↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたので、愛されるだけの令嬢をやめました。  作者: ももにく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/10

第七章 王家の罪



「……王家が、母を?」


記録を握るリリアーナの手が震えた。


目の前には、王家の紋章が刻まれた古い書類。


そこには確かに記されていた。


――聖女の力を王家へ移す計画。


「お嬢様……」


カイルが心配そうに声をかける。


「大丈夫よ」


リリアーナは答えた。


けれど。


胸の奥は、ひどく冷えていた。


父に裏切られた。


家族に利用された。


そして今度は――


王家までもが、自分を利用していた。


「殿下は知っていたのかしら」


誰も答えなかった。


⸻


「僕は知らない」


王宮。


アレクシスは、父である国王と向き合っていた。


「嘘をつくな」


リリアーナの声が響く。


アレクシスが振り返る。


そこには彼女がいた。


「リリアーナ……」


「この書類は何ですか?」


彼女は紙を机の上に置いた。


国王の顔が強張る。


「……古い記録だ」


「私の母の名前があります」


「……」


「そして、私の名前も」


リリアーナの声は静かだった。


「説明してください」


国王はしばらく黙っていた。


やがて。


「……先代の王の時代に行われた計画だ」


「では、今の王家は関係ないと?」


「そういう意味では――」


「ではなぜ」


リリアーナは国王を見つめる。


「その計画を記録した魔術具が、今も王宮に保管されているのですか?」


国王の表情が変わった。


ノアが一歩前に出る。


「調べました」


彼が冷たく言う。


「魔術具は王宮の地下にありました」


「……」


「そして、管理責任者の署名は現国王陛下のものです」


静寂。


アレクシスが父を見る。


「父上……?」


国王は目を閉じた。


「……知っていた」


アレクシスの顔から血の気が引く。


「では、リリアーナの力を奪う計画を?」


「違う」


国王は首を振った。


「お前が生まれた時には、すでに計画は停止していた」


「ではなぜ?」


「聖女の力を巡る争いは、王家にとって危険だった」


国王は苦しそうに言った。


「お前の母親……リリアーナの母君は、計画を知ってしまった。そして公爵家から逃げようとした」


リリアーナの目が揺れる。


「だから……殺したのですか?」


「違う!」


国王が初めて声を荒らげた。


「私は殺していない!」


「では誰が?」


「……」


国王は答えない。


その沈黙を破ったのは、ノアだった。


「僕なら分かります」


彼は記録を指差した。


「この魔術式を実際に使った人物がいる」


「誰だ?」


アレクシスが尋ねる。


ノアは記録の最後を指した。


「当時の王宮魔術師長」


そして。


「その男は現在――」


ノアが顔を上げる。


「宮廷魔術師団の名誉顧問です」


リリアーナの目が細くなる。


「まだ生きているの?」


「はい」


⸻


その日の夜。


リリアーナは一人、庭園にいた。


「……お母様」


月を見上げる。


母の顔は、もうほとんど覚えていない。


けれど。


自分を愛してくれていたことだけは覚えている。


「ごめんなさい」


小さく呟く。


「もっと早く、気づいてあげられなくて」


「君のせいじゃない」


後ろから声がした。


アレクシスだった。


「……殿下」


「僕も知らなかった」


「はい」


「でも、知らなかったでは済まない」


リリアーナは振り返らない。


「王家が君の家族を利用した」


「……」


「そして僕は、その王家の人間だ」


「そうですね」


アレクシスは苦しそうに笑う。


「だから、僕は王太子の立場を捨ててもいい」


リリアーナが振り返った。


「何を?」


「君が王家を許せないなら、僕も王太子でいる必要はない」


「殿下……」


「君を守るためなら、王位継承権だって捨てる」


「どうしてそこまで……」


「君が好きだから」


アレクシスは迷わなかった。


「王太子だから君を愛しているんじゃない」


一歩近づく。


「王太子じゃなくなっても、僕は君を愛している」


リリアーナは黙って彼を見た。


昔の自分なら。


きっと泣いていた。


そして彼の胸に飛び込んでいた。


でも。


今の自分は違う。


「殿下」


「うん」


「もし本当に私を愛しているなら」


アレクシスが息を呑む。


「私があなたを選ばなくても、受け入れてください」


「……」


「私には、あなた以外にも大切な人がいます」


その言葉に。


アレクシスは一瞬だけ目を伏せた。


けれど。


「分かっている」


そして笑う。


「それでも、僕は諦めない」


⸻


翌日。


宮廷魔術師団の名誉顧問が王宮へ召喚された。


老人は、リリアーナを見るなり笑った。


「……やはり、あなたは母親によく似ている」


リリアーナの目が鋭くなる。


「母を知っているのですね」


「もちろん」


老人は杖をつきながら近づく。


「彼女は最後まで、あなたを守ろうとした」


「……何をしたの?」


老人は答えなかった。


ただ。


「あなたの力を奪ったのは、私ではない」


「では誰が?」


老人が国王を見る。


そして。


アレクシスを見る。


「王家が恐れたものは、聖女の力そのものではない」


「……?」


老人は静かに告げた。


「聖女が成長したとき、王家を超える存在になることを恐れたのです」


リリアーナは息を呑む。


「つまり――」


「あなたの母君は、知っていた」


老人の目がリリアーナを捉える。


「聖女の力には、もう一つの力があることを」


「もう一つ……?」


老人は微笑んだ。


「聖女の力を完全に覚醒させた者は――」


そして。


「王家の血を持つ者すら、従わせることができる」


大広間が静まり返った。


リリアーナは自分の手を見る。


自分の中に眠っている力。


それは。


ただ人を癒すだけの力ではなかった。


そして同時に。


アレクシスの胸元にある王家の紋章が、突然――


眩い光を放った。


「……っ!」


アレクシスが胸を押さえる。


リリアーナの聖女の力に呼応するように。


王家の紋章が輝いている。


老人が呟いた。


「やはり……」


「何が?」


老人は恐ろしいほど静かな声で答えた。


「二人は――」


「生まれた時から、互いを選ぶように定められていたのです」


リリアーナは息を呑んだ。


アレクシスもまた、彼女を見つめていた。


しかし。


リリアーナの胸に浮かんだのは、愛ではなかった。


怒りだった。


「……それなら」


彼女はゆっくり顔を上げる。


「私は、その運命すら壊してみせます」


誰かに決められた人生なんて。


もういらない。


私は、私の意思で生きる。


その言葉を聞いたアレクシスは――


初めて。


「王太子として彼女を手に入れる」のではなく、


一人の男として、彼女自身に選ばれなければならない


のだと理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。