007 境界の街 ノシールへようこそ
「ようこそ、新しい友よ。ここが――ノシールだ」
深い森の境界を抜けた瞬間、ガウルンはまるで劇場の演説者のような大仰な仕草で、眼下を指し示した。
「……あぁ」
悠馬の口から、今度は困惑ではない、純粋な感嘆の吐息が漏れた。
視界の先。
すり鉢状の地形に沿って広がるのは、ファンタジーのロマンをそのまま形にしたような美しい街並みだった。
木々の緑を切り裂くのではなく、大自然の懐に抱かれるようにして都市が存在している。
生い茂る巨木の隙間から覗く色とりどりの家々の屋根は、まるで森の中に咲いた色鮮やかな花畑のようだった。
「綺麗な街だね」
「ふん。見慣れりゃ、なんともなくなるさ」
「――じゃあ、遠くへ行って、久しぶりに再会したら?」
悠馬の問いかけに、ガウルンは一瞬だけ歩みを緩め、ニカッと牙を覗かせた。
「そんときは……まぁ、懐かしさに心がじわりと染みるだろうな」
その答えに、悠馬は笑みをこぼした。
この男は話がわかる。
悠馬は心の中で、ガウルンという友人への評価をさらに一段引き上げた。
その野性味あふれる外見からは想像もつかないほど、ガウルンは理知的で、そして何より話し上手だった。
こちらが小癪な理屈を言っても、打てば響くように本質を噛み砕いて自分のものにする。
それでいて、小難しい専門用語ではなく、ちゃんと自分で理解できる言葉に翻訳して返してくるのが抜群に上手いのだ。
だからだろうか。
見下ろす場所から街の入り口までの道のりの時間が。
この見知らぬ世界を歩く時間の経過が。
彼と語らう時間が、悠馬にとっては全く苦痛ではなかった。
「おい、見えてきたぞ。あれが街の入り口だ」
むしろ、疑問を全てぶつける時間が足りず、目的地についてしまったことが多少残念でもあった。
ガウルンが大きな指で示した先には、重厚な石造りの大門がそびえ立っていた。
先ほどまでは遥か遠くに見えていたはずのその門が、もう目の前にある。
なんというか、心地よい言葉のラリーに耳を傾けていれば、退屈で辛い徒歩の旅など、本当にあっという間の出来事だった。
「さあ、街に入ったらまずはギルドに行ってあんたの『身元』の手続きだ。
……安心しろ、俺がついててやるよ」
頼もしい相棒の背中を追いながら、悠馬は眼鏡の位置を直し、いよいよ【ノシール】の街の入り口に一歩を踏み出すのだった。




