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ドラゴンパペット01  作者: 凍結・滑夜
1-B 玄武行進
13/27

休息

 デペンドルクルスが一掃されたアルドシティー。

 しばらくの間、警戒と救助作業のため、騎士団はこの地に逗留する事になった。

 安全が確認されたので、後方で待機していた輸送団もアルドシティーに移動。

 当然、輸送団に乗り込んでいたフィリアもここまでやってきた。


「……凄いですねぇ」

 フィリアは輸送車両に揺られながら、ボロボロになった町並みを見上げてぼんやりと呟く。

 大通りの両側に建つ建物は、半壊、あるいは全壊していた。

 材木などを柱に使っていた建物は柱が燃えて崩れ落ち、石造りだった建物の多くも、巨大甲冑とデペンドルクルスの戦闘の余波で破壊されてしまった。

 キャタピラが石材を踏みつけて、ガタゴトと揺れる。

 この世界に、サスペンションに相当する機構はない。地面からの振動は、直接座席に伝わってきて、乗り心地は非常に悪い。

 エンジンはおなじみの竜骨機関だが、最前線で戦う巨大甲冑とは違って、品質の悪いパーツを使っている。

 排気ガスが油っぽい匂いを振りまいて、多くの兵士から嫌われるタイプだ。

 だが、フィリアはこの匂いが好きだった。

 フィリアの一家は、昔から巨大甲冑の製作を生業にしていて、幼い頃のフィリアも、巨大甲冑の製作工房に顔を出す事が多かった。

 作業を眺めたり、工房の端で木切れを使って遊んだり、遊び疲れて眠りこけたり。

 そんな思い出を持つフィリアにとって、竜骨機関が吐く燃えカスの匂いは懐かしい匂いだ。


 そんな事を思っているうちに、輸送車両は野営地に到着する。

 野営地とは言うが、全壊した建物の跡地にテントを張り、何機もの巨大甲冑を伏せ状態で待機させているだけの場所。

 大通りや広場を使わないのは、次に戦闘が発生した時への備えか。


 並ぶ巨大甲冑のなかに、一回り小さいものがある。祐一専用の新型巨大甲冑だ。

 その甲冑の前に……

 祐一が両手を横に広げて突っ立っていた。

「………………何やってるんですか?」

 フィリアが聞くと、祐一は苦々しい顔で答える。

懲罰ちょうばつだか何だかで、この体勢で突っ立ってろって言われた」

「……え? 懲罰って……敵前逃亡でもしたんですか?」

「いや、俺はむしろ敵に一人で突っ込んで行った方なんだけど」

 よく意味が解らなくて、フィリアは首を傾げる。

 そこに、オーベルがやってくる。

「フィリアさん、もう付いたんですか?」

「あ、オーベルさん。……これ、何があったんですか?」

 オーベルはフィリアと祐一の方を見比べた後、ため息混じりに言う。

「それは……ちょっと説明は難しいですけどね。簡単に言えば、騎士団の備品を危険に晒した、という所でしょうか」

「備品?」

「この新型巨大甲冑の事ですよ。こんな所で壊されでもしたら大事ですからね」

「そうですねぇ」

 察するに、祐一が初めての戦場で混乱したか、甲冑の能力を過信したかして、敵の集団の中に一人で突っ込んでしまったのだろう。

 巨大甲冑は、数倍のデペンドルクルスが相手でも戦える事になっている。だがそれはあくまで、作戦を立てて多人数で連携した行動を取れる人間が乗っている事が前提での話だ。

 単純に一対一の状況で、援軍要請も撤退もせずに戦ったら、各個撃破されてしまう。

 祐一が撃破される危険があるし、それを防ぐために騎士団も後を追わなければならない。

 結果として、部隊全体が不必要な危険に晒されることになる。

「それと、こういう事はあまり言いたくないけど、祐一君それ自体が備品扱いなんですよ、書類上では」

「ああ、そう言えばそうでしたね」

 不穏な会話をしている二人を見て、祐一が慌て出す。

「え? 俺どういう扱いなの? 人間扱いされてないの?」

 フィリアは祐一に向けて暗い笑みを浮かべる。

「だってあなた。魂は人間でも、体は……アレじゃないですか」

「……」

 祐一の顔が曇った。

 オーベルがフィリアの言葉の先を言う。

「そういうわけで、君を信用していない人は大勢いるんだ。上からの命令に従わない傾向があったりすると、また元老院がうるさく言ってくる。最悪の場合……」

「処分されちゃいますねぇ」

「……」

「余り物の第二部隊に配属されているのもそれが原因だったりする」

「何かあった時、切り捨てやすいですものねぇ」

「……」

 言葉攻めのダメージに、祐一は打ちのめされそうになっていた。

 やりすぎたと思ったか、オーベルが咳払いする。

「もちろん僕らは、君を人として扱うつもりではいるけどね。だからこそ、素直な所を見せてくれないと困るんだよ。特に、上官の命令には絶対服従するとか。そういう前提を作っておけば、不慣れな隊員が判断ミスをした、というレベルで抑えておける」

