仙人の修行が課された。
「ノルナ姫が超人的なものを得られたのだから、皆も一様に学ぶ事」とのお達しだ。
ノルナ姫とキスナエレアの指導により、渋々ではあるが皆、修行に入った。
ノイミラ姫に無言で託された本当の学習は、ここから始まる。
ニホバル王子、ルリア姫、タリエル姫はノルナ姫と共に瞑想行に入っている。
部屋のドアの外から眺めるノイミラ姫は、ため息をつきつつ気持ちを漏らす。
「ラザリ、ノルナ姉様はこんな退屈な修行を乗り越えて来たのかな」
ノイミラ姫付き侍女のラザリと側にいるオーシアに聞いてみた。
「ノイミラ姫様、目的の前には退屈は問題では無かったのでしょう」オーシアが答えた。
「私には、とても出来そうもないわ」
武者修行を通して強くなったノイミラ姫ではあるが、
いつもノルナ姫に勝つ事が出来なかった。
ノルナ姫の強さの秘密を見せられても、体を動かす事が何より好きなノイミラ姫には瞑想行は耐え難く思えるのだった。
何よりノルナ姫に勝てないという敗北感が強かった。
やがて陽も落ち、夜がやってくる。
ニホバル王子達の修行は中断して夕飯に入る。
普段では揃わないメンバーがいるからと、ニホバル王子はとっておきを出して来た。
ノルナ姫が部屋を照らし、ルリア姫が小型の竈を用意する。
詰め所に待機していたツェベリ、タキア、チズシアが食材を用意する。
竈の火に掛けられた鍋に、並々とごま油が満たされる。
肉を調理するニホバル王子は、用意が出来た順に肉を油の中に放り込んでいく。
茶色い衣に包まれた肉は、刻んだ玉ねぎを敷いた小さな鍋で煮込まれる。
「ザウィハーでは、ニホバル王子様が料理をするの?」
ノイミラ姫は驚いた。
王族自らが皆のために食事を作るなんて前代未聞だ。
何かアイデアがあっても、作業者に指示するだけなのが普通の姿でもある。
しかし今作っている料理を知っているのは、ニホバル王子だけだから仕方無いものもある。
侍女達が野菜を刻み、ルリア姫が竈の火を調節する。
王城にいて料理なら料理番はいるだろうに、なぜか皆嬉しそうに料理に参加している。
「これはね、ノイミ姫様、私達だけのスペシャル料理なのよ」
茶目っ気たっぷりにルリア姫が言う。
「さあ、カツ丼が出来た、召し上がれ」
ニホバル王子が皆に一つづつ、煮込まれた肉のフライに卵がかけられた料理を配る。
両手の掌に収まる大きさの磁器の食器の中に込められたスペシャル料理。
ニホバル王子以外に誰も知らない異国の料理に、皆はしげしげと眺めるばかり。
ルリア姫もタリエル姫もチズシアも、あちらで食べていない料理だ。
ノイミラ姫と侍女のラザリは、米をまだ食べた事がない。
産まれて初めて目にする、未知の異世界の料理だった。
少しづつフォークで掬いながら口にしてみる。
「おいしい」
「甘いですね、少しの塩っ気もあって、豪華な味と言うか」
見れば、皆は一つのテーブルを囲んで楽しそうに、美味しそうに話をしながら、賑やかに食べている。
身内でささやかなパーティーをしているようなものだ。
城で貴族が集まってする社交パーティーとは違い、皆の心が一つになって楽しんでいる。
楽しく、暖かい雰囲気だ。
ニホバル王子達は、時々こうやって食事を楽しんでいるのだろう。
ノイミラ姫はルリア姫・タリエル姫・ノルナ姫が羨ましくなって来た。
「ノルナ姉様が羨ましい……」
「ノイミラ姫様、私達も国へ帰ったら催しましょう」
ノイミラ姫が、人の心の何かを知った、若しくは届いた瞬間だった。
それは母ウィラクバリラ女王が学んで欲しかった物でもある。
やがて食事を終え、食器を片付けたニホバル王子達は修行に戻って行く。
瞑想行は深夜まで続くらしい。
「……私も少し修行に付き合ってみようかな」
ノルナ姫が瞑想で自分の存在すら、変えてしまった瞑想に興味が出てきた。
自分もその修行をすれば、更に強くなれるのかな。
しかしノイミラ姫は自分の内面に向き合う事になった。
自分の至らない物、自分の気持ちがどういう物、
自分という人間は、どの程度の者だったのか、
何に苦しんでいたのか、何を羨んだのか、
解ったのは、どれもが恥ずかしい物だった。
「ラザリ、私、明日国に帰る事にするわ……」
「はい、ノイミラ姫様」




