↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/25

016 無茶苦茶できてしまう奴のためのセーフティ

「仕入れ、ねぇ……」


 数日後。


カフェのオープンに向けて必要な物資をリストアップし、ガウルンに相談を持ちかけたところ、自称アウトローの狼男は露骨に渋い顔をして大きな頭を掻いた。


「悪りぃな兄ちゃん。

俺は森で魔獣を狩るのが専門だ。

他所の商会との細かい取引だの、家具の仕入れだのって話になると、流石に専門外で力になれねえわ」


(まぁ、そりゃそうだよね……)


 悠馬はあっさりと納得した。

いくら頼れる男とはいえ、彼はこの街の商人ではない。


「じゃあどうしようかな。自分で街の商会を軒並みぶらついて交渉するしかないか」


 悠馬が腕を組んで悩んでいると、ガウルンはフンスと偉そうに鼻を鳴らし、ドヤ顔で講釈を垂れ始めた。


「おいおい、忘れたのか?困った時は『ヤクショ』へ行けって。

ギルドを頼るんだよ、ギルドを」


(……結局、人任せじゃないか)


 心の中でそう思いつつも、確かにそれが一番手っ取り早いのも事実だ。


 悠馬はガウルンと別れ、再び1人で街のギルド(市役所)へと足を運んだ。


「いらっしゃ――ちょっと、あんた。保護者はどうしたのよ?」


 ギルドのロビーに無防備に現れた悠馬を見つけるなり、受付のハスキー犬タイプのお姉さんが呆れたように声をかけてきた。

というか、警備員じゃなかったんだなと悠馬は思った。


「ガウルンなら、生活の相談は自分の専門外だからギルドを頼れって。

今日はついてきてないよ」


「あんにゃろう……。

マヨイビトを1人でうろつかせるなって言ったでしょうに」


 お姉さんは盛大に溜息をつき、テーブルの上の書類をトントンと整えた。


「で、今日は何のご用?まさかもう揉め事じゃないでしょうね」


「いや。家をあてがってもらったから、本格的に店を開きたいんだ。

そのための物資や食材の仕入れルートを紹介してほしくてね」


「あぁ、そういうことなら『新規開業の融資相談窓口』ね。

あっちの一番奥のカウンターへ行きなさい」


 異世界らしからぬワードがとびだし、悠馬は目をしばたたかせた。


「え?ここ、そんな手厚い融資制度まであるのかい?」


 悠馬が驚きの声をあげると、ハスキーのお姉さんは苦笑混じりに肩をすくめた。


「そりゃそうよ。マヨイビトってやつは、上手く使えば街に莫大な富と技術をもたらしてくれるからね。

国としてもギルドとしても、手厚く囲い込みたいのよ」


「つまり、マヨイビトに対してのみそんなに特別扱いを?」


「まぁね。よその土地から来た獣人なら、最悪、その辺の依頼を腕っぷしでこなして日銭を稼げるでしょ?

でも、マヨイビトに自助努力なんて言って放置すると、生活に困って自分の持つ『やばい力』を使って街を滅ぼしかねない無茶苦茶を始めるからさ。

……だったら、最初に生活費をポイと渡して恩を売って、街に貢献してもらった方がよっぽど安上がりで安全じゃない?」


(あー、なるほどな……。

野生の不発弾みたいな存在を野放しにするくらいなら、手厚い福祉(セーフティ)で管理下に置いた方が合理的というわけか。

非常にリアリスティックな生存戦略だ)


 悠馬はその高度な行政のロジックに深く納得し、ハスキー姉さんにお礼を言って別れた。

そして、そのまま指定された一番奥の窓口へと向かった。


そこは人気(ひとけ)がなく、明らかに普段使っていないのが丸わかりだった。

マヨイビト専用の窓口なんて、実質悠馬のために用意された窓口のようなものなんだろう。


「あーい、マヨイビトさんいらっしゃーい。御用はなにかねー?」


 そこに座っていたのは、見るからにのんびりとした、カピバラっぽい雰囲気の垂れ目のお姉さんだった。

悠馬は手早く開業のための資金や商人との連絡について尋ねた。


「最初の1ヶ月は『生活保護』の扱いだから、返済義務のない融資が出るよー。

その後は、お兄さんの商売の生計規模に合わせて、超低金利の融資が受けられるからねー」


「至れり尽くせりだね。

なんか、僕たちマヨイビトにとって都合が良すぎる仕組みに出来ていて、逆に怖いよ」


「まぁ、マヨイビトさんがちゃんとこの街で働いてくれたら、後から得られる税収と利益は半端ないしねー。

最終的にギルドとしては大黒字になるだろうから、気にしなくていいよー」


 カピバラお姉さんは、軽い調子でペンを回しながらニコニコと笑う。


「んで、お兄さんは何が欲しいのー?」


 悠馬は白衣のポケットから、あらかじめ用意しておいたメモを取り出し、淡々と読み上げた。


「この世界の医学書と薬草の専門書。

それから、カフェで出すための基本的な食材と食器。

……あとは、『丈夫な紐』と『大量の綿』、それから『清潔な布』を」


「ふーん……? 後半のそれ、何に使うのー?」


 お姉さんが不思議そうに首を傾げる。


 悠馬は眼鏡をクイと指で押し上げ、ニヤリと不敵に微笑んだ。


 「――『こころみメンタルケア』。

お洒落な【昼寝のできる喫茶店】型のクリニックを開くための、一番重要な医療器具を作りたいんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。