架橋
騎士団の車列は北に向かう。
王都を出て、半日ほど進むと、そこはうっそうとした森の中だ。
道などろくに整備されていないのか、太い木の根が張り出していたり、道に大きな溝があったりして、輸送車両はガタゴトと跳ね上がる。
サスペンションなどという高文明力の部品は、この世界には存在していないようだ。
掴まっていないと放り出されそうだった。
数時間も走った頃、前の方で何かあったのか車列は停止した。
祐一はしばらくそのまま待っていたが、動き出す様子がない。輸送車両の運転手に聞いても、よくわからないと言う。
埒が明かないと思った祐一は車両を降りて前の方に行く。
先頭の方まで行くと、工兵が何人もバタバタしていた。
材木を担いで歩いていく者。測量用の棒か何かを持ってあちこちに指示を出している者。
何をやっているのかと観察しながら歩いていると、ブレアに声を掛けられた。
「おい! おまえこんな所で何をやっている!」
「いや、俺はただ……」
「勝手に持ち場を離れるな。目的地に着いた時に、おまえが行方不明になっていたら、誰の責任になると思っている?」
「……すまん」
確かに、その通りだが。
ブレアは、気分を変えるようにため息をついた後、前に向かって歩き出す。
「まあいい。ついて来い」
「何で止まってるんだ?」
「今は川に橋を掛けている」
「橋? かかってないのか?」
「小さな川だ。足は濡れるが、歩いて渡れる。それにどうせ人など通らん」
そんな事を言っている間に、先頭までたどり着く。
小川だった。幅は十メートルあるかないか。
そこに大量の材木を使って即席の橋を掛けている。
「この川、思った以上に小さいな」
「それはそうだ。もう少し広ければ、下り坂と上り坂だけで済む。もっと広くて深かった場合は、船を使えばいい」
この幅だと、ちょうど輸送車両が嵌ってしまうだろう。逆に通りづらい。
「人力で橋を掛けるのか」
「他にどうしようもないからな。……お前がもといた世界ではどうしていた?」
「そんな事知らないが」
実のところ、第二次世界大戦ぐらいまでだと、やってた事はあまり変わらないのだが。
「ところで、出発前にフィリアから聞いたのだが。おまえ、エルディヌに何を相談するつもりだ?」
ブレアは祐一の方を見ないまま言う。
「エルディヌ? ……ってアロドの事か。別に、大した事じゃない。個人的な事だ」
「出発の予定を無視して会いに行こうとしたのに、大した事ではないと?」
「……あんたには関係ないだろ」
祐一は口を尖らせるが、ブレアは意に介さず言う。
「不純な思いを抱いたまま戦場に向かうのはよくないな」
「不純って……」
祐一は適当にごまかそうと思ったが、離してくれそうにない。
諦めて言う。
「……佐原。俺が前にいた世界の知り合いの事だ」
「男か、女か」
「女、だけど」
「ふむ」
ブレアは、勝手に何かを納得したかのように頷く。
「恋仲か」
「こいなか? いや、そういうわけじゃなくて……」
「そうでもなければ、そこまで深く気にかけたりはしないと思うが?」
「それは……」
どうだったのかと聞かれると、微妙な所だ。
「まだ、そこまでの関係じゃなかった。あと一年あったら、まだ違ったかもしれないけど」
「向こうの世界のおまえは、事故で死んだ、のだったかな」
「ああ、その時に、佐原も一緒に死んでしまったんだ」
「なるほど。それで?」
祐一は言葉に詰まる。
説明が面倒なのは、ここからだ。
「その佐原が夢に出てきた」
「なんだそれは?」
祐一は少し恥ずかしかったが、今朝の夢の詳細をブレアに語って聞かせる。
聞き終えたブレアはアゴに手を這わせながら呟く。
「海底の夢、か」
「どう思う?」
ブレアは困ったように首を振る。
「ただの夢、と言って切り捨てたい所だが、……しかし、少し気になる事があるな」
「気になる事?」
生ぬるい風が木々の間を吹き抜ける。
草がかさかさと揺れる。
「そもそも、私から見れば、おまえが昔いた世界、というのが夢か何かのような物だ」
「……そう言えばそうだな。でも、あっちの世界だって実在するんだ」
「解っている。ここに今おまえがいる事が何よりの証拠。あやふやな話ではあるが、デタラメではない。だとすれば……、その佐原とやらが送られた世界も、どこかに実在するのだろう」
「つまり、佐原は、やっぱりどこかに閉じ込められていて、助けを求めているって事か?」
「たぶんな」
ブレアは同意するが、その表情は苦々しげだった。
「ただ、私にできる事もないな。……確かに、これはエルディヌにでも相談するしかない」
「いつ、相談できる? できるだけ早い方がいいんだが」
「やはり王都に帰ってからになるだろうな」
「それいつになるんだ」
「一週間だな」
「……」
「それがこの作戦にかけられる時間だ。それを超えれば、いつ雪が降り始めてもおかしくない」
地面に深い雪が積もれば、巨大甲冑は滑ってひっくり返ったり、雪を掻き分けて動かなければならないために動きが遅くなったり、いろいろと不都合が出る。
空を飛べない者には戦いづらい季節だ。
「一週間、そんなに放置して大丈夫だろうか?」
「心配するな。一月以上、放置しても無事だったのだ。一日二日でどうにかなるという事もあるまい」
「……」
****
やがて橋が完成して、車列は再び動き出す。
森の中を横切る道を通り抜けて、騎士団は進む。
目指すはルギタイ砦。
北の谷間に生息するドラゴンから人里を守る要塞だ。
前回、切るタイミングを間違えたっぽい




