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ドラゴンパペット01  作者: 凍結・滑夜
2 リベンジ
23/27

クラフバインドの仕組み


 その後、ブレアがあちこちに掛け合ってくれたらしく、翌日には祐一の処分は保留となった。

「……さて、どうするか」

 今すぐ、クラフバインドがいる渓谷に行きたかったが、しばらくは巨大甲冑に触らせてもらえそうになかった。

 下手な事をしてまたブレアに迷惑をかけるわけにもいかない。


 アロドに会う事にする。

 都合よく、アロドは第二騎士団の基地に来ているらしい。

 地図を頼りに、入り組んだ建物の間を歩いてたどり着いた先は、なんとも怪しげなレンガ造りの四角い建物だった。

 建物自体は何の罪もない平屋なのだが、四方を数階建ての大きな建物に挟まれているせいで、場違い感がある。

 開発部の出張所という微妙な役目の建物ゆえに、騎士団から(精神的な意味で)距離を置かれているだけだ……と思いたい。

「なんか、マッドサイエンティスト臭が漂ってるんだが、気のせいだよな?」

 祐一はやや警戒しながらも扉を開ける。


 建物の中は小さな格納庫のようになっていて、作業台の上には、人の身長より長いぐらいのサイズの、円錐形の物体が載せられていた。

「槍か何かかな?」

 だが、人が振り回すには大きすぎるし、かと言って巨大甲冑に使わせるには少し小さい気がする。

 一体何なのか。

 祐一が考えていると、声が掛かった。

「よく来たの。なんだかやらかしたそうじゃが?」

 アロドだった。

「いろいろ仕方なかったんだよ」

「話は一通り聞いておるとも。こちらとしては、あまり奇妙な事はして欲しくなかったのだが……、若さじゃのう……」

 祐一が牢屋に入っている間、こっちはこっちで、いろいろあったらしい。

「悪かったよ。相談しようと思ったんだけど」

「その話も、フィリアから聞いておるよ。実に間が悪かった。ま、仕方ないの」


「ちなみにあれ、何だ?」

 祐一が作業台の上の謎の物体を指差すと、アルドは肩をすくめる。

「試作した盾じゃよ、今一つ、強度が足りなくて改良している途中なんじゃがな」

「盾って言った? 俺の目には、槍に見えるんだけど」

「……盾とは攻撃を防ぐものじゃ。形ではない。あの先端ならどんな攻撃でもだいたい防げるのだ。私が保証しよう」

 まあ、本人がそう言い張るならそれでもいいのだが。

 ただ、仮に防御力が高いとしても、防御面積の少なさが問題になる気がする。

「失敗作でしょ、それは」

 いつの間にかクラウが立っていた。

 今日は、動きやすい半そで半ズボンの服。相変わらずの尖った印象を与える表情で、腰に手を当て、バカにしたように槍(盾?)を眺めている。

「小さな範囲を防御するために、その三倍の底面積が必要な防具とか、バカじゃないの?」

 いや、バカにしている事を隠す気もなかった。

 厳しい採点に、アロドは苦笑いする。

「おお、来たのか」

「……いいのか、入れちゃって?」

 一応、軍事機密の塊みたいな物が置かれている場所だと思うのだが。

「ああ、そいつか。なんか、いつの間に入り込んで、おまえの甲冑を眺めていたもんでな。話してみたら、こう見えて、専門知識が豊富だったもので、つい」

 そういうのはいろいろと問題があるような気もする。セキュリティー的な意味で。

 だが、味方が多いのは悪いことではない。とりあえず目的を果たしてしまう事にする。


「解らない事がいくつかあるんだけど……」

「ほう?」

「なんで、佐原はあんな所にいたんだ?」

 何をどう間違えれば、邪竜の中に閉じ込められたりするのか。

 佐原がこの世界にいるという事ですら、不自然かつありえない事態だというのに。

 アロドは悩ましげに言う。

「現物を見ていない以上、推測に推測を重ねる事になるが、それでもいいか?」

「ああ」

 祐一には最初の推測すらできないのだから。

 アルドは、祐一の体を指差す。

「……まず、おまえさんの体だが、元の世界から持ってきた物でない事は覚えとるな?」

「え? ああ、そういえば、最初の頃に、ドラゴンの肝臓が何とか言ってたような……」

「そうだ。材料を用意したのはこちらだが、体をその形にしたのはおまえさんの記憶だ」

「記憶?」

「魂に刻まれた情報……というか魂自体が情報なのだが、その情報を引き寄せて、その体を半自動的に練成したのだ」

