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019 こころみメンタルケア、店長のユーマです

「……よし、いいな」


 整えたテーブルセットよし。


 事前に何度か試食会を行い、好評だった軽食メニューの準備よし。


 レナリーさんの調合したブレンド薬草茶の準備よし。


「よお、ユーマ。仲間に噂流しといたぜ。

気軽に食っちゃ寝できるおもしれえ店ができたってよ」


 広報、若干の不安あり。


「おめえ、今失礼なこと考えただろ?」


「凄いな。読心術か?」


「顔に出やすいんだよ。」


 ガウルンが、ぺちっとユーマにデコピンをおみまいする。

せっかく手伝ってやってるのにとぶつぶつ呟きながらも、重い荷物をてきぱきと移動させてくれていた。


悠馬自身も最近、ガウルンに対して容赦なくツッコミを入れるようになったが、それは信頼の裏返しだ。

彼自身それを理解しているから、いちいち怒らない。


「しかしまあ、外面は完全に喫茶店だな。

オープンテラスにもソファがあることを除けば、だけどよ。

あと、ありゃなんだ?罠か?」


 そう言って端の木と木の間に結わえているロープで袋のようになった白い布を指さした。


「あれはハンモック。

ああやって木と木の間に吊るして、その上に寝っ転がれるようにしてあるんだ」


「へー?なんだか揺れて落ち着かねえ気がするけど」


「一遍、試してみるか?」


「お、いいのか?へへ、そこまでいうなら試してみるわ」


 口では疑っているが、見た目が楽しそうなためか、ガウルンは二つ返事で了承した。


「あ、気をつけて乗れよ。乗り方が難しいんだ。いきなり寝っ転がるなよ?」


「ああ?……あー、なるほど。こいつはバランス悪ぃや」


 ガウルンは軽く手に体重をのせてその理由に納得する。


「一回、跨いでから体重を預けるんだ。勢いよくやるなよ」


「はいよ。……うお、浮いてる」


 ハンモックを跨いで、恐る恐る体重を預けたガウルンは、最初こそ不安定な様子だったが――


「あ、こりゃいいわ。

微妙な揺れが気持ちいい。

しかも、地面につかないからケツが汚れないのがいい」


 瞬く間にハンモックの魅力に取りつかれたようだ。


そうなのだ。

見た目は楽しそうなハンモックなのだが、実は寝心地も決して悪いものじゃない。


風と揺れが心地よい浮遊感を生み、身体全体を柔らかい布が包み込む。

さらに、負荷が分散されるため、ベッドとは違うリラックスが得られる。


「こういうものはこの辺りにないのか?」


「俺は初めてみるなぁ。

……あー、これ野営とかにも便利そうだと思ったが、弱点あるな」


「そうなのか?僕の国じゃキャンプとかにも使う寝具のひとつなんだけど」


「気持ちよくて起きたくねえ」


「……そうか」


 悠馬が呆れるが、ガウルンはその起きたくないという気持ちがどれだけ危険なのかを熱く語った。

まあ、確かに外に魔物とかあからさまな敵がいる世界と、比較的安全の確保されている日本のキャンプじゃ、即行動できないハンモックの意味合いは違うだろう。


ただ、理解はできるが、理由がだらしなくて締まらないとは言わないでおいた。


「それにしてもユーマ」


「なんだ?」


「にあってんな、その耳と尻尾。——ぷっ」


 あからさまな揶揄(からか)いに、無言で悠馬はガウルンの脇腹を蹴りつけ、ハンモックから叩き落した。


「——ってぇな!何しやがる!」


「へえ、流石ガウルン。怪我ひとつない」


「お前本当に性格出てきたな。悪い方向でよ」


 呆れたような声で非難するものの、また次第にガウルンの表情がニヤついてくる。


「ま、頑張れよ。ユーマ=シーレンス先生?」


 そう言ってぽんぽんと頭とつけ耳を撫でるガウルンの手を嫌そうに払いのけながら悠馬は憮然とする。

いやがってはいるものの、この変装そのものは悠馬自身の提案だった。


『僕がマヨイビトってことは大っぴらにしないほうがいいと思う』


 悠馬はそうギルド長に相談したところ、ギルド長も強く同意した。


マヨイビトは世界にとって劇薬だ。

その存在は富も混沌も等しく生み出せる。


ならば、余計な摩擦を避けるために、外向けには変装でただの獣人として溶け込む方がいい。


事情を知っている人にも効果はある。


外から来た人間がコミュニティに溶け込む気があると示すには、同じになるようこちらが寄せるのが礼儀というものだ。

だからこそ、用意されたつけ耳と尻尾を取り付けるのは構わない。

望むところだった。


——選ばれた動物の選択基準に疑問が残るという不満以外は。


「なんでタヌキなんだ?」


「とぼけた様子だし無警戒に一人で行動したりするからだろ」


 お前が1人で行動させたんだろうがと抗議したものの、ガウルンはどこ吹く風だ。


「ま、いいじゃねえか。似合ってるぜ、相棒」


「似合ってるがこれほど褒め言葉にならないことはないぞ」


 ため息をつくものの、これで全ての準備ができたことに一つ安堵する。


「さ、【こころみメンタルケア】の開店だ。まずはみんなの信頼を稼ぎに行くか」


 こうして、静海悠馬(しずみゆうま)もとい、ユーマ=シーレンス。


人呼んで【眠りの癒し手ユーマ先生】のお店がオープンした。

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