011 オヤクソクはオヤクソクで解決しよう
「……職員さん、すみません。安全なレベルで、私の力を使います」
悠馬はちょっとガウルンへ八つ当たりしたくなった。
このお嬢さんじゃなきゃ。
ガウルンが保証人でなければ。
もうちょっと話が早く終わったと思うと、少しくらい迷惑かけてもいいじゃないかと思った。
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!?
ごめんなさい、やめて!殺さないであげてぇ!」
抑え込んでいた警備員のお姉さんが、血相を変えて叫んだ。
(ねえ、なんでそんなに物騒なの?しないよ、そんな短絡的なこと)
悠馬は心の中で全力のツッコミを入れつつ、静かに息を整えた。
「落ち着かせるだけです。完全に安全です。
ガウルンさんにも、この力が『危険すぎないレベルなら、無法に対して行使していい』と許可をされてますから」
「ガウルン!やはり操られて……!」
「ガウルン!あのバカ、マヨイビトに何教えてんのよ!」
散々な言われようだな、ガウルン。
でもまあ、あいつの言う通り示す時は示そう。
やるべきことをして、自身の安全性を言葉ではなく結果で証明すべきだ。
悠馬はそう自分に言い聞かせる。
目の前の患者は女性。
状況を見失うほどのヒステリックな急性過緊張状態。
ならば、脳内のアドレナリンとノルアドレナリンを一時的に抑制し、交感神経の暴走をなだめるイメージ。
目標はイタチにしたような眠らせるよりももっと安全な処方。
意識を奪うんじゃない。
彼女の尊厳を守るためにも、意識を保ったままリラックスさせる方法。
「――落ち着いてください」
悠馬はそっと、患者の強張った心に寄り添うようなイメージで、その力を処方した。
「――あっ、れ――?」
瞬間。すとん、と。
受付嬢マーウさんの全身からトゲトゲとした殺気が綺麗に霧散し、彼女はその場にへなへなと力なく座り込んだ。
その顔からは先ほどの狂気的な怒りが消え去り、まるでお日様の下で日向ぼっこでもしているかのような、とろんとした穏やかな表情に変わっている。
「え……?あ……?」
急激に脱力し、さっきまでの怒りがどこかへ消え去り、静まり返ったマーウ。
そして、ふうと一息いれる悠馬。
それぞれを、警備員のお姉さんが交互に何度も見つめた。
彼女もまた、よく見ればピンと立った耳を持つ犬タイプの獣人だ。
狼っぽいが、どこかりりしく整って、一目で綺麗なタイプと分かる警備員のお姉さん。
彼女は、引き攣った笑みを浮かべ、震える声で呟いた。
「――これ、噂通りの……『やばそうな能力持ち』ってこと、かぁ……」
「……もう少し優しく包んだ表現にして欲しいなぁ。自覚はあるんだから」
本日何度目かのやばい力もち判定された悠馬は、手元の書類をトントンと整えて片付け直す。
そして、異世界での最初の『精神医療』の成功に、ほっと小さくため息をつくのだった。