 ……。

「何言ってるのかさっぱり解らないんだが」

「私もよく解らん。解っているのはそれが実現可能だという事だけだ……」

「ちょっと待ちなさいよ」

 クラウが口を挟む。

「あんた達が魂って呼んでる物は、情報その物ではないはずでしょ。情報だけだと一つの塊として移動できないわけだから」

 アロドが目をむく。

「そういう仮説もあるにはあるが……我々の技術は、目に見えない物を研究できる段階ではないのだが」

 脱線しすぎだ。

 まだ本題にすら入れていないと言うのに。

「待て待て。今は佐原の話を」

「ああ、そうじゃったな。おほん」

 アロドは咳払いすると話を続ける。

「さてと、おまえさんの体を作り上げた技術だが、これの出所、どこだと思うね?」

「知るわけないだろ」

 祐一が言うと、アロドは秘密を打ち明けるように顔を近づけてくる。

「クラフバインドじゃよ」

 なんだそれは。

「どういう事だよ。クラフバインドは、あれの他にもいるって事か?」

「いいや? あんなものが何匹もいてたまるか」

 それはそうだ。

「確かに、クラフバインドの完全討伐はまだ果たしていないが、あれを落とした事は何度かあるのだ。その時に、回収できたいくつかの遺骸を研究して、情報は集めている」

「へぇ……」


「それだけではないぞ。あの周囲を漂う小型のクラゲ。あれにも魂があるのだ」

「はぁ?」

 それが何だというのか?

「そしてクラフバインドは、取り巻きがやられても、やられても、魂さえ回収すれば、元に戻せると言うわけじゃよ」

「……それが?」

 この話とどう関係あると言うのか。

「解らんかの? つまりクラフバインドには、周囲を飛び交う魂を捕まえて、その体を再生させる能力を持っている、という事になる」

 ようやく祐一も合点が行く。

「そうか! その機能に佐原が引っかかったんだな?」

「そういう事になるわけだ」

 あくまで推測だが。

 それなりに真実味は高いと思われる。

「だとすると、……佐原を救出するためにはどうしたらいいんだ?」

「小クラゲを生み出す機能によって、この世界に召喚された。だとしたら、小クラゲと同じ扱いを受けていると思っていい。もしそうなら、戦いの最中に排出されるはずだ。だが、そうはならなかったのはなぜか」

「何か理由が……、形が違うから引っかかって出られなかったとか?」

「大きかったならともかく、小さかったのだからな。それは考えにくい」

「じゃ、なんなんだよ」

「特別扱いされている、としか考えられん」

「特別扱い?」

 よく意味が解らないでいると、クラウが言う。

「つまりアレよ。あなた、この世界の人間には動かせない物を動かせる者、として呼ばれわけでしょう?」

「ああ、それが?」

「だとすると、佐原さんの魂も、それに勝るとも劣らないスペックがあったとしても、矛盾はしないわよね? 多大な魔力に耐えて、なおかつそれを操る力が有った。そう考える事もできる」

 ありえない話ではない。

「って事はあれか? 佐原はクラフバインドの奴隷、いや道具にされてるって事か?」

 魔力をコントロールする整流器か何かの代用品として。

「まあ、そういう仮説も成り立つって事ね」

 クラウはあっさりと言ってのける。

「酷い。とにかく早く助けないと」

「そうじゃのう……」

 口調からして、アロドは気が進まないようだ。

「あまり長引かせるのも良くないと思うんだよ。あと八ヶ月待つっていうのはなしにしたい」

「解っておるが、……雪山突破か」


 祐一にはよく解らないが、巨大甲冑と雪は何かと相性が悪いらしい。

 ブレアも、長期天気予報を気にして作戦を立てていたぐらいだし、それなりに考慮する必要があるだろう。

「唯一の救いは、まだクラフバインドの再生が完了していないという事じゃ。やるなら、早ければ早いほどいい」

「確かに、また大量の小クラゲを出されても困るもんな」

 だが、そもそも上手くやったとして、佐原を救助するにはどうしたらいいのか?

 クラウが、祐一の心を読んだかのように言う。

「じゃ、次はそれについて話し合ってみましょうか」

 いつの間にか、クラウが司会進行役になっていた。

 その方がスムーズに進みそうなので、祐一としては何の問題もないが。


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