163「ノルナの修行②母来たる」
ノルナ姫の提案以来、ウィラクバリラ女王とアビスナ王太后と友達付き合いをしている。
そんな縁でウィラクバリラ女王は、直々ザウィハーへやって来るようになった。
離れていても何だかんだ、母としてノルナ姫の事が心配だったりする。
今回も父王ロンオロスの部屋にアビスナ王太后とウィラクバリラ女王は集まっている。
「家のノルナが、皆さんに迷惑掛けていないか心配で」
「迷惑なんて事は有りませんわ、むしろこの頃、居るのか居ないのか判らない位で」
意外な返事が返って来た。
元気の塊、暴れん坊のノルナ姫が存在感が無いほど大人しい?
幼い頃より活発なノルナ姫が、大人しかった記憶は無い。
「まさか、病気じゃないだろうね?」
「至って元気ですわ」
変だと思ったウィラクバリラ女王は、侍女のオーシアを呼んで聞いてみた。
城内にいる賢者キスナエレアの元で、特殊な訓練をしていると言うのだった。
「特殊な訓練とな? 大変そうだの、応援に行ってみるか」
オーシアの案内でウィラクバリラは、キスナエレアの部屋を訪れた。
部屋の中には、ノルナ姫とキスナエレアが、話もしないで座っているのが見える。
二人は何をするでもなく、ただ向かい合って黙って座っているだけ。
大人しい訳だ、ノルナ姫にしては在り得ないほど珍しい事でもある。
「ノルナ、元気してたか?」
「あ、ウィラクバリラ女王様、失礼致しました」
「あ、母上様」
「ああ、良い良い、そのままで、それにしても何をしていたのだ?」
ノルナ姫が言うには、賢者キスナエレアの指導の下で修行をしているのだと言う。
「修行?」
ただ黙って座っている二人が、修行をしているように見えない。
今行っている修行は、瞑想行だとノルナは懸命に説明を始めた。
「母上様、この修行は肉体ではなく、精神の修行なのです」
「精神ねえ、ノルナには、根性や闘志は充分過ぎると思うが」
ノルナが何を目指しているのかイマイチ解らない。
「その修行の果てには何が有るのだ?」
「不老不死です母上様」
「不老不死とな? アンデッドにでもなるのか?」
胡散臭い事この上と思う。
アンデッドだって一度は死んだ者だ、浄化魔法で倒せるし。
いるとすれば、神か精霊か妖精か、そういう者に違いない。
人のままで不老不死の者がいるなど聞いた事が無い。
それでも一途なノルナの事だし、ザウィハーの者が騙すとも思えない。
頑張っている者の努力を否定してはいけないな。
妾の知らない何かを、娘は追い求めようとしているのだろう。
「ウィラクバリラ女王様、コーヒーで御座います」
ソファーに座るウィラクバリラ女王と侍女オーシアに、
キスナエレアが異国の飲み物を差し出して来た。
いつの間に用意したんだろう、不意に出して来たように見えたが。
「これは異国の飲み物だな、初めて味わう味だ」
「苦くて甘い、面白い味ですね」
この世界、飲み物と言えば、果汁のジュースかエールか酒位しかない。
子供でなければ、ジュースは飲まないものだが、
コーヒーなる飲み物は、酒類でもジュースでもなかった。
ウィラクバリラが初めて口にする異世界の味でもある。
「うむ、何と言ったら良いのか…、お替りを頂けるか?」
「はい、女王様」
カップを受け取ったキスナエレアは、そのままウィラクバリラ女王に差し返す。
飲み干したはずのコーヒーは並々注がれている。
キスナエレアはコーヒーを注いだ動作が無いのだ。
「ん? キスナエレア、何をした?」
「母上様、これはキスナエレア師匠の能力なのです」
『気』からコーヒーを創り出したとノルナが説明をする。
「一体何の魔法であるか?」
こんな魔法は聞いた事が無い。
ノルナ姫はいずれこの能力を習得し、更にその先を目指すと言うのだった。
先にあるのが不老不死という事らしい。
「う、うむ、そうなのか」
ウィラクバリラ女王には訳も価値も解らない。
解らないが、何かが行われているのは確か。
その何かをノルナ姫は追求しようとしているのだろう。
賢者の事を知らない者に、賢者の事を語れる知識は無いのだから、
賢者の知識を学ぼうとするノルナ姫を素直に応援するしかない。
「はい、私はしっかり学んで必ずやモノにします、そうしなきゃならないんです」
「そうか、ノルナ、頑張るのだぞ」
「はい、母上様」
ウィラクバリラ女王は、ノルナ姫が病気ではない事にひとまず安心した。
「如何でした?」
アビスナ王太后は、ウィラクバリラ女王とて娘の事を気に掛けている事に、
母子の情という微笑ましいものを感じていた。
アビスナ王太后と暫らく歓談してウィラクバリラ女王は国へ戻った。




