クラフバインドの仕組み
その後、ブレアがあちこちに掛け合ってくれたらしく、翌日には祐一の処分は保留となった。
「……さて、どうするか」
今すぐ、クラフバインドがいる渓谷に行きたかったが、しばらくは巨大甲冑に触らせてもらえそうになかった。
下手な事をしてまたブレアに迷惑をかけるわけにもいかない。
アロドに会う事にする。
都合よく、アロドは第二騎士団の基地に来ているらしい。
地図を頼りに、入り組んだ建物の間を歩いてたどり着いた先は、なんとも怪しげなレンガ造りの四角い建物だった。
建物自体は何の罪もない平屋なのだが、四方を数階建ての大きな建物に挟まれているせいで、場違い感がある。
開発部の出張所という微妙な役目の建物ゆえに、騎士団から(精神的な意味で)距離を置かれているだけだ……と思いたい。
「なんか、マッドサイエンティスト臭が漂ってるんだが、気のせいだよな?」
祐一はやや警戒しながらも扉を開ける。
建物の中は小さな格納庫のようになっていて、作業台の上には、人の身長より長いぐらいのサイズの、円錐形の物体が載せられていた。
「槍か何かかな?」
だが、人が振り回すには大きすぎるし、かと言って巨大甲冑に使わせるには少し小さい気がする。
一体何なのか。
祐一が考えていると、声が掛かった。
「よく来たの。なんだかやらかしたそうじゃが?」
アロドだった。
「いろいろ仕方なかったんだよ」
「話は一通り聞いておるとも。こちらとしては、あまり奇妙な事はして欲しくなかったのだが……、若さじゃのう……」
祐一が牢屋に入っている間、こっちはこっちで、いろいろあったらしい。
「悪かったよ。相談しようと思ったんだけど」
「その話も、フィリアから聞いておるよ。実に間が悪かった。ま、仕方ないの」
「ちなみにあれ、何だ?」
祐一が作業台の上の謎の物体を指差すと、アルドは肩をすくめる。
「試作した盾じゃよ、今一つ、強度が足りなくて改良している途中なんじゃがな」
「盾って言った? 俺の目には、槍に見えるんだけど」
「……盾とは攻撃を防ぐものじゃ。形ではない。あの先端ならどんな攻撃でもだいたい防げるのだ。私が保証しよう」
まあ、本人がそう言い張るならそれでもいいのだが。
ただ、仮に防御力が高いとしても、防御面積の少なさが問題になる気がする。
「失敗作でしょ、それは」
いつの間にかクラウが立っていた。
今日は、動きやすい半そで半ズボンの服。相変わらずの尖った印象を与える表情で、腰に手を当て、バカにしたように槍(盾?)を眺めている。
「小さな範囲を防御するために、その三倍の底面積が必要な防具とか、バカじゃないの?」
いや、バカにしている事を隠す気もなかった。
厳しい採点に、アロドは苦笑いする。
「おお、来たのか」
「……いいのか、入れちゃって?」
一応、軍事機密の塊みたいな物が置かれている場所だと思うのだが。
「ああ、そいつか。なんか、いつの間に入り込んで、おまえの甲冑を眺めていたもんでな。話してみたら、こう見えて、専門知識が豊富だったもので、つい」
そういうのはいろいろと問題があるような気もする。セキュリティー的な意味で。
だが、味方が多いのは悪いことではない。とりあえず目的を果たしてしまう事にする。
「解らない事がいくつかあるんだけど……」
「ほう?」
「なんで、佐原はあんな所にいたんだ?」
何をどう間違えれば、邪竜の中に閉じ込められたりするのか。
佐原がこの世界にいるという事ですら、不自然かつありえない事態だというのに。
アロドは悩ましげに言う。
「現物を見ていない以上、推測に推測を重ねる事になるが、それでもいいか?」
「ああ」
祐一には最初の推測すらできないのだから。
アルドは、祐一の体を指差す。
「……まず、おまえさんの体だが、元の世界から持ってきた物でない事は覚えとるな?」
「え? ああ、そういえば、最初の頃に、ドラゴンの肝臓が何とか言ってたような……」
「そうだ。材料を用意したのはこちらだが、体をその形にしたのはおまえさんの記憶だ」
「記憶?」
「魂に刻まれた情報……というか魂自体が情報なのだが、その情報を引き寄せて、その体を半自動的に練成したのだ」
