012 信じてたあいつは自称アウトロー
「お前、なんで中に入っただけでそんな揉め事になってんだよ?」
用事を済ませて合流したガウルンは、心底不思議そうに首を傾げた。
(――知らないよ)
悠馬は無表情で、心の中でだけ突っ込んだ。
なんなら、ガウルンのせいだとも思っていたが、それをいうとマーウさんの乙女心に再起不能の傷を与えてしまう。
悠馬は大人だった。
「オメーのせいだよ、ど阿呆。
普段のあんたの行いが悪すぎるから、マーウが
『ガウルンが怪しい術で操られてる!』
って勘違いしたんだよ」
しかし、悠馬の心遣い虚しく、別の大人がばらしてしまった。
ハスキー犬タイプらしき警備員の綺麗なお姉さんが、ガウルンの頭を書類の束で容赦なくはたく。
俺が何かしたのかよと不快そうにするものの、マーウの名を聞くと、ガウルンも舌打ちするだけだった。
「ガウルン……お前、普段この街でどれだけ周囲に迷惑をかけて生きてるの……?」
「はあ?兄ちゃん分かってねえな。
アウトローってのは、たまに良いことをするからギャップで格好良く見えるもんだろ?」
親指を立ててドヤ顔を決めるクソ狼を見つめながら、悠馬はそっと天を仰いだ。
(……失敗した。
最初に出会った時、野生的な見た目に反して随分と理知的で話し上手な男だと思って完璧に信頼しちまったが、ただの『自称アウトロー気取りのバカ』だったとは。
完璧に見誤ったな……)
医師としての大誤診に、悠馬が内心で深く反省していると、部屋の奥から威厳たっぷりの渋い声が響いた。
「……で。
そのアウトロー気取りのバカ野郎が、ご機嫌に身元を引き受けるくらい、あんたを気に入ったってわけか」
机の向こうで、鋭い眼光を放つ鷹の獣人の「ギルド長」が、値踏みするように悠馬の白衣を観察している。
現在、悠馬はギルドの別室にて『査定』の最中だった。
「そういうことだ、ギルド長」
ガウルンが答える。
短い答えだが、そこに信頼が含まれているの感じる。
確かに気に入ってくれてるのだということに対し、悠馬は少しくすぐったい気持ちになる。
「マヨイビトとしての能力は?」
「イタチの群れを、指先一つでまとめて全滅させるくらいだな」
(おい、自然に盛るな。指先一つで解決したわけじゃないぞ)
と悠馬は心の中で訂正する。
「……で、本人によるその力の評価は?」
その質問にはほれ、と目配せだけでガウルンが話を悠馬に振る。
悠馬はいつものように、眼鏡の位置を直しながら淡々と答える。
「身に余る。危なすぎる力だと思っているよ」
その回答を聞いた瞬間、鷹のギルド長は「にいっ」と嘴――もとい、口端を不敵に持ち上げて、満足そうに喉を鳴らした。
「オーケイ。兄ちゃん、その認識があるなら、その認識のままで街にいてくれ。
大歓迎だ」
そう言いながら書類に何かを書き足し、処理済みの箱に手早く詰めていく。
「……相変わらずギルド長の判断は軽いのよねぇ」
ハスキーのお姉さんが呆れたように溜息をついて、心配そうな顔で悠馬を見る。
だが、ギルド長は首を振った。
「軽かないさ。態度は言葉より雄弁にそいつを語り表す。
この兄ちゃんは、自分の力に対して危険という意識があるが、それ以上に客観的なんだ。
本当に危ないマヨイビトってのは、力に溺れて自分の領分を見失う。
だが、本当に賢い奴はな、ちゃんと自分の力を恐怖して『臆病』でいられるんだよ。
そういう意味で、この兄ちゃんの分析は軽くない。
自分の才能を、自分の理性で制御できる領分に収める弁えを持ってる。
……なにより、マーウ。あいつの変化を見ただろ?」
「あぁ……すっかり穏やかになっちゃってまぁ。
ガウルン、後でちゃんと声かけてやんなさいよ?」
「めんどくせぇ」
「お前ホント最低だな」
なんでだよって顔をしているガウルンに、悠馬は女の敵と心のカルテに書き足しておいた。




