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ドラゴンパペット01  作者: 凍結・滑夜
1-C 水腑の邪竜
16/27

架橋

 騎士団の車列は北に向かう。

 王都を出て、半日ほど進むと、そこはうっそうとした森の中だ。

 道などろくに整備されていないのか、太い木の根が張り出していたり、道に大きな溝があったりして、輸送車両はガタゴトと跳ね上がる。

 サスペンションなどという高文明力の部品は、この世界には存在していないようだ。

 掴まっていないと放り出されそうだった。


 数時間も走った頃、前の方で何かあったのか車列は停止した。

 祐一はしばらくそのまま待っていたが、動き出す様子がない。輸送車両の運転手に聞いても、よくわからないと言う。

 埒が明かないと思った祐一は車両を降りて前の方に行く。


 先頭の方まで行くと、工兵が何人もバタバタしていた。

 材木を担いで歩いていく者。測量用の棒か何かを持ってあちこちに指示を出している者。

 何をやっているのかと観察しながら歩いていると、ブレアに声を掛けられた。

「おい! おまえこんな所で何をやっている!」

「いや、俺はただ……」

「勝手に持ち場を離れるな。目的地に着いた時に、おまえが行方不明になっていたら、誰の責任になると思っている?」

「……すまん」

 確かに、その通りだが。

 ブレアは、気分を変えるようにため息をついた後、前に向かって歩き出す。

「まあいい。ついて来い」

「何で止まってるんだ?」

「今は川に橋を掛けている」

「橋? かかってないのか?」

「小さな川だ。足は濡れるが、歩いて渡れる。それにどうせ人など通らん」

 そんな事を言っている間に、先頭までたどり着く。

 小川だった。幅は十メートルあるかないか。

 そこに大量の材木を使って即席の橋を掛けている。

「この川、思った以上に小さいな」

「それはそうだ。もう少し広ければ、下り坂と上り坂だけで済む。もっと広くて深かった場合は、船を使えばいい」

 この幅だと、ちょうど輸送車両が嵌ってしまうだろう。逆に通りづらい。

「人力で橋を掛けるのか」

「他にどうしようもないからな。……お前がもといた世界ではどうしていた?」

「そんな事知らないが」

 実のところ、第二次世界大戦ぐらいまでだと、やってた事はあまり変わらないのだが。


「ところで、出発前にフィリアから聞いたのだが。おまえ、エルディヌに何を相談するつもりだ?」

 ブレアは祐一の方を見ないまま言う。

「エルディヌ? ……ってアロドの事か。別に、大した事じゃない。個人的な事だ」

「出発の予定を無視して会いに行こうとしたのに、大した事ではないと?」

「……あんたには関係ないだろ」

 祐一は口を尖らせるが、ブレアは意に介さず言う。

「不純な思いを抱いたまま戦場に向かうのはよくないな」

「不純って……」

 祐一は適当にごまかそうと思ったが、離してくれそうにない。

 諦めて言う。

「……佐原。俺が前にいた世界の知り合いの事だ」

「男か、女か」

「女、だけど」

「ふむ」

 ブレアは、勝手に何かを納得したかのように頷く。

「恋仲か」

「こいなか? いや、そういうわけじゃなくて……」

「そうでもなければ、そこまで深く気にかけたりはしないと思うが?」

「それは……」

 どうだったのかと聞かれると、微妙な所だ。

「まだ、そこまでの関係じゃなかった。あと一年あったら、まだ違ったかもしれないけど」

「向こうの世界のおまえは、事故で死んだ、のだったかな」

「ああ、その時に、佐原も一緒に死んでしまったんだ」

「なるほど。それで?」

 祐一は言葉に詰まる。

 説明が面倒なのは、ここからだ。

「その佐原が夢に出てきた」

「なんだそれは?」

 祐一は少し恥ずかしかったが、今朝の夢の詳細をブレアに語って聞かせる。

 聞き終えたブレアはアゴに手を這わせながら呟く。

「海底の夢、か」

「どう思う?」

 ブレアは困ったように首を振る。

「ただの夢、と言って切り捨てたい所だが、……しかし、少し気になる事があるな」

「気になる事?」

 生ぬるい風が木々の間を吹き抜ける。

 草がかさかさと揺れる。

「そもそも、私から見れば、おまえが昔いた世界、というのが夢か何かのような物だ」

「……そう言えばそうだな。でも、あっちの世界だって実在するんだ」

「解っている。ここに今おまえがいる事が何よりの証拠。あやふやな話ではあるが、デタラメではない。だとすれば……、その佐原とやらが送られた世界も、どこかに実在するのだろう」

「つまり、佐原は、やっぱりどこかに閉じ込められていて、助けを求めているって事か?」

「たぶんな」

 ブレアは同意するが、その表情は苦々しげだった。

「ただ、私にできる事もないな。……確かに、これはエルディヌにでも相談するしかない」

「いつ、相談できる? できるだけ早い方がいいんだが」

「やはり王都に帰ってからになるだろうな」

「それいつになるんだ」

「一週間だな」

「……」

「それがこの作戦にかけられる時間だ。それを超えれば、いつ雪が降り始めてもおかしくない」

 地面に深い雪が積もれば、巨大甲冑は滑ってひっくり返ったり、雪を掻き分けて動かなければならないために動きが遅くなったり、いろいろと不都合が出る。

 空を飛べない者には戦いづらい季節だ。

「一週間、そんなに放置して大丈夫だろうか?」

「心配するな。一月以上、放置しても無事だったのだ。一日二日でどうにかなるという事もあるまい」

「……」


****


 やがて橋が完成して、車列は再び動き出す。

 森の中を横切る道を通り抜けて、騎士団は進む。


 目指すはルギタイ砦。

 北の谷間に生息するドラゴンから人里を守る要塞だ。


前回、切るタイミングを間違えたっぽい

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