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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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番外編・謎の少年1【イライアス】

ep.18 『葛藤』のあとの話です。

 王太子殿下に指摘されたあの日から、ひどく悩み続けた。それはもう、食事が手につかないほど……ではないが、とにかく悩んだ。


 倫理的な問題についての悩みはもちろん、一番の悩みは自身の気持ちについてだった。

 “遠からず王女殿下を想っている”といっても、想いの種類はたくさんある。本当に恋愛的な意味合いなのか、親愛なのか。

 寝ても覚めても悩み続け、結論が出ないまま月日が過ぎていった。


 そうして悶々としていたある日、第二王子殿下が倒れたとの一報が入った。


 私も捜査に加わるよう言われ、以降は目まぐるしい日が続いた。王女殿下のことを考える暇もないくらいの忙しさだ。

 それも影響して、私の辺境行きの日程は大幅にずれ込むことになった。この件が片づかないうちはまず無理だろう。

 早く王女殿下の護衛になりたくて焦る気持ちと、まだ殿下を見守っていられる嬉しい気持ちが半々だった。



 しかし、嬉しい気持ちは最初だけで、次第に焦りが増していった。捜査が進まなくなったからだ。

 それでも、少しずつ赴任の準備を進めていく。


 そんな毎日を送る中、たまたま通りかかった部屋の前から人の声が聞こえてきた。

 ここは、犯罪の証拠品を保管する部屋だ。軍本部の三階にあり、人気はあまりない。きっと、誰かが上に命じられて入ったのだろう。

 そう思っていたが、ふと中から聞こえる声が高いことに気づいた。


 不思議に思って扉に耳を寄せる。聞こえてきたのは子供のような声。くぐもっていてはっきりとしないものの、兵士たちの中に該当する声の者はいないはずだ。


 どこか引っかかりを覚えて、扉の取っ手にそっと手を添える。

 音がしないように気をつけて、ゆっくりと取っ手を回すと、すんなりと回った。


 そのまま、扉を少し押す。先ほどよりも声が鮮明に聞こえ、その声で侵入者だと気づいた。

 すぐさま扉を開けて中に入る。


「誰かいるのか?」


 声をかけてみるが、人の姿はない。なぜか気配すらも感じられなかった。


 不思議に思いつつ、部屋の中を検める。人が隠れられる棚と棚の間は、特に念入りに。

 そうして最後の棚にさしかかった時、突然何かが飛んできた。


「なっ!?」


 対処しようと慌てて身構える。

 だが、様子がおかしい。向かってくる物の位置を把握するに、どう考えても私を狙うような軌道ではないのだ。

 その読めない攻撃のせいで、反応が一瞬遅れた。


 急に人が現れて、私の脇をすり抜けていく。

 あ、と思って振り返ると、真っ黒で小柄な人物が窓辺に駆け寄っていた。私も急いであとを追う。


 侵入者は勢いよくカーテンを開けて窓を開ける。その隙に剣を取り出して、侵入者の喉元に刃を添えた。


「っ!?」


 侵入者が降参を示すように、両手を自身の顔の脇まで上げた。私にとっては、胸元ほどの高さだ。小さいとは思っていたが、これはまるで……。


「子供? ……だとしても容赦しない。顔を見せろ」


 たとえ子供でも、保管庫に侵入できるだけの腕があるのだ。油断はできない。子供の一挙手一投足に注意しながら指示を出す。

 すると、警戒心のない動きで子供がこちらを向いた。


 子供は一風変わった仮面をつけており顔が見えない。しかも、ゆったりとしたローブにフードを被っているせいで、姿形も定かではない。

 思わず眉間に皺が寄る。


「豚の仮面? ふざけているのか?」


 子供がつけている仮面は、抽象的で可愛い豚がモチーフだ。この仮面なら少女でも喜んでつけるだろう。

 とはいえ、身のこなしや口調を考えると、この子は少年の可能性が大きい。


「ふざけている? 全然」


 相変わらずくぐもった声で少年が断片的に答える。言葉に抑揚はなく、さながら精巧な人形のようだ。

 けれど少年は間違いなく人間で、そのうえ大人顔負けの動きを見せている。私との会話も冷静であり、剣を向けられても動じる様子がない。きっと、幼い頃から並々ならぬ訓練を受けたのではないだろうか。もしくは天才肌か。


