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ドラゴンパペット01  作者: 凍結・滑夜
2 リベンジ
21/27

監獄にて


 相変わらずの、海底の夢だった。

「時田君……」

「佐原……」

 揺らめく光の中、二人は岩を背にして、白砂の上に腰掛ける。

「うまく、逃げ切れたか?」

「うん、なんとか」

「そっか……」

「時田君の方は? 大丈夫なの?」

「大した事ないさ」

 祐一は上の方を見ながら言った。

 実の所、大嘘だったのだが、余計な心配をかけたくなかった。

「……私、これから、どうすればいいのかな?」

「解らん」

 とりあえず、状況が好転するのを待つしかない。だが、好転する事などありえるのだろうか?

 佐原が、不安げに言う。

「あの人達、また襲いに来たりはするかな」

「なんとか説得してみる。時間ならある」

「どういう事?」

「これからその地方には雪が降る、らしい。しばらくの間、巨大甲冑は運用できないらしい」

「しばらくって」

「確か、一年の三分の二って言ってたな」

「八ヶ月か……」

 実の所、この世界の一年の長さが、地球の一年と同じだと言う保証もないのだけれど。一日の長さが大幅に違う様子もないし、大丈夫だろう、たぶん。

 それから、ふと祐一は思いつく。

「そういえば、おまえ、中からあのクラゲ操れるんだよな?」

「うん、今の所は。とりあえず、人里に近づけないようにすればいいんだよね?」

「ああ。あと、崖の上に上れるなら、そのほうが行方をくらませて……いや、それはまずいか」

 騎士団から行方をくらませるなら、渓谷から出たほうがいい。

 だが、あまりにも完全に隠れられてしまうと、祐一の手にも負えなくなる。連絡手段がこの夢しかなくて、次がいつになるかもわからない以上、不確実な事はしない方がいい。

 現在、第二騎士団は王都まで戻ってきている。あと八ヶ月は佐原のいる場所にはたどり着けないのだ。

 だとしたら、真剣に逃げ隠れする必要はないのかもしれない。


 むしろ問題なのは、八ヶ月も放置しておいて問題ないのか、という事だ。

 今まで大丈夫だったからと言って、これからも同じとはかぎらない。

 そもそも、なんで佐原がクラフバインドの中にいるのかすら、よく解らないのに……

 それに、状況が変化しないとしても、佐原は一年近く、クラゲの中に閉じ込められる事になる。それはそれで問題だ。

「最悪、単独で雪山を突破する方法を考えた方がいいのか、これは?」

「時田君、無理しないで。私は時田君に無茶して欲しくないよ」

「何、大丈夫さ」

 祐一は力強く笑ってみせる。

「ありがとう」

 佐原は微笑むと、祐一の肩に頭を乗せた。

「あのさ、時田君、私ね……」


***


「ああ、いてて……」

 祐一は、石畳の上で目を覚ました。

 何が原因かはよく解らないが、夢が途中で途切れて、最後に佐原が何を言おうとしていたのか、聞きそびれたのが少し残念だった。

「さてと、どうしたものかな」

 祐一は、改めて己の現状を見渡す。


 地下にあることを思わせるような、冷えてじめじめした空気。

 頑丈さだけがとりえの石で作られた床壁天井。

 高い天井の窓から差し込む月の光。

 壁の一面は鉄格子になっていて、廊下に繋がっている。

 罪人を閉じ込めておくのに、実に適した部屋。

 平たく言えば、監獄である。


「まあ、そうなるよなぁ」

 人に害をなすドラゴンを討伐する過程で、作戦を意図的に失敗させたのだから。罪人扱いはある意味当然だ。

 その場で処刑されなかっただけマシという物。


 この国の人権意識がどの程度かは不明だが、現代日本より高い事を期待するのはやめた方がいいだろう。

 さらに通常法ではなく、軍事裁判に掛けられている場合、処刑される確立があがる。

 プラス、国家反逆罪。

 そもそも、以前にオーベルから聞かされた話が本当ならば、祐一は人間扱いされていない。


「あれ? 俺、もしかして詰んでね?」

 祐一は暗い未来に思いを馳せたが、しかし、なんとかしてここを乗り切らないと、佐原を助けに行く事ができない。

 さて、どうしたものか。

「いっそ脱獄でもするか」

「そのためには、檻か壁を壊さないとならないわね」

