167「ウィラクバリラ女王vsヒッポリラ姫」
アサスウイアのウィラクバリラ女王の下に知らせが届いた。
此度、ノルナ姫とキスナエレアが修行を成就させ、
遂に仙人に至った功績を祝う式典を催すという事だった。
「ノルナはとうとう修行を修めたのか、良かった」
嫁に出たノルナ姫は、それで良しとして、
アサスウイアの跡取りはノイミラ姫とヒッポリラ姫で決める事になる。
先日、ノルナ姫とノイミラ姫が勝負を行い、ノイミラ姫は敗けたが、
ノルナ姫が勝負を降りた以上、復活の目が浮上する。
ノイミラ姫とヒッポリラ姫で勝負を決め、
勝った方が、アマゾネスの国、アサスウイアの女王候補に決定しよう。
代々、その方法で女王を決めてきたのだから、今回も決闘で決める事になる。
ウィラクバリラ女王の前で、次期女王決定戦の御前試合が行われた。
二刀流のノイミラ姫に対し、妹姫ヒッポリラは剣一本で相対する。
……どうやら剣一本での攻防を行う術を極めて来たと言う事か。
二刀流のノイミラ姫は剣を天地左右に剣界を展開した。
剣の間合いである剣界に入った者に、必ず剣の刃が届く必殺の剣界だ。
初手からいきなりの必殺の剣界に入れる者はいないはずだった。
かつてノルナ姫に敗れて以来、ひたすらに剣界の修行に励んで来た。
ノルナ姫と対峙した時は、使う武器の相性が悪過ぎた。
剣のリーチより長い薙刀は、両刃の長物のように刃部分と石突部分が、
剣速を上回り、瞬時に入れ替わり、攻防を仕掛けて来た。
あれから修行を重ねて、ノイミラ姫の剣界は付け入る隙が無い所まで腕を上げた。
それに対して、一刀のヒッポリラ姫に優位性は無いはずだった。
いざ対峙してみるとヒッポリラ姫は容易く剣界に入って来て一撃を入れる。
辛うじてウエストガードで弾くが、素早く上段に構え直したヒッポリラ姫の剣は、
全体重を込めた異常な速度で振り下ろされた。
「ちぇすとーー」
ノイミラ姫の二振りの剣は叩き落され、
剣速の乗ったヒッポリラ姫の剣に切り裂かれてしまう。
「勝負あり! ヒッポリラの勝ちだ」
「くっ」
二振り共剣を破壊されたノイミラ姫に、勝ち目は消え去った。
ヒッポリラ姫の武者修行は、世界で一番強いとされている剣豪の元で修行を積んで来た。
何度もその剣豪に打ち倒されながらも、ひたすら剣の腕を磨いてきたのだった。
遂には師匠である剣豪をも斃し、剣聖の称号を受けるに至った。
世界一の剣豪をも上回る「剣聖ヒッポリラ」が彼女の姿である。
「母上様、私はこの国最強と謳われる母上様にも挑戦したく思います」
「ほう、妾と雌雄を決するつもりかえ?」
「いかにも、母上様を下せば、私、ヒッポリラがこの国最強になれます」
「良かろう、妾を倒し最強の座と、女王の座を奪い取るが良い」
ウィラクバリラ女王は側近に愛用の豪剣を用意させ、ヒッポリラ姫と対峙した。
女王愛用の豪剣は、斬馬刀と見まごう業物だった。
普通の剣より大きく重い、そんな剣を女王は普通の剣のように扱った。
巨剣の重さや空気抵抗など無いと言わんばかりの剣速で振り回される。
普通なら剣のリーチも然る事ながら、剣の速度に押し負ける。
しかし、ヒッポリラはウィラクバリラの剣界を潜り抜け、一撃を入れる。
「うぐっ」
ウィラクバリラ女王は、ヒッポリラの剣で深手を負った。
ヒッポリラのあらゆる動作は速かった、速度が相手の速度を上回っていたのだ。
「これで母上様は、この国のNo.2に落ちましたね」
「うむ、見事であった、しかしヒッポリラはNo.1ではないと思うぞ」
「この期に及んで何を……ノルナ姉様の事ですか? 嫁に行ってしまったではないですか」
ウィラクバリラ女王は、ヒッポリラの性格の悪さを見抜いていた。
今まで姫同士の決闘で、誰も怪我をしないように収めて来た。
ヒッポリラは母であるウィラクバリラ女王に、死ねとばかりに剣を突き入れた。
既の所で致命傷を避ける事が出来たが、無事とも言えない状態だ。
恐らく強ければ、母を殺しても何とも思わない人間では無いのか?
剣士とは違う殺し屋のような非情さが、顔の表情から判断出来る。
感情すら持たない、そんな薄ら寒さをヒッポリラから感じている。
どの姫も負けず嫌いなのは同じなのだが、女王として国を任せられるかと問われれば、
ヒッポリラ姫もノイミラ姫も人としての成長が達していないのが解る。
いかに武に優れていても、治世に優れるのは別の話。
民は強き者に憧れ従うだろうが、そのレベルで国を治められる者はいない。
ノルナ姫としても似たような者かも知れないが、
ニホバル達と付き合うようになって何かが違うのを感じている。
ウィラクバリラ女王自身は、アビスナ王太后との友達付き合いで何かを学び、
何かが変わって来ている事に自覚は持っていないが何かが根付いている。
しかし、その何かが、国の未来を左右するものに成長していくのだろう。
ウィラクバリラ女王は、ザウィハーから祝典に招かれている。
それはノルナ姫の結婚式ではなく、仙人に昇格した祝いの祝典なのだ。
魔族の国ザウィハーで学んでいると言っても、まだ妃候補に過ぎない。
「オノレ…、姉上……、解りました、ノルナ姉様とも雌雄を決しようと思います」
憎々しげに顔を歪めるヒッポリラは、ウィラクバリラ女王とノイミラ姫を伴い、
馬車を走らせ、ザウィハーの式典に向かう事にした。
「母上様、傷は痛みませんか?」
懇親の魔力でウィラクバリラ女王の傷を治すノイミラ姫。
「うむ、心配させてすまんなノイミラ」
「ノイミラ姉様、母上様を下した私が国で最強なのです、態度を改めて下さいよ」
「こんな時に何と言う事を……」
その頃、仙人になったノルナ姫は、楽団員の各精霊達から術を学んでいる。
精霊と同じになったと言っても、まだまだ強さの上を目指すのだった。
憧れのチャンディー・ヴィカラーラ様に近づきたいという思いで。




