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王女殿下はお忍び中です!~陰で才能を発揮していたら、大好きな騎士に気づかれました~  作者: たつきめいこ
グロリアーナ12歳

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見劣り姫は騎士と話をする2

「まあ、イライアス様。今日は非番ですか?」


 今日のイライアスは騎士の制服を着ておらず、貴族の令息然としたいでたちだ。ジャケットにクラバット、胸元を飾るタイブローチの青い宝石が、髪色によく合っている。


「はい。挨拶回りをしていました」

「挨拶回り?」

「そうです。……立ち話もなんですから、お時間がございましたら庭園にでも行きませんか?」

「ええ。それはかまいませんけれど……、っ!」


 返事をした瞬間、イライアスが嬉しそうに笑った。

 とたんに、呼吸が乱れ、鼓動が速くなる。


 ……あ、だめ。返答を早まったかも。心臓がはちきれそうだわ。


「姫様、お顔が真っ赤になっておられます」

「おおお、お黙りなさい」


 耳元でこそっと話すメイナードに、どもりつつも小声で返す。


「王女殿下?」


 メイナードとひそかに言い合う中、イライアスに名を呼ばれた。

 慌てて視線を向ければ、イライアスが不思議そうな顔でこちらを見ていた。彼の右手はこちらに伸びており、私が手を重ねるのを待っている。


「な、なんでもありません。王女ではなく名前で呼ぶことを許可します」


 差し出された手に左手を添えながら、なんとか体裁を繕う。

 その際に、名前呼びの許可を出した。姉様たちも王女だし、ずっと王女殿下では距離が縮まらないからだ。


 直後イライアスが軽く目を見張り、すぐに柔らかく笑った。真顔の時は大人っぽく見えたけれど、こうしてみると少年のように可愛らしい。


 また一つイライアスを知ることができたと、心の中で喜ぶ。

 本当は全身で嬉しさを表現したいけれど、周囲から一挙一動を見られているため難しい。居城でさえ気を抜けないのはつらいけれど、王族として生まれたのだ。こればかりは仕方がない。


 とはいえ、こうしてイライアスと話ができるのも、私が王族だからだ。

 そう悪いこともないわね、とイライアスを見ながら思い直していると、彼が口を開いた。


「この上ない幸せです。私のことはどうぞ、呼び捨てに。一騎士に敬語も不要でございます」

「あなたも、ほどよく砕けてかまわなくてよ」


 イライアスの前で完全に素を曝け出すのはまだ無理だ。素に近いけれど、少しだけ丁寧な口調で話す。

 すると、イライアスの口角がいっそう上がった。わずかに開いた口から、白い歯が見える。今度は爽やかでかっこいい。


「ありがとうございます。ぜひ、そうさせていただきます」


 ただ礼を述べただけなのに、イライアスが眩しく見えてならない。あまりのかっこよさに、口元が崩れてしまいそうだ。

 だが、みっともないまねをしたら、どこで何を言われるかわからない。慌てて心を無にする。


 そうして、なんとか王女らしい顔に戻すと、イライアスのエスコートで庭園に向かった。



 庭園は、一般公開されている場所と、王族に許された者のみ入れる場所がある。今回は何やら事情がありそうなので後者の場所にした。


 今の時期は草木が青々としており、色鮮やかな花がたくさん咲いている。青い空にピンクや黄色の花が映え、まるで活力が湧いてくるようだ。


 イライアスのエスコートでガゼボに行き、備え付けの椅子に座る。

 その際、イライアスがハンカチを椅子の上に広げて、ドレスが汚れないよう配慮してくれた。椅子に座りながらお礼を言う。


「ありがとう、イライアス。それで、今日は挨拶回りと言っていたけれど、昨日の今日でお休みしてもよかったのかしら?」


 ランディ兄様の毒殺未遂事件の犯人が捕まったのだ。不審者の捜索にも兵士が駆り出されていて忙しいと聞いている。それなのにお休みして大丈夫なのだろうか?

 そう思って尋ねると、テーブルを挟んで向かいに座ったイライアスが一つうなずいた。


「大丈夫です。あまり休暇を取っていなかったので、申請したら逆に上司に喜ばれました」

「まあ、そうだったの。今はよくても、のちのちに響くわ。休みは取らなくてはだめよ?」

「はい、ありがとうございます。……あの、グロリアーナ様。唐突で申し訳ありませんが、お尋ねしたいことがあるのですが……」


 イライアスがためらいがちに訊いてくる。何を尋ねたいのか見当もつかないが、イライアスの願いはできる限り叶えてあげたい。


「何かしら。答えられる範囲でよいのなら、答えるわ」

「感謝申し上げます。あの、グロリアーナ様は……、エーレ……」

「え?」


 ぼそっとした言い方だったけれど、確かにイライアスはエーレの名を口にした。

 なぜ彼は私にエーレの名を告げるのだろう。まさかエーレの正体が私だと気づかれた?


 心臓が口から飛び出そうなほどに激しく脈打ち、呼吸が浅くなる。

 だが、気づかれてはならないと必死に平静を装った。


 そのおかげか、イライアスは私の異変に気づくことなく、真剣な表情で話を続ける。


「グロリアーナ様。エーレは、あなたの配下の者ですか?」

「……なぜかしら?」


 かろうじて口にできたのは、疑問返しの言葉だけ。イライアスが何に気づいて、何を知っているのかを確認しなければ、返答のしようもない。

 暗部の存在は絶対に知られてはならないのだから。


「警戒なさらないでください。言いふらしたりはしません。ただ、彼がグロリアーナ様のお部屋に戻るのを見たのです。中からは和気あいあいとした声が聞こえたので、グロリアーナ様の配下かと思いまして」


 イライアスの返答で、エーレの正体は気づかれていないとわかった。私たちの会話についても、細部までは聞こえていないようだ。

 大丈夫、それならうまくごまかせる。イライアスがエーレを配下と思っているのなら、その設定に乗ればいい。


「そう。なら隠しても無駄ね。確かにエーレは私の部下よ」

「彼に信を置いていらっしゃるのですか?」


 思いがけない問いに目を瞬かせる。

 頼る、頼らない、の問題ではないが、そう考えるのは私だけ。イライアスの中では、私たちは別人なのだ。それを踏まえて慎重に答える。ただ――。


「え? ええ。そうね。頼りになる部下、かしらね」


 自分を他者として見るのはかなり恥ずかしい。曖昧な返事ではイライアスに気づかれてしまうというのに、つい語尾が弱々しくなってしまった。どうしよう。

お読みいただきありがとうございます。

本日分が遅くなり申し訳ありませんでした><

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