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162「ノルナの修行①修行初め」

「ノルナ姫様が私の最初の生徒ですね」


「へっへー、私は何でも一途なんだ」


暴れん坊のノルナ姫が、ザウィハーに来てから、ニホバル王子は彼女の暴力を心配をしていた。

妹のルリアと仲が良いから無闇に暴れる事が無いのが幸いだと思っていた。

キスナエレアの所に学びに入って以来、異常なほど静かで大人しいノルナ姫を、

逆に心配になる程だ。


ノルナ姫がキスナエレアから課せられた修行は、瞑想と呼吸法。

床に胡坐で座り込み、それだけを延々と続ける毎日が続く。

合間にキスナエレアから、座学として知識と歴史体系を伝授される。

そんなキスナエレアでも、まだ仙人に達していないと言う。


修行を深めるために、キスナエレアも一緒に修行の毎日だ。

ノルナ姫から見れば、一緒に修行に付き合ってくれる最高の師匠だった。

高い所から、偉そうに口で指導するような者は、ノルナ姫とそりが合わない。

いずれ肉体変換の時には、キスナエレアの師匠ノーチャを呼ぶ事になるだろうと言う。



瞑想でノルナ姫はインナーワールドに入って行く。



精神を内側に向ける瞑想は途中で、何回も気付きや妄想が湧き起こって来る。

その状態に気付いては、瞑想に立ち戻る。

妄想とか雑念というのは脳内の生理現象だと言われている。

肝心なのは、その生理現象に囚われない事だ。


もう一つ気が付いた。

遥か昔、神話の時代に敵アスラ神族を殲滅したチャンディー様。

あの方に寿命は無いの?

神の事は凡人には、窺い知れない事だろうけど。


輪廻転生と言えば、ニホバルがそれの体現者だったっけ。

なぜか前世の記憶の保持者だという事も聞いた。

ニホバルの前世の世界ってどんな所だろ。

ルリア達が行ったらしいけど。


ああ、また雑念が湧いてる。

瞑想に戻らなきゃ。

自分の精神って、こんなに厄介な物だったんだ。

そんな雑念が湧いたり、気付いて無視する事を繰り返す。


自分の周りから世界が消えて行く。

肉体すらも自分の物では無くなって行く。

私と思っていたのは、思いだけだった。

しかしノルナと思われる自分はここにいる。

思いを払い除けた自分と言う存在はいなかった。

自分が居ないのだから、恐いとか不安とか思う者はいない。

何者か判らない何かがが在るだけ。



「はい、終了」


キスナエレア師匠の声が掛かり、

肉体も世界も自分も戻って来た。


ゆっくり目を開ける。

何とも言えない気分がノルナを包み込んでいるのが解る。

それは何かの魔法でも術でも無い、ノルナの何かだった。


「ノルナ様、どうでした? 自分の中の世界は」


「判りません」


「結構、それで良いんですよ、もっと訳が解らなくなりましょう」


何だか、寝て起きたような感じだけど、

ノルナ姫は寝てはいなかった、起きていたにも関わらず、

今まで自分の知らない、何かを知ったような、そうで無いような、

白黒分かれる判断は出来なかった。



次の日の修行は、今感じた何かが纏う体を創り出すのが目標だ。


「紙に絵を描いて下さい、次には粘土で何かを造ってみましょう」


紙と筆記具を渡され、絵を描いた。

次には、粘土を渡されて何かを作ってみる事になった。


「何を作るかなんて決まってる、尊敬するチャンディー様を作る」


ノルナは上手に絵を描く事は出来ないし、粘土で何かを造るにしても、

思い通りにはならなかった。


「上手く出来ないや…、彫刻師って凄かったんだな……」


「ノルナ様、これは頭の中でイメージした物を、実体化する訓練なのです」


別に絵描きになる訳でも、造型師になる訳でも無いから、下手でも構わないそうだ。

目標は、空間に立体物を明確にイメージ投射出来る様にする事らしい。

絵を描く場合、完成図を紙にイメージ投射出来れば、それをなぞれば良くなる。

粘土での造詣は、紙に描く二次元イメージを、三次元イメージとして投射する訓練だ。

最終的にイメージ投射で何を創るのかと言えば、不老不死のノルナの体を創る基礎だと言う。


どういう物を描きたいとか、作りたい思いはあるけど、それを紙に描く事が出来ない。

理想と現実のギャップがそこに在る。

練習を繰り返しと経験を積む事でギャップを埋めて行く事が出来る。


「うーん、難しいです師匠」


「では、イメージ投射の入り口を開きましょう」


ノルナは目を閉じ、キスナエレアの言葉を聞くように促された。

抑揚の無い話し方は静かに聴いていると、やがて眠気に襲われてくる。

師匠の言葉を聞いてるんだから、寝ちゃ駄目だ、起きてなきゃ。

ボーとした頭で眠気と正気のせめぎ合いが始まった。


「目を開けて良いですよ、紙を見てみなさい、ノルナの描きたい物が見えるでしょ?」


キスナエレアの言う通り、紙に描きたい物が見えている。

それをなぞれば良いだけ、ノルナは素直になぞっていく。

何故見えているかなんて考えもしなかった。

催眠状態で思考力が半分眠っているようだ。


「描けましたね、元に戻りますよ」


キスナエレアがパンと手を叩く。

その音でハッと自分を取り戻すノルナ姫。


「どうですか? 自分の描いた絵は」


ノルナは目を疑った。

自分が描きたい物が、ほぼちゃんと描けている。


「あれ? 描けてる、描いてた時に見えてた」


「それがイメージ投射という物です」


ノルナ姫には何が起こっていたのか訳がわからない。

同じように描いてみようとしても、紙には何も見えないし、

描いた物は、相変わらずの下手な絵だった。


キスナエレアが行った術は催眠術になる。

言葉の誘導で意識を操作する。

術の深度が深まれば感覚や記憶まで術者が操作出来る様になる。

その意識は自他の区別は無い。



この修行が進めば、いずれは不老不死の自分の体を創る事になる。

自分の体じゃなくても、何かしらの形を空間に立体イメージ投射で創り、

意思を持たせれば、人口霊タルパになるとキスナエレア師匠は言う。

確かに、これは魔術と違う系統のものだ。


ノルナの修行は、やっと入り口に差し掛かった。



不老不死を得るのに、何か薬でも飲めばなれる物じゃ無い事は理解出来た。

的確に指導出来る師匠がいれば、修行の進展速度は格段に早くなる。

それでも、体を作り変えると言うのは、一朝一夕に何とかなる物じゃない。

負けず嫌いな性格のノルナ姫は、大変な修行でも志を変える事は無かった。


「イチイチ音を上げてたら、ルリア達にバカにされらぁ」


この訓練に目標を強く持つ事でノルナ姫は『飽きる』という事すら退けて邁進する。

『虚仮の一念巌を通す』という(ことわざ)がある。

勉強や仕事をするに通じる(ことわざ)で、『何でもバカになって遣り通せ』と言う人もいる。


人は一事を成している最中にもっと楽になる事を考える。

効率を上げるためになれば良いけど、苦労からの逃避になる人も多いだろう。

無駄な苦労はする物じゃないし、人に強制して良い物でもない。

自分が向上するための苦労を楽しめる人は、何より強い。

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