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ドラゴンパペット01  作者: 凍結・滑夜
1-B 玄武行進
11/27

対デペンドルクルス戦(前編)

 いくつかの山に挟まれた盆地のような地形。

 そこに石壁で囲われた円形の町がある。

 今回、ドラゴンの村に襲われた町。アルドシティーだ。


 より正確には、アルドシティーだった場所。


 美しかったであろう町並みは、ドラゴンに踏み荒らされ、見る影もない。

 殆どの建物は破壊され、僅かに東の端の民家が、まだいくつか原型を留めているぐらい。

 羽トカゲの炎で火事になったのか、薄闇の中に、ちらちらと赤い光が見える。

「……手遅れですね」

「後手に回っているのは解っていた事だ。……せめて、これ以上他の町に被害が出る前に片付けよう」

「東側、生存者いますかね」

「セオリー通りなら、いると信じて行動するべきだ」

「どう攻めます?」

「基本的に、南東側から行くべきだろう。東側の町並みをできる限り守りつつ、デペンドルクルスを殲滅する。何人かを、北東側に回り込ませるのもアリだな」

「自分が北東行きましょうか?」

「頼む。人数はおまえも入れて……八人が限度だな。誰にする?」

「誰でもいいですよ……。あ、でも新型甲冑を連れて行くのはまずいですよね」

「ああ、あれは僕の管轄だからな」

 オーベルと部下が、小声で何か話している。作戦会議らしい


 そして、羽トカゲが去った後も、平然と居座っているデペンドルクルス種。

 岩の塊のような、灰色でゴツゴツした胴体、そこから生えた五本の足。

 岩ヒトデと評するしかないような、異様の化け物だった。

 しかも、かなり大きい。

 全高は、二階建ての建物よりはるかに大きい。巨大甲冑の身長と大差ないように見える。

 もしその目測が間違っていないなら、体積や重さは数倍あるに違いない。

 しばらく動きを観察していた結果わかった事だが、どうやら前や後ろといった向きはなくて、三百六十度、どの方向にも進めるらしい。

 もぞもぞと全身をくねらせていて、次の動きが予測しにくいのだ。

 気持ち悪い。

 岩ヒトデは三十体ほど残っているようだ。

 こちらは二十五体で出撃してきたものの、羽トカゲとの遭遇で不具合が出た巨大甲冑が数体ほどあり、補給車両の護衛もかねて、五体置いてきた。

 戦力は二十体。敵の方が数が多い。

 下手をすると、一対一以上の戦いを要求される事になる。

(数が勝ってるときでさえ、ドラゴンは俺の方に殺到してきた。って事は、また俺は囮役なんだろうなぁ……)

 祐一がそう思っていると、オーベルが言う。

『作戦が決まった』

 いよいよだ。

『五号機から十一号機までは、ハインケルと共に北東側に回り込んで待機。残りはここで僕と共に待機する。日の出の光が、町中央の広場を照らした時点で行動開始。両側から一気に攻め込む。町の東側に建物が残っている地区があるが、そこには生存者がいる可能性があるから、できるだけ破壊しないよう気をつける。以上だ、何か質問は?』

