対デペンドルクルス戦(後編)
祐一は巨大甲冑を操り、大通りを逃げていた。
岩ヒトデ達は後ろから走って追いかけてきたり、逃げる先に待ち伏せしていたり、とにかくあちらこちらにいる。
なんとなく、祐一の周りにばかり集まって来ているようだ。
現に、祐一の後ろには五匹もの岩ヒトデがいる。
(くそっ、こいつら俺を狙ってるのか?)
逃げ方が悪いのか、あるいは別の理由があるのか……何にしても、危険すぎる状況だ。
あの巨大な邪竜は、どこかに行ってしまったようで、辺りにそれらしき姿が見えないのが唯一の救いだった。あれに襲われていたら、一瞬で全滅してしまう。そうなっていないなら、まだ勝機は残っている。
(逃げきれそうにない。それならせめて、囮に徹するか……)
だが囮になって、その後どうする? 大量の岩ヒトデをひきつけて、そして?
囲まれて、抵抗もできないまま破壊される事になるだろう。
このまま逃げ続けても、事態が好転するとは思えない。いずれ待つのは敗北と死だけだ。
そして祐一の巨大甲冑が破壊された後、岩ヒトデ達はどうなるのか? また人を襲うに決まっている。
このまま逃げ続けても、問題の先送りにしかならない。
(反撃に転じないと……)
祐一は焦って辺りを見回す。
進む方向にY字路があった。右側に岩ヒトデがまた一匹。
反射的に左に進もうとして、心を決める。
(ダメだ。やるなら、速ければ速いほどいい)
右に進む。敵の真正面。
祐一は剣を鞘から引き抜きながら、その岩ヒトデを見つめる。
騎士団の面々は、数機で囲んでボコボコにしていた。
だが、ここに仲間はいないし、時間をかけていたら後ろから追ってくる集団に追いつかれてしまう。
(一撃だ。一撃で仕留める……せめて移動が困難な状態に……)
両腕で剣の柄を握りしめ、まっすぐに、カタマリのような胴体を睨みつける。
「たあああああっ!」
剣を突き出す!
例え名状しがたい形をしていたとしても、岩ヒトデは足と胴体のパーツで構成されている。
足を破壊すれば動けなくなるだろうし、胴体の中には心臓か何か……重要器官が収まっているはずだ。
岩ヒトデは判断に迷ったのか、避けるそぶりもみせない。
ズガガガガガガッ
祐一の剣先が、岩ヒトデの胴体に真ん中に突き刺さった。
剣の先端が下向きに滑って、何かに引っかかるような感覚。
「このっ……」
全体重を乗せて押し込む。ベギッ、と何かが破れたような手応えがあった。
岩ヒトデは全身を振るわせて、足を延ばす。衝撃で今度は祐一の巨大甲冑が吹き飛ばされる。
祐一は地面を一回転しながら起き上がらせようとして、慌ててもう一度転がった。
後ろから追いかけて来ていた岩ヒトデ達が、ドサドサと振ってくる。
「ぶはっ?」
コクピット内の謎の液体が攪拌されてデタラメに飛び散る。少なくない量が口と鼻の中に入ってきた。
それでも何とか起き上がる。
敵に追い越されたので、今までとは逆の方向へと走る。こちらの方が、まだリスクが少ないはずだ。
岩ヒトデ達は、ぞろぞろと追いかけてくる。いや、一匹が飛んだ。
祐一は、その軌道に意識を集中する。
「このっ!」
着地地点に向けて放った蹴りを放つ。
グキッ
見事に命中したその攻撃で、岩ヒトデは着地しそこなって転がる。足が一本、中途半端な所で逆向きに曲がっていた。
足をジタバタさせるそれは捨て置いて、残り四匹の岩ヒトデを見る。
そいつらは追跡をやめて、追いかけてくるでも撤退するでもない、中途半端な距離を保っていた。
このまま祐一が走っていけば、逃げ切れるかもしれない。
だが。
剣道の試合で勝つのに必要な物は、単純な戦闘力だけではない。読みあいの勝負もある。
実戦もきっと同じだ。
(きっとまた待ち伏せだ)
この状況で、敵はどう動くか?
このままでは各個撃破されてしまう。そう考えたに違いない。だから、一度退いた。
そして他の所にいた岩ヒトデが集まってから、大群で一気に攻めてくる。きっとそうだ。
(なら、その前に叩き潰す!)