「……無理だよなぁ」

「人の力じゃ絶対に無理ね。そういう風に設計されてるんだから、当然でしょうけど」

「…………何か道具か、協力者があれば、まだ手立ては有るかもしれないんだけどな」

「この状況で、味方ゼロからの再起は無理ゲーよ。どう考えても」

 ……。


「それにしても、なんか、さっきから幻聴が聞こえるんだよなぁ」

「幻聴のわけないでしょうが。ボケた事言ってないで、ちゃんとこっち見てくれない?」

 なんか怒り出したので、仕方なく声のする方を見ると、暗がりの中に、小さな人影があった。

 祐一の半分ぐらいの身長の少女。

 着ているのはドレスのようなフワフワのワンピース。この世界的には、かなりいい生地で作られている事がうかがえる。

 目とアゴがやや尖った印象を与える、少女だった。

「誰だおまえ?」

 祐一が聞くと、少女は腰に両手を当てて胸を張る。

「あたしはクラウベル・アルドブル。正統なるアルドブル家の長女よ。あなたには縁があるし、特別にクラウと呼ぶ事を許可するわ」

「クラウ……アルドブル?」

 どこかで聞いた事がある気がする名前だった。クラウは頷く。

「ああ、あたしの親父は、この前までアルドシティーの領主だったよ。死んじゃったし、町も領地もなくなっちゃったけどさ」

 アルドシティー。

 岩ヒトデの時の町だ。

「町は壊滅しちゃったけれど、あんたが来てくれなかったら、あたしも生きていなかったかもしれないからね。一応、恩人ではあるし、様子を身に来てあげたってわけ」

「あ、ああ……」

 ヘヴィーだ。世界観的に、そういう事も普通にあると予測はしていたけれど、改めて聞くと思ったよりヘヴィーだ。

「でも、どうやってここに来たんだ? こういう場所でも、貴族だと入れたりするのか?」

 クラウは首を傾げる。

「見張りの人なら、みんな寝てるけど?」

「……見張り、仕事しろよ」

「さっきまでは起きてたんだけど、あたしがお茶入れてあげたら、みんな倒れちゃったのよね。どうしたのかしら」

「おまえ、何て事してんの!」

 睡眠薬でも盛ったのか?

「それはそうとして、さっき一人でぶつぶつ言ってたけど、どうすんの? 本当に脱獄すんなら、手を貸してあげない事もないけど?」

「え? どうやって?」

「……その鉄格子をぶち壊せばいいんでしょ?」

 クラウはそう言うと、鉄格子の一本を掴み、体重を掛けて引っ張り始める。

 女の子の力でどうにかできるものでもないのだが。

「やめろって、無理だから」

 祐一が止めてもクラウは、何度も何度も全身を使って引っ張る。

「金属疲労って知ってる? 何回も負荷を掛けると、最後には折れるのよ」

「……疲労骨折って知ってるか? 仕組みは金属疲労と同じだが、鉄より先に骨がダメになるぞ?」

 普通はそうなる前に、疲れて動けなくなるのだけれど。

 クラウは不満げな顔で鉄骨から手を離すと、祐一を睨みつける。

「なら、この牢屋の中で大人しく、処刑の日を待つわけ?」

 そうするつもりはなかったが、しかし、他に代案があるわけでもない。

「なんとか説得してみる予定なんだが、無理か?」

「バカな事言ってる場合? 自分の女が死に掛けてるかもしれないって時に……」

「いや、佐原は別にそういうんじゃ……って言うか、何で知ってるんだよ」

 クラウはニヤニヤと笑う。

「さあて? たぶん、直ぐに皆に知れ渡る事になると思うけど」

「……」

 何でそんな事になっているのやら。

「実際どうなのよ?」

「うるさいな。誰を庇おうが俺の勝手だろうが」

「ふーん? ハッキリしないなぁ……。じゃ、最終的にどうしたいわけ?」

 最終的に?

「どこが終わりなのかは解らないけど、とりあえず、佐原をあそこから出してやりたい」

「できるかどうかも解らないのに?」

「話が通じるんだ。助ける方法もあるに決まってる」

「へー?」

 クラウは疑うような変な視線を向けた後、肩をすくめる。

「ま、いっか。また来るから。覚悟決めるならその時までにお願いね」

 そして、どこかへと歩き去ってしまう。

「なんなんだよ、まったく……」

 祐一はため息を付いた後、天窓を見上げた。

 月は、いつの間にか見えなくなっていた。


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