「……どうやってここに入ってきた」

「普通に正面から」


 嘘をつくな。正面から入ったら誰かに見咎められるはずだ。そう言いたいが、相手のペースに呑まれるのは得策とは言い難い。

 少年の嘘を暴くように、一つ一つ矛盾点を挙げる。


「この部屋には鍵がかかっていたはずだ。そもそも、正面から入ったら衛士に止められるはずだが?」

「……」


 とたんに少年が黙る。そのまま自供してくれたら追及が楽だが、少年に口を割る素振りは見られない。

 待っていてもたぶん何も言わないだろう。ならば、と別の角度から切り込む。


「なら話を変える。誰に頼まれてきた。依頼人がいるはずだ」

「依頼人はいない」


 またも淡々と少年が言う。

 これも嘘だと思ったが、たいていの者は言いたくない場合『知らない』と言ってくる。しかし、少年の答えは違った。どういうことか。


「いない? ならなぜここにいる? お前は誰だ?」


 保管庫に来た目的が必ずあるはずだ。誰かに指示されていないのなら、少年の意思で来たことになる。

 彼は、誰だ? 訊いたところでどうせ答えてくれないだろうと思いつつ、尋ねる。

 すると、少し間を置いて少年が声を発した。


「エーレ」


 期待していなかった答えが、わりとすんなり返ってきた。エーレと名乗っても問題がないようなので、十中八九偽名だろう。

 だが、いくら偽名でもその名はどうなのか。


「エーレ? 女性の名……いや、男性でもなくはない、か?」


 エーレという名は女性に多い。知っていて名乗っているのだとしたら、この子は少年ではなくて少女ということになるが……。

 いずれにしても仮面が邪魔だな。


「では、エーレ。その仮面を取ってもらおうか」


 そう言ったとたん、エーレが身じろぎをした。本人でさえ自覚していないような、ごくわずかな動きだ。だが、動揺しているとわかれば十分だ。

 まったく動く気配がなくなったエーレに、さらなる追い打ちをかける。


「外す気がないなら、仮面の紐を切るが?」


 剣の切っ先をつっと上にずらし、こめかみのあたりでぴたりと止める。仮面とフードを繋ぐリボンがある場所だ。

 エーレの動向に注意しながらリボンを切ろうと手首を返す。

 その瞬間、部屋の端の方からカツン、と音がした。思わず手を止める。


「っ! もう一人いたのか!」


 協力者がいるとは思わなかった。慌てて音がした辺りを見る。だが、誰もいない。


 ……? おかしい。なぜ誰もいない? 人の気配すらないが……。


 状況を理解できず、そのまま深く考え込みそうになる。

 その隙を狙うかのように、何かがこちらに飛んできた。


 そう何度も同じ手は食わない。

 飛んできた物をさっとかわしてエーレを見る。エーレは窓枠に上がって外に飛び出さんばかりの状態だった。


「それ、あげる。食べて笑顔になって」

「待て!」

「……ごめんね」


 エーレの言葉で何をするのか気づいた。彼は逃げる気だ。

 せっかくここまで追い詰めたのに、逃してたまるか。絶対に捕まえてやるという思いで、エーレに手を伸ばす。

 だが、そんな私を嘲笑うかのように、エーレが窓枠を蹴って外に飛び出した。……は? ここは三階だが!?


 外に足場はなく、飛び移れるようなものもない。

 慌てて窓から顔を出すと、エーレと目が合ったような気がした。

こちら本編ep27『見劣り姫は保管庫に潜入する2』とリンクするお話です。

グロリアーナ視点とイライアス視点では、少々感じ方が違います。

扉の開け方とかがそうですね。

そのあたりを比べてみるのも楽しいかもしれません。


※少し修正しました

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