「はい……」

「大丈夫ですよ。頑張ればいい事ありますから」

 フィリアは、そんな事言ったら無責任かな、と思いつつも、慰めておいた。



 フィリアとオーベルは野営地の中を歩き、端の方にあるテントに入る。

「お茶でも飲みますか?」

「ええ、お願いします」

 フィリアは椅子に腰掛けた。

 机の上に設置された通信機が、カチカチと不規則なタイミングで音を立てている。

 オーベルが湯気の立つカップを二つ持ってくる。フィリアは一つを両手で受け取って、中身を一口飲んだ。

「……甘いですね。何のお茶ですか」

「クレイオスドの葉です。西の方で少しだけ取れる種類みたいですよ」

 二人はしばらく無言でお茶を堪能した。

「……巨大甲冑で、動かなくなった物は何体ぐらいですか?」

「無傷が十体、応急処置が可能なのは七体。残り三体はパーツを交換した方がいいと思います。そっちは?」

「五体のうち、四体は騙し騙しですけど、動けてます。……残り一体は、操作系の第二ラインが前から壊れていたようで、応急処置ではどうにもなりませんでした。どうやっても右腕が動かないんです」

「そんな故障があったんですか? 定期点検で見落としたのかな……」

 オーベルは首を傾げる。

「これからどうするんですか?」

「とりあえず監視任務ですね。他のドラゴンがここを通って国内に入り込んでこないように。後は本部からの連絡待ちですよ」

「壊れた甲冑はどうするんですか?」

「……その件で、少し困っているんですよ」

 オーベルはため息をつく。

「防衛隊の整備基地が壊滅していたんです。本格的な修理は難しいかもしれません」

 どちらにしろ、整備員が足りないが。

「応急処置しかできないんですか?」

「ええ。交換用のパーツも焼かれてしまったようです。動かない物は、送り返すしかありません」

「酷いですね。あれ一個作るのにどれだけ大変だと思ってるんだろう……」

 フィリアは言ってみる。けれど、ドラゴンが人間の都合を理解するようになったら、むしろ確実に焼きにくるだろう。

「戦闘中に、剣が折れたのが六本。これも問題です。予備、足りましたっけ?」

「……そういうのって、探したらどこかに落ちてたりしませんか?」

 アルドシティーの防衛隊の備品が残っている可能性はある。まともな状態の物が見つかるかは別として。

「厳しい状態というわけです」

「そうですねぇ」

 フィリアは、遠征活動に同行したのは初めてだったのだが、思った以上に困難が付きまとう物らしい。

「えっと……救助活動の方はどうなってるんですか?」

「東側の一区画は建物が無事で、その辺りにいた人間は確認しました。とは言え、あまり多くはありませんでしたが」

 殆どの住人は、町から逃げ出していたのだから当然だ。残っていたのは脱出し損なった人達だけ。

「それ以外の場所では?」

「一応、探させてはいますが……正直、期待はしていないし、人手も足りませんね」

「そうですか」

 二人はお茶をすする。オーベルがフィリアのカップにお代わりを注ぐ。


 フィリアはお茶をすすりながら、机の横に置かれた地図を見ていた。

 デペンドルクルスの撃破位置や救助隊の捜索範囲などが細かく描かれていた。

 ふと思いつく。

「あの、私、近くの様子を見て回りたいんですけど、大丈夫でしょうか?」

 フィリアが言うと、オーベルは頷く。

「少しぐらいなら構いませんけど……、気をつけてくださいよ? まだ生き残っているデペンドルクルスがいるかもしれませんから」

「解りました」

「そして味方の巨大甲冑にも用心してください。もちろん、彼らも足元には気をつけているはずですが……」

「解ってますよ。目立つように道の真ん中を歩けばいいんですよね」

 オーベルさんは心配性だなぁ、と思いながら、フィリアはその場を立ち去った。



 崩れ去った家屋。

 道に散らばった瓦礫によろけながらも、フィリアは進む。

 騎士団の救助隊も巨大甲冑も近くにはいない。見つかっていない生存者がいるとしたらこの辺りだろうと、当たりをつけたのだが。

 道を塞ぐ瓦礫のカタマリで、まっすぐ歩くのも難しい。

「遅いのよ、このボケナス!」

 急に、後ろから誰かが叫んだ。

 そちらを見ると、フィリアの半分ぐらいの身長の少女が立っていた。

 服は、瓦礫にでも引っ掛けたのか、あちこち破けてボロ布のようになっている。元はそこそこいい生地で作られたドレスのようだが台無しだ。

 所々についた赤いしみは血だろうか? 少女が動きに不自由していない様子からして、彼女自身の血ではないのかもしれない。

 そして何かを抱いている。白っぽい布にくるまれた何か。

「……?」

「ほら、これ預かって」

 差し出されたそれは赤ん坊だった。安心しきったようにすやすやと眠っている。

 フィリアは反射的に受け取ってしまってから、混乱する。

「え? これは何、誰?」

「知らない。向こうの瓦礫の下で泣いてたから連れてきた」

「ええと……」

 騎士団は救助活動もしているし、フィリアは騎士団の一員としてここに来ている。という事は、この赤ん坊を預かる義務もあるという事だ。

(どうしよう……赤ちゃんの面倒の見方なんて解らないんだけど……連れて帰れば、誰か知ってるかなぁ?)

 フィリアが迷っている間に、少女はどこかへと走り去っていく。去り際に叫びながら。

「ちゃんと面倒見てあげてよね!」

「あ、ちょっと待って! あなたも救護所に!」

 追いかけようとしたが、少女はわき目も振らずに逃げていく。

 足元は瓦礫で歩きづらいし腕に赤ん坊を抱えていては、とても追いかけられない。

 あっという間に見失ってしまった。

「もう……」

 フィリアはため息をつくと、赤ん坊を抱きなおした。

 赤ん坊特有のミルクのような匂いに加えて、何か別の匂いもする。

(なんだろう、この匂い……。何か懐かしいような……)

 フィリアはその理由を深く考えず、騎士団のいるはずの方へと戻る。

 そして足が止まった。


「……あれ? 迷った、かな?」


今日はなぜかフィリアが主人公

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