祐一は、岩ヒトデの一体に向かって走る。突進攻撃。胴体の真ん中に、剣が突き刺さる。
ガリガリガリ
その岩ヒトデは脳を損傷したのか、ピクリとも動かずその場に転がった。これで三体目の戦果。
だが、祐一の巨大甲冑も、一瞬、歩みが止まった。
残り三匹の岩ヒトデが、駆け寄ってくる。
「どおおおおおぅ!」
祐一は叫びながら、剣を横に大降りした。
祐一の足元で地面がうねりをあげ、つむじ風が巻き上がる。剣先が岩ヒトデの足を叩く。
ゴキッ、と何かが折れるような手応えが伝わってきて、岩ヒトデの一体がカクリと横に倒れた。
残り二体。
岩ヒトデは、柱のように太い足を、振り回したり突き出したりしながら襲ってくる。
祐一は冷静にそれを一本ずつ捌く。
敵に五本の足があろうとも、一方向に向けられる足は一本、がんばっても二本。それが二匹いれば二倍になるように思えるが、実際には狭くて身動きが取れていない。
攻撃を一つずつ弾き飛ばしながら、少しずつ距離を開けていき、ある程度離れた所で、身を翻して逃げた。
岩ヒトデは足音を立てて追ってくるが、祐一は逃げる。道が直角に折れ曲がる。
小回りならこちらの方に分がある……などと思っていると、岩ヒトデは建物を掻き分けるようにして突っ込んできた。
草むらか何かじゃあるまいし。
「このっ!」
建物を割って飛び出してきた所を、剣の振り下ろしで地面に叩き付けた。胴体上部に見つけた半透明の出っ張りを踏み潰す。
『ブミキィィィィィィッ!』
岩ヒトデは物凄い悲鳴を上げてのた打ち回った。そこが弱点か。
動かなくなるまで何度も剣を振り下ろし、トドメを刺す。
(あと一匹は?)
最後の一匹の岩ヒトデは、祐一の巨大甲冑から微妙に距離を保った所で待機していた。
隙をうかがっているのか、逃げようとしているのか……
「来いよ、一対一の勝負だ!」
その言葉を理解したのかしないのか、岩ヒトデは身動きしない。
祐一は突進攻撃で決着をつける事にした。
剣を構えて走る。
が、岩ヒトデは、急に上に飛び上がった。
「なっ?」
当たると思い込んでいた祐一は、とっさに次の行動が思いつかず、その場を通り過ぎる。岩ヒトデに背を向ける格好。
何事もなく着地した岩ヒトデは、方向転換など必要ないといわんばかりに、そのまま祐一の方に突っ込んでくる。
「このっ!」
祐一はその場でターン、回転の勢いを乗せて、剣を横ぶりに振る。
岩ヒトデは、地面を擦りながら急ブレーキをかけて止まって、その攻撃を避けた。
そして振り戻そうとする剣を、足で押さえつけてくる。
(しまっ……)
祐一は焦る。刀術唯一の弱点、それは峰の側に攻撃力がない事。
今使っているのは両刃の剣なのだから、同じ振り方では意味がないのだ。なのについ癖で……
岩ヒトデはもう一本の足を振り上げ、巨大甲冑の胴を突いた。
「ぐおぉっ?」
祐一の腹部に衝撃が走る。そして浮遊感。気づいた時には、巨大甲冑は数メートルを飛んで地面に倒れていた。
そこに岩ヒトデがジャンプから飛び降りてくる。
祐一は転がってそれを避けて、なんとか立ち上がった。
岩ヒトデと、三十メートルほどの距離をとって向き合う。
『ブモォォォォッ!』
牛のような鳴き声を上げて、岩ヒトデが飛び掛ってくる。
「こてぇぇっ!」
祐一は、剣先を、胴体を狙うよりも、ワンテンポ早く振り下ろす。
篭手打ち。
岩ヒトデの足が下にずれるように動いた。バランスを崩して前側に傾いた。
一瞬、見えた岩ヒトデの上部。その弱点を左拳で殴る。
べきっ、と。
妙な液体が漏れ出し、岩ヒトデが痙攣を始めた。
動かなくなるまで剣を叩きつける。
これで五+一匹、全て無力化だ。
「なんとか、勝てた……か……」
まだ、敵がいなくなったわけではない。
ドラゴンは、あと十数匹は残っているはずだ。これからどう動くか。
南側に撤退するか。あえて逆向きに進んで岩ヒトデを殲滅するべきか……やろうと思えばいけない事もなさそうだ。
耳を澄ますと、何かガンガンと、物を叩いている音が聞こえる。誰かが戦っているようだ。
もしかして逃げ遅れた味方がいるのだろうか、そうだとすると、直ぐにも助けに行くべきだ。
そう思った祐一が音を頼りにそちらに行くと、そこには十体近い巨大甲冑がいた。
三つほどのグループに分かれて、岩ヒトデを囲んで殴り倒している所らしかった。
甲冑の中の一体が祐一の方を見る。
『その巨大甲冑、祐一か!』
「オーベル!」
後方で体勢を立て直して、戻ってきたようだ。
『……。何やってるんだ君は! 後退命令を無視して、勝手に敵の真ん中に突っ込んでいく奴があるか!』
怒られた。
よく考えてみれば、当然だった。
その後の騎士団の連携は見事な物で、一時間もしないうちに、岩ヒトデの殲滅は完了した。
主人公が剣道部だった設定、時々忘れそうになる……。