 誰も何も言わない。

『よし、ハインケルの班は移動を開始してくれ』

 八体の巨大甲冑が、ノシノシと山の中へ歩いていく。

 祐一はその後姿を見送ってから、オーベルに聞く。

「あ、ちょっと聞きたいんだけど。あの敵専用の対策とかはあるのか?」

『ああ、一応ある……そう言えば、その辺りについてはまだ教えていなかったか』

 オーベルは少し考えるような間を空けてから言う。

『まず、デペンドルクルスは防御力が高い。剣の重さで叩き割るように攻撃しなければ、皮膚を貫くことはできない』

「……」

『対峙する時は三機、余裕があれば四機で囲む。敵には五本の足があるからだ。一人が足二本を捌いて、手の開いた者が胴体を攻撃する』

「なるほど」

『連携がうまく行けば、十秒以内に致命傷を与える事ができる。逆に、むしろ同数以上の敵を同時に相手にしなければならなくなったら、一度撤退して、体勢を立て直せ』

「戦争は数……ってやつか」

 どこの世界も、考える事は同じだ。

『それと、見かけはでかいが、その体積の殆どは筋肉だ。やたら力が強いし、移動速度も速い。油断するな』

「移動速度が速いって、あの巨体で……?」

 ここから見ている分には、それほど動きが速いようにも見えないが。

 そんな事を話しているうちに、空が白んでくる。

 山越の日の光が、町にさしかかる。後、数分もしないうちに、作戦決行時刻になるだろう。

 祐一は何の気なしに、別働隊がいる方を見た。

 何台もの巨大甲冑が、朝日にきらめかせながら、斜面を滑り降りていく。

「あれ、向こうはもう動いてないか?」

 祐一が言うと、オーベルも慌ててその辺りを確認し、うむむ、と声を上げる。

『ハインケルめ、張り切りすぎだ。……こっちも行くぞ!』

 オーベルの指示に従って、周りの巨大甲冑が拳を振り上げる。


 巨大甲冑の進む先には崖。祐一達はアルドシティーへと向かって滑り降りる。

 さすがに無音とはいかない。

 岩ヒトデ達もこちらに気づいたのか、ピクピクと興奮したように跳ね回っている。

 崖を滑り降りた先は岩が転がる、草地。

 先頭を行くオーベルが軽やかに岩を飛び越えながら進み、その後を巨大甲冑達が続く。


 目指すは壁の一角に作られた大扉。

 避難民が逃げ出す時に開けられて、そのままになっている。開ける時に無理をしたのか、片側が斜めに壊れていた。

 巨大甲冑たちは町の内側に踏み込む。

 バラバラと、三、四人のグループに分かれて、あちこちの道へと散っていく。

 祐一はあくまでオーベルを見失わないよう心がけながら後を付いていく。


 走る大通りの先に、岩ヒトデの姿が見えた。

 岩ヒトデは体をぶよぶよ震えさせていたが、祐一達に気づいたのか、『ブモォォォォッ』と奇声を上げると、こちらに向かって走ってくる。

 物凄い足音を立てて、石畳が後ろに蹴飛ばされ、土が穿り返されて宙を舞う。

『怯むな、ただし初撃は避けろ!』

 オーベルの叫び声

 祐一達は道の左右に分かれ、岩ヒトデを避けた。

『ブモウヮッ?』

 岩ヒトデは突然の動きに対応できず、ずるりとその場でこけた。ゴロゴロと地面を転がり、

『チャンスだ、かかれ!』

 巨大甲冑たちが、一斉に剣を振り上げて突撃する。

 そこからは、ただの撲殺だった。

 ろくに身動きも取れない状態の岩ヒトデを、剣で攻撃し続ける。

 剣技などない。棍棒かなにかで殴るように、力任せに叩きつけるだけ。

『ブモィッ、イイイッ? ギィィィッ……』

 しばらくすると、岩ヒトデは奇声を上げて、ビクビクと震えながらその場に伸びた。

『トドメを……』

 オーベルが剣を逆手で掲げて近づき、胴体の中心に振り下ろす。

 グサッ、と刺さって、岩ヒトデの動きが完全にとまった。

「……なんて言うか、蛮族ちっくな倒し方だな」

 参加しそこなって外側にいた祐一が、呆れて言うと、オーベルはあっけらかんと答える。

『これ以外に方法がない。こちらも必死でね』

 巨大甲冑達は、ゾロゾロと動いて隊列を整える。同じようにして次の敵を探しに行くのだ。

 ふと気づけば、ドスドスと、遠くの方から音が聞こえてくる。

 岩ヒトデも、こちらに気づいて襲撃してくるのか。

『まずい、上から来るぞ!』

 オーベルが叫んだ。

 上? 何を言ってるんだ? と戸惑ったのは祐一だけだった。

 他の巨大甲冑は、隊列を放棄してすばやく散開する。

「え? え? 何が来るの?」

『バカ、前に向かって走れ!』

 誰かが叫ぶ。

 わけが解らない。だが、声音に緊急性を感じた祐一はとりあえず指示に従う。

 直後、数秒前まで祐一が立っていた場所に、キュルキュルと風を切って、岩ヒトデが降ってきた。

 上から。

「え?」

 いや、降ってきた以上、上からなのは当然だが。

 跳ね上がる土と石ころを見つめていても、しばしの間、現実を飲み込めなかった。動きが速いとか、見かけに騙されるなとか、さんざん言われたが、まさか飛ぶとは。

 さらに、道の脇に立っていた建物が、向こうからやってきた何かに吹き飛ばされる。

 突っ込んできたのはもちろん岩ヒトデだ。

 それだけでは終わらない。

 これでもかと言うように、あちこちからキュルキュルと音を立てて、岩ヒトデが振ってくる。

「まさか、さっきの一匹は囮だったのか?」

『バカな。デペンドルクルス種にそんな知能があるはずがない』

 それなら、誰かに操られているとでも言うのか。

 誰にそんな事ができる? とても人間技ではない。

『くっ、全員散開して、町の南側を目指せ!』

 オーベルの指示。事実上の撤退宣言だ。

 仕方あるまい、五匹もの岩ヒトデを前にしては。単純に突っ込むだけでは勝ち目がない。


 祐一は混乱する。

(っていうか、南ってどっちだよ!)

 GPSを持たない時代の人間と同レベルの方向感覚を期待されても困る。

 太陽の方向で、大まかに判別すればいいのだろうか?

 祐一は焦って空を見回していて、偶然『それ』が目に入った。

「……え?」

 最初はまた羽トカゲか何かだと思った。

 長い首と巨大な羽。口から熱気を吐いている。

 遠目にはそう見えるのに、何かが違った。


「あれは……羽トカゲ、じゃない?」

 大きさは、普通の羽トカゲより二割ほど大きい。

 しかし、羽トカゲが百匹集まっても出せないであろう、重苦しい威圧感。

 ただの敵ではない。

 巨大甲冑が百機集まっても、勝ち目がなさそうに思える絶望。

(なんだあれ、……まさか、あれが邪竜なのか?)

 祐一のあてずっぽうは、偶然にも真実を突いていた。

 そのドラゴンこそ、邪竜《アブストラード》。

 最強の邪竜とよばれるそれが、数年ぶりに人の前に姿を見せた瞬間だった。


アブストラードさんはラスボスなので今回は顔見せだけです(え?)

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