……。
「何言ってるのかさっぱり解らないんだが」
「私もよく解らん。解っているのはそれが実現可能だという事だけだ……」
「ちょっと待ちなさいよ」
クラウが口を挟む。
「あんた達が魂って呼んでる物は、情報その物ではないはずでしょ。情報だけだと一つの塊として移動できないわけだから」
アロドが目をむく。
「そういう仮説もあるにはあるが……我々の技術は、目に見えない物を研究できる段階ではないのだが」
脱線しすぎだ。
まだ本題にすら入れていないと言うのに。
「待て待て。今は佐原の話を」
「ああ、そうじゃったな。おほん」
アロドは咳払いすると話を続ける。
「さてと、おまえさんの体を作り上げた技術だが、これの出所、どこだと思うね?」
「知るわけないだろ」
祐一が言うと、アロドは秘密を打ち明けるように顔を近づけてくる。
「クラフバインドじゃよ」
なんだそれは。
「どういう事だよ。クラフバインドは、あれの他にもいるって事か?」
「いいや? あんなものが何匹もいてたまるか」
それはそうだ。
「確かに、クラフバインドの完全討伐はまだ果たしていないが、あれを落とした事は何度かあるのだ。その時に、回収できたいくつかの遺骸を研究して、情報は集めている」
「へぇ……」
「それだけではないぞ。あの周囲を漂う小型のクラゲ。あれにも魂があるのだ」
「はぁ?」
それが何だというのか?
「そしてクラフバインドは、取り巻きがやられても、やられても、魂さえ回収すれば、元に戻せると言うわけじゃよ」
「……それが?」
この話とどう関係あると言うのか。
「解らんかの? つまりクラフバインドには、周囲を飛び交う魂を捕まえて、その体を再生させる能力を持っている、という事になる」
ようやく祐一も合点が行く。
「そうか! その機能に佐原が引っかかったんだな?」
「そういう事になるわけだ」
あくまで推測だが。
それなりに真実味は高いと思われる。
「だとすると、……佐原を救出するためにはどうしたらいいんだ?」
「小クラゲを生み出す機能によって、この世界に召喚された。だとしたら、小クラゲと同じ扱いを受けていると思っていい。もしそうなら、戦いの最中に排出されるはずだ。だが、そうはならなかったのはなぜか」
「何か理由が……、形が違うから引っかかって出られなかったとか?」
「大きかったならともかく、小さかったのだからな。それは考えにくい」
「じゃ、なんなんだよ」
「特別扱いされている、としか考えられん」
「特別扱い?」
よく意味が解らないでいると、クラウが言う。
「つまりアレよ。あなた、この世界の人間には動かせない物を動かせる者、として呼ばれわけでしょう?」
「ああ、それが?」
「だとすると、佐原さんの魂も、それに勝るとも劣らないスペックがあったとしても、矛盾はしないわよね? 多大な魔力に耐えて、なおかつそれを操る力が有った。そう考える事もできる」
ありえない話ではない。
「って事はあれか? 佐原はクラフバインドの奴隷、いや道具にされてるって事か?」
魔力をコントロールする整流器か何かの代用品として。
「まあ、そういう仮説も成り立つって事ね」
クラウはあっさりと言ってのける。
「酷い。とにかく早く助けないと」
「そうじゃのう……」
口調からして、アロドは気が進まないようだ。
「あまり長引かせるのも良くないと思うんだよ。あと八ヶ月待つっていうのはなしにしたい」
「解っておるが、……雪山突破か」
祐一にはよく解らないが、巨大甲冑と雪は何かと相性が悪いらしい。
ブレアも、長期天気予報を気にして作戦を立てていたぐらいだし、それなりに考慮する必要があるだろう。
「唯一の救いは、まだクラフバインドの再生が完了していないという事じゃ。やるなら、早ければ早いほどいい」
「確かに、また大量の小クラゲを出されても困るもんな」
だが、そもそも上手くやったとして、佐原を救助するにはどうしたらいいのか?
クラウが、祐一の心を読んだかのように言う。
「じゃ、次はそれについて話し合ってみましょうか」
いつの間にか、クラウが司会進行役になっていた。
その方がスムーズに進みそうなので、祐一としては何の問題もないが。




